こんにちは、中野梓です。

桜が丘高校に二度目の秋がやってきました。


私がここ桜が丘高校に入学してから、

そして、軽音部に入部してからはや1年半――

泣いたり笑ったり、怒ったあとでまた笑ったり……

毎日がてんやわんやの大騒ぎで、あっという間に時間は過ぎていきました。

気付けばすっかり私も2年生。もちろん先輩たちは3年生です。


でも、そんな軽音部も今日は静か。なぜなら学祭の準備期間まっ只中だから。

先輩たちのクラスは劇の練習で大忙し。部活に顔を出す暇もなさそうです。

広い音楽室に一人きりじゃさすがに退屈だな。


だから今日は、少しだけ私の思い出話に付き合ってくださいね。

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梓が入学した春の話



律「なんやかんやであっという間に2年生だなー」

紬「そうねぇ…本当にあっという間ね」

澪「唯んちでクリスマス会やったり初詣に行ったり、冬のあいだも楽しかったな」

紬「学祭のライブも新歓ライブも大成功だったものね♪」

唯「……」コクコク

律「……そのはずなんだ、が」

律「新入部員が来ない!!!!」

澪「だなぁ…」

紬「そうねぇ……」

唯「……」

律「なにがいけなかったんだ……」

律「やっぱり澪のつくったビラが地味だったんじゃないかぁ?」

澪「なっ…!そんなことは無いぞ!それをいうなら律だって――」

ギャーギャー あーだこーだ

紬「まぁまぁまぁまぁ…」

唯「……」


『私はビラ配りするときに無理矢理きぐるみ着せたさわちゃんが悪いと思う』

律「…それだな」

澪「うん、それだ」

紬「違いないわ」


さわ子「クシュン!」

さわ子「風邪かしら…?」


澪「…まぁいろいろ言ってても仕方ないよ、またビラを配りに行こう」

紬「私も行きまーす♪」

律「じゃ私と唯は部室に誰か来るかもしんないからココで待ってるぜー」

澪「律は配るの面倒なだけだろ…」

律「そうとも言う」

澪「まったく……まぁいいや、そっちはそっちでよろしく頼むぞ」

律「任せとけって!」

唯「……」コク

澪「じゃあムギ、行こうか」

紬「は~い♪」


澪「軽音部です、よろしくお願いします」スッ

紬「よろしくお願いしまーす♪」スッ


澪「ふー…ライブでそこそこ知名度が上がったから受け取ってはもらえるけど、それでもコレ全部配り切るのは難しいな…」ドッサリ

紬「澪ちゃん、それならいい方法があるわ」

澪「おぉ、本当か?」

紬「ちょっと待っててね」

prrr・・・
紬「もしもし、斎藤?ちょっと頼みがあるのだけれど…」


数分後


斎藤「お待たせ致しました、お嬢様」

紬「ご苦労さま、それじゃあコレお願いね」ドサッ

斎藤「かしこまりました」

澪「(執事……?)」

ババババ・・・・・・

バラバラバラバラ

「ねぇ見てみて!あんなところにヘリが…」

「しかもなにか降ってきてるし…!」


紬「ね?」ニコッ♪

澪「は…ははは……」



一方の部室


律「…誰もこないな」

唯「……」グデー

律「ま、最悪このまま4人でもいいかなーなんて少なからず思っていたりもする」

唯「……」


『でもやっぱり少し寂しいよ』

律「だよなぁー……」

律「悪い唯、ちょっとトイレ行ってくるわ」

唯「……」ノシ

ガチャ・・・ バタンッ


唯「……」


ガチャ

?「あの~…入部希望なんですけど…」

唯「…!!」

?「あっ…先輩、ライブでギター弾いてた方ですよね!?私あの演奏聴いてすっごく感動しました!」

唯「……」プイッ

?「(えぇっ…スルーされた…?)」

唯「(ど、どうしよう…ビックリして思わず目を逸らしちゃった……)」

唯「(わっ、しかも携帯の電池切れてるし…)」

唯「(どうしよ…困ったなぁ……)」アセアセ

?「あ、あの……」

唯「……」チラ・・・

?「(私、入部してもいないのに嫌われてるのかなぁ……)」

?「……」

?「(…もしかして私、ちっちゃいからってナメられてる?)」

?「(はっ、まさかこの先輩は自分より上手いと認めた人としか話さないとか!)」

?「(きっとそうだ…、そうに違いないっ!)」

?「(なら私だって同じギタリストとして黙っているワケには……!)」

?「先輩っ!!」

唯「!?」ビクゥ

?「そんなに私のことをナメてもらっちゃ困りますよっ!」

?「私だって小さい頃からギターを弾いてたので多少なりとも腕には自信があります!」

?「先輩が私のことを認めてくれないならギターで私と勝負してくださいっ!!」ビシィッ!!

唯「……」ヒイィ・・・

律「ただいm……ん?」

唯「……」オロオロ(←SOSのまなざし)

律「あちゃ~…」



?「ご、ごめんなさいいぃぃ!!」ガバッ

?「私、先輩が話してくれないのはナメられてるからだと勝手に勘違いしちゃって……」

?「失礼なマネをして本当にすみませんでした…」

唯「……」イエイエ・・

律「はは、そんなに謝らなくても大丈夫だって。唯だってべつに気にしてないだろ?」

唯「……」コクコク!

?「は、はい…ありがとうございます…」

ガチャ

紬「ただいま戻りました~♪ ……あら?」

澪「お」

?「えと、改めまして…入部希望の中野梓ですっ。パートはギターをやってます、よろしくお願いします!」

律「よろしくな、梓」
澪「うん、よろしく」
紬「よろしくね、梓ちゃん」
唯「……」ヨロシク♪


律「じゃぁさ、せっかくだからちょっと弾いてみてよ」

梓「はい、いいですよ」

~♪~♪~♪

一同「(う、うまい……)」

澪「思わぬライバル参上だな、唯」

唯「……」ムム・・・


律「――というワケで自己紹介な。まずは軽音部の部長といったらこの私!田井中律だ!チャキチャキのドラマーでぇす☆」

梓「部長!って呼べばいいですか?」

律「普通に律でいいよ。なぜなら親しみやすさもNo.1だからなっ」エヘン

澪「おい律、ところでこの前の書類のコピーはちゃんととったのか?」

律「げっ」

紬「それなら私がとっておきました~♪」

律「さすがムギ!頼れる先輩No.1だな!」

梓「(本当に部長なのだろうか)」

澪「私は秋山澪。パートはベースで……ええと…何を話せばいいんだ…?」

律「なんでもいいだろ、左利きだってこととか私の幼馴染だってこととか」

梓「澪先輩のボーカル、とっても素敵でしたよ!」

澪「あ、ありがと……//」

梓「澪先輩はクールなお姉さんってイメージがします」

澪「そ…そんなことは…」

律「なーに言ってんだ梓。あの甘々な歌詞をつくったのだって澪だぞ?それに怖い話もてんでダメ」

律「おまけに部屋は散らかってるしお母さんのことはママって呼ぶし、それから――」ペラペラ

澪「わぁーっ!もうやめてくれええぇぇーーっ!!///」

梓「(イジられキャラなのかな……)」

紬「琴吹紬です♪キーボード担当なの、困ったことがあったらなんでも聞いてね」ニコッ

梓「(わぁ…なんとなくお嬢様みたい…)」

律「ちなみにいつもお菓子を持ってきてくれるのもムギなんだぜ」

梓「さっきから気になってたんですけど、軽音部にお菓子って必要ですか…?」

律「まぁつべこべ言わずに食ってみろって」ヒョイ

パクッ

梓「お…おいひぃ……♪」

紬「そう?よかったわぁ~…ニュージーランドのお土産だからお口に合うか心配だったの」

梓「(わぁ…ものすごくお嬢様だった…)」

唯「……」ペコ

律「んで、コイツは平沢唯。梓と同じギター担当だ」

澪「唯は初心者からのスタートだったけど、そのぶん一番頑張ってきたもんな」

唯「……」エヘヘ・・

梓「えっ、唯先輩って高校からギター始めたんですか!?」

唯「……」コクコク

梓「すごいですよそれっ!一年間であんな演奏ができるようになるなんて…私も負けてられないです!」

唯「……」フンスッ!

紬「二人とも頑張って♪」

律「よし!んじゃ自己紹介も済んだところで早速――」

梓「練習ですかっ!?」

律「お茶にするぞーっ!!」

梓「ズルッ」

澪「ははっ…いつも練習の前はこんな感じなんだよ、けどやる時はしっかりやる部活だからさ」

梓「放課後ティータイムってそういう意味だったんですね……」

紬「梓ちゃんはミルクいくつ入れます?」

梓「あ、3つがいいですっ」

律「梓は甘党かぁ~?」ニヤニヤ

梓「ほっといてください!」

律「――でさ、そのとき澪が……」

唯「~~」ププッ

紬「唯ちゃん、チーズケーキもあるけど食べる?」

唯「♪♪」

ワイワイ ガヤガヤ


梓「……」ジーッ

澪「ん?どうした梓、律たちのほうをじっと見て」ズズ

梓「あ、いえ…なんでもないです」ズズ

澪「?」

梓「あの……先輩たちは、唯先輩の言いたいことってわかるんですか?ずいぶん楽しそうに話してますけど…」

澪「うーん…どうだろう、でも一年間一緒に過ごしてきたわけだし、だいたい何が言いたいのかはわかることが多いかな」

梓「そうなんですか…」

澪「…やっぱり接しづらいか?」

梓「いえいえ!そんなことは全然ないですっ」

澪「そっか、ならよかった」


梓「(私もはやく唯先輩と仲良くなりたいな)」



それから数日後


バンッ!

さわ子「ちょっと!新入部員が入ったのに私に一切報告無しってどういうこと!?」

律「あ、ごめんごめん。すっかり忘れてた」

梓「えっと…音楽の山中先生ですよね?」

さわ子「まったくもう…そうよ、私が軽音部顧問の山中さわ子。あなたが新入部員の子かしら?」

梓「はい!ギターの中野梓です!よろしくお願いしますっ!」

さわ子「よろしくね」

律「ちなみにライブのときの衣装は全部さわちゃんの手作りなんだぜ」

梓「(さわちゃん?)そうだったんですか、すごい…」

さわ子「えっへん!」

律「ついでにさわちゃんには軽音部のOGだったという黒歴史も……」

さわ子「あ~っ!その話はもうしないって約束したじゃないっ!」

紬「ちなみにこれが当時の写真よ♪」ピラッ

梓「(おしとやかな山中先生のイメージが音を立てて崩れてゆく…)」

梓「それにしても…私が入部してからも先輩たちお茶ばっかりしてるじゃないですかっ!」

律「そ、そうかな…?」

梓「そうですっ!先生も軽音部のOGならビシッと言ってください!」

さわ子「え、何?聞いてなかった」

梓「ぐすん」

さわ子「わ、わかったわ…ならビシッと言ってあげる」


さわ子「ムギちゃん、私アールグレイがいい!!!」ビシッ

紬「は~い♪」

梓「(…私、もうくじけそうです……)」

さわ子「……」ジーッ

梓「…?」

さわ子「なるほど…ちっちゃくてかわいらしい体してるわね」

梓「なっ…」

さわ子「ココはちょっとかわいらしすぎる気もするわね~」モミモミ

梓「に゛ゃあぁっ!?///」

律「いい加減にしろっ!」ポカ

さわ子「きゃん!」

紬「………」ボタボタボタ

唯「……」フキフキ

梓「はぁ…はぁ……//」

唯「……」ダイジョブ?

梓「はい、なんとか…」

さわ子「フフフ、実はタダでお茶を飲みにきたわけじゃないのよ」

さわ子「なんと新入部員の梓ちゃんのためにプレゼントを持ってきました!」

梓「プレゼントですか…?」

さわ子「そう!はいコレ!」スッ

つネコミミ


梓「……」


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最終更新:2010年12月09日 01:38