通学路にて
和「おはよ唯。髪型変えたのね」
犬「ワン!」
和「ちょっと、何よワンって。あのとき私がその髪型を犬みたいって言ったから?」
犬「ワン!」
和「もう、ふざけるのもいいかげんにしなさいよね」
犬「ワン!」
和「まったく……。はいはい可愛いわよ。本物の犬みたいで」
犬「ワォ~ン」
和「……」
和「よく見たら本物の犬だわ」
和「最近勉強のし過ぎで疲れているのね、私」
犬「ハッハッ」
和「まさか唯と犬を見間違えちゃうなんて……」
犬「ハッハッ」
和「確かにちょっと毛深過ぎじゃないかなと……」
犬「ハッハッ」
和「さらに近づいてみたら、私のひざ下より小さくておかしいとは思ったけど……」
犬「ハッハッ」
和「でも、毛の色も唯とそっくりだし見間違えるのも仕方ないわ」
犬「ワン!」
和「うふふ。あなたもそう思うの?」
犬「ハッハッ」
和「じゃあね、唯によく似たわんこちゃん」
犬「ワン!」
和「……」スタスタ
犬「ハッハッ」
和「……」スタスタ
犬「ハッハッ」
和「……」タタタタタ
犬「ハッハッ」
和「どうしよう……、ついてきちゃうわ」
犬「ハッハッ」
和「なんだか懐かれちゃったのかしら」
和「ごめんね、私は今から学校に行かなきゃならないの。だから、あなたを連れて行く訳にはいかないのよ」
犬「わふ?」
和「いい子だから、あなたも早く家に帰りなさい」
犬「ワン!」
和「わかってくれたの? お利口さんね」
和「……」スタスタ
犬「ハッハッ」
和「……」スタスタ
犬「ハッハッ」
和「やっぱり全然わかってないわ」
和「よく見たら首輪してないし。まさか捨て犬?」
和「もし、学校の敷地内に入って先生に見つかったら最悪保健所行きなんてことに……」
犬「ハッハッ」
和「ほら、もう私についてきちゃ駄目よ」シッシ
犬「くぅ~ん……」
和「そんな甘えた声を出しても駄目。って言うか甘え上手なところも唯にそっくりね」
犬「くぅ~ん……」
和「駄目なものは駄目よ。ほらもう行って」シッシ
犬「くぅ~ん……」ウルウル
和「うっ……」
生徒会室
和「……」コソコソ
犬「ハッハッ」
和「あ、あまりの可愛さに思わず連れてきちゃった……」
和「なんだか、本当に唯の雰囲気も持ってるし……」
和「でも、どうしようかしら……。とりあえず生徒会室に隠しとけば放課後までは大丈夫だと思うけど」
犬「ワン!」
和「ち、ちょっと。静かにしてなきゃ誰かにばれちゃうわよ」
犬「わふ」
和「そうそう、あまり大きな声だしちゃ駄目よ」
犬「わふ」
和「うふふ、いい子ね」
3年2組 教室
澪「あ、和おはよう」
和「ええ、おはよう」
律「和遅刻ギリギリじゃん? 何かあったの?」
和「ちょっとね」
紬「もしかして、和ちゃん寝坊しちゃったとか?」
和「まぁ、そんなところね」
律「和が寝坊なんて、これは桜高の歴史年表に載るくらいの出来事じゃないか!?」
和「なによそれ」
澪「それほど珍しいって事だよ」
和「私だって寝坊くらいするわよ。
ところで、その寝坊の常連さんがまだ来てないみたいだけど」
律「きっと、髪の毛ボサボサで走ってくるんだろうな」
紬「それじゃあ、私がまた唯ちゃんの髪をセットしてあげなきゃ」
澪「ムギはそういうの好きだよな」
キーンコーンカーンコーン
律「おいおい、唯のやつ遅刻確定じゃん」
澪「まったく、もう受験も近いってのに」
和「今日は休みじゃないかしら?」
紬「どうしてそう思うの?」
和「私が知ってる限りあの子、遅刻ギリギリはあっても遅刻したことはないのよ」
澪「……そう言われれば」
和「意外とそういうところに関しては繊細なのよね、唯ったら」
律「だったら普段もギリギリじゃなくてもっとゆとりをもって登校してくればいいのに」
和「でも、そこが唯の唯たる所以よね」
澪「なんとなくわかる気がする……」
紬「やっぱり幼馴染ね。唯ちゃんのことは和ちゃんが一番わかってる」
和「まぁ、唯が遅刻しない原因の一番は憂がしっかりとしてるってところなんだけどね」
律「ですよね~」
・ ・ ・ ・ ・
さわ子「は~い、皆座って。HR始めるわよ」
さわ子「あれ? 平沢さんはまだ来てないの?」
律「今日は休みなんじゃないの?」
さわ子「そんな連絡受けてないわよ」
律「あれ? じゃあ来るんだ」
さわ子「もう、この時期に遅刻だなんて弛んでる証拠ね。しっかり説教してあげなきゃ」
さわ子「いい? 皆ももう受験が控えてるんだからしっかりとね」
和(唯が遅刻? ありえないわ)
和(何よりも憂がついてながらそんなことになるはずなんてない……)
和(……何かあったのかしら)
1時間目終了
澪「結局、唯来なかったな」
紬「やっぱり休みなのかしら?」
律「でも、連絡が何もないっておかしくないか?」
和「唯の携帯にかけても電源が入ってないか圏外かってアナウンスだし……」
澪「心配だな……」
紬「そうだ! 憂ちゃんに聞いてみたらいいんじゃない?」
律「そっか、その手があった」
澪「じゃあ、2年生の教室に行こうか」
2年1組
憂「えっ? お姉ちゃん来てないんですか!?」
律「うん、だから憂ちゃんなら何か知ってるかと思って聞きに来たんだけど」
澪「憂ちゃんも知らなかったんだ……」
梓「どうしたんです?」
紬「実は、唯ちゃんが学校に来てないの」
梓「えっ?」
憂「お姉ちゃん、トンちゃんの水槽掃除するからって朝早くに家を出たんです」
憂「でも、まさかまだ学校に来てないなんて……」
梓「そういえば、昨日私がトンちゃんの水槽そろそろ洗った方がいいかなって言った覚えが」
憂「うん。だからお姉ちゃん『あずにゃんをびっくりさせるんだ』って」
梓「唯先輩……」
和「唯らしいっちゃ唯らしいわね」
憂「けど、まだ学校に来てないってことはまさか事件か何かに巻き込まれたんじゃ……」
憂「それともトラックに轢かれて今頃生死の境をさまよってるんじゃ……!?」
梓「憂、落ち着いて」
澪「車に轢かれたとかだったら憂ちゃんが来る途中で何か騒ぎになってるはずだから
それが無いってことは唯が事故に巻き込まれたとかはきっと無いよ」
憂「そ、そうですよね」
和「でも、唯ったらいったいどこに行っちゃったのかしら」
純「あの~……」
梓「何? 純」
純「私思うんですけど、唯先輩ってどこか抜けたとこあるじゃないですか~」
憂「そ、そんなこと……」
律「だな」澪「うん」紬「そうね」梓「まぁね」
憂「……」
和「当たり前じゃない。今更何言ってるんだか」
憂「!?」
純「なので、そのトンちゃんの水槽を洗い終わったはいいけど
それに力を使い果たして軽音部の部室で寝てるなんてことは……」
憂「純ちゃんいくらなんでも……」
和「充分に有り得るわね」
憂「!?」
律「よ~し! だったら部室を見に行くか~!」
澪「ったく、唯は人騒がせなんだから」
梓「せっかく早くに家を出たのに部室で寝ちゃってるなんて、呆れて物が言えません」
紬「まぁ、そこが唯ちゃんの可愛いところでもあるんじゃない?」
憂(すでに既定事項!?)
軽音部 部室
律「やっぱり、音楽準備室の扉が開いてる」
律「こらー唯。寝てないでちゃんと教室に……!?」
澪「ん? どうした? 律」
梓「こ、これはっ!?」
紬「私たちの部室が荒らされているっ!!」
律「私が置いていたマンガがそこら中に散乱しているっ!」
澪「今はそんなことを心配してる場合じゃないだろ!」
和「唯は無事なの!?」
憂「お姉ちゃん! どこにいるの!? 返事をして!!」
純「ど、泥棒が入ってきたっていうの!?」
・ ・ ・ ・ ・
和「唯がどこにもいない……」
律「ま、まさか……部室を荒らした犯人に連れていかれたんじゃ……」
憂「!?」
澪「おい律! 縁起でもないこと言うな」
憂「おおおおおおお姉ちゃん、ど、どうしよう……私……」
梓「憂、落ち着いて!」
紬「憂ちゃん、そもそも唯ちゃんはまだ学校に来てないかもしれないわ」
純「でもそれじゃあ、唯先輩は今どこに……」
「・・・・・・」
和「とりあえず、このことは先生に知らせておく必要がありそうね」
澪「う、うん……、そうだな……」
和「じゃあ、何か盗られたものが無いか確認してもらえる?」
憂「和ちゃん! 何でそんなに冷静でいられるの!? お姉ちゃんいなくなっちゃったんだよ!」
和「憂、私だって唯のことが心配で胸が張り裂けそうなのよ」
憂「だったら早くお姉ちゃんを探しに行こうよ!」
和「落ち着きなさい憂」
憂「嫌だよ! お姉ちゃんにもしもの事があったら!」
和「ふんっ!」ドゴッ!!
憂「ふぐっ!!」
律澪紬梓純「!!?」
憂「……」グッタリ…
和「唯が絡んでいるだけに冷静さを失っている憂にはちょっと眠ってもらったわ」
律「う、うん……」
純(カッコイイ!)
最終更新:2010年12月09日 23:54