私たちがお父さんとお母さんから電話でそれを聞かされたのは昨日のことだった。
二週間後に引っ越すことにしたらしい。
なんでも本格的に出張先に腰を据えることにしたとか。
お父さんとお母さんは私と憂が卒業するまで私たちだけでここにいてもいいと言ってくれたけど、私たちは話しあってついていくことに決めた。
新居先はあまりにも遠くて気軽に行くことができないのだ。
今までも出張やら旅行やらで私と憂の二人きりになることは多かったけれど、それがずっととなると流石に躊躇せざるを得ない。
…今の私はひどい顔をしているだろう。
ほとんど眠れていない上に、今の生活と離別するという事実はまだ高校生には重すぎた。
~朝
唯「おはよー・・・」
憂「おはようお姉ちゃん」
憂「お姉ちゃん目の下にくまがあるよ」
憂「だめだよちゃんと寝なきゃっ」
唯「うん・・・昨日は一晩中ギー太を引いてたからあまり寝てないんだ」
憂「もー ダメでしょ 体壊したら元も子もないんだよ」
唯「ごめんねー」
唯(憂は気づいてるよね 昨日私の部屋から音なんてしなかったこと)
憂「そうだお姉ちゃん」
唯「何ー?」
憂「荷物の整理をそろそろはじめておいてよ」
唯「えっ・・・でもまだ二週間も先だよ?」
憂「だめだよ」
憂「先送りにしちゃうといっつも直前になってもやってないってことになっちゃうでしょ」
唯「うん・・・帰ったらやるよ」
~通学中
唯「うぅ寒いねぇ」
憂「もう12月だからね」
唯「今年はうちでクリスマス会やれないね・・・」
憂「うん・・・」
憂「で、でもお姉ちゃんには私がごちそうつくるよ!」
唯「おー期待しているよ」
憂「任せてっ」
唯(憂はいつも通りだよ 辛くないのかな?)
~2年教室
唯「りっちゃんムギちゃんおはよー」
紬「おはようございます」
律「おー唯、聞いてよ澪のやつがさー」
唯(みんなに伝えなきゃ)
唯(でも言いづらいよぉ)
律「でさー・・・って聞いてる唯?」
唯「ほえっ? き、聞いてるよりっちゃん!」
律「なんかぼーっとしてたぞ 風邪でもひいてるのか?」
唯「そんなことないよ」
律「ならいいけどな クリスマスライブまであと二週間もないのにこの時期に風邪なんてひくなよ」
唯「うん・・・気を付けるよ」
律「ところで唯、ちゃんと勉強してきたか?」
唯「ん、勉強?」
律「あちゃー・・・やっぱりな」
律「今日は数学のテストで結果次第では冬休みに入るまでずっと補習なんだぞ」
唯「えっ・・・!! 忘れてた!!」
唯(引越しのことですっかり頭から吹き飛んじゃっていたよ~)
律「しかたないな・・・」
唯「! りっちゃん教えてくれるの?」
律「ああ、当然だろ ムギがな!」
唯「りっちゃん?」ジーッ
律「うっ・・・」
唯(テストのこともあるし、今は言わなくても良いよね)
紬「ここは~を代入して~」
唯&律「ふむふむ」
紬「ここには~を使って~」
唯&律「ほぉー」
紬「これで終わりです♪」
唯「ムギちゃんありがとー 助かったよ!」
律「悪いなムギ ムギも一緒に受けるのに」
紬「いえいえ~ 私も確認になりましたし」
紬「それじゃあみなさんがんばりましょうね」
~1年教室
梓「おはよう憂」
憂「おはよう・・・」
梓「? いつもより元気がないみたいだけどどうかした?」
憂「そんなことないよ!」
梓「ならいいんだけど・・・」
憂「昨日はお姉ちゃんと夜更かししちゃったから」
憂「そうだ梓ちゃん」
梓「なに?」
憂「お姉ちゃんのことどう思う?」
梓「どうって?」
憂「部活でのお姉ちゃんってどんな感じなのかなって」
梓「練習してください、いろいろありますがまず言いたいことはこれです」
憂「あぅ~やっぱり」
梓「でもね、憂」
梓「唯先輩は素敵なところもたくさんあるよ」
憂「素敵なところ?」
梓「うん」
梓「いつもはお茶飲んでるし、ケーキ食べてるし、抱きついてくるし、ボーッとしてるけど、本気になったときに見せるあの表情はとても好きです」
梓「あっ! 好きと言っても尊敬出来るって意味で決して恋愛対象と言うか独占したいって意味じゃ・・・///」
憂「うふふ 梓ちゃんもお姉ちゃんのことが大好きなんだね」
梓「うぅ///」
梓「で、でもいつもが不真面目過ぎます もう少しやる気になって欲しいです」
憂(もし私がここで引越しのこと言っちゃったら大変なことになっちゃう気がするよ)
憂(お姉ちゃんが自分で言うのがいいのかな・・・)
憂(それに・・・)
梓「どうしたの憂?」
憂「えっ・・・なんでもないよっ」
梓「本当に何かあったらちゃんと私に言ってね」
梓「私は憂の親友なんだから」
憂「うん・・・ありがとう」
~放課後
唯「ほげー」
律「ぐでー」
澪「・・・で、テスト駄目だったと」
紬「いえ、補習には引っかからなかったのよ だけどなんでも頭を使いすぎたみたいで・・・」
唯「頭パンパン~」
律「もう無理だ~」
澪「はぁ・・・」
梓「先輩たちらしいですね・・・」
唯「今日は休憩にしようよ~」
律「そうだそうだー」
澪「ダメだダメだ! 本番まであとわずかなんだぞ!」
唯(っ! そうだよ、みんなとやれる最後のライブなんだよ・・・)
唯「れ、練習しよっ!」
律&澪&紬&梓「・・・!!??」
唯「ん?」
唯「みんなどうしたの?」
紬「いえ・・・」
律「唯が・・・」
澪「自分から練習しようだなんて・・・」
梓「言うとは思わなかったんです・・・」
さわ子「偽物ね」
唯「ひ、ひどいよみんな!!」
梓「唯先輩にしても憂にしても今日はなんだか変です」
唯「! 憂も・・・?」
梓「はい なんだか授業中もボーッとしていて上の空というか・・・」
紬「真面目な憂ちゃんらしくないわね」
律「おおかた二人で夜更かししてまでゲームでもしてたんだろ」
唯「違うよ! 昨日は・・・」
澪「昨日は?」
唯「・・・うん、憂とずっとゲームやってたよ」
律「なんだそりゃ」
梓「もー唯先輩だけならともかく憂まで巻き込むのはやめてくださいよ」
唯「ごめんね~」
唯(言うとしたら今だったのに言えなかったよ・・・)
澪「あーところでだ」
澪「唯も練習しようって言ってるんだし残るはお前だけだぞ」
律「ちぇ~ それじゃあやるぞみんな ポジションにつけぇーーー!」
澪「今更仕切るなっ」ゴチン
律「ヒドスギマセンカ」
~帰り道
律「それにしても今日はよかったな」
紬「はい 特に唯ちゃんからはすごい熱意が伝わってきたわよ」
梓「いい意味でいつもの先輩じゃなかったです」
唯「そ、そうかな? 別に普通だよ~」
澪「これからもこの調子で頼むぞ!」
唯「うん・・・」
唯「そういえばあそこのアイス屋新製品だしたんだよ」
澪「それじゃあ今日はみんな頑張って練習したことだしアイスでも食べに行くか」
律「え~ この寒い中アイスかよー」
唯「わーい あずにゃん、三段アイス挑戦しよー」
梓「この寒いのに三段はないです」
紬「あらあら」
澪「すっかりいつもの唯だな」
~平沢家
唯「アイスおいしかったなー」
唯「今度は憂と行こ」
唯「・・・」
唯(結局みんなに言えなかったよ)
唯(明日こそは話さないとなぁ)
唯(・・・あれ)
唯(そういえばあずにゃんは私に何も言ってこなかったよ?)
唯(もしかして憂も言えてない?)
唯「ういー」
憂「何お姉ちゃん? ごはんならもう少し待っててね」
唯「うん!・・・じゃなくて憂」
憂「ん?」
唯「憂は引越しのことあずにゃんに言わなかったの?」
憂「うん・・・」
唯「憂も言いづらいんだ・・・」
憂「そうじゃなくてねお姉ちゃん」
唯「ほえ?」
憂「私はお姉ちゃんがみんなに言うまで言わないことにしたの」
唯「えっ?」
唯「どうして・・・?」
憂「だってお姉ちゃんは優しいからみんなのこととか考えちゃって言えないと思ったの」
憂「だから私が先に言っちゃって梓ちゃん経由でみんなに伝わっちゃうのはいけないかなって」
唯「ダメだよ!」
憂「お姉ちゃん?」
唯「私のことばかりじゃなくて自分のことも考えなきゃっ」
唯「それにあずにゃんが憂が上の空だったって言ってたよ」
憂「梓ちゃんが?」
唯「憂・・・辛かったら私に抱きついてもいいんだよ?」
憂「そんなことないよ! 私は全然平気だよ」
唯「それでも」
憂「お姉ちゃんが良ければ私も良いの」
唯「でも」
憂「あっ お鍋吹きこぼれちゃう! 本当に大丈夫だから心配しないでね」ダダダ
唯「憂・・・」
~夜
唯(憂はああ言ってたけどやっぱりつらいはずだよね)
唯(私がもう少ししっかりしていれば)
唯(・・・)
唯(明日・・・みんなに言おう)
唯(それじゃあ寝よう)
唯(おやすみ)
唯「zzz」
…
憂(やっぱり梓ちゃんにはわかっちゃったのかな・・・)
憂(ううん、私がここで弱音を吐いたらお姉ちゃんが安心してライブできなくなっちゃうもん)
憂(いつも通りいつも通り)
憂(うん、大丈夫)
憂(大丈夫・・・)
憂(寝よう)
憂(・・・)
憂(・・・ごめんね)
憂「zzz」
~翌日
憂「お姉ちゃん起きて」ユサユサ
唯「んん・・・」
憂「そろそろ起きなきゃ遅刻しちゃうよ」
唯「!」ガバッ
唯「おはようういー」
憂「おはようお姉ちゃん」
モグモグ
ゴクゴク
唯「ふぅ~ ごちそうさまー」
憂「そうだお姉ちゃん」
唯「なに?」
憂「引越しのことなんだけどね」
唯「うん」
憂「クリスマスライブ終わるまで言わなくてもいいかなって思うの」
憂「だって今言っちゃったら練習自体が上手くいかなくなっちゃうかなって」
唯「・・・」
憂「ご、ごめんね でしゃばっちゃって」
憂「今の話は忘れて お姉ちゃんがみんなのことよく知ってるんだもんね」
唯「うん・・・」
唯(憂もこう言っているし、まだ言わなくてもいいのかな)
唯(そうだよ もし今言っちゃったらライブが失敗しちゃうかもしれないよ)
唯(最後なんだから成功して終わらせたいもん)
唯(ライブ終わってからでいいよね)
唯(これで良いんだよね)
~放課後
紬「今日はモンブランよ~」
唯&律「わーい」
澪「まったくおまえらは・・・」
梓「そう言いながらも澪先輩もちゃっかり席についてるじゃないですか」
澪「!!」
唯「おやおや澪ちゃん~」
律「これはいったいどういう事なのかな~」
澪「う、うるさいっ!」
最終更新:2010年01月26日 00:26