澪「お、やっと来たな」
唯「お待たせー」
梓「こっちの準備はもうできてます」
久しぶりに全員揃ったからか、今回はまじめに練習タイム。
律「じゃあまずは、ふでペンからな、梓忘れてないよな~」
梓「放課後ティータイムの曲なら全部完璧に覚えてますから大丈夫です」
律「うっし、ワンツスリーフォーワンツー」
入りはギターの私から、あずにゃんから学んだとぅろろ~んも今じゃ失敗しないよ。
澪ちゃんが1番、私が2番を歌いラスサビは全員で合唱した。
やっぱり、音楽はみんなで演るほうが楽しい。
できたらこの楽しさをいろんな人にわけてあげたいよ。
唯「やっぱ歌うのって気持ちいいよね~」
梓「唯先輩が楽しそうに歌うからつられちゃいました……」
紬「私も~、なんだか合唱部に入ろうとしてた頃の記憶が蘇ってきちゃった~」
唯「ムギちゃん、合唱部に入ろうとしてたの!?」
紬「そうよ~、でも、りっちゃんと澪ちゃんの二人を見てたら、
こっちの方が楽しいかも~って、けいおん部に入部しちゃいました~」
唯「そして、私が3人の演奏を聞いて入部ぅ~」
梓「……私は、先輩方の演奏を聞いて、凄く魅力的だったので……」
澪「そういえばそういう流れだったな、私が律に引っ張られて、
ムギが間違えて音楽室に入ってきて、律が引き止めて……、
唯が加入して……もうあれから3年以上も経ったのか……」
律「澪、一つ良い言葉を聞かせてあげよう。
時間は人を待たない、ならば人は走り続ければいい。
一度眠ってしまえば、人は死ぬだろう。生きるには、時間を見失わないことだ。
諦めなければ、人は勝利と栄光を手にする……だったかな」
梓「なんですか、それ?」
紬「光陰矢の如しとは少し違う、かしら……?」
律「どっかの洋詩を訳したものだったかな……、
まあ、澪も過ぎ去った時間を悔やんでもしょーもないってことで、
前を見ていこうぜ、前を!」
唯「果てしなく、りっちゃんの口から出た言葉とは思えないよ……」
梓「今、律先輩がしっかり先輩に見えました」
律「おまえら、喧嘩うっとんのかぁ……っ!」
澪「ふふっ、律ありがとうな」
律「……次は『Don't say"lazy"』やるか!」
梓「あ、照れ隠しで話題そらしました」
律「梓ぁー、それ以上言うと、今夜眠れなくしてやるぞー」
唯「でもりっちゃん、その曲はあずにゃんが……」
梓「弾けますよ」
唯「なぜにっ!?」
紬「私が、梓ちゃんの分のパートを一緒に編曲したから~」
梓「私のソロも入れさせて貰いました、曲の入りはドラムからですよね、どうぞ」
あずにゃんの言った通り、ずれることも、つまることもなく、音が合った。
そういえば、今のけいおん部って部員が何人いるんだっけ?
とか考えてたら私がミスしちゃった。
律「唯、リズム乱しすぎだ、ポリリズムでも目指すのか?」
唯「ごめーん、ちょっと考えごとしちゃって」
梓「何を考えていたのですか?」
唯「今のけいおん部って、何人いるのかなーって」
紬「あら、唯ちゃん知らなかったの?」
唯「うん、憂と純ちゃんが入ったことくらいまでしか」
梓「それで合ってます。私を含め、けいおん部は3人です」
澪「部長は梓か」
梓「そうなりました。新入生も集められませんでしたので」
唯「……?」
梓「どうしたんです? 何か聞きたいことでもあるんですか唯先輩」
唯「憂と純じゃんもけいおん部の部員なんだよね?」
梓「そうですけど」
唯「この合宿には参加してないよ?」
梓「……都合が合わなかったみたいです、本当なら2人にも来て貰うはずだったんですが」
紬「……」
律「ならしょうがないな、ほら、もう一度やるぞ、今度はしっかりな唯」
唯「あいあいさー」
今度は失敗しないようにしないと……。
ギターもドラムもキーボードもベースも澪ちゃんの声も調和していく。
この一体感、音に命を吹き込んでるみたい。
っと、ここであずにゃんのソロパートなんだ、初めて聞いたよ。
やっぱり私より技術あるなあ、あずにゃん先生はー。
律「おおっ、2回目にしちゃよく出来てたな、梓のソロもいい感じだったし」
澪「ああ、これなら路上でも演奏できるレベルだぞ」
唯「そうだよ! 思い出した!」
梓「どうしたんです? 突然」
唯「ライブだよ! この曲、外でやろうよ!」
梓「ライブハウスの予約でもしてるんですか?」
律「まったくしてないぞ」
唯「ゲリラライブだよ! 路上で演奏するの!」
澪「無理! 絶対ヤダ!」
唯「澪ちゃん、私がボーカルやる曲でもいいからやろうよー」
澪「冗談だと思ってたけど、本気でやるつもりだったのか……」
紬「ここら辺はあまり人がいないから、駅方面でやらないとダメだと思うわ」
唯「じゃあ駅まで楽器持っていってやろうよ」
梓「どうやってドラムを運ぶんですか? これ、かなり重たいですよ」
唯「ムギちゃん! 車貸して!」
紬「いいけれど……」
唯「りっちゃん、運転して!」
律「私かよ! まあ免許持ってるの私だけだしなあ」
梓「律先輩、免許取ったんですね」
律「ああ、春休み中にな、時間が余ってからさっさと持っておいた」
唯「りっちゃんは行動派だよねー」
律「おうよ、何でもこなす美少女だからな」
澪「あとの問題は許可を取っていないところで演奏をすることだな」
律「さらっと流すなー」
唯「音楽に国境がないように許可も必要な――」
律「あるからな」
唯「うぅー、美少女のりっちゃんがなんとかしてよー」
梓「可愛ければ何やっても許されるというわけではありません……」
紬「可愛かったら、私、許しちゃうかも~」
律「……」
澪「まあ、いきなり路上はマズイだろうから、
また今度どっかでライブハウスを借りよう」
唯「あずにゃあんはどう思う?」
梓「微妙にアクセントつけるのやめて下さい。
そうですね、やれたら面白そうではありますが、
私からすればやはりまだ練習が足りないかと……」
唯「厳しいよぉー」
律「よーしじゃあ続けるぞ、もう一度――」
それからは夕方近くまで演奏は続いたよ。
ギー太はちょっと重いから大変だったよ。
あとは待ち望んだ――
律「――そんじゃ今日はここら辺にしておくか」
唯「夕食の時間だね!」
澪「そうだな、買い出ししてくるか、今回は何食べようか?」
梓「わたし、今回もバーベキュ」
律「あいや、ちょっと待ったぁ!」
澪「なんだよ、律」
律「今回は、唯が夕食を作ることになっている!」
唯「ええぇ! 疲れたから今回はパスでいいよ!」
律「何を言うかぁ! そんなんじゃいつまで経ってもカップラーメンしか食えなくなるぞ!」
梓「唯先輩の食生活そんなに酷いんですか?」
律「あぁ、唯は料理ができない、したくない、食べたいだからな、必然的にインスタントになる」
梓「唯先輩……」
唯「料理を作るくらいだったらぁ! 寝るもん!」
梓「私も手伝いますから、一緒に作りましょう」
澪「何を作るんだ?」
梓「順当な線をつけばカレーライスがいいと思います」
律「そうだな、カレーが作れるようになれば、1回作るだけで何日かは持つな」
唯「みんな、ありがとう~」
律「じゃあ、買い出しいくぞぉ~」
歩いて食材の売っているスーパーまで、
夏野菜カレーということでなす、じゃがいも、にんじん、かぼちゃ
お米、水、玉ねぎ、ピーマン、りんご、コーヒー、しょうが等を購入。
宿泊先まで持って帰る、だけどこれだけで、私の腕はもう限界だよ……。
ムギちゃんが休憩のためのティーを淹れてくれたおかげで体が癒されたけど~。
唯「はいはーい! じゃあまずは……何からすればいいんだっけ?」
律「そっからかよ!」
梓「作業を分担させたほうがいいですよね」
紬「そうね~、じゃあ私お米研ぐわ~」
澪「私も、お米関係が良い……」
律「じゃあ、私、唯、梓でカレー担当な」
唯「よろしくお願いします!」
梓「では、野菜を洗うところから始めましょう」
唯「それくらいはいくら私だってできるよ~」
袋から野菜を出して土を落としていくよ。
じゃがいももにんじんも綺麗にしていくよ。
玉ねぎも水に浸けて――
梓「玉ねぎは水に浸けないで下さいね」
唯「え? なんで?」
梓「血液をサラサラにする成分が抜けていっちゃうからです」
律「ナスは逆に絶対に水に浸しておけよー、アクで料理の味が落ちるからー」
唯「…………なんでそんなことを知ってるの?」
梓「家庭科で習いませんでしたか?」
律「だよなあ」
唯「~~♪」
梓「口笛で誤魔化さないで下さい……」
律「次は野菜の皮を剥く作業だ」
唯「私にまかせてよ! 楽勝だよ」
キッチンに置いてあった皮むき機があるから。
じゃがいももにんじんにもこれで勝てるよ!
律「唯の場合ピーラーを使ったほうが安全だな、包丁だと指を落としかねん……」
澪「何も聞こえない何も聞こえない何も聞こえない」
唯「カボチャの! 皮! これじゃ! 剥けないよ!」
梓「そんなの無理に決まってるじゃないですか」
律「カボチャは皮も食べられるから剥かなくていいぞ、
てんぷらとか煮物でも皮はついてるだろ?」
唯「そう言われるとそんな気がしてきたよ」
梓「ただカボチャは切るのにとっても力を使いますので……」
律「梓にはちょっとキツイか」
紬「私にまかせて~、……それっ!」
唯「おお、あんなに固いカボチャが真っ二つに、ムギちゃん力持ち~」
紬「キーボードをいつも持ち歩いてるから腕に力がついちゃったみたい」
たしかあのキーボードセット15kgくらいだっけ?
文化祭の時はドラムセットを軽々運んでたし、
……うーん、ムギちゃんって鉄人?
律「次は、野菜を切っていく作業だぞ」
唯「よ、ようやく包丁の出番……」
梓「果てしなく不安を誘うのはなぜなんでしょう」
律「いいか唯、切るのは野菜だけにしておけよ……」
唯「りっちゃん~、私はそんなドジじゃな――あ……」
澪「ひぃ!」
唯「な~んて冗談だよ、澪ちゃん」
律「絶対に! 切るなよ」
梓「唯先輩、包丁は置いてください、私がやります」
唯「…………私がやるよ、私でもできるから、ね」
梓「でも」
律「唯にやらせてやれ、甘やかしてたらいつまで経っても成長しないぞ」
梓「わかりました」
じゃがいもの芽を取ることくらいは覚えてる。
包丁の角を使って、ほじくる。
芽を取ったじゃがいもとにんじんは乱切りに、玉ねぎは手でちぎる。
ピーマンは輪切りにしてから種を取る。
律「お、集中しだしたか……」
梓「特に言うことがないですね」
唯「どうよっ! これが私の実力だい!」
紬「唯ちゃん上手ね~」
唯「えへ、えへ、えへへ」
律「その不気味な笑い方やめて」
梓「じゃあ、下ごしらえも終わったことですし、煮ていきますか」
お鍋にミネラルウォーターをドパドパと入れ火をかける。
唯「ふふん! そーれ、全部の野菜も一気に投入~!」
律「するな!」
梓「硬い野菜、大きいものから煮ていきます、ルーは最後ですからね」
唯「そ、それくらい知ってるよ~」
律「今、声が裏返ったな」
とりあえず、かぼちゃ、じゃがいもを投入。
あとはにんじん、水を切ったナス、ピーマンを投入。
ぐつぐつ煮込む。
梓「そろそろ、ルーを投入しますね」
唯「おお、カレーっぽくなってきたよ~」
律「じゃあ、隠し味の登場だな」
唯「なにそれ~?」
律「私たちがなんでりんごとしょうがとコーヒー豆を買ったんだと思う?」
唯「食後のデザート?」
律「違うわっ! カレーに入れるんだよ」
梓「しょうがは夏バテ対策といったところでしょうね」
律「はい、フードプロセッサー」
唯「……ええ~、まだ作業するの~? もう疲れたよ~」
梓「休んでてもいいですよ、別に」
唯「やります! 林檎はこのままいr」
律「皮むけよー」
唯「あ、やっぱりー」
林檎の皮むきは意外と難しい。
包丁の角度と、力の入れ具合と林檎を回しながら切っていく高等技術が要求されるよ!
律「なんで林檎の皮むきができるんだよ……」
唯「これできるとカッコイイから練習したことがあってね~」
梓「変です、唯先輩」
唯「はいはいはい! これで終わりだよね?」
律「綺麗にできたな~」
梓「じゃあプロセッサーでペースト状にしましょう」
律「1分もかけりゃ充分だからな」
林檎を投入してスイッチオン~。
ああ、生で食べたかったよ……。
あとはこの林檎とみじん切りにしたしょうがとコーヒー豆を、
カレー鍋に入れてまたぐつぐつ煮込んではいできあがり!
律「そろそろいいだろ……うん、味も悪くない」
澪「ご飯も、炊き上がったぞ」
唯「やったー、ようやくごはんの時間だよ~」
律「なんだかんだ言って、唯に足りないのは知識とやる気だけだな」
梓「そうですね、包丁も使えるみたいでしたし」
唯「だって、一人分作るために動くのって面倒なんだもん」
梓「…………」
最終更新:2010年12月12日 19:14