律「唯らしいっちゃ唯らしいな」

澪「盛りは私とムギでやるから先に座ってていいぞ」

律「頼んだ、澪、ムギ」

紬「は~い」

 木製のイスに座るとひんやりとしてて、とても気持ちよかった。 
 具がゴロゴロ残った野菜カレー、とっても美味しそう!
 私が真ん中、右にあずにゃん、左にムギちゃん、
 テーブルの反対側に澪ちゃんとりっちゃん。
 みんなでいただきまーすとして一口目を食べる。

梓「美味しいですね」

律「ああ、美味い」

紬「本当、コクがあって美味しい」

澪「……美味しい」

唯「私、やればできる子!」

律「この調子で作っていければ、唯も立派な食生活が確保できるのにな」

梓「そういえば、律先輩と澪先輩は同棲してるんですよね、食事はどちらが作っているんですか?」

律「同棲どころか同衾もしてrおぶはぁ!」

澪「律が調理で私が洗濯や掃除、ゴミ出しをしている」

唯「うわ、りっちゃん、おでこ痛そう」

梓「そうなんですか、律先輩は意外と家庭的ですよね」

律「意外と、は余計だぞ梓ー」

澪「梓も高校生活のほうはどうなんだ? わたしたちがいなくなって寂しくないか?」

梓「……憂や純もいますから、大丈夫ですよ、心配しすぎです。
  それに、とっても素敵な曲を私にプレゼントしてくれたじゃないですか」

律「ま、大丈夫そうだな、そーいや、梓は志望校決めたのか?
  さっき、A判定とか言ってたけど」

澪「そうだ、聞いてなかったな、唯もメール送ったんだろ?」

唯「にこにこ」

 えーと、いろいろあって忘れてたよ。

澪「送ってなかったのか……」

梓「……私はN女子大です。先輩方と同じところに行こうと思ってます」

紬「また楽しくなるわね~」

唯「あずにゃん、また一緒だね!」

梓「……っ!」

澪「対策問題とか作ろうか? 赤本と並行してやるといい」

梓「……ありがとうございます、ぜひお願いします」

 ――お喋りして食べ、みんなで作ったカレーは本当にとっても美味しかったです!
 次はお風呂タイム。汗一杯かいたからさっぱりできて極楽極楽~だよ。
 パジャマに着替えて、大部屋に集合!


律「さっぱりしたところで今回の目玉、王様ゲ~ム!」

唯「待ってましたぁ!」

紬「楽しみねえ~」

澪「そんな企画、今初めて聞いたぞ……」

梓「まあ、別にいいですけど」

律「ルールは知ってるよな? 
  特徴のないこの割り箸を缶に入れる。
  割り箸には番号と王様のマークが振り分けられてるから、
  王様を引いた人が特定番号の人や複数の番号を対象に命令させる。
  但し、王様にOOしろ~みたいな王様を含めた命令はできない。
  あと、明らかに無理なのも命令しちゃダメ、以上」

唯「おー、大丈夫だよ~」

紬「早くやろ、早くやろ!」

律「よ~し、いくぞ、王様だーれだ!」

 ……③番だよ、王様じゃないや~。

律「で、誰が王様だ?」

紬「は~い、私が王様で~す」

澪「ムギか……なら安心だ」

紬「え~と、じゃあ②番の人が③番と正面ハグ30秒~」

唯「はいは~い、私③番~」

澪「わ、わたしか……」

唯「澪ちゃん……私、恥ずかしいよ……」

澪「変な演出は止めてくれ! 本当に恥ずかしくなってくるから」

唯「じゃあさっそく、ギュー」

紬「まぁ、素晴らしいわね~」

梓「……30秒って、長いですね」

律「ほい、終了だな」

澪「……うぅう、ムギなら安心だと思ったのに……」

律「それじゃ、王様だ~れだ」

 ――今度は④番、王様引きたいな~。

紬「あ、また私が王様~」

唯「くじ運すごいねムギちゃん! 羨ましいよ~」

紬「じゃあねえ、①番の人が②番の人にフレンチキス~」

律「ハードル上げすぎじゃね!?」

唯「誰と、誰がキスするのかな~」

梓「私です」

澪「また私だ……」

紬「あら、梓ちゃんと澪ちゃんなのね……」

澪「梓、軽くだからな、軽く、きき緊張することはないぞ」

律「澪がいい感じにテンパってきたな」

梓「……澪先輩、目閉じてください」

澪「おおお、おう」

 あずにゃんが、背伸びして、軽く澪ちゃんの唇に触れる。
 キスっていいよね、あったかくなるし。

紬「……ふぅ、良い光景、でもそれはソフトキスよ~」

律「ムギ、それ以上やったら澪が壊れるからその辺で終わらせてやってくれ」

紬「は~い」

澪「はぁ……はぁ」

唯「澪ちゃん、顔赤い~」

律「……」

紬「それじゃ、もう一回、王様だ~れだ!」

 ……王冠マーク!

唯「はいはい、私だよ~」

紬「あら、唯ちゃんに持っていかれちゃったわね」

律「それで、唯はどんな命令をするんだ」

 どうしようかな?
 一発芸でもやらせてみようかな?
 でも、それじゃ難しそうだし……。

唯「じゃあ、①番と④番の人の着ているトップスを交換する~」

律「私かよっ!」

澪「…………わ、わたしだ」

梓「澪先輩もある意味くじ運が強いですね」

律「ほんじゃ、ちょっと待ってなー、ほら行くぞ澪、ここで着替えるつもりか?」

澪「わかった、わかったから引っ張るな」

紬「楽しみね~」

梓「ただ、あの二人だと面白みがなさそうですけど……」

唯「タンクトップの澪ちゃんと、Tシャツのりっちゃんが逆になるんだよ!
  面白いよ、絶対!」

紬「ワクワク、ワクワク」

梓「あ、戻ってきました」

唯「あれ? りっちゃんだけ?」

律「あー、澪のやつ、ちくしょう……」

梓「同じ女の子なのに、律先輩の着てる澪先輩の服、サイズ余ってますね」

律「うるせいやいっ!」

唯「澪ちゃ~ん、はやくはやく~」

澪「……ここここ、こんなの恥ずかしすぎて出られない」

律「だぁぁぁぁ! 早くこっちに来い! 来ないと、絶交だ!」

澪「りつぅ~」

唯「わ、澪ちゃんが大胆になった!」

 登場した澪ちゃんはお腹が丸出しだった。
 せくしぃーな澪ちゃんはカッコいいよ。

澪「解説しないで~!」

梓「……あ、だから律先輩……」

律「ふふふ、それ以上は言うな」

紬「りっちゃんはタンクトップで胸の部分が余ってるから、
  おっぱいがチラチラ覗いちゃってるわね」

律「うがぁー!」

唯「落ち着いて、りっちゃん!」

梓「……次、いきますよ、王様だーれだ!」

 ①番……、なにかやりたいな~。

律「いよっしゃあぁぁぁ! 私だぁ! っふっふっふ」

澪「変な命令は止めろよ……」

律「①番が!」

唯「おおっ!」

律「舌の上に粒チョコを乗せ! ②番の人が!」

梓「……ッ」

律「①番の舌の上にあるチョコを舐めとる!」

澪「……わ、私じゃなくて良かった」

紬「す、す、素晴らしいわ、りっちゃん!」

律「反応からして唯と梓か、ほら、これが粒チョコだからな」

唯「……ん、はああんはん、あー」

律「舌だしたまま喋ってると何言ってるかさっぱりわからんな」

紬「ほらあずにゃん、んー、じゃないかしら」

唯「はあはあ」

紬「そうそう、みたい」

律「何故わかる……」

梓「…………」

澪「どうした梓?」

梓「目は閉じないで下さいね」

唯「……?」

梓「頂きます」

唯「……!?」

紬「す、凄い、舌を絡ませることで口内の温度を高めチョコを溶かしていってるわ!
  唾液と唾液が混ざり合ってチョコの原型がなくなっていく……!」

律「いや、そんな冷静に解説すんな」

澪「あわ、あわ……」

唯「…………ふわぁ!」

梓「ご馳走様でした」

律「この王様ゲーム、どんどんヤバイ方向に行きそうだからもう終了な」

紬「ええ~、これからが面白くなってくるのに~」


 王様ゲームはこれでおしまいだったよ。
 あずにゃんが積極的すぎて少し驚いちゃった。
 今日はもう寝るだけだよ。
 各自、自部屋に戻って、まったりまったり。


唯「今日の一日は楽しかったよ~ギー太、こんな日が毎日続けば嬉しいよね~」

 ベッドの上でギー太を抱き、最近の出来事を思い返していく。
 でも、やっぱり一番印象に残ったのはあずにゃんの成長……かな。
 私は私のまま、少し、少しだけだけど危機感みたいのを感じちゃうよ。
 うつろうつろしていたら、ドアが数回ノックされた。
 誰だろう、と思ったら、聞きなれた声がした。

紬「唯ちゃん、起きてる~?」

唯「あ、ムギちゃ~ん、入って入って~」

紬「お邪魔しま~す、今日は一段と楽しい日だったわね~」

唯「ムギちゃんも私と同じなんだよ、嬉しいな」

紬「最近は、あんまり全員で練習できなかったし、今日は梓ちゃんも一緒だったしね~」

唯「そだよね、あずにゃんが来るとは思ってなかったから凄く驚いたよ!」

紬「唯ちゃんは、梓ちゃんが来てくれて嬉しかった?」

唯「勿論だよっ! 私、あずにゃん好きだし」

紬「まあ、焼けちゃうわね~」

唯「ムギちゃんも、りっちゃんも、澪ちゃんも、みーんな好き」

紬「……誰が一番好き、って聞いたら唯ちゃんはどうする?」

唯「……えぇ?」

 誰が一番? 
 ふとみんなの顔が、思い出が、よぎってしまう。
 このメンバーで好きな人を順序づけることなんて出来ない……よ。

唯「うーん、たぶん、答えは出ないんじゃないかなー」

紬「本当に? 唯ちゃんは答えを持ってるはずなのに、わからないかな?」

唯「む、ムギちゃん? どうしたのかな? ぽわぽわ~な感じが消えちゃってるよぉ」

 もう一度考えてみる。
 私が、一番好きなのは……。

紬「もう少し具体的に話しをしていきましょう、唯ちゃん。
  唯ちゃんが一番ドキドキする相手は誰?」

唯「わ、私がドキドキする相手……?」

 ここで、何故かあずにゃんの顔を思い出してしまった。
 さっきのチョコのせいだろうか……。

紬「名前は言わなくていいわ……、思い当たる人のことを、本気で考えてみて欲しいの」

唯「ムギちゃん……どうして、かな?」

紬「一度、こういうことやってみたかったの~、
  それじゃあおやすみなさい、唯ちゃん、いい夜を」

唯「……うん、おやすみ、ムギちゃん」

紬「願わくば――でありますように」

 ムギちゃんの呟きは、チリリリリという虫の鳴き声と共に吸い込まれていった。

 なんで今、ムギちゃんが私の部屋に来てまでこんなことを言いに来たのかなんて知らないけど、

 きっと大事なことだったんだと思う。

 一人になった私は、けいおん部の人達、

 その中で、ムギちゃんに言われた相手のことを想ってみることにした。

 ――そう、出会いは部室、私は2年生で彼女は1年生だった。

 彼女、ううん、あずにゃんは謙虚だった。

 初心者ですけど、なーんて言っておきながら私より遥かにギターが上手かった。

 正直、あれ、私の立場ヤバイのかな、なんて思っちゃったりもした。

 でも、あずにゃんは喜んで私にギターを教えてくれたよね。

 2年の合宿の時、私だけ技量が足りてなかったからみんなに申し訳なくて、

 夜に一人で練習してたけど、あずにゃんが来てくれて一緒に練習もした。

 嬉しかったよ、本当に。

 ちゃんとしたピッキングフォームや、チョーキングとか全然知らなかったけど、

 段々解るようになってきたのも、あずにゃんのおかげだったよ。

 ギターが上手いだけじゃなく、変に生真面目なところとか、

 お菓子に釣られて誤魔化されちゃうとことか、抱きしめられると嬉しそうな顔をするとことか、

 いっぱい、いっぱい私やけいおん部を、盛り上げてくれた。

 文化祭の時も、私が熱出して休みこんだときに一番心配してくれた。

 ちょっと泣きそうになったのは秘密。

 でも、私はギー太を置いてきちゃって、ライブにまで迷惑をかけちゃった。

 誰も私を責めてくれなかったし、フォローもしてくれた。

 あれには泣かないわけにはいかなかったよ。

 今まで好き放題してた、私の能天気さをも、笑って許してくれた。

 みんながもっともっと好きになっちゃった。

 そういえば冬休みの前、あずにゃんを怒らせちゃったことがあった……。

 あれは、あずにゃんを好きな気持ちを表しただけだった、

 みんなも好きだったから、おすそ分けした。

 あずにゃんのファーストキス。


 あずにゃんの大事なものだったかもしれないキスを、私は軽々と奪ってしまい、

 あまつさえ、みんなに共有しちゃった。

 そしたらあずにゃんが部室を出ていっちゃって、澪ちゃんに怒られて、あずにゃんにメール送って、

 その次の日に、デートして、私の家に泊まっていって、仲直りもした。

 それからはいつもの私達に戻った。

 3年に進級して、進入部員を探して、でも5人の関係が良かったからそのままが良いなぁって言って、

 あずにゃんが一人になっちゃうことも考えられないまま押し通しちゃった。

 でも、それじゃあダメだよね、あずにゃんだって、楽しいからけいおん部にいるのに、

 一人になっちゃったら、何も残らなくなっちゃう。

 だから、部費でトンちゃんを買って、後輩を作ったの。

 あとは一緒に町のお祭りに参加したり、夏フェスを満喫したり、

 最後の学園祭をやりきったり、本当に沢山の思い出がある。


 そして、あずにゃんが、本当は寂しがり屋さんだってことも知っている。

 廊下を歩いている時、一人でいるときを見かけると、あんまり楽しそうじゃない。

 それは普通のことだけど、教室にいるときもあんまり楽しそうじゃないのはダメだよ。

 私があずにゃんに抱きつくのは、可愛いからだけじゃない。

 楽しんで貰いたいから、笑って貰いたいから、私は抱きつくんだよ。

 抱きつかれたあずにゃんは、いっぱい笑顔になるし、

 照れ隠しに怒ることもあるけど、それはやりすぎた時だけ。

 私達の卒業式の日、先に行かないで下さいと言って泣いたあずにゃん。

 寂しい気持ちは解っていたから、あずにゃんに内緒で作った1曲を送った。

 そして今日、あずにゃんはちょっぴり大人になっていた。

 つい抱きしめたくなるような、不安定な気持ちを抱えてたあずにゃんが変わっていた。

 なんだか、胸が苦しいや。

 あれ? 本当に寂しかったのは、私、なのかな?

 依存していたのは、どっちだろう?


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最終更新:2010年12月12日 19:15