甘えてくれたあずにゃんと甘えさせていた私。
一つが欠けたら、私に甘えてくれる人がいなくなっちゃう。
憂は甘えてくるタイプじゃないし、りっちゃんも、澪ちゃんもムギちゃんも違う。
やっぱり、あずにゃんじゃないとダメな気がした。
私はどっちかというと、人に甘えて生きてきたかもしれない。
和ちゃんは頼れる幼馴染、憂は何でもできる妹、自分で言うのもなんだけど自由奔放な私。
自然と、誰かに寄り添って生きてきた。
それは、一人暮らしをするようになってから強く感じるようになった。
自分一人で動くのが、こんなに面倒なことなんて思わなかった。
誰かと一緒にいたい、と思う時間が多くなった。
誰かに、一緒にいて欲しいと思われたい気持ちも強くなった。
頼られることで、私は成長するんだ、成長したいって感じてたんだよ。
だから今、私は足元がぐらついてるのかもしれない。
自分自身で、私を支える何かを捜さないといけないのかもしれない。
でも。そんなの簡単には見つからないよ。
今の私にあるのは、音楽だけだ。
音楽は好き。
音楽を一緒に楽しめるみんなが好き。
でも、一人で音楽をやろうかと思ったら、たぶんやらない。
私の音楽を聴いて喜ぶ人が、喜ばせたい人が一人でもいるならやるかもしれないけど。
でもやっぱり、放課後ティータイムという5人でやる音楽が、私は好きだから。
一人ではやりたくない。
放課後ティータイムのメンバーなら、デュエットでもいい。
一つだけ解ってるのは、気持ちを共有できる誰かがいるから、
私は音楽を好きなんだということだけだよ。
だって、大学を卒業しちゃったらみんなとは絶対に別れることになるよ。
そうなったとき、私が頼っているのは何になるのかな?
何も浮かばない、何もならないよ。うーん、なんだか頭が重くなってきたよ。
天井を見上げ、携帯電話を手に取る。
そういえば、つい先月に送った雑談メールのことを思い出す。
私は、暇つぶしに『現実じゃないって何かな?』なんてメールを3人に送った。
返信はすぐに来たよ。
澪ちゃんは『夢、じゃないかな』と返した。
りっちゃんは『理想じゃね?』と返した。
ムギちゃんは『虚構……かしら』と返した。
それぞれ答えが違ったんだっけ。
言葉が少しずつ違ってたんだよね。
それぞれについて、改めて考えてみることにしようかな。
私にとっての夢、それは皆で音楽活動をしてデビューすること。
もっと多くの人に私達の音楽を聴いてもらいたいって思う。
そして、私にとっての理想……放課後ティータイムのみんなといつまでも仲良く過ごせること。
たとえ、解散したとしても、5人仲良しの関係をずっと続けていきたい。
虚構って何? よく解らなかったから調べたんだっけ。
フィクションとか、事実じゃないことを事実として作り上げること、とか出てきたんだよね。
つまりは、妄想ってことなのかな。
私の妄想……、妄想?
あずにゃんが私に甘えてきて、私が甘えさせてあげられる関係がずーっと続くこととか?
ははっ、確かに妄想だよ。
……疲れてきたから、もう寝よう。
唯「でも、こんなに、長く考え事をしたのって、久しぶりだよ……」
喉が渇いたから、寝る前に水分補給しないといけないや。
キッチンはどこだっけ?
とぼとぼと暗い廊下を歩いていく。
音のない世界は、少し不気味だった。
大きく開けた場所、ロビーに着き、昼間に使った冷蔵庫を開く。
唯「あぁー冷たくて気持ちいいよー」
冷蔵庫の冷風に顔を埋める、これ本当に最高だよ。
底にあったミネラルウォーターを手に取り、一気に飲み干す。
喉の渇きが大分、癒され、眠気も少し飛んでった。
冷蔵庫の扉を閉めると、むわぁっとした空気に浸ることになった。
唯「寝よう……、明日もあるんだし……」
今来た道を戻っていく。
戻っていってる、はずだった。
唯「あれ? どっちだっけ?」
同じような部屋が連なっているために、自分の部屋を見失ってしまう。
わたし、別に方向音痴じゃないよ、うん、違うのに。
唯「たしか、こっちだったよーな……」
しばらく歩いていると、
明かりの漏れている部屋を見つけた。
一応遅い時間だし、起こしちゃまずいよね、って思ったからそーっと近づいた。
そうしたら、話し声が、かすかに聞こえてきた。
?「……ば、バカっ! こんなところで……誰かに気づかれたらどうするんだよ……っ」
?「もう寝てるだろ……それにあいつらなら気づかれても、構わない……な?」
?「そ、それはそうだけど、絶対驚くっ! 明日の朝、ちょっとぎこちなくなってるとかは嫌だぞ、私は――」
?「心配性すぎる、澪は……」
どうやら、澪ちゃんとりっちゃんのようだった。
あんまり気づかれたくなさそうだったので、
少しだけ開いていたドアの隙間から、物音を限りなくたてずに覗き込むことにした。
ごめんなさい、只の好奇心です。
澪「なんか……いつもより、積極的……だぞ、律ぅ……」
律「しょうがないだろ……あんなの見せつけられちまったら……澪と、したくなった」
澪「唯と、梓……か、随分濃いキスだったな……」
律「それに、澪、梓とキスしただろ」
澪「あれは……仕方ないだろ……私だって、したくてしたわけじゃない……」
律「気持ちよかった?」
澪「……意地悪なこと言わないでよ、律のキスが、私は一番好きだ」
…………っ!?
え? なにこれは?
声が漏れそうになったのを手で押さえて、我慢した。
律「まさか私達が、こんな関係になるなんて、思ってなかったよ」
澪「また意地悪する……」
律「高校のとき、いきなり澪に押し倒された時は、すんごく混乱したからな~」
澪「うぅ~、だって律が、唯に簡単にキス許して……なんか許せなくなって」
律「梓がファーストキスを奪われた時のこと、あれが始まりだったんだよな……」
澪「……唯のキスは、気持ちよかった?」
律「ああ、とっても」
澪「んっ!」
律「……んっ、くちゃ……ぴちゅ……そうそう、こんな感じで始まった。
うん、やっぱり澪のキスが一番好きだよ」
澪「今、キュンってなった……」
律「澪は本当に可愛いよ……」
澪「私は、律が好きだ、誰よりも」
律「私も同じだよ、澪」
澪「……ヤダ、同じじゃヤダ」
律「はあ?」
澪「好きって言って、律」
律「……好きだよ、澪、誰よりも」
澪「うんっ」
これ、は、見てしま、っても、いい、のだ、ろうか。
私の心臓までバクバクしてきた……。
律「澪の身体は、いつ見ても、女らしいな」
澪「律が喜んでくれるから、私は良かったって思ってる」
律「服……脱がすぞ」
澪「確認しなくていいよ……律の好きなようにして」
りっちゃんの手が澪ちゃんの服の下に伸びて、澪ちゃんの身体をまさぐっていく。
澪ちゃんの裸、こうして見ると凄く破壊力あるかも。
だって私、澪ちゃんのあんなとろけた表情、見たことないよ……。
不思議と、嫌悪感は抱かなかった。衝撃の方が上回った?
違う、私が求めていた答えがここにあるような気がしたから。
幸せそうなりっちゃんと澪ちゃんを見ているだけで、羨望すら覚えちゃった。
これ以上は見ちゃだめなんだろうけど、目も離せなければ、足も動かないよ。
律「なあ、澪、愛ってなんだと思う?」
澪「永遠に踊り続けること、お互いを求めいつまでも回っていたい」
律「私と、澪は、ずっと踊っていられるかな?」
澪「できる、私と律なら、絶対に」
律「じゃあ、5人で踊ることは出来るかな?」
澪「律は、私だけじゃ、嫌なの?」
律「バカ澪、二人だけの閉じた世界なんかじゃ、狭すぎるだろ。
こそこそ隠れて付き合うの、私は嫌いなんだ、どうせならみんなに認めてもらって笑いたい。
私は、この関係を、せめてメンバーには打ち明けたいって思ってるんだ」
澪「でもこれがキッカケでバンドにひびが入るかもしれない……」
律「入るかどうか、試してみよう、それで入ったら私達は――」
澪「待って、まだ早いよ律、勝手に決めないで」
律「でもよー、気づいてる奴いるぜ、ムギは確実、
たぶん気づいてないのは、唯と梓……の二人だな」
澪「梓は、どうだろうな、割とすんなり受け入れてくれる気がするんだけど
私に対するキスと唯に対するキスの仕方の違いから、唯に気がありそうだったし」
えぇ! そうだったのかな?
私には、よく違いが解らなかったよ。
律「じゃあ問題は、やっぱ唯かー、どうすっかねー」
澪「いや、唯も大丈夫だと思う」
律「……どうしてだ?」
澪「唯は、いい奴、だから」
澪ちゃん、涙が出そうです。はい。
律「……確かに、でも2日前の『お遊び』じゃ引いたぞ」
あ、あれはだって、ねぇ。
邪魔したら悪いのかなーって気持ちが芽生えてきたというか……。
澪「いきなりあんなことしてたら泊まりにくくなるだろう……当然だよ」
律「今は……どうだろうな、邪魔は入らないしこんなこともできるぞ」
澪「や、やめっ、恥ずかしい……」
ちょっと見えづらいけど、りっちゃんが澪ちゃんの――性器を広げてる。
わずかにだけど、くちゅくちゅって音が反響してる。
律「なんだ、澪はもう感じてたのか」
澪「律が来る前に……」
律「自分で弄ってたんだな」
澪「……うん」
律「いけない猫だ、一人で発情してるなんて」
澪「そういう律だって……ほら」
律「好きな女と一緒にいるんだ、濡れもするさ」
澪「ねえ律、一緒にしよ?」
律「うん……」
なにをするんだろうって思ったら、りっちゃんが服を全部脱いで、
澪ちゃんの上に跨った。
お互いの性器を合わせてるのかな?
凄く、えっちだよ。
澪「これっ! すぐイっちゃうから! あんまり激しくは! やらない! で!」
律「わ、私だって! クリが擦れて! すぐキちゃうんだ!」
二人の声が、一段と大きくなった。
嬌声っていうのかな、初めて聴いちゃったけど、ドキドキする……。
でも、私、こんなことしてちゃいけないよね……。
ゴメンね、と心の中で謝って、深呼吸をする。
ようやく、身体が動くようになったので、静かにドアを閉める。
二人がドアの音に気づいたかどうかはわからない。
数回の深呼吸をして、すぐ近くにあるはずの自部屋を探す。
唯「た、確かこっちだよね……」
ようやく、見覚えのある部屋の前に立つ。
なるほど、二つ隣の部屋だったね。
心臓の音のほうが歩く音よりうるさく感じた。
これ以上、音を立てたくなかったから、ドアをそっと開けた。
梓「……遅いです、唯先輩。何処に行っていたのですか」
唯「あ、あれ? ここ、あずにゃんの部屋だっけ?」
梓「ここは間違いなく、唯先輩の部屋です」
唯「な――」
梓「何で? なんて聞かないで下さい。
勇気を出して、部屋を訪れたのに、いないなんて卑怯ですよ」
唯「ちょっと喉が渇いてたから、水のみに行ってただけだよ」
梓「20分近くもです――やけに顔が赤いですけど、どうしたのですか?」
唯「う、ううん、何でもない! 何でもないから!」
梓「……唯先輩、決してふざけているわけでもなく、本気なので、私の話を聞いてくれませんか?」
唯「……うん、いいよ」
梓「……私は、唯先輩が好きです」
唯「うん、私もあずにゃんのこと好きだよ」
梓「……私は、唯先輩を愛しています」
唯「え、ええと」
梓「ずっと前から、高校1年生の時から、私は唯先輩が好きでした」
唯「私を……?」
梓「唯先輩の、鈍感な笑顔は罪作りです、
私はずっと、唯先輩と一つになりたかったです」
梓「……唯先輩は、どうなんですか?
今、本気で好きな人とかいるんですか?」
なんで、こんなにベストなタイミングで、告白されるんだろう。
さっきまでは、妄想だと思ってたことが、現実になってくるよ。
私は、素直に嬉しかった。
抵抗なんて、ない。
唯「あずにゃん、私はあずにゃんが好きだよ」
梓「私の好きは、本気ですよ」
唯「……ねえ、あずにゃんの本気ってどの程度なのかな?
口だけで本気とか言われても、私には解らないよ」
梓「っ! 私の想いは! ずっとずっと溜め込んで、
唯先輩が卒業しても、まだ悩んで、でももう耐え切れなくて!」
涙ぐんだあずにゃんを抱きしめる。
今の気持ちを、私は生涯忘れないだろう。
唯「あずにゃん、よしよし」
梓「唯先輩に甘えるの、私凄く好きです。
でも唯先輩の前でしか、甘えられません」
唯「……私ね、あずにゃんが成長したなーって気づいたとき、
嬉しさより、寂しさが上回っちゃったんだよ」
梓「どうしてですか?
私は強くなろうって頑張って、唯先輩にガッカリされないように振舞っていたのに
唯「……弱いのは私だよ、あずにゃんが憧れる私で私はありたいって気づいちゃった。
私には、あずにゃんが必要なんだよ、私の側に……いてくれないかな?」
梓「……私、唯先輩のこと、誤解してました。
もっと高い場所にいると思ってたのに、意外と、手の届く場所にいたのですね」
唯「……幻滅、させちゃったかな?」
梓「逆です、もっと好きになれました。
正しいことも、間違ったことも、どうでもいいんです。
大事なのは、好きな気持ち、ですから」
唯「じゃあ、私たちは……」
梓「唯先輩、少し、待ってください。
私、言ってないこと、あるんです」
唯「……うん」
梓「唯先輩には、全部を、聞いてもらってから、受け入れて欲しいんです」
唯「いいよ」
梓「私は、嘘を吐きました。
この合宿のこと、憂と純には伝えてないんです」
梓「唯先輩と二人きりになりたかったので、知らせませんでした。
そして、ムギ先輩にも協力してもらいました」
唯「うん、なんとなくだけど、気づいてたよ」
梓「……ごめんなさい。
私は汚いですよね。友達より、自分を優先してしまって」
唯「それは少し違うよ。『放課後ティータイム』は5人なんだよ?
憂や純ちゃん、あずにゃんのけいおん部とは別物だから」
梓「……そうでした。私たちと今のけいおん部は別物でしたね……」
唯「……あずにゃんが伝えたかったことは、それだけ?」
梓「私は、生意気で、ずるくて、絶対、唯先輩のことを縛ってしまいます。
それでも、それでも、唯先輩は私を――」
唯「受け入れられるよ、あずにゃんなら。
それに、私だって、いつもゴロゴロしてて、あんまり考えないで行動するし、
いっぱい迷惑かけちゃうよ?」
梓「……っふふ、ですね、唯先輩。
私の気持ち、受け取ってください」
唯「あずにゃんがいれば、私は変われる。
きっと、今より素敵な先輩になれるよ、だから、来て」
梓「はい、もっともっと、私を、憧れさせて下さい。
私が怖いものなんてなくなるくらいに、愛させてください」
最終更新:2010年12月12日 19:18