--そう願った瞬間、人が近づく気配を感じた。

憂「お姉ちゃん?どうしたの?」

目の前に心配そうに私の顔を覗き込む憂がいた。

唯「な、んで…?」

憂「なんでってお姉ちゃんが呼んだからだけど…」

あんな小さい声が聞こえたって言うの?…これだから好きなんだよ。

憂「…お姉ちゃん?なんだか少し顔色悪いみたい…大丈夫?」

憂がそう言って私に手を伸ばす。

唯「……っ」

憂「きゃっ!?」

伸ばされた手を掴んで引き寄せる。憂が私の腕の中に納まる。私は憂の首筋に顔を埋めるように抱きしめる。

憂「おっお姉ちゃん!?」

唯「………」

私の突然の行動に戸惑う憂を無視して私は抱きしめる力を強めた。


憂「あっあの、ここ廊下…はっ恥ずかしいよっ」

すぐそばの教室からさっきまで憂と話してた子達の騒ぎ声が聞こえる。首筋に顔を埋めているせいで憂の顔は見えないけど、きっと真っ赤なんだろうなって思った。

唯「やだ…離れたくない」

さっきのわがままを聞いてくれたんだからこのわがままも聞いて。

憂「うぅ…いっ家に帰ろうよお姉ちゃんっ…そしたらいくらでも抱きついていいから」

そう言って私の体を押す。

やだよ…憂。私から離れないでよ。

そう思って再び憂の腕を引こうとしたら、憂のほうが私の手を掴んでいた。

憂「だから今は…これじゃダメかな?」

顔を真っ赤にした憂が困ったように笑って手を握ってくれた。

唯「…分かった」

憂「ありがとうお姉ちゃん!」

お礼なんて言われる筋合いないよ。…ごめんね憂。

唯「…じゃあ早く帰ろう?」

早く憂を抱きしめたい。手を握るだけじゃ今の私はダメなんだよ。

憂「うん!あっ荷物持ってこないと…」

そう言った憂に持ってきた荷物を見せて渡す。憂はまた「ありがとう」と言って笑顔を見せてくれた。
その笑顔が今は私だけに向けられたものだと思うとさっきまで重かった心が急に軽くなった気がした。

そして、そんな憂を引っ張るようにして私は家路へと向かった。


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家に着いてからの私は憂にベッタリだった。

着替えるときも一緒。

いつも向かい合わせで食べる夕飯も席を移動して隣同士くっついて食べた。

でもお風呂は一緒には入らなかった。今の私が一緒に入ったら気持ちが抑えられそうになかったから。

そんな私を憂は嫌がるそぶりを見せないで心配してくれた。憂は「大丈夫?どうしたの?」なんて言ってくれたけど、理由なんて言えなくて私は何にも言わなかった。
だってこんな気持ち異常だもん。妹のことが恋愛感情で好きだなんて…気持ち悪い。さすがの憂だってきっとそう思うはずだ。それだけは嫌だ、憂に嫌われたくない。
だから私は何も言わなかった。

そして今、私は自室のベッドで寝ている…憂を抱きしめながら。

唯「憂…苦しくない?」

自分が抱きしめておいて何言ってるんだろうね。

憂「大丈夫だよ。お姉ちゃん」

そう言って微笑む憂に「良かった」なんて言って、さらにきつく抱きしめた。
しばらく抱きしめあって私は突然口を開いた。

唯「…ねえ憂」

憂「…なあにお姉ちゃん?」

そして私はずっと聞きたかったことを聞いた。

唯「憂は……憂はいつまで私と一緒にいてくれるの?」

今日初めてきちんと見詰め合う。胸の鼓動が早くなる。

ずっと前から思ってた。憂はいったいいつまで私と一緒にいてくれるんだろうかと。出来ることならずっといっしょに居たい。
それは叶わない願い。それでも願ってしまう…ずっといつまでも私のそばに居てほしい

憂「………」

私の質問に困ったのか、憂は黙って私を見つめている。

…なんで何も言ってくれないんだろう。また不安が押し寄せてくる。

すると--

憂「お姉ちゃんが望むのならいつまでも…」

憂がそう言って微笑んだ。

唯「…え?」

予想外の答えに少し頭が混乱する。

私が望むなら?…本当に?

唯「ほ…本当に?」

聞き間違えなんじゃないかと思ってそう聞く私に憂は「本当だよ」と言ってくれた。

唯「じゃあ……」

私は息をのむ。次に私が言おうとしている言葉を聞いて憂がなんて答えるのかが怖かったから。

…でも言わなくちゃ。

唯「…ずっと一緒に居て」

震える声でそう言った。

憂「いいよ…お姉ちゃんがそう望むのなら」

その言葉を聴いた瞬間さっきまであった不安が全部吹き飛んだ気がした。

ああ、嬉しい…嬉しいよ憂。

唯「っ…うい」

私はまた憂に抱きついた。覆うように、逃がさないようにと…きつく抱きしめる。

憂「わわっ、くっ苦しいよお姉ちゃんっ」

唯「ごっごめん」

抱きしめる力を少し弱める。でも『好きだ』っていう気持ちが伝わるようにと抱きしめる。だって言葉にはできないから。

憂「もう、お姉ちゃんったら」

そう言う憂も私をそっと包み込むように抱きしめてくれました。

それが気持ちよくて、暖かくて、私は急に眠気に襲われた。

憂「…眠くなったの?」

唯「…う、ん」

すると憂が背中をポンポンと叩いてきました。そのせいでさらに眠気が増す。

憂「おやすみ…お姉ちゃん」

唯「う、い…ずっと…いっしょに…」

今にも寝そうな頭を使って最後に私はそう呟いた。

憂「うん、大丈夫。お姉ちゃんが望む限り私はそばにいるよ…だから安心して眠って?」

その言葉を聞いて安心した私は深い眠りにおちた。

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憂「…寝たかな?」

私はお姉ちゃんが寝たことを確認すると背中にまわしていた手を解く。

憂「…ふふ可愛い寝顔だなぁ」

そっとお姉ちゃんの頬に手を添えてそう言った。

それにしても今日はいったいどうしたんだろうか?学校でなにか嫌なことでもあったのかな?

憂「ずっと一緒に居て…か」

お姉ちゃんが言ってくれたことを復唱する。

憂「本当にずっと一緒に居られたらいいな…」

私はお姉ちゃんのことが好きだった。家族愛とか姉妹愛とかじゃなくて、恋愛感情で。だから、今日のお姉ちゃんの行動は私に淡い期待をもたせた。…そんなはずないのにね。

だって私達は家族で、姉妹。本当はずっと一緒になんて居られないと思ってる。…嘘ついてごめんねお姉ちゃん。

きっといつの日かお姉ちゃんは素敵な人に出会って、私のことなんて見てくれない日が来る。
だから私は『お姉ちゃんが望む限り』と言い続けた。

お姉ちゃんが私を必要としなくなるその日まで…その日までずっと一緒にいてください。それが私の願い。

憂「お姉ちゃん…好きだよ」

体を動かしてそっとお姉ちゃんの額に口付ける。…勝手にこんなことしてごめんなさい。


唯「…ん。うい…」

憂「わっ…」

寝ているはずのお姉ちゃんがまた私を抱きしめる。

唯「…すき…だよ」

間違いしちゃうからやめてよお姉ちゃん…でもありがとね。

憂「…私も寝よう」

私は甘えるようにお姉ちゃんに抱きついて思考を閉ざす。

いつか来る別れのに日までに姉離れできるといいな。…きっと無理なんだろうな。

なんて思いながら。

おやすみなさい…お姉ちゃん。


-おわり-




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最終更新:2010年12月13日 21:31