教師「このように、先生はKのお嬢さんに対する恋心を知りながらそれを裏切ってしまう―ーーー」
梓(……今日部活どうしょうかな…)
梓(先輩たちは受験のために自宅学習だから来ないだろうし…)
梓(一人で行ってもなあ)
梓(イヤ、だめだめ!私一人でもちゃんと練習しないと!)
梓(あそこのフレーズ、まだ完璧に弾けない。あそこの弾き方ももっと磨かなきゃ)
梓(練習しなきゃいけないところはたくさんある)
梓(一人でもやらないと…)
教師「友を裏切り、お嬢さんと結ばれた先生。しかしその後Kは自ら命を絶ってしまう」
梓(…)
梓(来年から、先輩たちいなくなっちゃうんだよね…)
梓(先輩たち、どうしてるかなあ)
梓(澪先輩と紬先輩はちゃんと勉強してそうだよね。律先輩と唯先輩はちゃんとやってるのかな)
梓(律先輩は澪先輩の家に行ってそうだな~。いいなあ、私も澪先輩ん家行きたい)
梓(…唯先輩はどうだろう、勉強してるのかな)
梓(…)
梓(ふふっ、なんか勉強続かなくてヴァイオリン弾いちゃってそう)
梓(…最近唯先輩の音聴いてない…)
教師「Kの死によってKの気持ちを知り、Kに近づいていく先生。その〝こころ〟とは?」
キーンコーンカーンコ-ン♪
教師「よーし、今日の授業はここまで。各自、先生の〝こころ〟を想像してみること」
梓(あ、放課後だ…)
――――――
―――――――――――――
憂「梓ちゃん、今日は軽音部行くの?」 ※
梓「うん、ちょっと練習行こうと思って。憂も来る?」
憂「ごめんね、今日はお買い物に行かないといけないんだ」
梓「そうなんだ。じゃあまた今度ね」
憂「本当にごめんね」
梓「ううん、じゃあまた明日ね!」
憂「うん、またね~!」
梓(…部室行こう)
――――――
―――――――――――――
梓「…」テクテク
梓「…」トテトテ
~♪
梓「ん?」
~♪♪
梓(この音…、誰か部室で演奏してる?)
♪~♪♪
梓(これは…)
梓(…バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ、ト短調二楽章のフーガ…)
梓(たった1本のヴァイオリンのためにフーガを作ったというまさに大曲中の大曲)
梓(知名度も高くて、コンクールの課題曲でもよく取り上げられる)
梓(……私も大好きでよく聴く曲…)
梓(一体誰が…、まさか、唯先輩?)
ダッ!――
梓「はあはあ」チラッ
梓「…」
梓(あれは…、唯先輩だ)
唯「♪」
梓(…唯先輩)
梓(…相変わらずテンポは揺れるし、弾き方も雑)
梓(でも、すごい…。いつの間にこんな曲を…)
梓(聴き入る…)
唯「♪~~…」
唯「ふい~」
梓(終わった…)
ガチャ
梓「唯先輩?今日来てたんですね?」
唯「おお、あずにゃ~ん!待ってたよ~!」ダキッ!
梓「にゃあ!ゆ、唯先輩苦しいです!」
唯「久しぶりのあずにゃんだからねえ~!充電充電」
ギュゥ
梓「電化製品ですか…(唯先輩、あったかい…)」
唯「よ~し、よしよし!」
梓「あ、あの、そろそろ離してくれませんか?」
唯「ええ~、あずにゃんのいけず!!」プイ
梓「う…。き、今日はどうしたんですか?自宅で勉強してなくて大丈夫なんですか?」
唯「1日中勉強してても疲れるからね!ちょっとした息抜きだよ!」
唯「それに、あずにゃんにも会いたかったし!」
梓「はあ…。でも、感心しました。意外とちゃんと勉強してるんですね」
唯「ふふ~ん、驚いたでしょ!これもみんなと同じ大学に行くためだからね~」
梓「あ…」ズキン
唯「ん?あずにゃんどうかした?」
梓(そっか…、4人は卒業しても一緒なんだ…)
唯「あずにゃん?」
梓「…なんでもありません」
唯「……そう?」
梓(もし4人とも落ちれば……)
梓(ハッ!私ってばなんてことを!こんなこと考えるなんて最低だ…)
唯「…あずにゃん、何考えてるの?」
梓「い、いえ、それより、せっかくですから練習しましょうよ!唯先輩はもう楽器出してますし!」
唯「う~ん、そうだねえ、ムギちゃんがいないからお茶もできないし…。でも、二人で何の曲やろっか?」
梓「そうですねえ…、あ、いい曲がありますよ」ガサゴソ
梓「これをやりましょう!」
唯「2つのヴァイオリンのための協奏曲?お、バッハさんの曲なんだね!」
梓「知っていますか?」
唯「いや、知らない…」
梓「そうですか…。でも、唯先輩、さっきバッハの無伴奏弾いてましたよね?」
唯「ありゃ、聴かれちゃってたか。お恥ずかしい~」
梓「ええ。先輩が短調の曲も弾けたとは驚きです」
唯「何気にひどい!!」
梓「冗談です。あんな曲を知っていたんですね?」
唯「うん、昔澪ちゃんにCD貸してもらって、それからずっと練習してたんだ。ここだとみんなで
演奏するできるけど、家で練習するときは一人だからね~。一人でできる曲も練習してみたんだ」
梓「そうなんですか。結構家で練習してるんですね、憂が言ってましたよ」
唯「えへへ~、家にいるとすぐにケースから出しちゃうんだ!ごはん食べるときと、お風呂入る
とき以外はずっとヴー子と一緒だよ!」
梓(え?じゃあ家でどれだけ練習してるの?)
梓「…」
唯「ねえねえあずにゃん、この曲どんな曲なの?楽譜読めない~…」
梓「(相変わらずすごいのかすごくないのかわからない人だ…)家にならCDあるんですが、ちょっと
弾いてみましょうか?」
唯「おお!先生、お願いします!」
梓「わかりました、ちょっと楽器出しますね」ゴソゴソ
梓「ちょっとAの音もらえますか?」
唯「ほいほい」♪~
梓「♪~」
梓「ありがとうございます」
唯「わくわく!」
梓「…それじゃ、いきますね」
唯「…」コクリ
~~♪♪♪~~
梓「ふう…」
唯「おおお…、かっこいい曲だねえ!」
梓「今のが一楽章の1stパートです。唯先輩はこっちを弾いてください。私は2ndを弾きますので」
唯「了解!今のにさらに2ndが加わるんだね!楽しみだなあ」
梓「どうします?ちょっとやってみますか?」
唯「お、初見大会だね!よし、あずにゃんに一回弾いてみてもらったし、やってみよう!」
梓「わかりました。それでは、さっきはいきなり入りましたが、本来は2ndが先に入って、1stは
5小節目から入りますので」
唯「うん、ちゃんと数えてるね!」
梓「本当は2分の2拍子なんですが、4分でこのぐらいの速さでやってみましょう。1、2、3、4――
どうですか?」
唯「おーけい!」
梓「ではいきます…」スゥ
梓「~♪」
唯「~♪」
梓(!)
梓(この曲はあの有名な教本、鈴木ヴァイオリンにも登場する)
梓(つまり、練習曲としても優秀な一見扱いやすい曲)
梓(イージーなフィンガリングと運弓で弾けてしまう)
梓(…ちょっと試してみる気でこの曲を選んだんだけど)
梓(それを、いきなりこんな風に弾けるなんて…。唯先輩の音、すごく光ってる…)
梓(唯先輩ってこんなに…、でも…、絶対に負けない!!)
梓(…次は1stのソロパートか…)
唯「♪」
梓(この曲は)
梓(ただの練習曲なんかじゃない。有名なヴァイオリニストのレパートリーの一つにもなる)
梓(ヴァイオリニストにはまさにゆりかごから墓場まで持っていく、そんな大切な曲)
梓(…この人は本当に……)
梓(でも、次は私の番!やってやるです!)
梓「…」スゥ
梓「♪」
唯「!」
唯(あずにゃん…)
梓(…)チラッ
唯(…)チラッ
唯梓「♪」
~~♪♪♪~~
唯「ごめんね、あずにゃん…」
梓「いえいえ、一応1楽章通ったじゃないですか!初見にしてはすごいですよ!」
唯「そ。そ~お?」
梓「そおですよ!!」
唯「えへへ…。あ、そうだ、今日この後あずにゃんの家寄って帰ってもいい?この曲のCD聴いて
みたい!」
梓「いいですよ。それじゃあ、行きますか」
意外にも弾いたことある人いてワロタwww
唯「あれ、もう行っちゃうの?」
梓「早く行って帰った方が先輩のためでしょ?仮にも受験生なんですから」
唯「仮じゃなくて本受験生だよ~…。でも、あずにゃんの言うとおりだね。そうしよっか」
梓「はい。じゃあ、行きましょう!」
――――――
―――――――――――――
唯「お邪魔しま~す!」
梓「どうぞお構いなく。今日は両親も遅くなるようなので」
唯「おお、じゃああずにゃんとイチャイチャし放題だね~?」
梓「え…、いやそんなわけないじゃないですか!!」
唯「…ちえ~」プイ
梓(冗談だよね…?)
トントントン…ガチャ
梓「どうぞ適当にくつろいでください」
唯「どうもどうも。相変わらずあずにゃんの家は音楽で溢れてるねえ」
梓「両親がかなり集めていますからねえ…。置き場がなくて私の部屋にまでCDや楽譜があるんですよ」
唯「羨ましいなあ~。うちはお父さんもお母さんも音楽なんかやってなかったし、憂は昔ピアノやってたけど、今はやってないし…。私もあずにゃんみたいな家庭に育ったら、もっとヴァイオリン上手だったんだろうなあ」
梓「そんなことありませんよ。それに、私の家に生まれたら唯先輩が唯先輩じゃなくなってしまいます」
唯「ガーン!それじゃあ、私には音楽はダメってこと!?」
梓「いえ、唯先輩の音楽は魅力的ですよ」
唯「え?あずにゃん今なんて…」
梓「あ…、な、何でもないです!それより、早速CD聴いてみましょうよ!!」
唯「う、そうだねえ。聴こう聴こう!」
梓(誰の演奏にしようかな…)
梓「唯先輩、誰か好きな演奏者とかいます?CD何枚かあるんですが」
唯「ん~ん、誰のでもいいよ~」
梓「わかりました。それでは…」
梓(どうしようかな…。あ、そうだ、あれを聴かせてみたら面白いかも!!)ニヤ
梓(ハイフェッツが多重録音で1stと2ndの両方を弾いているこの録音…。初めて聴いたときは本当に驚いた)
梓(同じ人が両方のパートを弾いているから曲がわかりやすいし、何よりもハイフェッツのテクニックが半端じゃない)
梓(唯先輩に聴かせるならこれぐらいインパクトがないとね)
梓「これにしますね」
唯「うん、いざお願いします!」
ガチャ、キュイーン…
~♪~
――――――
―――――――――――――
梓「どうでした?」
唯「おおう、いい曲だねえ…。弾いてる人もすっごくかっこよかったよお~」ウルウル
梓「お、大げさですね。でも、この曲がよく知られていて人気がある理由がわかりますよね」
唯「うんうん。ねえあずにゃん、これって双子で弾いてるの?なんか音の感じがそっくりだね!」
梓「いえ、実は同じ人が両方のパートを弾いてるんですよ」
唯「え?同じ人が?」
唯「???」
梓「いやあの、変な意味じゃなくて1回ずつ弾いて録音してるんだと思いますよ…」
唯「あっ、なるほど~!私てっきり…」
梓「はあ…」
唯「ねえねえあずにゃん、それよりもっとこの曲練習しようよ!」
梓「え?構いませんけど…、受験勉強は大丈夫ですか?」
唯「うん。家でちゃんと勉強しておくから、また今日みたいに息抜きにやろうよ!」
梓(息抜きにこの曲か…、大丈夫かなあ)
唯「む、その顔は私を大丈夫かなって見下している顔だな!?」
梓「そうです」
唯「ひどい…、そんなことをいうあずにゃんにはこうだ~!」ウリウリ
梓「や、やめてください~」
唯「えへへ~」
梓(…今、私の部屋で唯先輩と二人っきりなんだな…)
唯「…」
唯「…こうやってあずにゃんの部屋でふたりっきりでくっついてるのって新鮮だねえ!」
梓「!?そろそろ離してくださいっ!」
唯「ほ~い」
梓「(びっくりした…)そ、それじゃあ楽譜と一緒にこのCDも貸しましょうか。そっちの方が練習しやすいでしょう?」
唯「おお、ありがとうあずにゃん!!」
梓「でも、まずはちゃんと受験勉強してくださいね。大学落ちちゃったらニートになっちゃいますよ!」
唯「はうっ!その言葉はやめてあずにゃん…」
梓「ふふっ、でも本当にやらないと唯先輩だけ落ちちゃいますよ?」
唯「…そうだね…」
梓(あれ?)
唯「よ~し、じゃあ、勉強もしないといけないし、今日はこれで帰るね!」
最終更新:2010年12月14日 23:49