梓(3月1日)
梓(ついに唯先輩たちの卒業式がやってきた)
梓(桜、きれい…)
梓(卒業式が終わったら部室に来るように言われたけど何だろう)
梓(何か緊張するなあ)
ガラッ
梓「こ、こんにちはー」
唯律「…」スポッスポッ..
梓(卒業証書入れる筒で遊んでる…。今日も部活は平常運転なんだな…)
梓「あのー、今日私が呼ばれたのって…」
紬「もちろんお茶会するためよ?さ、座って座って」
律「いやー、あっという間の3年間だったなあ」
唯「あと5年くらい高校生やりたいよね」
さわ子「5年経ったら私三十路になっちゃうわね…」
唯澪律紬梓「…」シーン
さわ子「ちょっと!何か言ってよ!」
律「えーっと、さわちゃんはもう既に30歳の貫禄があるから大丈夫…」
さわ子「なぁんですってぇええ!!??」
律「ギャー!!」
澪「…よく私たちだけで3年間やってこれたなあ…」
梓「先輩たちが1年生のときって上級生はいなかったんですか?」
律「ほう!わたひが潰れかけては部活を再建しはんだへ!」ニョー
梓「え、すごい…」
律「いや、わたしのカリスマ性が人を惹きつけたというかー!」
澪「他の部活に入ろうとしてた私とムギを無理矢理引きづり込んだんだがな」
紬「引きづりこまれちゃった~!」
梓「はあ…。唯先輩も無理矢理入らされたんですか?」
律「唯は自主的に入ったんだぜ?」
梓「え!?」
唯「ふっふっふ、私が入ったおかげで正式に部と認められたのだよ」
梓「…ああ、お菓子に釣られたんですね」
唯「さすがあずにゃん、私のことよくわかってる~ぅ!」ダキッ
律「バカにされてるの気づけよ…」
唯「ふふっ」チラッ
梓(バカになんてしてない。もちろんさっきのは冗談。だって…)チラッ
紬「ねえねえ、梓ちゃんはどうして入部してくれたの?」
梓「…不覚にも新入生歓迎コンサートに感激してしまって」
律「んー?なに、もっとおっきな声でー!!」
梓「でも、いざ入ってみたら部長は適当だしお菓子ばっかりたべてるんでがっかりでした!!」
律「う、ぐえ~!!」
梓(そうだなあ、あの演奏を聴いたのが始まりだったんだ…。それで、先輩方に、唯先輩に出会えたんだ…)
唯「…ねえねえ、私の印象はどんなだった?」
梓「…!」
梓(入部した頃の唯先輩の感想かあ…)
梓「…いい印象と悪い印象、どっちから聞きたいですか?」
唯「えっ!!じゃ、じゃあ、わ、悪い印象からで…」
梓「じゃあ言いますね。唯先輩はだらしないし、ヴァイオリンの扱い方は知らないし弦の張替えも一人でできないし楽譜も読めないしすぐ抱きついてくるし、変なあだ名つけるし…」
唯「はぅ…」
梓「まだまだありますけど聞きます?」
唯「も、もういいです」ズーン
梓「遅刻の常習犯だしすぐに物事を忘れるしお菓子のことしか頭にないし全然練習しなかったし…」
唯「あぅぅぅ…!」
律「梓っ!ストップ、ストーップ!!」
梓「でも」
梓(でも)
唯「…!」
律「!」
梓「でも、一緒にバンド組んだらすごく楽しかったし、唯先輩の明るさに何度も助けられたし…」
梓(やだ、神様に誓ったのに…)ヒック
唯「あ、あずにゃん…?」
梓(神様が私の願いをかなえて4人を幸せにしてくれたのに)ヒック
梓「もう楽譜忘れても抱きついてきても怒らないから、怒らないから…」
梓(自分の気持ちが抑えられない…どうして私はこんなにわがままなんだろう…)
ヒック
梓「卒業、しないでよぅ…」
ヒック
ヒック
唯「……ありがとう、あずにゃん」
ギュッ
唯「ほら、泣かないで?」
梓「こ、子供扱い…しないでください…」
ゴシゴシ
唯「…今回あずにゃんを呼んだのはね、あずにゃんのために作った曲を聴いてほしいからなの」
律「泣いてたら聴き逃しちゃうぞー?」
※さすがに音源はないので、4人の演奏をご想像ください
曲目:天使にふれたよ!
出演:Vn(ヴァイオリン)、平沢唯 Vla(ヴィオラ)、秋山澪 Vc(チェロ)、田井中律 Pf(ピアノ)、琴吹紬
素晴らしい編曲を宣伝:
梓(あんまり上手じゃないなあ)
梓(相変わらず律先輩は走るし)
梓(唯先輩の弾き方はデタラメ)
梓(でも、そこに澪先輩が入って、さらにムギ先輩が加わると)
梓(とっても素敵な音楽になる。まるで、ジグソーパズルのように)
梓(そんな4人が奏でる音楽は、初めて新歓演奏会を聴いたときのように輝いていました)
律「ほら、泣いてる場合じゃないぞ!今度は梓が部長なんだから!」
紬「どんな部活になるんだろうね!」
梓「う、う、今よりずっとすごい部活にしてやるです!」
澪「おお、その意気だ!」
紬「文化祭絶対に行くからね!」
唯「よし、それじゃあ、今からあずにゃんも一緒に演奏しようよ!」
梓「はい!」
律「お、いいな!よし、どうせだし、カセットにうちらの演奏録音しようぜ~!」
紬「おお、いいわねえ!」
梓(こうして、私たちは自分たちのできる曲をすべて録音することにしました)
梓(今までみんなでやってきた曲を)
梓(そして…最後の曲が終わりました)
律「よっしゃあ!これでうちらのアルバムが完成だな!」
澪「ああ。カセットだから、あとでパソコンに移して編集するか」
紬「いいわねえ!澪ちゃん、私にもデータちょうだい!」
梓「先輩方、お疲れ様です」
唯「ねえ、澪ちゃん」
澪「ん、どうした?唯にもちゃんとデータ渡すよ?」
唯「ううん、そうじゃなくて…、まだカセットに録音できる?」
律「うーん、もうB面もいっぱいじゃないか?」
澪「いや、まだもう一本カセットあるよ?まだ何かやりたい曲があるのか?」
紬「もしかして、唯ちゃんのソロコンサートかしら!?」
唯「ううん、違うよ。ね、あずにゃん?」
梓「え!?唯先輩、もしかして…」
唯「うん。あずにゃん、あれ、やろうよ。私、あずにゃんとの演奏を残しておきたい」
梓「唯先輩…」
律「お、なんだなんだ~?いつの間に二人で練習してたんだ?」
紬「まあ、唯ちゃんと梓ちゃんのデュオね!」
澪「へえ。なんて曲をやるんだ?」
唯「えへへ、それは聴いてみてのお楽しみだよ~?あずにゃん、楽譜持ってきてる?」
梓「もちろんです。それに、あれだけやればなくても弾けますよ!」
梓(唯先輩と二人でたくさん練習した大切な曲だから)
唯「それじゃあ」
梓「ええ、やりましょう」
唯「あずにゃん、ありがとっ!それじゃあ、りっちゃんたちは観客ね!!」
律「ほ~いほい。高みの見学させてもらうかな~」
澪「…よし、唯、録音の準備できたぞ」
紬「わくわく」
梓「唯先輩、Aください」
唯「はい」
A~
梓「ありがとうございます」
♪~
唯「いい?」
梓「はい。それでは、行きますよ?」
唯「…」コク
梓「…」
律(…なんだ?二人とも、真剣な眼つきになった…)
澪(この緊張感、一体何の曲をやるつもりなんだ?この前みたいにホッチキスじゃなさそうだが)
紬(唯ちゃん、梓ちゃん…)
梓「…スゥ」
梓「♪」
律(この曲は!!)
律澪紬(バッハのドッペルコンチェルト!?)
梓「♪」チラッ
唯「…」コクッ
唯梓「♪~」
紬(出だしは完璧にそろってるわね)
律(梓ならこの曲をやったことがあったとしてもおかしくない。でも、いつの間に唯はこんな曲を!?)
澪(…もうすぐソロだな)
梓「…」♪~
唯『オクターブのあとのパッセージなんだけど、上昇する音形と下降する音形とを分けて意識してみない?』
梓『いいですね、すべての音を同じように弾くとつまらなく聴こえますからね。それでは、それぞれに頂点を設けて、それを目指してクレッシェンド、デクレッシェンドしましょうか』
唯『いいねえ!こんな感じ?』
梓(…もうすぐ、唯先輩のソロ)チラッ
唯「…」スゥ
唯「♪」
律(うまい!)
澪(発音もいい…。それでいて後半のパッセージもすごく情感豊かだ)
梓「…」スゥ
唯梓「♪」
紬(二人の音が絡み合って…。なんていい曲なの…)
澪(伴奏部なしでここまで聴かせられるとはな)
唯梓「…」フゥ
澪(一楽章が終わったけど、二人の緊張が解けない)
律(まさか二楽章もやるつもりなのか!?)
紬(がんばれ、唯ちゃん、梓ちゃん!!)
梓「…」チラッ
唯「…」コクッ
梓「…」スゥ
梓「♪」
澪(おお、一楽章とだいぶ雰囲気を変えてきたな)
紬(ヘ長調のやわらかさがよく出てるわね)
律(気持ち入ってるな…、集中してる)
唯梓「♪」
澪(バスがいないのにメロディーが重くならない)
紬(かなり叙情的に歌いこんでるのに)
律(…まるで会話してるようだな。うまくお互いに支えあってる)
澪(バックからオーケストラが聴こえてくるよう)
唯梓「♪♪♪~」
唯梓「…」フゥ
律(二楽章も弾ききったか…。でも、楽器をおろす気配がないな)
澪(…まさか、全楽章通すのか!?)
紬(二人とも、いっけえ!!)
唯「…」スゥ
唯「♪」 梓「…」スゥ
唯梓「♪」
律(って、早!?)
澪(なんてスピード!!)
紬(まさかこのスピードで弾ききるつもりかしら)
梓「…」♪
梓『唯先輩、ちょっと三連符のリズムが甘いです。そうですね、どちらかというと前につんのめってますね…』
唯『うう…、だってね!だってね!その前まで16分でアンダーカウントしてるとよくわからないんだもん!?それに…』
梓『え?それに?』
唯『この三連符ってなんか今までの音符と違うんだよね…、だからこう、気持ちが入りすぎちゃって…』
梓『それで走っちゃうと…?』
唯『そうなの!』
唯「…」♪
梓『確かにここはアンダーカウントしづらいのである程度じゃ慣れも必要だと思います。メトロノーム使ってやってみましょう』
梓「…」♪
梓『…さっきメトロノーム使ったときはばっちりだったんですけどね…』
唯『あずにゃん、ごめん…』
梓『…でも』
唯『え?』
梓『確かにこの三連符はいままでにはなかった新しい要素です。唯先輩の弾き方が正しいのかはわかりませんが、聴いていてすごく心にくるものがあります』
唯『あずにゃん…』
梓『それは音楽をやる上ですごく大切なことだと思います。どうです、逆に全体のテンポをあげてやってみませんか?』
唯「…」♪
梓「…」♪
梓(三楽章をつめればつめるほど、唯先輩がこの楽章を弾いているときの集中力が増していった)
梓(これぐらいのテンポで唯先輩はぶれない。むしろ唯先輩の解釈、『らしさ』をよく表現できる)
梓(そんな唯先輩の演奏に私も合わせてみせる)
梓(二年間、同じ楽器を隣で弾いてきたんだから!!)
唯梓「♪♪」
澪(もうすぐ唯のソロ…)
律(このまま行くのか?)
唯「♪」
澪(おお、音量はピアノに落としてるけど相変わらず発音もいいし頑強な演奏…)
紬(弱くなってない。気持ちまでは落ちていない!)
律(唯のやつ、なんっつー集中力してやがるんだ!!??)
唯「♪」チラッ 梓「…」スゥ
唯梓「♪」
律(!梓のやつ…)
紬(こんな唯ちゃんを見るのは初めてかも)
澪(そして梓も…)
唯「♪」 梓「♪」
梓(もうすぐ8分音符のユニゾンのところだな)
梓『唯先輩、ここのところ、5小節目から雰囲気が変わるのがわかります?』
唯『そうだね、ちょっとそこのところちょっと表現変えたいよね』
梓(…)
唯『5小節目の頭二つの音量ちょっと落としてみるのはどう?』
梓『いいですね!一回やってみましょうか』
梓(…)
梓(きた…!)
梓「♪」
梓「♪」チラッ
唯「♪」チラッ
梓(!)ドキッ
梓(なんだろう、なんか今唯先輩と目が合った瞬間胸が…)
梓「♪」 唯「♪」
梓(…)
唯『ふ~、これで三楽章も通ったね!』
梓『はい!ようやくここまで来ましたね!全楽章出来ちゃうなんてすごいです!』
唯『はあ~、これで一応この曲も終わりかな?』
梓『…え?』ズキン
梓(…)
唯『ねえあずにゃん、受験前日うちに来ない?』
梓『え?前の日なんかに行ってもいいんですか!?』
唯『前日に詰め込んだってだめだよ。それより、多分、少しは私も緊張すると思うから…』
唯『えへっ、ごめんねあずにゃん…』プルプル
梓『唯先輩…』
梓(…どうして)
梓(どうしてこんなに唯先輩のことが浮かぶんだろう)
梓(…)
梓(もうすぐ二回目のユニゾン…)
梓(もうすぐ、この曲が終わっちゃう)
梓(どうしてこんなに胸が苦しいんだろう)
梓(どうして、こんなに気持ちが高鳴ってくるんだろう!)
梓(唯先輩!!!!)
唯「!!」♪~
律(なんだ、梓の音が…)
澪(今までは1stのサポート役をこなしていたのに…、雰囲気が変わった…?)
紬(! 梓ちゃん、がんばって!!)
唯(…あずにゃん)
唯「…」♪
唯「♪」 梓「!」
最終更新:2010年12月15日 00:24