【2012年3月9日 温泉旅館の脱衣場】

純「あっ」

憂「どうしたの純ちゃん?」

純「あぁ憂。いやぁ、ちょいとね」

憂「?」

純「あずさー。タオルかしてー」

梓「えっ、やだよ。自分のあるでしょ?」

純「それがさ、さっきお風呂にタオルつけちゃって髪が拭けないんだよ」

梓「アホだなぁもう……とにかくまだ使ってるんだから、ちょっと待っててよ」

純「えー、風邪ひいちゃうよ」

憂「純ちゃん、髪拭くなら私のタオル使っていいよ?」

純「あ、ほんと? サンキュー」

純「……てか憂、体拭くの遅いね」

憂「へっ? そ、そうかなっ」

純「そうだよ。なんでそんな隠しながら体拭いてるのさ。効率悪いよ?」

憂「えっ……」

梓「やめなよ、憂は純みたいなみっともない子じゃないんだから」

純「みっともないって何!? いいじゃん女同士なんだしぃ!」

純「ねっ、憂!」

憂「わ、私は、ちゃんと隠した方がいいと思うよ」

梓「だよねー。ほら、純も早く下穿いて」

純「……くぅー!」バタバタ

梓「なに……」

純「もー二人ともお風呂でだってコソコソコソコソさぁ、卒業旅行なんだよ!?」

純「裸の付き合いしようよ! 憂もこんなでかいタオル使わないっ!」グイッ

憂「ちょっと、やだよっ……」グイィ

梓「純……」

純「はっせいっ!」バッ

憂「うあっ」

純「さあさ、憂の身体をみせてごら……」

純「……こほん。バスタオル、お返しします」

憂「……ありがと」

梓「純? 憂? どうしたの?」

純「いや何でも」

憂「いいよ純ちゃん。梓ちゃんだけ除け者じゃ悪いから」

純「そう? じゃ言うけど……耳貸して、梓」

梓「うん……えぇっ!? 憂がパイパ」

純「ばばばばかっ! 静かに!」

梓「むぐぐぐっ……ぶはっ、はぁ」

梓「そっか、憂……毛がないんだ」

憂「う、うん。まだ……」

純「そういえば中学の修学旅行の時もそうだった気が」

憂「えっ、見えてたの!?」

純「うん。まああのぐらいだと、まだ生えないって人もいるだろうから気にしてなかったけど」

純「大学生ともなろう人がパイパンかぁ……」

憂「うっ……」

梓「……」

純「いやいや、大丈夫だよ! そういうの好きな男の人だっているらしいし!」

憂「……でも、毛がないのは……いやかな」

梓「うん。生えてるほうが普通……だと思う」

憂「……そうだね。それが普通で、私はおかしいもんね」

純「憂?」

憂「あのね、梓ちゃん、純ちゃん。聞いてほしい話があるんだ」

憂「……ご飯のあとでねっ」ニコ

――――

 【夕食後 憂たちの部屋】

憂「えっと、5年半ぐらい前の話だけど、していい?」

梓「5年半だと……中1の時?」

憂「そうだよ。たしか9月ぐらいだったかな」

梓「あ。そのころって……」

憂「うん。私に陰毛が生えてたころ」

梓「!?」

純「……生えてた、って」

憂「言葉のまま。生え始めたって言うべきかな? とにかくそうなんだ」

梓「裏切られた」

憂「えっ?」

梓「なんでもないよ。それで?」

憂「あっ、えっと。気付いた時にはけっこう生えてて。私びっくりしちゃったんだ」

純「あるある。私もお母さん呼んじゃったよ」

憂「うん。……学校で教わったの、勘違いしてて」

憂「女の子にも生えるって知らなくて、怖くなっちゃって……」

梓「ごめん、つらかったらいいよ」

憂「気にしないで、梓ちゃんには聞いてほしかったから」

梓「憂がそう言っちゃうと、いやみにしか聞こえないんだけど」

憂「ごめんね……えっと、そのころお姉ちゃんには毛が生えてなくてね」



――――

 【2006年9月20日 平沢家】

 私が1階のリビングでごろごろしていると、

 どたばたと慌ただしい音がお風呂場のほうから聞こえてきました。

 いそいで体を起こしましたが、憂はすぐ扉を開けてリビングに戻ってきたので、

 私は安心して笑いかけます。

唯「あっ、うい。お風呂上がったね。それじゃ、一緒にあいす食べよ」

 お風呂からあがったら、二人で一緒に冷凍庫のアイスを食べる約束をしていました。

憂「それどこじゃないよぉ、お姉ちゃん!!」

 しかし憂は口元を震わせて、わっと叫んでしまいます。

唯「ほえっ!?」

 よく見ると憂はまだ髪や体がびしょびしょで、

 慌てて着たらしい部屋着には水のしみがたくさん浮かんでいました。

 目も……もしかしたら水滴かもしれませんが、涙ぐんでいるみたいに光っています。

憂「どうしよう、どうしようっお姉ちゃん! わ、わたし……」

 とびついてきた憂をなんとか抱きとめます。

 シャンプーの匂いはしますが、体はシャワーを浴びただけのようで

 憂のあたたまった身体からでてくる熱にのって、憂の匂いが漂ってきました。

唯「……おちついて、憂」

 あまずっぱい香りにちょっとくらりとしましたが、

 私はしっかり憂を抱きしめて、背中をさすってあげます。

憂「ひっ……ぐすっ……」

唯「何があったの? お姉ちゃんがきいてあげるよ」

憂「あの、ねっ、あのねっ……」

唯「うん、うん」

 憂は涙をごしごしこすって、鼻水をすすると、大きく息を吐いてから言いました。

憂「……おまたに……変な、毛が生えてて」

唯「おまたに変な毛?」

 それはたぶん、性毛のことじゃないかと思いました。

 和ちゃんはもう生えたという話ですし、授業でやったこともうっすら覚えていました。

唯「うい、大丈夫だよ。それは……」

憂「これは?」

 なんと説明したらいいんでしょうか。

 授業で聞いた内容なんて覚えていません。覚えているのは和ちゃんに教わった事のみです。

唯「……大人の証みたいなものだから!」

 かすかな記憶をたよりに、そう言いました。

憂「おとな……」

唯「うん、大人! 憂は大人だよ!」

 涙目ですがりついてくる妹に言う台詞でもないと思いましたが、

 私はとにかく憂を泣きやまそうと必死でした。

 憂がゆっくり顔を上げます。

憂「……でも。お姉ちゃんには毛なんか生えてないよね?」

 気にしてたところをぐさりとやられました。


憂「お姉ちゃんのほうが大人なのに」

憂「私におまたの毛が生えて……」

 そしてさらに、もうひと突き。

 ずぶりと傷口が広がっていくようです。

唯「……うい、そのへんに」

憂「お姉ちゃん、私やっぱり……おけけ生えてるの気持ち悪いよ」

 私の妹は、もっとも言ってはならないことを言ってしまったようです。

 姉として成長を祝福してあげようと思ったのに。

 知らずとはいえ、そんなことを言うから悪いのです。

唯「じゃあさ、それ、剃っちゃおうよ」

 憂がふと顔を上げました。

憂「……剃る?」

唯「うん。剃っちゃえばなくなるからさ」

 水濡れた憂の襟足を指でいじって、ぎゅっと絞ります。

 指にしみ出た水滴を首元に塗り込んであげると、また憂の濃い匂いがしました。

唯「……あと、体も洗おうね」

憂「う、うん……」

 憂は恥ずかしそうに、私の首筋にすこし赤い顔を押しつけて隠れます。

 小さくて冷たい鼻が、私の首でへこんでいるのが分かります。

 私は大丈夫かな。鼻を動かしてみますが、憂の匂いしかしなくて判断できません。

憂「でも、カミソリ使うの危なくないかな……剃りにくそうな場所だし」

唯「私がやってあげるよ。怪我したらいけないし」

 ちょっとだけ弱くなっていた憂の匂いが、さきほどからどんどん強くなってきています。

 シャンプーの香りと相まって甘酸っぱいそれは、私の頭の働きをすこし衰えさせていました。

憂「ほんとに? ……わかった、おねがいね」

 たぶん判断が鈍っていたのは憂も同じでしょう。

 でも私たちはそれに気付きません。

 私と憂はお互いに手を貸して立ちあがると、お風呂場に向かいます。

 憂を安心させるために鼻歌なんて歌っておきます。

 服を脱いでいる間は憂と離れましたが、すでに匂いがしみてしまったようで

 私の身体からも憂の匂いがしました。

 ちらりと憂のほうを見てみます。

憂「……あ。お姉ちゃん……」

 憂は心配そうに、薄いうぶ毛くらいの性毛を見つめています。

 私は新しいカミソリを取り出して、お風呂場の戸を開けます。

 お湯の匂いとあたたかみがまだ残っていました。

唯「うい、行くよ」

 憂の手を引き、私は湯気のたちのぼる中に入っていきました。

 シャワーからお湯を出して、私はまず髪と体を濡らします。

 乾いた体でお風呂場にいるのは、なんだか違和感があるのです。

 最後にカミソリにもお湯をかけ、シャワーを憂に渡しました。

 体を再度濡らした憂から、ノズルを返してもらい、お湯を止めます。

 ぴとん、ぴとんと指や髪の先から湯が落ちて響いています。

唯「憂、椅子に座って」

 こくりと頷き、憂はお尻を椅子に乗っけました。

 私はそんな憂の前で床に座り、ボディソープのポンプを押して手のひらに広げます。

唯「足広げないとできないよ?」

憂「あっ、そっか」

 天然をかます憂。

 仮にも刃物を扱う作業なのだから、ちょっとぐらい緊張してほしいと思いました。

 私は手のひらをこすりあわせて、ボディソープをあたためます。

 すっと憂が足を開き、股間を晒しました。

 そこに生えている毛を見ないようにしつつ、右手で包み込むようにボディソープを塗りつけます。

憂「……」

 顔を赤らめて、憂はそっぽを向いてしまいます。

 恥ずかしいことには気付いているみたいです。

憂「お姉ちゃん……その触り方、ちょっと痛い……」

唯「えっ、ほんとに?」

 大事な場所とは分かってますから、なるべく優しくしたつもりなんですが、

 それでも憂には痛かったみたいです。

唯「ごめん、じゃあえっと……どうしたらいい?」

憂「どうしたらって言っても……優しく」

 具体的なことは憂にも分からないみたいで、

 私はとにかくやさしく、ゆっくりとボディソープを塗ってあげます。

 憂のそこは、ボディソープでぬめっているけれど、あたたかくてやわらかい。

唯「これなら大丈夫?」

憂「……うん」

 憂はまだ我慢しているようでした。私はそれを見て、あてがっていた手をそっと離します。

 粘っこい音が耳に届き、何度か頭の中で反響します。

 私はそれを振り払うために、シャワーを床に向けて、きゅっと蛇口を捻りました。

 激しく水の撥ねる音が、先ほどの音をかき消します。

 私は手についたボディソープを落としてシャワーを止めると、カミソリを持ちます。

唯「憂、うごいちゃだめだよ」

憂「わかってるよ」

 そうだよね、わかってるよね。

 憂が下手に身じろぎするはずがありません。

 憂はそんなあからさまな危険に気付かないようなドジではないはずです。

 私だってそれを知っているのに、なぜかそんな注意をしていました。

唯「さてと……」

 憂に向きなおります。

 おまたに塗られたボディソープはオレンジ色で、

 ついつい、おあずけにされたカボチャアイスのことを思い出してしまいました。

 不覚にも、口の中に唾液がたまっていってしまいます。

 顔にまとわりつく水滴をぬぐって、目をこらしました。

 ――1本だって残してはいけない。

 そうしなければ、私は憂より子供だと言うことになってしまうのですから。

唯「じっとしててね……」

 また言ってしまいます。

 くせのようなものでしょうか。

 私は憂の太腿に腕をのせ、股間にぐっと顔を近づけました。

 せっけんの匂いと、やっぱり別のむっとくる匂いが混ざって私の鼻を襲います。

憂「お姉ちゃん、顔近いよぉ」

 憂が文句を垂れますが、私は気にせずそのままカミソリの刃を

 下腹部に近い性毛の根元にあてました。

 つーっとカミソリが滑り、ぶちぶち小さな音とともに、

 毛と、ボディソープのコーティングがなくなった憂の白い肌が部分的にあらわになりました。

唯「……」

憂「ん……」

 思わず私は唾を飲み込んでいました。

 ごくり、という音は間近にいた憂にも聞こえたようで、

 だめだといったのに憂はぴくりと動いてしまいます。

唯「……」

 するするとカミソリが憂の毛を落としていきます。

 そのたびに、私は鼓動を速めていっていました。

 憂の股の間でにおう、奇妙に心をくすぐる香りに影響されているのかもしれませんでした。



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最終更新:2010年12月20日 22:15