――部室

●梓side

唯「あずにゃーん!!」

部室のドアを開けた瞬間、声と共にそれがきた

唯先輩だ

私にとってもはや日常となったこの抱きつかれるという行為は、部活の始まりの合図だ

ほら、先輩方がいつもどおりこちらを見ている

それは、うらやましそうに、そして妬ましさも含んで

……おっといけない

そのことについ口角がつり上がってしまう

だって

梓「(どうみてもこれは私に惚れている!!いえ、そうじゃないとしてもそうしてみせます)」

「(もはや私は、私の人生に向かって勝利宣言をたからかに叫びたい!!」

……ついでに今、こちらを妬ましそうに見ている先輩方にも



●律side

うらやましい

何度見てもうらやましいものはうらやましい

私もできることならば、あの唯に抱きついてもらいたい

いや、むしろあの胸に飛び込んでいきたい

律「(おちつけ、おちつくんだ私。あれは後輩へのスキンシップだ。そうスキンシップなんだ)」

「(大丈夫、きっと唯は私に惚れている。いや、仮にそうじゃなくてもそうしてみせる!!)」

「(普段唯といつもジャレ合っているのは私だ。これは圧倒的アドバンテージ!!)」

……おっといけない、そんな決意をする前にまずやることがあるな

そう

まずはあの二人のうらやまし……もとい、少し過剰なスキンシップをやめさせなければ……

律「おい、唯。とりあえず早く座れよ~。今日のおやつはムギがもってきてくれたモンブランだぞー」

言った時、対面に座る澪がGJという顔を見せた

……わかってるぜ、我が幼馴染のライバル。お前も敵だってこともな



●澪side


最近唯は梓に構ってばかりだ。

そしてそれはまずい。なにがまずいって非常にまずい。

梓もどうみても唯を狙っている

そして今、唯と梓を引き離した律もだろう。

だが、今は

澪「(律、ナイスだ!!)」

その功績を称えよう


唯「わぁ、やったー。モンブランだー」

そういって嬉しそうに自分の位置に座る唯

……ふふっ、なんて可愛いやつだ!!

だが、問題は律だ

律の位置は隣の席

つまり

いつでもボディタッチを含むスキンシップができるということだ

ここは一気に私に気を向けさせる必要がある

澪「唯、そんなにモンブランが嬉しいなら、私の栗もやるよ」

そういって私はケーキの頂点に聳え立つ栗にフォークを刺した

唯「えぇー、いいのー!?やったー。じゃぁ……あーん」

……なっ!?アーンだとおおおおおお!!?これは私に食べさせてもらいたいってことだよな!!

澪「(きたああああああああああああああああああああ)」

「(おい、震えるなよ私の左手。平静を装え……おちつくんだ……)」

よし、大丈夫。いざ、出陣

ママ、今私は栗と引き換えに幸せを手に入れます!

澪「……あーん///」



●紬side

なんとほほえましい光景だろう

1年前の自分ならそう言ってこの光景にうっとりしていたことだろう

だけど今は違う

紬「(りっちゃんにも澪ちゃんにも梓ちゃんにも悪いけど、唯ちゃんは渡さないわ)」

だって

紬「(こんな天使みたいな笑顔をいつも見せてくれるんだもの)」

……あぁ、そんな嬉しそうにケーキを食べるから、口の周りにクリームがついてしまってるわ


紬「唯ちゃん、ちょっとこっちを向いて」

唯「?」

なんの疑問も持たずにこちらを向く唯ちゃん

さぁ、いまハンカチでそのかわいらしい口元をぬぐってあげるわ

紬「ちょっとだけ、じっとしていてね?」

そういって、その顔に手を伸ばす

紬「さぁ、これで大丈夫よ」

唯「ありがとー、ムギちゃーん」

ニコっと笑顔を向けられた

……あぁ、もうこれだからやめられないわ~




平沢唯にとって、この日常はいつもと変わらない

やってきた後輩に抱きつき、そしてその後にみんなで微笑ましくお菓子を食べる

……あれ?みんなで……?

唯「ムギちゃんはケーキ食べないの?」

紬「えっ?えぇ、今日は4つしか用意できなかったの~」

唯「えぇ~!そんな、ムギちゃんに悪いよー」

紬「別にいいのよ?唯ちゃんは気にしないで食べて」

唯「え、でも……そうだ!!はい、ムギちゃんあーん」

さっき澪ちゃんにやってもらったことを、今度は私がムギちゃんにしてあげる

でも

唯「(あれ?ムギちゃん、かたまっちゃった……)」



● 梓side

梓「(なっ……!?唯先輩からアーンだとおおおおおおおおお?おのれええええ眉毛ええええ、いますぐかわれ)」

なんというご褒美

これは阻止しなければ

周りを見れば、他の先輩方もあたふたしている

澪先輩はまださっきのことで余裕があるから大丈夫だろう

けど、律先輩は……

律「………」

ほら、プルプルしだした


唯「どうしたの?ムギちゃん、えっと、あっ!食べかけが嫌だった?」シュン

あぁ、シュンとした唯先輩もかわいすぎます

唯先輩、その眉毛は、眉毛の皮をかぶった沢庵です。だからどうかそのケーキを私に

いえ、もうなんならそのフォークだけでいいです

紬「あぁ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたわ。ありがたく、もらうことにするわね」

そういって、なんとも嬉しそうにする眉毛

あぁ、あの眉毛爆発してしまえばいいのに

唯「はい、あ~ん」

あぁあああああ、うらやましいいいいいい

そう思っているうちに、眉毛にケーキを差し出す唯先輩

だが

律「……私がもらったあああああ」パクリッ

横からデコが食べてしまった

……あ~あ、律先輩死んだなぁ……

だって、ほら、ムギ先輩がぷるぷる震え出したもん


● 紬side

正直に言うなら

本当はケーキは私の分もあった。

だが

紬「(優しい唯ちゃんなら、きっとこの行動にでてくれるだろうという信じた故の作戦だった」

正直、ここまで思い通りに進むとは思っていなかったから一瞬戸惑ってしまったが、

ここまでくればもう幸せしかまっていなかった

まさにここからが、Honey sweet tea time 

……のはずだった

それを……それを……


唯「あー!!りっちゃんひどいよー」

律「あはは、ごめんごめん。つい焦れったかったから」

「ほら、ムギ、私のケーキ食べていいから」

な?といいながら話しかけてくるデコを見る

その顔は

……なっ!?この女……笑っている!?それも満足そうな顔で、ドヤ顔で笑っているだと……!?

紬「(これはもう戦争ね……)」

そういって、デコの肩を掴んだ

その瞬間デコの体がぶるっと震えた

……あらっ、いけない。つい力の加減をまちがえちゃったわ♪

紬「りっちゃん。ちょっと廊下でお話があるの~」

ガシッっと掴んだ肩は放さず、え?なに?とあたふたするデコをそのまま引きづるように連行する

唯「あれれ、どうしちゃったんだろう。ムギちゃんにりっちゃん」

後ろから天使の声がする

……あぁ、心配しないで私はすぐに帰ってくるわ



● 澪side

あぁ……律のやつ死んだなぁ……

さよなら幼馴染。短い間だったけどなんだかんだで楽しかったよ

さてと

澪「(これで一人ライバルが減ったなぁ)」

唯の顔を見ると、モンブランの最後の一口をほお張っていた

……あぁ、もうなんかこれだけで生きていける気がする

その時

――ブルブルブル

唯の机の上に置かれた、携帯電話が光りながら震えた

澪「おいっ、唯。電話ふるえてるぞ」

唯「あっ、ほんとだ。……憂からだ。なんだろう」

唯が電話で話してる間に梓と目があった

おそらく、梓も今私と同じことを考えてるだろう

……あのフォークどうにかして回収できないかなぁ


唯「え……!? うん、わかった。 今すぐ帰るね……うん、ありがとね純ちゃん」

ん?電話の相手は鈴木さんなのか

唯「うわーん、どうしよう澪ちゃーん。憂が倒れたってー!!」ダキッ

そういいながら、泣きついてくる唯

澪「(もう死んでもいい)」

唯「はっ、こんなことをしてる場合じゃない!!今すぐに帰るからねー憂!!」

私がそのつかの間の温もりの余韻を味わいながら、カバンももたずに部室を飛び出す唯を見送った

……おい、梓、いまのうちに とか思って、唯のフォークに手をつけるんじゃない



――通学路

● 憂side

純「……これでいいの?はい、携帯返すね」

憂「うん、ありがとう、純ちゃん♪」

純「それにしても、なんでこんなことを」

そんなのは決まっている

憂「(おそらくおねえちゃんのことだから、カバンも持たずに部室を飛び出しているはず)」

「(そうすれば、必ず軽音部の誰かがそれを届けてくれる)」

純「おーい、憂ー?」

憂「(みんなお姉ちゃんが大好きだから、戦争になっているかもしれないが、天使だから仕方ない)」

純「うわっ、フヒって今笑った……」

憂「(そして届けてくれた人は必ずおねえちゃんとの距離が縮まるようにしてみせ)」

「(おねえちゃんとくっついたところで、おねえちゃんごと私がおいしく……)」

純「えっと、聞いてるー?」

憂「(もし律さんが義姉ちゃんになったなら……)」

「(あのカチューシャをはずして貰って、おねえちゃんに愛の言葉を囁いた後に、
憂ちゃんが2番目に好きだよってささやいて貰おう。で、ベッドの中ではしおらしくなった律さんをおねえちゃんと一緒にせめるの)」

「(……うん、悪くない)」

純「うわ、またフヒヒって言った」

憂「(澪さんが義姉ちゃんなら……)」

「(おねえちゃんに後ろから抱き着いてもらって、前から澪さんに抱きついてもらえば……)」

「(あのオパーイとかに顔をうずめちゃったりして……エヘヘ)」

純「おーい、無視しないでよー」

憂「(紬さんが義姉ちゃんなら……)」

「(おねえちゃんはいつもどおり、ぼぉっとしてて、
そこに私と紬さんが紅茶の入れ合いっこして、やっぱりそこにはぐたっとなりながらも、お菓子を頬張るおねえちゃんがいて……)」

「(うん、こんな日常も悪くないなぁ……)」

純「もう私帰るからねー!!」

憂「(梓ちゃんなら……)」

「(私がおねえちゃんのマネをして梓ちゃんに抱きついてからかったりして……」

「(そしたらおねえちゃんも梓ちゃんに抱きついて、そのまま3人でくんずほぐれずな空気になって……)」

「(鼻血でそうかも……)」

純「よし、帰ろう」スタスタ

憂「(いや、ここはいっそおねえちゃんにハーレムをつくってもらって……)」

「(うん、できるよおねえちゃんならきっとできる。そして……)」

「(おねえちゃんも幸せ、みんなも幸せ、私も幸せ!!)」

「うん、完璧だよ~!!ってあれ、純ちゃん?どこいっちゃったんだろう」


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最終更新:2010年12月23日 01:29