電車!
ガタンゴトン
その日私は、正午過ぎの片瀬行きの電車に乗っていた。
澪「……。」
ある一人の親友に会うためである。
(イカ娘「澪~、大好きでゲソ~!!」)
澪「ふふっ////」
と言っても、会える保証などどこにもなく、ただ彼女への想いが、私を湘南の海岸へせきたてているのだろう。
ガタンゴトン
ガタンゴトン
澪「今日も、寒いな…。」
12月も下旬になった。電車の中でも足元が冷える。
しかし、小さなパンツをギュッと握りしめると、彼女とすごした暑かった日々がまだ鮮明に胸によみがえる。
(イカ娘「人類よ、よく聞け!今からこの家を人類侵略の拠点にするでゲソ!」)
澪「うふふっ////」ギュっ
ガタンゴトン
2日前!秋山家!
澪母「澪ちゃ~ん、お手紙来てるわよ~。」
澪「は~い。」
トントントン(階段)
澪母「はい。」
澪「ありがとう、ママ。」
トントントン(階段)
澪「誰からだろう…。あ、イカ娘からだ!!」
澪「なんだこれ、何が書いてあるかさっぱりわからない…。」
澪「『海に帰る』って言ってたし、また律かなんかのいたずらだろうな…。」しゅん
ガタンゴトン
いたずらだと分かっていながら、彼女への想いが膨らみすぎて、いてもたってもいられなくなってしまった。
澪「最近、勉強がんばってたし、いいよな。」
冬の海も嫌いじゃない。気分転換も兼ねて、今の想いを歌に残しておこうと思った。
澪「大切なあなたにカラメルソース…。」
澪「イカにカラメルソースは不味いか…。」
澪「『私は食いものじゃないでゲソ~!』とか言ってな。ははっ。」
ガタンゴトン
ガタンゴトン
彼女と別れた後、私は他の軽音部の仲間と同じ大学を受けることを決め、ひたすらに勉強した。
澪「約束、忘れないからな…。」ギュ(パンツ)
今はひたすらに勉強することだけが、彼女に近づくやり方のように思えた。
ガタンゴトン
澪の回想!学校の授業!
社会科教師「で、あるからして、このキリスト教の隣人愛というのは…。」
イカ娘「おかしいでゲソ!!」
澪「お、おい///」
生徒達「あはは。」
イカ娘「近くの人を大切にすることは素晴らしいでゲソ。」
イカ娘「でも、どうして遠くにいるものも愛してやらないでゲソ!!」
澪「え…。」
イカ娘「遠くにいる命を愛さないから戦争なんかするんでゲソ!海を汚してしまうんでゲソ!!」
社会科教師「あ、ああ。」
イカ娘「人類はやっぱり愚か者でゲソ!」プイ
ガタンゴトン
まだ将来何をやるかは決めていない。
しかし彼女の言う遠くの人や、未来の子供たちのために何かをできるような人になりたい。
澪「……。」
黄金色の西日が、優しく私を照らしてくれた。
車内アナウンス「間もなく~、片瀬江の島~、片瀬江の島~。」
澪「着いたでゲソ。」
片瀬江の島!
澪「ふわ~~!」(伸び)
晴れ渡った空に、潮の香りが心地いい。
ピ~ヒュルル~
澄んだ青のあちらこちらで、トンビが弧を描く。
私は3か月前、彼女といっしょに歩いた道を歩いていく。
(イカ「私だって寂しいゲソ…。」)
澪「もうすぐ海岸だよ。」ニコ
海岸!
ざざぁ~、ざざぁ~、
澪「……。」
冬の海岸は人が少ない。
海水浴客でにぎわう夏を知っているから、余計に寂しく感じてしまう。
ざざぁ~、ざざぁ~、
澪「やっぱり寒いでゲソ…。」
それでも波の音を聞きながら、海を眺めていると、イカ娘会話している気持ちになれる。
澪「寂しくなんかないでゲソ。」
海岸沿いには、営業していない海の家がいくつか並んでいる。
澪「さすがにどこも営業してないか…。」
誰もいないはずの海の家に、イカ娘の気配を感じる。
(イカ娘「ビール3番テーブル、焼きそば5番テーブルでゲソ~!」あせあせ)
澪「あはは。」
海岸を眺めているとあちらこちらにゴミが転がっているのが目に付いた。
(イカ娘「どうして人間はこう海を汚すでゲソ…。」)
澪「まあ、じっとしてると寒いだけだしな…。」
私はゴミ拾いを始めた。
澪「しかし一人では到底拾いきれない量だな。」
悟朗「お嬢さん、一人でゴミ拾いですか。偉いですね!」
澪「……///」
筋肉質な男性が近寄ってきた。冬なのに海パンとはおどろいた。
たぶん私の苦手なタイプの男性だ。無視に限る。
悟朗「お、お嬢さん、無視しないでくれよ!ナンパじゃないんだから!」
澪「……。(うざいでゲソ)」
悟朗「おれは嵐山悟朗!夏はここの海岸でライフセーバーやってるんだよ!」
澪「は、はあ。」
悟朗「ボランティアなんだけど、ゴミ拾いも一応おれたちの仕事だから、冬も定期的に来てるんだ。」
澪「あ、そうだったんですか。すみません。」
悟朗「いやいやこちらこそ。この辺の人じゃないよね?一人でゴミ拾いなんて感心です!」
ライフセーバーはゴミ拾いの道具を一式貸してくれた。
二人でやれば案外スムーズに片付いた。
悟朗「ありがとうございます!また夏にでも遊びに来てください!」
澪「あ、はい…。」
そういうとライフセーバーは去って行った。
そしてまた、イカ娘とふたりきりの時間を過ごす。
ざざぁ~、ざざぁ~、
ざざぁ~、ざざぁ~、
夕日が江ノ島を照らす。
私の冷えた体を、オレンジ色が優しく包み込んで、イカ娘の笑顔を思い出す。
(イカ娘「澪!大好きでゲソ!///」)
澪「ふふっ///」
私は持ってきたベースを取り出した。
澪「よいしょっと。」
ボンボンボ~ン♪
(イカ娘「お腹に響くような素敵な音がするでゲソ~♪」)
澪「///」ニコ
イカ娘が帰っていった海に、夕日が沈む。
澪「また…、会えるよな…。」
ボンボンボ~ン♪
ざざぁ~、ざざぁ~、
すっかり日が暮れてしまった。
澪「静かだな…。」
ざざぁ~、ざざぁ、
江ノ島の灯台が時折私の顔を照らす。
目を閉じてみる。
ざざぁ~、ざざぁ、
澪「……。」
波の音、潮のかおり、イカ娘のかおりだ!
栄子「ひとり?」
澪「!?」
栄子「風邪ひくよ!」
そう言うと、暖かいペットボトルの紅茶をくれた。
澪「あ、ありがとう…。(同い年くらいかな?)」
私の隣に座ると、その子もしばらく何も言わす、じっと海を眺めていた。
ざざぁ~、ざざぁ~、
栄子「高校生?」
澪「う、うん。今年卒業なんだけどね。」
栄子「あ…、私は高一だから年上ですね…。」
澪「タメ口でいいよ。」ニコ
なかなか感じの良い子だ。湘南の海が似合っている。
栄子「私は相沢栄子。ずっとここに住んでる。」
澪「私は
秋山澪。地元ではないんだけどね。よろしく。」ニコ
栄子「よろしく。」ニコ
ざざぁ~、ざざぁ~、
ざざぁ~、ざざぁ~、
また何も言わず、ふたり並んで夜の海を眺めている。
澪「……。」
栄子「……。」
ざざぁ~、ざざぁ~、
栄子「海って、いいよね…。」
澪「うん…。」
ざざぁ~、ざざぁ~、
栄子「こうしてると、仲のよかった友達を思い出すから、ここに来ちゃうんだ…。」
澪「え!?そ、そうなんだ…。」
栄子「別に死んじゃったとか、喧嘩しちゃったとかじゃないから。」
澪「ううん、そうじゃなくて、私も同じだから。私も大切な親友を思い出すんだ…。」
栄子「そうなんだ…。」
ざざぁ~、ざざぁ~、
ざざぁ~、ざざぁ~、
栄子「変な奴でさ~、少し生意気なんだけどいろんなことに興味示して、無邪気でさ。」
澪「私の親友もそんな感じだった!いたずらばかりしてたけどなんかかわいくて///」
栄子「そうなんだ。あはははは。」
澪「あはははは。」
ざざぁ~、ざざぁ~、
イカ娘「人類よ!よく聞け!///」
澪栄子「!?」
最終更新:2010年12月23日 03:32