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遊義皇第3話 - (2010/06/26 (土) 14:10:47) のソース

&html(<table border="1" bgcolor="#D7F2F2" width="1200"><tr><td><font size="2"><center>)
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&html(<Table Border Bordercolor="#1e332c" Cellspacing="10" cellpadding="5"><Td BgColor="#b2a5cc">バンデッド・キース、裏の世界でも敗北!<BR>ペガサス・J・クロフォード氏代行のトム氏に敗北を喫したキース・ハワード氏、<BR>彼はその後、アンダーワールドデュエル中と先日本紙にて報道したが、そのアンダーデュエルにおいても、<BR>ハワード氏は青年に大差を付けられ敗北していることが本紙の取材によって発覚した。<BR>対戦した青年はゲーム中の不正をハワード氏に指摘され、ハワード氏と数名の氏の友人に暴行を受け、右手の指を全て切断された。<BR>だが、不正は立証が無く、ハワード氏の自己中心的な志向と酒の勢いが掛かった言い掛かりだと思われる。<BR>しかし、暴行を受けた青年はその後、訴訟を起こす気配もなく、入院中である。<BR>以上、ニューヨークの会社発行の「ウォールアウト」、二年前の2月27日発行分、3ページ目より抜粋。<BR></Td></Table>)

ホーティック・モーガン、16歳。
そこそこに良い家に生まれ、そこそこに健康な虚弱体質に生まれ、やたらに出来の良い頭で生まれた天才少年。
彼の人生において、今日ほど悪い日は存在していなかった。

田舎まで会いにきた友人は、友情の証を売り払うような人間に変貌していた。
しかもその友人を殴ったら殴ったで殴った左手首が脱臼。

仲間に報告しようにも携帯電話は圏外、公衆電話を探していたら空き缶で滑って転んでアバラにヒビ。
30分も歩き回ってたら、普段の運動不足が祟って意識が途絶え、そのまま気絶。
――これからは部下も連れずに出歩くのは止めよう――と、心に誓ったホーティックだった。


    間


次の日のホーティックは朝、美味しそうなカツオダシの香りによってホーティックは目を覚ました。
太陽の匂いのする、暖かい煎餅布団の中だった。


   「…?」


都会のそれのようにピカピカというわけではないが、田舎独特の安らぎすら覚えるボロさで、そこそこに清潔ではある。
置いてある点滴用の器具やらベットの機能から察するに、病室。
そして、ホーティックが寝ていたベットの隣では、猫舌なのか、鍋焼きうどんのネギをフゥフゥしながら食べている少年がいた。


   「すいません、ここはどこなんでしょうか?」


   「記憶喪失だから金が払えねぇ、なんて言い訳はナシだぜ。」


   「……本籍と出生地はイングランドのバーミンガム。
    現住所は大阪府の大阪市……今いる場所だけが分からないんです。」


   「ここはオセロ村唯一の病院、刃咲医院、OK?
    昨日、道端でブッ倒れてたのを電気やのゲンさんが見つけてくれて、ここに連れて来た。 アンダスタン?」
   

ホーティックも合点が入ったらしく、問いに頷く。


   「助けていただき、ありがとうございました。」


   「兄さん、あんた、体力付けた方が良いぜ。
    母さんが言うには、普通の人間は肉体的な疲労ではそうそう意識は失わないらしいからよ。」


部下やら仲間にもよく言われる言葉だった。
以前に正念党最年少メンバーである7歳の女の子と腕相撲をして辛勝し、カラオケに行けば2曲の民謡を歌っただけで息切れ。
極め付けが、準備体操のレクチャーを受けている時点で泳ぐのを諦めたりもした。


   「あー……善処します。」


   「高校生っつっても、それじゃあ通学だけで死ぬんじゃないか?
    何で通ってるんだ?」


   「学校なら、君ぐらいの時に本国で大学まで出ました。」


   「今は?」


大して興味も無さそうに、淡々と質問を重ねる刃咲。
ちょっとした尋問気分だった。


   「……まあ、学校を出たら働くしかないんじゃないですか?
    ああ、そういえば、ここに電話はありますか? お借りしたいんですが。
    ここには電話が無かったので、仕事の関係の電話をしなければならないんです。」


   「あ? 電話なんてどこかの家で借りればよかったじゃねーか?」


至極もっともだった。
だが、都会慣れしたホーティックにとっては携帯電話が通じないというのもそう多い状況ではない。
あまつさえ、公衆電話がひとつもないという状況にいたっては初めて。 電話を借りるということを考えもしなかったのだ。


   「ところで、あんたの持ってるカバン、それってデュエルケースだよな。
    海馬コーポレーション社長も使ってる、デュエルディスクとカードがたっぷり入るって触れ込みの。」


ホーティックは自分の寝ていた枕元に置いてある、ジェラルミンのケースをその時初めて意識した。
治安が悪ければ盗まれているところだ。


   「ええ、そうですよ。
    カード以外にも色々入れられますし、小型のバッテリーも装備していてとても使いやすいんですよ。」


テレビCMで聞いたフレーズをそのまま繰り返したようだった。


   「ってことは、決闘者だよな、勝負しねぇか? いますぐ。」


レアハンター組織の正念党としては、デュエリストの情報は一つでも欲しい。
もちろん、自分の得意戦術を披露するわけにも行かないが、掘り出し物というのはこういうところにあるものだ、とホーティックは知っている。


   「構いませんよ。
    ただし、デュエルディスクは電波器具ですし、病院内で電源入れる訳にも行きませんが、構いませんね?」


   「そうだな、節電にもなるし………あんた、何してるんだ?」


   「……ケースからデッキを出してるんですが?」


   「デュエルディスクにもくっ付いてるようだけどよ………そっちが一軍じゃねーのか?」


二軍を使おうとする相手に、目ざとく見つける刃咲。
だが、ホーティックは焦りも慌てもしない。


   「ディスクに入ってるのは実験中のデッキでして、こっちが全力のデッキです。
    やはり実験中のデッキを初対面の方に使うのは失礼に当たりますし、こちらの一軍デッキでお相手させていただきます。」


当然のように嘘を吐いた。
デュエルディスクに装填されているのは、当然1軍、渾身のワンターンキル。
しかし、レアハンターの幹部職にあるものとしては可能な限りメインデッキの情報は押さえる必要が有る。


   「……まあ納得してやらないこともけどな、とにかくデュエルだ。」


刃咲も枕元に置いてあったデッキに手を伸ばす。





&html(<font size="10"color="#8b4513">第3話</font><font size="10"color="#6b8e23"> 少年とレアハンター</font>)





   『デュエル!』


ジャンケンの結果、刃咲の先攻だ。


   「ドロー。(手札6)。
    手札からモンスターをと伏せカードをセット、エンドだ。(手札4・伏せ1)」


自分のデッキの情報を公開せず、防御を固める……先攻1ターン目としてはありきたりだが、それだけに定石といえる。


   「私のターンですね。(手札6)
    それでは、私は〔デュナミス・ヴァルキリア〕を通常召喚し、攻撃させてもらいます。」

&html(<Table Border BorderColor="#ccb028" Border="2"><Tr><Td>デュナミス・ヴァルキリア</Td><Td>光属性</Td><Td>天使族</Td><Td>レベル4</Td><Td>ATK1850</Td><Td>DEF1050</Td></Tr><Td ColSpan="6">勇敢なる光の天使。その強い正義感ゆえ、<BR>負けるとわかっている悪との戦いでも決して逃げない。</Td></Table>)


   「攻撃に幅ってもんがねぇな、伏せられていたモンスターは〔ドラゴンフライ〕だぜ!」


〔デュナミス・ヴァルキリア〕(攻撃力1800)VS(守備力900)〔ドラゴンフライ〕→ドラゴンフライ、破壊、墓地へ。


&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>ドラゴンフライ</Td><Td>風属性</Td><Td>昆虫族</Td><Td>レベル4</Td><Td>ATK1400</Td><Td>DEF900</Td></Tr><Td ColSpan="6">このカードが戦闘によって墓地へ送られた時、<BR>デッキから攻撃力1500以下の風属性モンスター1体を自分のフィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。</Td></Table>)


キラー・トマトの風属性バージョンのリクルート・モンスターだ。
刃咲のデッキには3枚採用されており、もっともベーシックなモンスターである。


   「つーわけで、〔ドラゴンフライ〕の効果でデッキから〔アルティメット・インセクト LV3〕を特殊召喚だ!」


&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>アルティメット・インセクト LV3</Td><Td>風属性</Td><Td>昆虫族</Td><Td>レベル3</Td><Td>ATK1400</Td><Td>DEF900</Td></Tr><Td ColSpan="6">「アルティメット・インセクト LV1」の効果で特殊召喚した場合、このカードがフィールド上に存在する限り全ての相手モンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。<BR>自分のターンのスタンバイフェイズ時、表側表示のこのカードを墓地に送る事で「アルティメット・インセクト LV5」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。<BR>(召喚・特殊召喚・リバースしたターンを除く)</Td></Table>)


アルティメット・インセクト LV3:デッキ→刃咲のフィールド


   「これはこれは、攻撃が裏目とでてしまったようですね。
    それでは私はカードを1枚セットして終了とさせていただきます。(手札4・伏せ1)」


   「俺のターンだ!(手札5)
    俺のスタンバイフェイズで〔アルティメット・インセクト LV3〕の効果発動!」


少年が手早くLV3を墓地のスペースへと送り、デッキから新たなるモンスターを探し出して、私にかざした。


   「時間経過と共に、幼虫は羽虫へとレベルアップする!
    デッキから〔アルティメット・インセクト LV5〕! 特殊召喚!」

アルティメット・インセクト LV5:デッキ→刃咲のフィールド

&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>アルティメット・インセクト LV5</Td><Td>風属性</Td><Td>昆虫族</Td><Td>レベル5</Td><Td>ATK2300</Td><Td>DEF900</Td></Tr><Td ColSpan="6">「アルティメット・インセクト LV3」の効果で特殊召喚されたこのカードがフィールド上に存在する限り、全ての相手モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。<BR>自分のターンのスタンバイフェイズ時、表側表示のこのカードを墓地に送る事で「アルティメット・インセクトLV7」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。<BR>(召喚・特殊召喚・リバースしたターンを除く)</Td></Table>)


原則的に通常召喚は1ターンに1回。
だが、〔アルティメット・インセクト〕シリーズのレベルアップは、通常召喚とは別の特殊召喚であり、回数制限はないのだ。


   「さらに、手札から別のモンスターを通常召喚だ。〔ネオバグ〕を 召喚だ。」


ネオバグ:手札→刃咲のフィールド

&html(<Table Border BorderColor="#ccb028" Border="2"><Tr><Td>ネオバグ</Td><Td>地属性</Td><Td>昆虫族</Td><Td>レベル4</Td><Td>ATK1800</Td><Td>DEF1700</Td></Tr><Td ColSpan="6">異星から来たと言われる巨大な昆虫タイプのモンスター。<BR>集団で行動してターゲットをとらえる。</Td></Table>)

   「俺のバトルフェイズ! 〔アルティメット・インセクト LV5〕で〔デュナミス・ヴァルキリア〕へ攻撃だ!」


   「私の〔デュナミス・ヴァルキリア〕では、あなたの〔アルティメット・インセクト〕には敵いませんねぇ。
    ……私には伏せカードが有ります、攻撃宣言時に伏せられた速攻魔法〔収縮〕を発動します。」


&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>収縮</Td><Td>速攻魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の元々の攻撃力はエンドフェイズまで半分になる。</Td></Table>)


   「このカードの効果で、〔アルティメット・インセクト LV5〕の攻撃力は1150となります。」


   「ならば、手札から速攻魔法〔エネミー・コントローラー〕を発動するぜ。」


&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>エネミー・コントローラー</Td><Td>速攻魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">次の効果から1つを選択して発動する。<BR>●相手フィールド上の表側表示モンスター1体の表示形式を変更する。<BR>●自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。<BR> 相手フィールド上の表側表示モンスター1体を選択する。<BR>発動ターンのエンドフェイズまで、選択したカードのコントロールを得る。 </Td></Table>)


   「〔エネミー・コントローラー〕は、ふたつの異なる効果から任意の効果を発動できるカード。
    そして第一の効果、敵モンスターの表示変更を選択し、〔デュナミス・ヴァルキリア〕を守備表示に変更する。」


〔アルティメット・インセクト LV5〕(攻撃力1150)VS(守備力1050)〔デュナミス・ヴァルキリア〕→デュナミス・ヴァルキリア破壊、墓地へ。


収縮で攻撃力が下がっているとはいえ、流石に守備表示では勝てず、守護天使は墓地に送られた。


   「壁モンスターが消えたところで、〔ネオバグ〕でダイレクトアタックするぞ。」


ホーティックLP8000→LP6200


   「ターン・エンド。 (手札3・伏せ1)
    忠告しとくけどよ、あんた、〔収縮〕の使い方間違ってたぜ?」


   「は?」


   「さっき〔収縮〕を『攻撃宣言時に発動』って言っちゃっただろ?
    そこは『ダメージステップに発動』と言い換えるのが当たり前だと思うぞ。」


   「…あ。」


基本的にダメージステップでは攻守の増減に関わる効果と一部の効果しか発動できない。
その為、収縮をダメージステップで発動しておけば、『一部の効果』に該当しないエネミー・コントローラーは発動できず、デュナミス・ヴァルキリアを生かすことができた。


   「これはこれは……次からは注意しますよ。
    私の番ですね(手札5) モンスターと魔法・罠を1枚ずつセットするだけで終了します。(手札3・伏せ1)」


   「ドローだ(手札4)。
    メインフェイズで〔甲虫装甲騎士〕を召喚して、3体のインセクトモンスターで攻撃だ!」


甲虫装甲騎士:手札→刃咲のフィールド。


&html(<Table Border BorderColor="#ccb028" Border="2"><Tr><Td>甲虫装甲騎士</Td><Td>地属性</Td><Td>昆虫族</Td><Td>レベル4</Td><Td>ATK1900</Td><Td>DEF1500</Td></Tr><Td ColSpan="6">昆虫騎士の中でも、エリート中のエリートのみが所属できるという「無死虫団」の精鋭騎士。<BR>彼らの高い戦闘能力は無視できない。</Td></Table>)


   「通しません。 召喚時に伏せカード、〔つり天井〕を使います」


&html(<Table Border BorderColor="#b21162" Border="2"><Tr><Td>つり天井</Td><Td>通常罠</Td></Tr><Td ColSpan="4">全フィールド上にモンスターが4体以上存在する場合に発動する事ができる。<BR>表側表示のモンスターを全て破壊する。 </Td></Table>)


   「フィールドには私のモンスター1体と、あなたのモンスター3体、
    ……私のモンスターは裏側守備表示なので、破壊されるのはあなたのモンスターだけです。」


アルティメット・インセクト LV5:刃咲のフィールド→破壊。
ネオバグ:刃咲のフィールド→破壊。
甲虫装甲騎士:刃咲のフィールド→破壊。


   「うあっちゃー……って、だからよ、兄さん。
    そこは俺がまだ特殊召喚したりするかもしれないんだから、攻撃宣言時とかに使うんだよ。」


   「う、覚えておきますよ。」


正念党七人衆というわりに、ホーティックのプレイングは荒かった。
デッキの内容や戦術は悪くはないが、決して上手いと言えるものでもない。


   「魔法・罠カード置き場に2枚セットして、俺はターン終了だ。(手札2・伏せ2)」


   「では、少々大きなコンボを行きます。
    私は伏せカードを1枚セットし、手札から〔ジェルエンデュオ〕を攻撃表示で召喚します。」


&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>ジェルエンデュオ</Td><Td>光属性</Td><Td>天使族</Td><Td>レベル4</Td><Td>ATK1700</Td><Td>DEF0</Td></Tr><Td ColSpan="6">このカードは戦闘によっては破壊されない。<BR>このカードのコントローラーがダメージを受けた時、<BR>フィールド上に表側表示で存在するこのカードを破壊する。<BR>光属性・天使族モンスターを生け贄召喚する場合、<BR>このモンスター1体で2体分の生け贄とする事ができる。</Td></Table>)


   「そして、守備表示の〔メタモルポット〕を反転召喚し、効果を発動しますよ!」


&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>メタモルポット</Td><Td>地属性</Td><Td>岩石族</Td><Td>レベル2</Td><Td>ATK700</Td><Td>DEF600</Td></Tr><Td ColSpan="6">リバース:自分と相手の手札を全て捨てる。<BR>その後、お互いはそれぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。</Td></Table>)


カゲロウの一生:刃咲の手札→墓地へ。(メタモルポットの効果)
ギロチン・クワガタ:刃咲の手札→墓地へ。(メタモルポットの効果)

暗黒界の軍神 シルバ:ホーティックの手札→墓地へ。(メタモルポットの効果)
暗黒界の尖兵 ベージ:ホーティックの手札→墓地へ。(メタモルポットの効果)


   「……〔ベージ〕に、〔シルバ〕か、やべぇかな。」


&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>暗黒界の軍神 シルバ</Td><Td>闇属性</Td><Td>悪魔族</Td><Td>レベル5</Td><Td>ATK2300</Td><Td>DEF1400</Td></Tr><Td ColSpan="6">このカードが他のカードの効果によって手札から墓地に捨てられた場合、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。<BR>相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらに相手は手札2枚を選択し、好きな順番でデッキの一番下に戻す。</Td></Table>)


&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>暗黒界の尖兵 ベージ</Td><Td>闇属性</Td><Td>悪魔族</Td><Td>レベル4</Td><Td>ATK1600</Td><Td>DEF1300</Td></Tr><Td ColSpan="6">このカードが他のカードの効果によって手札から墓地に捨てられた場合、<BR>このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。</Td></Table>)


   「暗黒界と名の付くモンスターたちの特性はご存知ですね?」


   「手札から墓地に送られたとき、特殊能力を発揮する、だろ?」


   「その通り! 〔暗黒界の尖兵 ベージ〕と〔暗黒界の軍神 シルバ〕は墓地に送られた時に蘇生する効果が有ります。」


暗黒界の軍神 シルバ:墓地→ホーティックのフィールド。
暗黒界の尖兵 ベージ:墓地→ホーティックのフィールド。


   「私のバトルフェイズです! 〔ジェルエンデュオ〕・〔ベージ〕・〔シルバ〕の直接攻撃!」


刃咲LP8000→LP6300→LP4000→LP2400


   「ウおを、いくらなんでも痛ぇな、こいつは。」


   「ターン・終了です。(手札5・伏せ0)」


   「…あら、デュエル中?」


入ってきたのは、刃咲の母でこの刃咲医院唯一の医者、刃咲助姫だった。
ホーティックが起きた気配を悟ったのか、手には煮込みウドン。


   「…あ、有難うございます。」


デュエルフィールドを置いている椅子をまたぎ、ベッドの横の小さな棚の上に置いた。


   「カードしながらでも良いけどカードに染み付かないように注意してくださいね、
    乾かすの大変なんですから。」


   「ご心配なく、その為のカードスリーブですから。」


言いながら私は手に持ったカードの入ったスリーブをひらひらさせた。


   「……そういえば、兄さんの持ってるるスリーブ、一般の色じゃないよな?
    ――そうだ、たしかそのスリーブは限定発売されたヤツだよな?」


   「ええ、そうですよ。
    ………あなたはスリーブを使っていないようですね?」


今まで気にも留めていなかったらしいが、刃咲はカードプロテクターもなく、『素』の状態で使っており、カードは節々が擦れている。


   「……よろしかったら1セット要りますか? スリーブは有った方が便利ですし。」


   「そいつぁ いいや、貰っとくぜ。」


   「蕎祐、ちゃんとお礼言いなさい。
    私はいわないわよ、あんたが貰ったんだから。」


なんだこの親子。
刃咲は遠慮もせず、手札やデッキにスリーブを被せていく。


   「賄賂を貰っても手加減はしないけどな、俺はドローして(手札6)、
    〔早すぎた埋葬〕を発動して、墓地から〔アルティメット・インセクト LV5〕を蘇生するぜ。」


刃咲:LP2400→LP1600

&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>早すぎた埋葬</Td><Td>装備魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">800ライフポイントを払う。<BR>自分の墓地からモンスターカードを1体選択して攻撃表示でフィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。<BR>このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。 </Td></Table>)

   「ふむ、困りましたね。
    〔ベージ〕を倒されると発生した戦闘ダメージから〔ジェルエンデュオ〕まで道連れになってしまいますねぇ。」


   「2体だけじゃねぇ。
    〔シルバ〕も潰させてもらうぜ? 墓地の昆虫族2体をゲームから除外し、〔デビルドーザー〕を特殊召喚するぜ!」


&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>デビルドーザー</Td><Td>地属性</Td><Td>昆虫族</Td><Td>レベル8</Td><Td>ATK2800</Td><Td>DEF2600</Td></Tr><Td ColSpan="6">このカードは通常召喚できない。自分の墓地の昆虫族モンスター2体をゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。<BR>このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、相手のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。 </Td></Table>)


   「おや。」


   「更に手札から〔共鳴虫〕を通常召喚し、〔強制転移〕を使うぜ。」


&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>共鳴虫</Td><Td>地属性</Td><Td>昆虫族</Td><Td>レベル3</Td><Td>ATK1200</Td><Td>DEF1300</Td></Tr><Td ColSpan="6">このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、<br>デッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスター1体をフィールド上に特殊召喚することができる。</Td></Table>)

&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>強制転移</Td><Td>通常魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">お互いが自分フィールド上モンスターを1体ずつ選択し、そのモンスターのコントロールを入れ替える。<BR>選択されたモンスターは、このターン表示形式の変更はできない。(オリカ)</Td></Table>)


   「効果の説明は必要か?」


   「いえ、結構です……私は〔ジェルエンデュオ〕を指定します。」


   「俺は〔共鳴虫〕だ。」


ジェルエンデュオ:ホーティックのフィールド→刃咲のフィールド
共鳴虫:刃咲のフィールド→ホーティックのフィールド


   「俺のバトルフェイズ! 〔デビルドーザー〕で〔暗黒界の軍神 シルバ〕に攻撃する。」


〔デビル・ドーザー〕(攻撃力2800)VS(攻撃力2300)〔暗黒界の軍神 シルバ〕、
→暗黒界の軍神 シルバ、破壊、墓地へ。 ホーティック:LP6200→LP5700


   「〔デビル・ドーザー〕の効果発動、あんたのデッキを上から1枚を墓地に送る。」


冥府の使者ゴーズ:デッキ→墓地へ(デビル・ドーザーの効果)


   「転移で奪った〔ジェルエンデュオ〕で〔共鳴虫〕に攻撃し――」


〔ジェルエンデュオ〕(攻撃力1700)VS(攻撃力1100)〔共鳴虫〕
→共鳴虫、破壊・墓地へ。 ホーティック:LP5700→LP5200


   「――そして、〔共鳴虫〕は俺の墓地へと埋葬され、効果によってデッキから〔ドラゴンフライ〕を特殊召喚する。」


ドラゴンフライ:デッキ→刃咲のフィールド


   「んで、〔アルティメット・インセクト LV5〕で〔ベージ〕を撃破。」


〔アルティメット・インセクト LV5〕(攻撃力2300)VS(攻撃力1600)〔暗黒界の尖兵 ベージ〕
→暗黒界の尖兵 ベージ、破壊・墓地へ。 ホーティック:LP5200→LP4700

   「〔ドラゴンフライ〕で直接攻撃してから、ターン終了だ。(手札2・伏せ2)」


ホーティック:LP4700→LP3300


   「見事、ですね。」


刃咲は、昆虫族と言う種族の特性をしっかりと把握し、デッキを組み上げているという印象をホーティックは持った。
すなわち昆虫族の基本とは、墓地送りすら損とせず、そのモンスターを資源とし、新たなモンスターを召喚してくる。
自分自身の破壊がトリガーになる共鳴虫やドラゴンフライ、墓地除外のデビル・ドーザーといったカードはその典型。


   「? どうした?」


   「いえいえ、なんでもありませんよ――私のターンでしたね。(手札6)
    まずは〔高等儀式術〕によってデッキの〔デュナミス・ヴァルキリア〕2枚を墓地に送り、
    手札の〔破滅の女神ルイン〕を特殊召喚させていただき――」


   「ちょっと待ったっ」


&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>高等儀式術</Td><Td>儀式魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードとレベルの合計が同じになるように自分のデッキから通常モンスターを選択して墓地に送る。<BR>選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。 </Td></Table>)


&html(<Table Border BorderColor="#1162b2" Border="2"><Tr><Td>破滅の女神ルイン</Td><Td>光属性</Td><Td>天使族</Td><Td>レベル8</Td><Td>ATK2300</Td><Td>DEF2000</Td></Tr><Td ColSpan="6">「エンド・オブ・ザ・ワールド」により降臨。<BR>フィールドか手札から、レベルの合計が8になるようカードを生け贄に捧げなければならない。<BR>このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、もう1度だけ続けて攻撃を行う事ができる。</Td></Table>)


原則的にこのカードゲームでは『待て』と言われたら待つのがマナー(というか半ばルール)。
ホーティックもご多分に漏れず、手を空中で止めた。


   「そこでストップだ、〔夜霧のスナイパー〕をチェーンするぜ、
    指定するカードは〔天魔神 エンライズ〕、だ。」


&html(<Table Border BorderColor="#b21162" Border="2"><Tr><Td>夜霧のスナイパー</Td><Td>永続罠</Td></Tr><Td ColSpan="4">モンスターカード名を1つ宣言する。<BR>宣言したモンスターを相手が召喚・特殊召喚・リバースした場合、<BR>宣言したモンスターとこのカードをゲームから除外する。</Td></Table>)


   「! 〔破滅の女神ルイン〕ではないのですか?」


   「〔ルイン〕なんざ〔デビル・ドーザー〕の敵じゃねぇ。
    それよりも怖いのは、攻守に関係なくモンスターを除去する〔エンライズ〕だ。」


&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>天魔神 エンライズ</Td><Td>光属性</Td><Td>天使族</Td><Td>レベル8</Td><Td>ATK2400</Td><Td>DEF1500</Td></Tr><Td ColSpan="6">このカードは通常召喚できない。<BR>自分の墓地の光属性・天使族モンスター3体と闇属性・悪魔族モンスター1体をゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。 <BR>フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体をゲームから除外する事ができる。<BR>この効果を発動する場合、このターンこのカードは攻撃する事ができない。<BR>この効果は1ターンに1度しか使用できない。</Td></Table>)


   「そのカードが、私の手札にある、と?」


   「っは! 常識で考えろよ! 効果も無い〔デュナミス・ヴァルキリア〕を入れるか?
    その上、暗黒界と併用させている…そりゃぁ種族・属性共に指定し、かつ墓地に送る必要のあるカード。
    ……つまり、〔天魔神 エンライズ〕しかいねーだろ。」


淀みなく自分の考察を述べる刃咲少年に、ホーティィックは感嘆していた。 
この考察は確かにセオリーを知っている者ならば、簡単に導き出される結論だろう。
だが、彼は僅か8歳にして昆虫族以外にも『バニラ天魔神』というマイナーなデッキコンセプトのセオリーまで把握していたのだ。


   「中々の考察ですね、デュエルモンスターズの考察論文などを読まれるんですね?」


   「あんな専門用語を並べ立てるしか能の無いモノを読むかよ、
    誰だって〔天魔神〕や〔高等儀式術〕の載ったカードリストさえ読めば誰でも思いつくだろ。」


あっさりと言ってみせる刃咲。
周囲が対戦相手だらけという環境、そしてこのゲームに懸ける情熱は、彼の年齢には会わない技術を持ったのだろう。


   「で? あんのかよ? ないのかよ?」



その問いに、ホーティックは手札の1枚を刃咲に見せた。


&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>天魔神 エンライズ</Td><Td>光属性</Td><Td>天使族</Td><Td>レベル8</Td><Td>ATK2400</Td><Td>DEF1500</Td></Tr><Td ColSpan="6">このカードは通常召喚できない。<BR>自分の墓地の光属性・天使族モンスター3体と闇属性・悪魔族モンスター1体をゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。 <BR>フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体をゲームから除外する事ができる。<BR>この効果を発動する場合、このターンこのカードは攻撃する事ができない。<BR>この効果は1ターンに1度しか使用できない。</Td></Table>)


ビンゴ、ということらしい。


   「――ですが惜しいでしたね、私の手札には〔エンライズ〕の他にもこんなカードも有るのですよ……。
    墓地の〔ベージ〕〔シルバ〕〔ゴーズ〕〔ジェルエンデュオ〕を除外。」


墓地から4枚のカードを選び出し、フィールドの外に配置。
除外されたカードは、光属性の天使族1体と闇属性の悪魔3体、エンライズとは比率が間逆だ。


   「……手札から〔天魔神 ノーレラス〕を特殊召喚します。」


&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>天魔神 ノーレラス</Td><Td>闇属性</Td><Td>悪魔族</Td><Td>レベル8</Td><Td>ATK2400</Td><Td>DEF1500</Td></Tr><Td ColSpan="6">このカードは通常召喚できない。<BR>自分の墓地の光属性・天使族モンスター1体と闇属性・悪魔族モンスター3体をゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。<BR>1000ライフポイントを払う事で、お互いの手札とフィールド上のカードを全て墓地へ送り、自分のデッキからカードを1枚ドローする。</Td></Table>)


   「しまった!
    〔デビル・ドーザー〕の効果で墓地に送った〔冥府の使者ゴーズ〕を除外用のカードにしちまったか!?」


   「〔デビル・ドーザー〕は良いカードですが、相手の墓地を増やすのは感心しませんね。
    ……では、ライフを払って〔天魔神 ノーレラス〕の効果を発動、全てのカードを破壊させていただきます。」


ホーティック:LP3300→LP2300


デビル・ドーザー:刃咲のフィールド→墓地へ。
アルティメット・インセクト LV5:刃咲のフィールド→墓地へ。
ドラゴンフライ:刃咲のフィールド→墓地へ。
夜霧のスナイパー:刃咲の魔法・罠置き場→墓地へ
収縮:刃咲の魔法・罠置き場→墓地へ。
黒きハイエルフの森:刃咲の手札→墓地へ。
甲虫装甲騎士:刃咲の手札→墓地へ。


天魔神 ノーレラス:ホーティックのフィールド→墓地へ。
破滅の女神ルイン:ホーティックのフィールド→墓地へ。
天魔神 エンライズ:ホーティックの手札→墓地へ。
マシュマロン:ホーティックの手札→墓地へ。
暗黒界の報酬:ホーティックの手札→墓地へ。


私と刃咲少年は、持っていたカードを全てセメタリースペースに置いた。


   「っち、あんたが〔ノーレラス〕の追加ドローで攻撃力1600以上のモンスターを引いたら負けか。」


   「そうですね。〔天魔神 ノーレラス〕の効果で1枚ドロー……。
    続いて墓地に存在する〔暗黒界の報酬〕で3枚ドローしますよ。」


&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>暗黒界の報酬</Td><Td>速攻魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">1ターンの間にこのカードとこのカード以外のカードが10枚以上墓地に送られたときにのみ発動できる。<BR>墓地に存在するこのカードをゲームから墓地から除外する事で、デッキからカードを3枚ドローする。 (オリカ)</Td></Table>)


   「なんだ、そのカードは?」


   「このカードも金色のスリーブと同じく、シークレットイベントで配布された限定カードでしてね。
    50セットのみ発売された金色のカードスリーブ1セットに、それぞれ1枚ずつ特典として付属されたカードです。」


   「………じゃあ、オリジナルはたった50枚、か。
    兄さんあんた、プレイングは酷いが手持ちカードはもっとひでぇな」


このカードゲームは世界各地にユーザーが存在し、その人数は二億人に届くとさえも言われている。
その中で、暗黒界の報酬のカードは50人しか使用できず、採用したデッキをただ想像するしかない。
ステイタスだ。


   「行きますよ! 〔暗黒界の報酬〕で引いた〔光神機-桜火〕を通常召喚し……」


&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>光神機-桜火</Td><Td>光属性</Td><Td>天使族</Td><Td>レベル6</Td><Td>ATK2400</Td><Td>DEF1400</Td></Tr><Td ColSpan="6">このカードは生け贄なしで召喚する事ができる。<BR>この方法で召喚した場合、このカードはエンドフェイズ時に墓地へ送られる。</Td></Table>)


   「あなたのライフポイントは1600……この攻撃で終わりとさせていただきます。」


   「兄さん、あんた、やっぱりプレイング甘ェわ。」


   「……ん?」


   「またミスったって言ってるんだよ、勝利宣言は相手のライフポイントを見てからやるもんだ。」


   「……1600、でしょう?」


   「それが違うんだよ、あんたの〔ノーレラス〕は効果で〔髑髏顔 天道虫〕を墓地に送ってたんだよ。」


&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>髑髏顔 天道虫</Td><Td>地属性</Td><Td>昆虫族</Td><Td>レベル4</Td><Td>ATK500</Td><Td>DEF1500</Td></Tr><Td ColSpan="6">このカードが墓地に送られた時、自分は1000ライフポイント回復する。</Td></Table>)


   「……ほう。」


   「このカードの効果で俺のライフポイントは2600になってからな。
    俺のライフポイントはまだ200残るってわけだ。
    ……デュエル中は墓地にカードを送るたびにチェックする、常識だぜ?」


   「……普通は発動した効果を宣言するでしょう?」


   「普通は相手の墓地ぐらいチェックするんだよ。」


   「……ターン終了です。〔光神機-桜火〕は自身の効果によって破壊されます。(手札3・伏せ0)」


   「俺のターン!(手札1) 引いたカードをそのままセットし、ターン終了だ!(手札0・伏せ1)」


このデュエルは6ターンほど続き、最終的には私が〔暗黒界の狂王 ブロン〕の攻撃でホーティックが勝利した。
――ホーティックは、自分自身の中に生じた好奇心への答えを探すため、運ばれたうどんを食べつつ、再戦を要求した。



      間



   「…あー、楽しかった。」


俺とダメ大人予備軍はあの後も延々とデュエルし、
どちらが勝ち越したのかすら把握できないほどの接戦が続いた。


   「私の名前はホーティック・モーガン、あなたは?」


自分でも不思議なのだが、デュエル中はお互いに自己紹介もせず、黙々とデュエルだけをしていた。
お互いを呼ぶ時も『兄さん』だの『あんた』だの呼んでおり、名前で呼んでいない。


   「俺は姓を刃が咲くで刃咲、名前はソバの蕎にシメスヘンの祐助の祐で蕎祐だ。」


   「それでは蕎祐くん、立ち入った質問になりますが、あなたは将来的にはプロデュエリストに為るんですか?」


   「まぁ、ゲームだけで食っていけたら悪くないしな、星七以上のライセンスは取りてーな。」


ここで言う『星』とはレベルはレベルでもモンスターのレベルではなく、I2社から認定される将棋や囲碁の級や段のような資格である。
(もちろん国家資格ではないが、就職・営業においては似たような扱いなので、資格として扱って差し支えは無い。)

星五からプロとされ星七以上とも為ると世界単位で10人程度しか取得していない。
認定試験にデュエル以外の関門も多いらしく、どこぞのクイズ番組のように知力・体力・時の運を試されるそうだが。


   「それはそれとしては、私はレアハンターです。」


   「……え?」


突然すぎる発言に、刃咲は年相応に驚きを示した。


   「あなたはデュエルが大好きで、これからも伸びるでしょう。
    そんな中で、レアカードが欲しい、強い敵と戦いたいと思った時は連絡をください。
    私達『制々正念党』はあなたのような未来有望な若者をいつでも受け入れます。」


ホーティックはさっきまで使っていたデッキから超レアカード、〔暗黒界の報酬〕を探し出した。
神経質そうな手付きでスリーブから取り出し、何を思ったか、あろうことかイラスト部分にボールペンで文字を書きこんでいく。


   「なにをしてるんだっ お前は?」


   「宛先を書いているんですよ、〔暗黒界の報酬〕を名刺代わりにね。」


ペン先は止まることなく滑り、超レアカードである暗黒界の報酬に汚れとして刻み込まれた。


   「だ、それ1枚、いくらすると思ってんだよッ!?
    いや、それ以前に、それ手に入れるのに苦労したんだろッ!?」


   「――蕎祐くん、このカードはあなたに対する『投資』です。
    普通の紙を使ったのではあなたは見ずに破ったり捨てるかもしれない。
    ですが、このカードの価値を把握しているあなたなら……この『電話番号』を処分することはないでしょう?」


初めてだった。 ホーティックが刃咲の名を呼んだのは。
そして貴重なカードをメモ代わり……それらはホーティックが刃咲を一人前のデュエリストとして認めているということに他ならない。



   「無駄だっつってんだろ。」


   「レアハンターにはならない、でしょう?
    ですが、人生なにが有るか分からない。
    万が一にでも可能性が有るならば、〔暗黒界の報酬〕ぐらい、惜しくは有りません。」


言い終わるとホーティックは、返答も待たずメモ代わりのカードを机の上に置いた。


   「デュエルで生計を立て、強敵に巡りあう……。
    デュエリストの理想的な職業の1つであることは間違いないと思いますよ。


   「……武藤遊戯がヒーローで、真のデュエリストに憧れる俺みたいな子供にそういう勧誘するんじゃねぇよ。」


   「ならば、真のデュエリストとは、何ですか?
    無敗のデュエリストですか? しかし無敗なだけでいいなら一戦一勝無敗のビギナーも真のデュエリストです。
    精神論ですか? カードですか? 強運ですか? それはレアハンターではいけないのですか?」


刃咲は、答えられなかった。
それどころか、考えもしたことが無かった。
刃咲は自分で子供っぽいと思いつつ、心中の決して浅くないところで憧れていた“真のデュエリスト”という概念がなんなのかすら知らなかった。


   「その答えは私にはまだわかりませんが、正念党には私が憧れるデュエリストは何人か居ます。
    彼らなら答えを知っているかもしれません……私は体力が無いので駅に到着するのに時間が掛かります。
    ですから、そろそろ引き上げさせてもらいます。


手早く身支度を整え、助姫に会計や挨拶を済ませ、ホーティックは言葉どおり、あっさりと立ち去った。
刃咲に残ったのは、多くの疑問が渦巻く現実だけ。


   「真のデュエリスト……そりゃつまり、武藤遊戯みたいなヤツだよな。
    だが、武藤遊戯だって無敗じゃねぇし、会ったこともない俺が人格なんてわかりようがない…。
    ……そもそもあいつ、なんでこの村に来たんだ…?」


いくらなんでも、勧誘が目的でこんな小さな村は来るわけもないだろう。
考え始めれば、謎が終らない。


   「…んアアアア! 考えれば考えるほど判らなく為る! 面倒くせぇ! おやすみ!」


刃咲は机の上のカードに目をやらないように布団を被り、何も考えないために寝ることにした。


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