あれから季節が一回りしたのが僕には信じられない。 月や太陽は毎日同じような軌跡を巡り、 僕やミサトさんやネルフの同僚たちも1つずつ平等に歳を取った。 アスカは、ネルフも辞め、連絡先もわからない。 そのもやもやが、僕を1人、時間が止まった状態に押しとどめている。 休みの日、珍しくトウジが訪ねてきた。 彼は今では第2新東京市でパン屋を経営、 数年前にヒカリと結婚、今や2児のパパだ。 「久しぶりだね。どう?」 僕の挨拶もそこそこに彼は切り出した。 「おまえ、アホちゃうか?あの子、ボロボロやで」 最初はなんのことかわからなかった。 そんなきょとんとした僕の顔をたっぷり3秒は眺め回し、 トウジは大袈裟な溜め息をつく。 「こんな甲斐性なしやからアスカもおまえを見捨てるんや」 「え?アスカ?アスカを見たの?」 思わずトウジの襟を掴んで詰め寄ってしまう。 「ちょ、ちょい待ち。おまえ、わしを殺す気か?」 7階の廊下で突き落とさんばかりの勢いで襟を掴んで詰め寄ったら 確かにそう言われても仕方がない。 「ご、ごめん。」 慌てて手を離す。 彼はまた大袈裟に溜め息をついてから襟元をなでて、僕の顔を見る。 鋭い視線が僕の心を貫く。 「いや、会ってはおらんよ。ただかみさんのところに連絡は来てる」 僕はまた襟を掴んで詰め寄りそうになるが、すんでの所でこらえる。 「それよりシンジ、中にあげてくれんか?ここにおると殺されそうや」 トウジが笑いながら言う。 確かに僕はあまりのことで彼を家にあげることすら忘れていた。