第115話 君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ
布に包まれてくすんだ灯は、青年から少し離れた場所にあった。
道を逸れて草地に踏み出す仲間の足取りと地続きに揺れる光源を頼りにする、目の奥が痛みを訴えている。
圧迫感に近い、それは寝不足で張った肩から伝わるのか、それとも睫毛さえ抜けかねない涙の塩辛さによるものか。
たあいもないことを全力で考えて息を抜く。重圧にもたつく胸の内を淡白にすべく、尽力する。
肉体に起因するのではない息の詰まりを抜いた青年は、脚を踏み出す前に短く双眸を閉じ、
「……く、――ぁ」
きまりわるげに、閉じた口内にふくらむ欠伸を噛み殺した。
* * *
食えるだけマシであった食料を腹に入れて、三時間弱。
三回目となる放送を聴いた洵の、こなれた胃に割り込んだ思いは紛れもない安堵だった。
『アリューゼ。ヴァルキリー。炎使いは
ミカエルと名乗っていたな。
俺にとっての壁となりうる輩が、揃って脱落してくれたというわけか』
戦闘狂同士の潰し合いか、あるいはゲームに乗らない者に返り討ちにされたか。
ルシオを除けば戦乙女と最も付き合いの長いらしい傭兵が共闘する様を思い浮かべて、洵はかぶりを振った。
生存者が半数を切ったためか。変更や追加の加えられた情報の山を前にして、無駄な想像に頭を使いたくない。
名簿とともに開いていた地図に書き留めた、一気に増やされた禁止エリアの配置と順番に加えて、褒美の位置。
風格を演出するためにか、どこかで一線を引いて言を紡いだルシファーの意図は、これ以上無いほどに明瞭である。
ならば、当面の問題とすべきものは。
「プラチナ、っ、……ヴァルキリー」
放送から先を考えかけた男が耳にしたのは、当面の問題とすべき青年。
レナスにとって大切な、裏を返せばレナスに大切にされていたエインフェリアの声だった。
弾かれたように口にした固有名詞から転じて、低く圧し殺した響きで呼んだレナスの代名詞は、だからこそ“付け足された”感が否めない。さりとて、紡がれた単語の重さに差は見られないのだが――
名簿にない単語を口にしたことが気の抜かりと言わんばかりであるルシオの様子に、洵は興味を惹かれた。
「――言っても詮なき話だろうが、あの戦乙女のことだ。
少なくとも、力で他人を押し退ける振る舞いなどしなかっただろうな」
それがレナスでなく、彼女の姉であるアーリィ・ヴァルキュリアであれば話は別に違いないが。
ルシオの知らぬ、神と人とを“従属”で繋ぐ戦乙女の影を思い返して、洵は障害が消えたことへの快哉を隠した。
ただ、彼の。レナスにとり大切なはずの青年がみせる煮え切らない態度は意外だ。
「いや、違う。俺は、……そんなことじゃないんだ」
言語としての体をなさない、自問自答と変わらない言葉つきは、とても大切な者が喪われた者のそれとは思えない。
促されて手にした名簿も地図からも情報が欠落している。そのくせ、得手であるはずの剣を執らない。動かない。
妹のために修羅となった自身からは想像できない状態に、レナスのために動くだろうルシオは落ち込まんとしていた。
それゆえに、洵は練れた鋼の剣をいつでも抜けるよう、さりげない素振りで自身の側に寄せておく。
収束する彼の意志が、自分に対する害意であれば叩き伏せねばならない――と。
「俺はただ、……誰にも。悲しい思いをさせたくなかっただけなんだ!」
だが、青年がはっきりとかたちにしたのは自責と、言い訳であった。
「それで、ひととおりの自己満足が済めば相手を見捨てるか」
放送までの時間、ミランダを待ちながら聞いたルシオの来歴を持ち出して、洵は鋭く言を放つ。
夢の中で親しい者の名を呼んだという金髪の青年が今も生きているかどうかさえ、ここにいる二人には知りようがない。
けれど、洵の控えた名簿によれば、彼の相手。“シン”という参加者は、既に殺し合いの場から脱落している。
「それは――」
「理想のほどは立派だが、この場にいる全員を掬い上げられるわけもない。
ここに連れて来られる前か。俺が最後に見た戦乙女さえ、それを傲慢と断じ、ロキだけを追ったものだ」
あの振る舞いの根本にあるものがルシオの仇討ちか、自己満足か義務感か悲哀か、洵には量れなかった。
それでも、事ここに至れば、彼女の底にあったものがいずれであろうとも構いはしない。
いなくなったものや取りこぼしたものに思いを馳せるのは、一度だけで、ひとつだけでたくさんだ。
「……すまないが、今の俺にお前を気遣う余裕はない」
お前も心配していた、ミランダを探しに行く。
ルシオを、彼の美徳であろう人のよさでもって縛りつつ、洵は腰を上げた。
ここで彼を殺しても問題はないが、今なお戻らないミランダの去就によっては多対一を強いられる可能性もある。
彼女の警戒のほどや二心の存在する可能性は、短いとは言えない不在の時が示していた。
手札としての神官にも、戦乙女と懇意であった者にも見切りをつけた男は、卓上を飾る薄布をひといきに抜き取り、夜闇に目立つランタンの灯をぼかして裏口へと向かう。
「待ってくれ!」
ルシオが重い口を開いたのは、洵が居間を立ち去ろうとしたのと同時だった。
「――何だ」
一瞥した青年の瞳に、先刻と変わって強い光が宿されるさまを見た男の眉根が寄る。
「洵。今の話が本当なら、いや……そうでなくても。
彼女は――ヴァルキリーは。生きてなきゃならなかったんだ」
訥々とした言葉つきを存外に太い響きで吹き払う、彼の頬には迷いと自責が混交していた。
* * *
手短にと釘を差したものの――
ルシオの話を聴き終えた洵は、難しい表情で床に座していた。
胡座をかき、片手であごをつまんだ彼の傍にあるランタンには、いまだ灯が点いていない。
「ホムンクルスとオーディンの……成長する神の体が、本質的に同じだと?」
魔術師連中でも荒唐無稽と言うだろう話を彼が切り捨てないのは、ひとえに自身の見聞きしたものゆえだった。
アーリィによって器を奪われ、精神体を砕かれたレナスを一時封じた器は、まさしくホムンクルスだったのだから。
「ああ。ロキに殺された俺が生き返れたのも、彼女の力さ。
成長出来る神になったヴァルキリーは、
ドラゴンオーブに破壊された人間界や神界を蘇らせたんだ」
「つまり、お前は魂の死を乗り越えたというわけか」
レナスの異変と荒廃した神界の様子から編んでいた、推測。
ルシオが迎えていた死が、本人の証言によって事実に変わった。
ちいさく驚きを交えた洵に対して、ルシオはわずかに声を沈ませる。
「うん……そういうことになるな。彼女が、俺の魂をもう一度作ったんだ」
続く言葉に、“レナスが自分達より先に死ぬはずはない”との言に対する素直さの裏もとれた。
無からの創造を行う力は、もとは主神オーディンや、彼に次ぐ二級神・フレイの有するものと聞く。
とくに、後者が司る豊穣と表裏をなす圧倒的な破壊の力は、戦いをともにしたアリューゼが語ったこともあった。
物質化の上位互換となる創造の力をレナスも持つなら、確かに、彼女は神界にて砕かれた魂さえも創り出せるだろう。
黄昏を迎えた世界のなかで、オーディンらの後釜としては最適の素材というわけだ。
……そんな力を持つと知っていたなら、彼女の無事を信じたくもなるに違いない。
「だから、俺達と同じに、死んでヴァルキリーの中に入ったロキが生きてることにも、最初は驚いた。
けど、お前が“そこ”から来たって言うなら、納得がいくんだ――」
「俺達は別の時間……おそらくは、喰い合わせるに都合の良い時期から集められたということにか」
確かに、自分と同じ時期からやって来たというのなら、フレイは腑抜けていたはずだ。
滅した主神の遺骸にすがった、女神。彼女はルシファーの凶行を前にしてなお鏡面のごとくに沈着でいた記憶がある。
ゆえに、ルシオの仮説に首肯すると同時に、それよりも一歩進んだところで……洵は唸った。
彼が気にかけるのは神界アスガルド、人間界ミッドガルド、冥界ニブルヘイムや妖精界アルヘイムといった世界樹ユグドラシルの枝葉ではなく、根からして別の理で成り立つ世界の存在だった。
見たことの無い道具、“
コミュニケーター”とやら。絹や綿、麻ですらない質感の衣類。獅子戦吼や鳳凰天駆、系統だっていながら異質な、流派剣技の添え物らしからぬ格闘術。
そして、数ある異質の中でも頭が抜けた、移送方陣の比でない速さを有する空間転移。
クレスとマリア、二人との戦い以前に殺した男のナイフもだ。あれの有する機構は、神界にさえ存在していない。
それでも武具のひとつ程度なら、神まで引っ張り込んでゲームを始めたルシファーがどうとでも調達するだろう。
だが、戦士や魔術師の身につけた技や呪文ばかりは違う。あの血の通い方は、後から付け足せはしない。
それを見た今なら、あの、“ルシファーを倒した”との言葉にも得心がいこうが――
『ならば、……奴もまた蘇ったのだな。
如何にしてかは知らんが、時間を渡ることも、俺達に肉を持たせる事も、奴は可能たらしめている』
それこそが洵の希望を支え、現実味をまとって胸を押し上げた。
あまりに今さらではあるが、魂のみの存在となった自分達が、レナスによるそれと同じに具現化――マテリアライズされていた時点で。神界で死を迎えた可能性のあったルシオと出会った時点で。気付くべきだったろうか。
ルシファーの、物理的な意味にとどまらない強さを。褒美という単語の、裏付けを。
ルシオがレナスの手によって蘇生したのは、その点を鑑みれば複雑な話だったが、それほどの力を持つ彼女を喚べたとすれば、彼は“成長する神”の上位にあるとも判断が出来る。
『……ならば、何も問題はないな』
元々、死ぬ気にならないから生きていた洵にとって、褒美など降って湧いたようなものだったのだから。
そして、褒美と言われても愛する者と共にあると。ささやかな望みしか持ち得なかった彼だからこそ、理解もしている。
創造の力の有無は別として、レナスを倒すほどの輩がいたという事実に加えて――
「確かに、由々しき事態だな」
ためらいがちに考えを表明する青年が、戦乙女と懇意であろうとなかろうと、利用できる駒に違いないと。
「だが、今はこのまま放っておいても、ある程度まで人数は減ってくれる」
だからこそ、彼の外堀を埋めるべく――
少し前には言わなかった台詞を、洵は口の端に載せていた。
本来ならば気色ばむはずのルシオからは、反応がない。それこそが明らかな反応であると断じて。
「ルシファーとやらは、神界から俺達の魂を実体化した状態で呼び出した、神のごとき輩だ。
しかし、ヴァルキリーがオーディンと同じく、成長する神となったらしいことはお前の話が証明してくれた。
彼女が“何処”から来たのかは分からん。だが、奴に……ひいてはロキやラグナロクに対抗出来うる者がいなければ」
言いかけた剣士はためらうような、あるいは決意を固めたかのような風情で言葉を濁す。
「あの世界に生きる、俺の妹。阿衣に何が起こることか、知れたものではない」
濁して、今度こそは最後まで言い切った。
「洵。お前、まさか」
自ら体験した魂の死と、大切な者の死。
質のちがう喪失を両方体験していた青年は、それゆえに、彼の思うところを察した。
“貴方の言う“すべて”って、何?”
すべて。ヴァルキリーが紡いだという言の葉は、数え切れない寄り道や回り道をしたルシオの胸をえぐる。
そして、洵の指した、すべて。助けてやりたいと思う者に対する感情は、ルシオ自身も抱いていたがために。
「ああ」
洵の肯定を耳に入れても驚かなかった自身にこそ、青年は衝撃を受けていた。
「俺は、あの戦乙女に借りがある。感謝してもいる。それは事実だ」
続く、仲間の言葉。彼が戦乙女といかにして出会ったか、思えば聞いたことがない。
「だが、それ以上に。俺は、阿衣の為ならば、命も誇りも惜しいとは思わん。
……それを盲目と糺されようが、立つ世界が違おうが、阿衣を大切に思うことには変わりがない」
「あ――」
みずから認めたように、盲目にして愚直な洵の想いが、ルシオの心の底にあるものを衝く。
慕うがままに、売られると知った少女の手を引いて夜を駆け、鈴蘭の草原に行き着いたあの日。
あの日の自分は、彼のような眼差しをしていたのだろうか。
「神になり得ない俺達が誰かの命を得たければ、自他の命を失うしかあるまい」
回顧の生んだ間隙に、“皮肉だがな”と付け足された男の言葉が舞い込み、
瞬間、銀は朱に変わる。廃虚と化した街で、自分の代わりに置いて逝った少女の姿が脳裡をよぎる。
だからって、私を置いて逝かないでよ。薄れゆく感覚に、それでも突き刺さった言葉は今も鮮やかだ。
しかし、彼女ならば。すべてを守れた、彼女であるからこそ。
「――そう、なんだろうな」
青年は、譲れないものへ迷いを見せない仲間に、決定的な、
返事をした。
* * *
定時放送から、三十分ほど。
その間に、ルシオは一夜も過ごしたような錯覚を受けていた。
だが、それでも生来のカンの良さや、スラムで磨がざるを得なかった“ネズミ”としての感覚は鈍らない。
「こいつは、冗談じゃないぞ」
首肯ののちに訪れた濃密な沈黙の後に口を開いたのは、洵。
今後のためにと、彼から受け取った名簿と地図の書き込みを控えながら、彼はうめきをあげた。
「気付いたか」
「ああ。まるで、貴族の連中がやるネズミ取り――盗賊を捕まえるための罠みたいだ」
ささやかな褒美である、見せしめの支給品を配置された島の北東部。
そして、それを目当てに動こうとする者を迂回させにかかる、禁止エリアの位置と発動時間。
例えば島の東からC-3――安全な場所にある褒美を目指そうとしても、1時の時点で北を、3時で南を行く選択肢が潰される。
といって、次の放送までに何とか通過できそうなF-6、G-7を目指せば、その時には襲撃側の恰好の的だ。
島を分断しようという思惑には、これでは誰もが気付いてしまう。
だからこそ、この流れには簡単に逆らえない。
「これだけあからさまなら、待ち伏せもやりやすいよな……」
あのミカエルのように、相手を選ばず戦いを求めた輩でも、陣取るべき場所は分かるはずだ。
――つまり、まずもって誰もが、殺し合いの構造から逃げられなくなってしまった。
それどころか、誰かの死が次の殺しを生む泥沼に落ち込む可能性さえ十分である。
「だが、俺達がそれに乗る必要などない。
激戦で消耗した後に、残りの者を相手どれる保証もないからな」
地と時の利を得ているからこそ。そう前置きした洵が提案したのは、傍観であった。
ここから北東に位置する神社に配置されたデイパックを回収した直後、この村に戻る。
そこに、回復の力が使えるミランダが戻っていればよし。いなければ自分達に仇なす対象と判断する。
「最初に会った時に言ってた、クレスとマリアって奴らもか。
名前を呼びあうなんて無防備だけど、同じような事を考える人間は、どこにでもいるみたいだな……」
洵が不意討ちから離脱した際に耳にしたという名を頭に入れて、ルシオは息をついた。
彼いわく、過去に倒したルシファーが生きていると知り、絶望したマリア。彼女は生き残りを目指してクレスと手を組んだ――
青年の側の特徴を聞くに、ルシオは陽が落ちる前に会ったチェスターの探し人である青年を思い浮かべてしまう。
彼のように裏表が無い者の仲間らしく、熟睡出来てしまうほど緊張感の無い人間が人を殺せるとは思わないが、きっと、それを言えばプラチナが。ヴァルキリーもあの時と同じ言質をもつ台詞を紡ぐだろう。
愚かな。くだらないことを。
水鏡にイヤリングを落とした時は、ひとつひとつの言葉に胸を裂かれたが、今は、それほどでもない。
けれども――
「悪い。ちょっと……すぐに、なんとかするから」
また置いていかれたら、どうしていいか分からない。
洵の提案に乗り、自身で思考できようが、やはり。回収しきれない感情は積もりに積もって、ついに堰を切る。
『あの時。ロキに殺される前も、こうだった。俺は、成長が無いな』
未熟さを露呈して、誰に言い訳をするつもりなのか。結局、それは言葉としての形を無くす。
「……他に。警戒すべきなのは、レザードと、ロキだ。
ヴァルキリーの体が死んだって、あいつらは彼女の体や魂をどう、使うか。予想できない」
強引に涙を拭ったルシオは、洵のそれと同質であろう光を、青い瞳へと宿してみせた。
* * *
ひとつだけ、ルシオは洵に告げなかった。
アービトレイター。青年自身は銘すら知らぬ英雄の携えた剣が、歩み始めた腰で重さを主張する。
詰まった吐息を漏らして彼が思うものは、神々の黄昏、ラグナロクにおける世界の破滅と再生の詳細であった。
死によって人と繋がる戦乙女。オーディンと同質の力を得て、創造の力を手にしたレナス・ヴァルキュリア。
彼女は世界の破滅に際してすべての人の魂があげる“声”を聞き取り、再びすべての人々を、世界を創りだした。
洵に出会い、未来にあるものを知った彼の決意を聴くまでは、さほど意識することもなかったが……。
“ここで戦っても、結局はアスガルド丘陵で魂の死を迎え、彼女にすべてを創られることになる”
再生に伴う不可避の運命を知ってしまえば、彼はどれほどの衝撃を受けるだろう?
自分の魂が再構成されると知ってしまえば、彼はどれほどの恣意を想像するのか?
己に訪れてしまう行く末を知ってしまえば、彼はどれほどの失望を抱くことか――
アーリィの謳った従属とやらではなく、“一緒に、生きましょう”。
いくら仲間が彼女の見せた側面を知っているとしても、こればかりは言えはしない。言ってはならない。
ただ……世界を創造した戦乙女。あるいは、寒村に生きた少女。
彼女の愛を受けた人間にして、ロキに処分された後に魂そのものを彼女に作られたルシオは、
しかし、だからこそ、創造によって孤独となった女神を哀しめなかった。
『プラチナが今の“俺”を創ったとして……一体、何が問題なんだ。
たったの十四で死んじまったあいつを、俺は、ずっと忘れられなかったじゃないか。
優しかったあいつが勇敢な戦乙女になっても、彼女がプラチナ本人でなくても、変わりはなかったじゃないか!』
――銀色だったから。
下界に遺した少女の台詞がよみがえる。
そうだ。陽光に透きとおり、埋もれ水のごとく清列に流れた紫の髪に、自分は何よりプラチナを視ていた。
けれども“彼女を好きだ”ということには、今も、あの頃であろうとも、変わりはない。
最も大切にしたい感情の発露に変化がないと言うのなら、“いちど創られた自分”に、なんの問題があろう?
“他人のイメージを重ねるなんて、その人に対する侮辱でしかないのは分かってる”
すべて忘れてしまいたいとまで口にしたプラチナが、
その手を引いて人買いの手から救おうとした自分の記憶を思い出し、
創造した“ルシオ”に、あまりに幼かった、あまりに危うかった恋の一幕を、
最期に彼女を抱きとめた少年の面影を自分に反映させていたとしても、
創られた事実を哀しむ権利など、彼にはない。
『最初にそうしたのは、他の誰でもない、俺なんだ』
プラチナとヴァルキリー。
ふたりの横顔をひとつに重ねていた青年は、年齢に反して滑らかな曲線を描く頬を月光へさらす。
だから。あごを引いた口の中に反響した言葉の破片を押し隠しながらも、胸中でなぞり固めた。
『だから、今度はもう、泣いたりしない。
もう一度拒絶されても、イヤリングみたいな奇跡が起きなくてもいい。
でも。彼女に置いていかれたくない、一緒に生きたい気持ちだけは……絶対に。俺のものだ』
ややあって、懊悩を諦観でもって締め出したエインフェリアの双影が距離を縮めた。
――何事もなかったかのように、夜風は表情を変えぬまま海へと吹き抜ける。
草に埋もれかねないほどに小さな花は、その腕に素朴な白さがにじむ花弁をさらわれていった。
【E-01/深夜】
【洵】[MP残量:100%]
[状態:腹部の打撲、顔に痣、首の打ち身:戦闘にはほとんど支障がない]
[装備:
ダマスクスソード@TOP、木刀]
[道具:コミュニケーター@SO3、スターオーシャンBS@現実世界、荷物一式]
[参戦時期]:Chapter8・Aエンドルートでレナスの復活を見た後、アスガルド丘陵でロキと戦う前
[行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする]
[思考1:出会った者は殺すが、積極的に獲物を探したりはしない]
[思考2:ルシオを利用。彼と共にE-2に向かい、見せしめのザックを入手する]
[思考3:ミランダとの離別を半ば確信。状況次第で殺害も視野に入れる]
[思考4:ゲームボーイを探す]
[現在地:E-1/平瀬村周辺・北部]
【ルシオ】[MP残量:100%]
[状態:軽い疲労、わずかな眠気、焦燥と不安]
[装備:アービトレイター@RS]
[道具:コミュニケーター@SO3、荷物一式]
[行動方針:レナスを……蘇らせる]
[思考1:洵と共にE-2へ向かい、見せしめのザックを入手する]
[思考2:レザード、ロキを警戒。レナスの死体の状態を知りたい]
[思考3:レナスを大切に思う自身に対する諦観。現状は積極的な交戦を選ばない]
[思考4:ゲームボーイを探す]
[現在地:E-1/平瀬村周辺・北部]
[備考]:※コミュニケーターの機能は通信機能しか把握していません。
※マリアとクレスを危険人物と認識。
【残り21人+α?】
最終更新:2009年08月09日 18:14