───領域展開『伏魔御廚子』───
旅路【Grand Order】は終わった。
一言で言って。
藤丸立香は、運に見放された。
そもそもが、奇跡のような旅路だったのだ。
魔術王ゲーティアの陰謀から一人、人類最後のマスターとして生き残り。
神話に歴史に名高い英雄たちを従え、六つの特異点と呼ばれる戦場を駆け抜けた。
そして、いよいよ最後の特異点。
神代に赴かんとカルデアのマイルームから出ようとした所で、この殺し合いに招聘された。
その首に、爆弾を付けられて。
だが、それだけなら同じくこの地に招かれた蟲毒の贄達と同じ境遇と言えるだろう。
彼が、輪をかけて運が無かったのは────
「伏黒恵と似た術式か……術式自体は更に高度な物だったが、肝心の術者が弱すぎたな」
そこで初めて出会った者が、虎杖悠二だった事だろう。
いや、本来の虎杖悠二であれば、きっと藤丸と同じくこの殺し合いを良しとせず。
サーヴァントに変わる、彼の頼もしい仲間となった事だろう。
だが、今の虎杖悠二は虎杖悠二ではなかった。
彼の中に宿る両面宿儺と、藤丸は出会ってしまったのだった。
「まぁ……今の状態を確かめる試金石位にはなった、光栄に思え」
宿儺にとっても、今の状態は想定外の事だった。
渋谷事変で漏瑚という特級呪霊に指を多量に飲まされ。
表層に浮かび上がったと思ったら、こんな蟲毒に巻き込まれていた。
故に彼は自身の状態を確かめるために藤丸に襲い掛かり───いや、これは建前か。
宿儺が藤丸を襲った理由は特にない。
ただ虎杖悠二が再び肉体の主導権を奪い取る前に、折角だし殺しておくか。
その程度の感覚で、凶行に及んだ。
「……にたくない」
足元で、胴から下を失った青年が、その命を失う前にぼそりと呟いた。
ただの人間の術師が半身を失ってまだ息があるのは、着ている衣服…非常に高位の呪物の恩恵か。
思えば、ちぐはぐな印象を抱く下奴だった。
来ている衣服や、伏黒恵の術式にも似た非常に高位の式神を扱っていたにも拘らず。
肉体面では、基礎的な呪力強化もできていない貧弱さだった。
簡易領域などの領域対策も見られなかった。
変わり身の呪いを多用していた事からまるっきり素人という訳ではなさそうだが、
時間制限がある中でこれ以上時間を掛けるのは面倒だと思い発動した領域の必中効果の前には無力だった。
「一体何だったんだ、お前」
地を這う地蟲を眺める表情で一度そう尋ねたが、返事は帰ってこない。
「帰るんだ……カル、デアに……!元の………日本に………!」
ずるずると、内臓の殆どを失った体で青年は生き足掻こうとする。
奇跡は起こらない。
逸れのサーヴァントが都合よく現れたりしないし、
人類悪がその身を捧げて時間を撒き戻したりはしない。
普通の人間が、人間を遥かに超えた悪意に直面し、当たり前に死ぬ。
星の導きから見放された普通の一般人が、戦場で迎える結末などそんなものだ。
「ドク、ター……ダヴィ……ンチ……ちゃ……マシュ……!」
思い浮かべるのは、盾の少女。
自分の事を先輩と呼ぶ彼女を置いて逝けるはずがない。
だから、もう死ぬのが分かった状態でも、藤丸は必死に生きようとしていた。
だって、まだ自分は何もできていない。
倒れるに足る、理由を得ていないのだから。
だから、だから。
「死ねない……!俺は………!」
だから────
「もう死んでいいぞ」
まぁ、そんな事は。
呪いの王にとっては、どこまでもどうでも良い話なのだった。
欠伸を一つ浮かべた後。
グシャッと、肉が裂ける調べが響いて。
人理の希望だった青年は、三枚に卸された。
バタバタと、さっきまで藤丸立香だったものが辺り一面に転がる。
【藤丸立香@Fate/Grand Order 絶対魔獣戦線バビロニア 死亡】
天上天下唯我独尊。
己の快不快のみが生きる指針の宿儺にとって、至極どうでも良かった。
今しがた殺した青年が彼の世界においてどれだけ重要な役目を担っていたかなど。
どれだけ、多くの苦難や冒険を繰り広げて、多くの想いを繋いできたかなど。
例え宿儺以上の強敵と藤丸が戦う運命にあったとしても、そんな事は宿儺にとっては知り様が無かった。
だから宿儺にとって藤丸立香と言う人間は、妙なところのあった下奴という評価に終わる。
彼と言う人理の希望を失った世界がどうなるかも、知った事では無かった。
盾の少女の慟哭も、賢王がそれを受けてどう動くかも。
呪いの王にとっては、至極どうでもいい話なのだった。
「さて……肉体の主導権を奪われるまであと数分と言った所か」
それまでに、まだあと一度くらいは殺せるだろう。
自分に首輪を嵌めた加茂憲倫──羂索に従うのは不服だが、顔見知りのよしみだ。
裏梅が世話になっていた義理も少しはある。
ならば肉体の主導権が奪い返される間この蟲毒を盛り上げてやるのもまた一興と言う物だろう。
「五条悟に、伏黒甚爾………」
名簿にあった、興味を引く名前は二つ。
自分がいない時代に生まれたために最強を気取った凡夫と、伏黒恵の類縁者と見られる者。
できることなら、次に会うのはこの者達であればいいな。
そう考えながら、宿儺は跳んだ。
その脳裏に、今しがた自分が殺した者の事は、もう欠片ほども気にしてはいなかった。
「ケヒッ!ケヒッ!ケヒヒッ!!」
……いや。
彼から一刻も早く肉体の主導権を取り戻さんと奮闘している少年への。
その嘲笑の材料としては、強く認識していた。
「精々噛み締めろ、小僧」
未来で藤丸立香が対峙するはずだった、名だたる人類悪。
彼らであっても遂に殺害できなかった偉業を成し遂げたのは、ありふれた”呪い”だった。
しかしそれすら認識する事も無く、呪いは、世界は廻っていく。
呪いの王は次なる戦場を求めて、夜を駆ける。
【1日目/C-5/未明】
【虎杖悠二@呪術廻戦】
【状態】健康、宿儺状態(あと数分で解除)。
【装備】なし。
【道具】基本支給品一式×2、ランダム支給品1~3
【思考・行動】
1:肉体の主導権を奪われる前に殺せるだけ殺しまわる。精々噛み締めろ小僧。
2:───宿儺ァアアアアアアアアアアアアア!!!!
【備考】
※渋谷事変編にて、漏瑚戦直後から参戦しています。
※一時的に肉体の主導権を宿儺が奪取しています。あと数分で虎杖に肉体の主導権は戻ります。
藤丸立香の遺体と支給品がC-5に放置されています。
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:[[]] |
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藤丸立香 |
死亡 |
最終更新:2024年01月04日 21:12