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Main Story Ⅱ-12 - (2007/12/27 (木) 23:54:36) の編集履歴(バックアップ)



第二章 第十二節『矢車菊色の天使』


繊細な硝子細工が崩れたような音がした。
呆然と立ちすくむ男や澪達を尻目に、ステンドグラスのような羽根を広げたジルコンは薄く笑みを浮かべた。
「久しぶり。おはよう、サファイア」
祭壇に安置されていた大粒のサファイアを覆うように人影が浮かび始める。



幾重にも細い金細工で飾られた細い足首。
細くしなやかな腰と足首まで覆う幾重もの薄布は、一枚一枚に濃淡の差がある青。
大きく肩の開いたゆったりした青い布地の間からのぞく、白く細い腕にも細い金細工が飾られている。
細い首筋の先に見える耳は先が少し尖っている。耳たぶを飾る金と青い石の耳飾りや、手足の飾りが巻き上がる風で涼やかに鳴る。
舞い上がる髪は、絹糸のように細く艶やかな青。真ん中で分けた前髪の付け根には一際美しく輝くスター・サファイア。
すっきりと通った鼻筋。薄い笑みを浮かべた小さい唇は淡い桜色。
ゆっくりと開かれた長い睫毛の下から見えるのは、宝石よりも強い光を帯びた深淵の蒼。
背中に畳まれていた純白の翼がゆっくりと開かれる。羽毛のような柔らかい質感の翼がその細身の身体を包む。
覚醒を表すように再び翼が勢いよく開かれると神殿のくすんだ青い壁や柱、床、天井にいたるまで元の艶やかさを取り戻す。
隙間無く組み合わされていた石の間から、涸れていた水が流れ出ていた。



ドーム状になった天井を伝って、壁の石積みの隙間から、石畳の間から、柱の飾りから、大地を潤す恵みの水が静かに穏やかにあふれ出す。
壁際に沿って作られた細い水路に小さな流れが出来る。久方ぶりに聞いた水の流れる音の間から、どこか金属質な小さく響き渡る音がする。
涼やかに流れる音と雫が紡ぐ音を遮らないように、小声で澪が呟く。
「……水琴窟だ」
水音のように涼やかな女性の声がした。



「おはようございます、ジルコン。――本当にお久しぶりです」
サファイアと呼ばれた石精霊が、その姿に相応しい天使のような微笑を浮かべる。
そして音をたてることもなく、優雅に地面へと降り立った。ふわりと空気が波紋を描く。
誰一人動けぬ中で、ジルコンが親しげな笑みを浮かべながらゆっくりと近づいていった。
「ほんとに。なかなか答えてくれないから心配したよ」
「神殿に入ってきてからの気配は感じられてはいたのですが……お答えできなくてすみません」
涼やかな音色を背景に穏やかに会話を交わす二人の精霊。それを呆けたように見ていた精霊使いの男がふいに口角を上げて顔を歪めた。


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