ここはAMS基地の下士官ロッカールーム。
現在の我輩の状況は・・・非常にまずい。
周りに目の前の人間以外に誰もおらず
AMSにその人ありと言われている結城大尉と銃を突きつけあっている。
これから昼食だというのに
まったく、どうしてこうなった。


ACT-1.5 「未知との遭遇」



--結城大尉と対峙する、30分程前・・・

「今日の訓練は厳しかったな~、部隊長の機嫌も悪かったし、何かあったのか?」

「何でも、また女に振られたらしいぞ?」

「なんてこったい、またか。」

訓練後のロッカールームにて、他愛もない会話が繰り広げられている。
話題はいつにもまして厳しかった、今日の訓練についてだ。
同僚たちの話から察するに、部隊長がまた異性との交際に失敗したようだ。
我輩が部隊に配属されて一週間、既に3人目である。
懲りない人だと思うと同時に、この星の知的生命体はこうも早いサイクルで
異性と付き合おうとするのか? といった疑問が出てくる。
我輩の星では、付き合うだけでも両家の親同伴でお見合いをすることから始まるのだが。
軽いカルチャーショックを感じていると、同僚がこちらにも話を振ってきた。
「しっかし、13はすごいな。今日の訓練でもいつも通りの仏頂面で過ごすのだから」

「それは一週間前の入隊紹介の時に説明したでしょう。自分が無表情なのは
 持病のひざ頭ムズムズ病のためです。」

「いや、それは聞いたけど、汗一つかかないのはどういうことなんだ?」
(入隊紹介の時は、扁桃腺こむら返り病と言っていた気がするが・・・)

ええい、今すぐ叫んでやりたい。
着ぐるみを着てるからだよ。マスクの中は蒸れて、お前たちより汗をかいてるんだよ、と
大いに騒ぎたくなってくる。
当然そんな真似はできない。異星人対策法令で自分たちより文明レベルの低い
知的生命体に正体を明かすことはできない。
ここは話を逸らすことにしよう。

「元々、汗をかきにくい体質ですから。それよりも、早く食堂に行かないと
 昼食にありつけないですよ」

「なに?それは由々しき事態だ。ほら、13も急げ!」

同僚が急がせてくるが、一息つくためには一緒に行動する訳にはいかない。

「それが自分は先ほどの訓練で打ち身をこさえてしまったので、医務室に寄ってから
 食堂に向かいます。皆さんは先に食堂に行ってください」

同僚は「そうか」と返事をすると、素早く野戦服をたたみロッカー内へと仕舞う。

「13も早く食堂に来いよ」

そう言い残し、同僚たちはロッカールームから出て行った。これでようやく休める。
誰もいない事を確認し、マスクを脱ぐ。
まったく、気の良い連中だ。そう思いタオルで汗を拭いていると、突然ドアが開いた。

ガチャッ ギィー バタン
「お~い、テンプレ隊員、いるかい?」

入口から見えない場所にいれば誤魔化しようもあったが、
入ってきた男に対して我輩は正面を向いていた。

見られた!どうすべきか?
その僅かな逡巡が命取りになった。入ってきた男、結城大尉の行動は素早く的確だった。
我輩の首にかかっているタオルを掴み、下方向に引く。同時に足を払い、うつ伏せに寝かされる。
寝かされた瞬間、背中に乗りかかり動けないよう拘束された。

「君は何者かな?どう見ても不審者なんだが・・・ん、この体は?」

拘束したことで、多少の余裕ができたのだろう。詰問してきたが無視し反撃を行う。
結城大尉の拘束は完璧である。地球人であれば動けなかったであろう。地球人であれば…
我輩は迷うことなく着ぐるみを脱ぎ、拘束から脱出する。

「キャスト・オフ!!これぞ奥義、トカゲの尻尾切り!!」

何故かそんなことを叫びながら、懐から自分用に開発した銃を出す。
結城大尉も脱出された瞬間、自由になった手を使いM1911A1を持つ。
そして、お互いに銃を突きつけた。

現在の我輩の状況は・・・非常にまずい。
AMSにその人ありと言われている結城大尉と銃を突きつけあっている。
これから昼食だというのに
まったく、どうしてこうなった。
この状況を打開するための考えをめぐらせていると、結城大尉から話しかけてきた。

「もう一度聞こう。君は何者だい?」

お互い、銃を突きつけあい状況はイーブンに見えるが
実際、我輩の方が圧倒的に不利である。
着ぐるみの下に隠し持っている銃を出したはいいが、この銃は特殊すぎて
地球人に対して使う気になれない。異星人との闘いはフェアでなくてはいけないものだ。
ええい、仕方ない。構えている銃を下ろし
ある程度本当のことを言う覚悟を決める。母星の法令なんぞ知ったことか。
そもそも、奴らにここまで来る方法などないのだから。

「結城大尉も知っている人間だよ、我輩の名は13だ。」

室内の緊張感が高まる。こちらはもう銃を構えていないが
結城大尉には明らかに不信感があるようだ。

「信じられないのは判るが、説明できる範囲で答えたい
 ああ、結城大尉が納得できるまで、その拳銃で狙っていてくれて構わない」

こちらに敵対意思がないことが伝わったようだ。
まだ拳銃でポイントされているが、話を優先させようとしてくれている。

「我輩は地球から遠く離れたリザード星出身の者だ。
 地球に来た訳は・・・調査のためだったが宇宙船が故障してしまい不時着したのだ」

そこまで話すと、結城大尉の緊張感がますます高まるのが判った。
何故だ?と思ったが、そんな思考は吹き飛ばされる。

タンッ

乾いた音と共に、右腕に痛みが走る。
結城大尉の持つ拳銃から、硝煙が出ている。

「つまり、地球への侵略者という訳だね。というよりも
 そんな夢物語を信じると思うのかい?まだ遺伝子操作によって生まれた
 人外のスパイ…という方が現実味があるよ」

まったく、鋭いことこの上ない。半分は正解であるのだから。
しかし、撃たれたのは痛みを除けば都合が良い。
結城大尉に厳然たる事実を述べる事にする。

「たしかに本国では侵略派もおるが、我輩はそうではない。
 それに遺伝子操作の人外というのは、銃弾でも傷つかないのかね?」

そう言い、鱗の間に挟まった銃弾をつまむ。
リザード星人の体表には、地球人でいう毛の代わりに
鱗が生えており、その下にあるしなやかな筋肉を持ってすれば
銃弾ぐらいでは傷つかない。さすがに勢いは殺せないので痛みはあるが、人間で言う
「タンスの角に頭をぶつけた」といったところだ。つまり、結構痛いのだ。
勘違いするなよ。我輩は元気な男の子であるから、泣くような真似はしてないぞ。

「重ねて言おう、我輩に敵意はない。」(←うっすら涙目である)

敵意のなさを感じたのだろう、何故かバツの悪そうな顔をしながら
結城大尉も拳銃をしまう。

「判ったよ、でも事情は詳しく説明してもらうよ?」(←信じてもらえず、泣かしたと思ってる)

「ありがとう、結城大尉。それでは・・・ムッ!」  

説明を始めようと思ったが、ふと時計を見ると昼食の時間が残り少ない。
それに、このような汗臭い部屋で説明するのも嫌だった。

「ふむ、ここは昼食を食べながら説明したいと思うのだが、どうだろう大尉」

「そうだな、そうしよう。え~っと名前は13でいいのかな?」

そうだ、と返事をする。
我輩は素早く着ぐるみを着て、結城大尉と共に食堂に向かう。
道すがら、自身の名前について考えていた。

昼食が終わり、結城大尉が質問してくる。

「つまり13、君は本来所属する軍からの指令で、母星近くにある未探査惑星の調査に向かった。
 その途中、君の相棒が宇宙船を暴走させてしまい、地球まで漂流してしまう。
 そして宇宙船を直すために、地球に不時着した。ということかい?」

見事なまとめ方である。我輩たちの友情と勇気の宇宙冒険活劇を3行にまとめおった。
映画であれば、劇場3部作、ハリウッドで大ヒット間違いなしの説明をしたと言うのに。

「そうだ、そのあとは不時着をAMS対抗部隊に目撃され、そのまま入隊したのだよ。
 それから先は結城大尉も知っての通り、諸君らと戦い、捕虜になり、お偉いさんを騙くらかし
 AMSに入社した訳だ」

「ハハッ、なかなかスリリングな人生(蜥蜴生か?)だね」

「まったくだ、宇宙広しと言えどここまで冒険した生物はそうそういないだろう。」

まだ痛む右腕をさすりながら答える。
その姿を見た結城大尉が謝ってきた。

「しかし、発砲して悪かったね。でもあの言い方は誤解されてしまうよ」

「何、かまわんよ。未知との遭遇では誰しもあのような行動を取るものだ」

そこでふと思い出した。たしか母星の古い慣習である。
ダメで元々、聞いてみることにする。

「結城大尉、提案があるのだが・・・」

「なんだい?改まって」

「我輩の星では、友情の証としてお互いの鱗を渡す風習がある。
 先ほどの銃撃で、鱗が取れかかっているのだよ。よろしければ
 この鱗を渡し、大尉と友好を結びたいのだが・・・どうだろう?」

「へぇ~、良い風習だね。でも、僕に鱗はないよ?」

そこで、先ほど撃たれた銃弾を取り出す。

「ああ、だから我輩の鱗を削った、この銃弾を貰おうと思う。」

結城大尉は悩むそぶりすらなく、あっさり即答する。

「いいよ。異星人との友情か・・・おそらく地球人で初めてじゃないかな」

「ありがとう、結城大尉。貴兄が危機に陥った時、いかなる障害も払うことを約束しよう。
 ちなみに我輩の星でも、異星人と友情を交わしたのは片手で足りるぐらいだ」

そう答えると、結城大尉は手を出してきた。
我輩もそれに応え、握手を交わす。この友情が永久に続くことを願いながら。


--だがこの先、結城大尉に協力できなくなることを、13は知る由もない--

何か視線を感じる。食堂だから、不思議ではないのだが
なんというか敵意が混じっている。辺りを探っていると…部隊長と眼が合った。
なんと言うか、とてつもなく良い笑顔だ。青筋がなければ完璧である。

「13、どうしたんだ?握手は嫌だったのか?」

結城大尉が尋ねてきた。我輩の雰囲気で察したのだろう。

「いや、違うよ。部隊長の顔が見えてな、訓練の厳しさを思い出しただけだ」

手を離し、答えると結城大尉は納得した表情を浮かべる。

「なるほどね、しかし、部隊長の気持ちも判るよ。厳しい訓練を課すということは・・・」

ああ、そういえば結城大尉は訓練教官の経験があると聞いたことがある。
訓練の重要さ等を懇切丁寧に語っている。
部隊長の顔を確認すると、ますます素晴らしい笑顔になっていく。
まったく、部隊長の思考は判らんが、彼の中ではモテル男と話すだけでもアウトなのだろう。
明日からの訓練は、嫌な予感がする。


異星で交わした友情に感謝しつつ、明日の訓練をどのように避けるか考える爬虫類であった。

後日、特訓と称し立てなくなるまで訓練が続けられたのは
また別のお話である。
                                  To be continued

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最終更新:2012年03月29日 19:50