第二章 極夜-Neumann


BGM...CoD:MW2 "Enemy of my enemy is my friend."
http://www.youtube.com/watch?v=95obkJqXj2c&feature=youtube_gdata_player


08:11 February 6,2012
Valto Anselmi Neumann
Western Russia Forest



『Plover、聞こえますか?』
「ああ、聞こえる。」
『こちらCrux。降下地点まであと少しです。準備をお願いします。』
「了解だ。」
ヴァルト・ノイマン、コードネーム「Plover」は慣れた手付きで身につけた装備を確認していく。
降下服の下にはスーツを着ており、内側のポケットにはソ連製のスチェッキンAPBが入っている。ハンドガンでありながらフルオートでの発射ができる、心強い相棒だ。

ひとしきり確認を終えると、それを待っていたかのように無線が入った。
『Plover、降下を開始して下さい。繰り返します。Plover、降下を開始して下さい。』

眼下には、見渡す限りに雪を被った針葉樹林が広がっている。
ノイマンは大きく一度呼吸をすると、その緑と白の絨毯に向かって飛び降りた。

『幸運を祈ります』
風を切る音の中で、オペレーターの声が聞こえた気がした。

*****

その頃、フィンランドとロシアの南部国境付近ではロシア軍とUNJFが戦いを始めていた。
『2時方向から敵機が接近。Blaze1、Blaze3、迎撃しろ。』
「了解」
『Storm全機、敵のバンカーに備え付けられた対空砲を破壊し安全を確保しろ。
周辺にはSAMを搭載した車両が多い、注意するんだ。』
『こちらStorm1、了解』
次から次へと無線が飛び交う。

機体を右にロールさせると、地上に敵味方双方の戦車や装甲車が集結しているのが見えた。陸でも空でも激戦が繰り広げられているようだ。
制空権の確保が遅れれば、それだけ陸上部隊の被害も大きくなるだろう。Flareは無意識のうちに機体の速度を速めていた。


『FOX2!FOX2!』
『こちらBlaze2、敵機への命中を確認。』
黒煙を上げるMiG-29。パイロットが脱出したのが見えた直後、機体は大爆発を起こした。
翼の破片が風に煽られ、無惨に散っていく。

「こちらBlaze1。目標空域を制圧した。」
『よくやった。Blaze隊、Storm隊と合流しろ。地上部隊の支援を行え。』
「Blaze1、了解」

広げていた翼を畳み、トムキャットは次の戦場へと飛び去って行った。

*****

ノイマンは無事地上に降り立つと、バックパックからビジネスバッグとスコップを取り出し、降下服を脱いでスーツ姿になった。
スコップで大きな穴を掘り、その中にパラシュートと降下服、バックパックを放り込む。掘った土を戻して埋め、雪をかぶせておいた。こうすればまず見つからない。

遠くから銃声や爆発音が聞こえてくる。国内の勢力争いだろうか。
一刻も早く情報を手に入れ、この戦争を終わらせなければ・・・そう思い、ノイマンは目的の街、サンクトペテルブルクへと向かって歩き始めた。

*****

サンクトペテルブルクは、歴史的な街並みが印象的だ。かつてロシア帝国の首都だったというのも頷ける。
だが、現在街は暗い雰囲気に包まれている。暴走した軍の一部が軍事的な重要拠点であるこの街を占拠し、住民は怯えて家に閉じこもっているのだ。

ノイマンは心の中で舌打ちをした。兵士しかいない街の中でスーツ姿でいるのは逆に目立ってしまう。
ヘルメットと防弾ベストを着用し、AK-74Mを持った兵士が巡回する街の中を歩き回るのは簡単なことではない。
このままでは第一目標であるロシア海軍地下基地の位置の特定もままならない。

解決策を考えながら裏路地を歩いていると、少し先の曲がり角から初老の男性が歩いてくるのが見えた。
話しかけようとしたが、男性が先に口を開いた。
「おお、こんにちは。家族以外の人を見るのは久しぶりだね。
見たところこの辺りの住民ではないようだが、何処から来たんだい?」
「こんにちは。モスクワから取引に来たんだが、取引先に誰もいなくてね。兵士に色々質問されるし、大通りには戦車も止まっているし、困ったものだ」
「そうか、それは大変だったね。

奴ら、この街が自分達の土地であるかのように好き勝手しおって・・・
皆怖くて出てこれないんだ。ご覧のとおり陰鬱としている。この状態が数ヶ月続いていて、まるで太陽の出ない極夜のようだよ。」
「大変だな。ここまで酷いとは思わなかった。」
「もう慣れてしまったよ。そうだ、私の家に寄っていくかい?すぐそこなんだ。」
男性は少し先の小さなアパートの3階の窓あたりを指差す。
「ありがとう、だが遠慮しておくよ。まだ行かなければならない所があるのでね。」
「そうか、気をつけてな。」

男性と別れ、また路地を歩き始めてしばらくした頃。
パン!パン!と銃声が響き始めた。
別の方向、少し遠くからは、ババッ、ババッという二連射の音。
この早い発射サイクルは、AN-94だろう。
軍の内部抗争が始まったようだ。

無線を傍受するために受信専用の特殊無線機を取り出し、周波数を合わせようとした時
「動くな」
後ろから声がした。
「無線機を捨てろ。」

*****

「無線機を捨てろ。コートを脱げ。」
言われた通りに無線機を地面に置き、コートを脱いだ。背後でAKを構えている兵士は他の兵士と同じようにヘルメットと防弾ベストを着用している。
兵士がコートを調べようと手を伸ばした一瞬の隙を突き、手を伸ばして足首に装着しているPSMピストルを掴んだ。素早く相手の脇腹を撃ち、ひるんだ所を道路沿いを流れる川に向かって突き飛ばす。大きな水しぶきが上がった。
無線機を拾いコートを着、急いでその場から離れた。

少し離れた場所に辿り着くと、ノイマンはもう一度周波数を合わせた。無線通信が聞こえてくる。
『不審な男が潜伏しているようだ。ここの市民では無い、おそらくUNJFだろう。』
『何処にいるんだ?』
『分からない、警戒を強化しておけ。』
『白軍も迫ってきている、そんな余裕は無い!』
『では海軍の地下基地だけでも見張りを増やせ。』
『わかったよ。
β隊、海軍基地へ行け!
どこだって?ふざけてるのか、西のプリモルスキー通りだろうが!』

場所は大体見当がついた。日も暮れ始めたので、行動しやすくなるだろう。
ノイマンは、周りを警戒しながら西へと向かった。

*****

ロシア海軍の地下基地に潜入し、敵の作戦計画や戦力など重要な情報を入手することに成功した。
しかし徒歩しか移動手段のない今、ロシア軍の影響力が強い地域を抜けて自力で帰還することは不可能に近い。

(まず、どこか安全な場所に行って暗号通信を用い、AMSに情報を伝えなければ。
さっきの紳士をあたってみるか。)

この情報があれば祖国への被害が減るだろうし、戦争を早く終わらせることもできる。
自分の使命の重大さを再認識する。

まだ作戦は終わっていない。気を抜くな、と自分に言い聞かせ、この街に夜明けをもたらすため、ノイマンは歩き出した。

*****

数週間後ーー
サンクトペテルブルクは、AMSを主力とするUNJFによりロシア軍過激派の抑圧から解放された。

市内での戦闘で大きな戦力となったのは、マリア・セルゲイエフという女性の率いる市民の反抗組織である。
マリアとのファースト・コンタクトは、奇妙なものだった。

任務を全て終え、あとは数日後に迫ったUNJFの攻撃を待つのみとなった頃、敵兵に見つかってしまったことがあった。
抵抗も虚しく、追い詰められてしまったノイマンが覚悟を決めた時、一匹の犬が敵兵に襲いかかった。敵兵が気を取られているうちに急いで路上裏に逃げ込み、その場から離れた。

路地裏を走っていると、時に一匹の猫が目の前に現れた。無視して行こうとするが、猫は往く手に立ち塞がる。 どうやら、猫はどこかへ誘導しようとしているようだった。
どうにでもなれ、という気持ちであとについて行くと、古びたアパートまで誘導された。
その中で出会ったのが、マリアであった。

猫は、何時の間にか何処かへ消えていた。

マリアはノイマンの素性を知っていた。なんと、匿ってくれていた男は、反抗組織のメンバーだったのだ。
そして、反抗組織の一斉蜂起計画を伝え、協力して欲しいと言った。

ノイマンははじめ、その計画に反対だった。激しい戦闘が予想され、多くの犠牲が出るかもしれないからだ。
しかし彼女を始めとする組織の幹部達の考えは、「市民の安全を考えればじっと解放を待つというのもいいが、 他者の手で解放されるのは今後を見据えると好ましくない」というもの。
その意思の固さについにノイマンも折れた。UNJFの総攻撃の日時を伝え、その日に向けての準備を手伝ったのだった。

総攻撃の日。AMSの先鋒が市内に突入するとともに、反抗組織のメンバーは各所でロシア軍に向けて攻撃を始めた。
そして作戦は大成功。街は解放の喜びに沸き立った。

*****

マリアは、後にサンクトペテルブルクを首都とするバルトロシア共和国の初代大統領となる。傷ついた故郷を再生し、侵略から守ることに尽力した。

その建国に際し、ノイマンはもちろん、レイカー准将を始めとしたAMSの助力があったことは言うまでもない。



To be continued...

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年05月10日 22:08