第4話
飛翔(前編)
『みなさま!ご覧ください!本日最後の演目となります“フォーメーションブレイク”会場右手からの進入です!本日はお越しいただきまして、本当にありがとうございました!』
寸分もずれることなく、3機のレシプロ機がライトエシュロンを形成している。
雲ひとつない青空の下、それぞれ“赤”“青”“白”のスモークを引きながら飛ぶ姿はさながら、
キャンパスに絵を描く巨匠の筆のようだった。
『リーダーより各機、まもなくブレイクポイントだ。準備はいいか?』
彼は、このアクロチームの責任者「大楠 優也」
顔は厳ついが中々繊細で、巡業の際にも“マイ枕”を手放さない男だ。
『This 2, ready』
やや甲高い声で応える2番機。「
アレックス・フロンタル」・・・妻だ。
本来であれば後方支援や、会場アナウンスなどを担当してもらう予定だったのだが・・・
「絶対にっ!飛ぶっ!!!」
と、頑として譲らなかったため乗ってもらうことにした。・・・どうしてこうなった。
まぁ、腕のほうは問題ないのでよしとしよう。
『This 3, ready』
そして私、「
メリィ・フロンタル」・・・紹介は省略させてもらおう。
『Leader roger,・・・まもなくだ。』
会場はもう目の前だ。高度200ft、見ろ、人がごみn・・・(ry
緊張が高まる・・・!
『 Break standby・・・now! Leader break!』
『2 break!』
『3 break!』
リーダー、2番機が間隔を保ちながら左上昇旋回、3番機は近づき過ぎないよう上昇後左旋回
すばやく3番機の位置に遷移する。
最後の演目を終えた3機は、会場に背を向けたまま1周しそのまま着陸態勢へと入った。
エプロンに帰った我々を迎えてくれたのは、観客の暖かい拍手と賞賛の声だった。
いつものように観客に応えつつ、用意されている控え室へと戻る。
「みんなお疲れ様っ!・・・いや~、仕事終わりの一杯は最高だね!」
そう言いながらコーラを一気飲みする優也。・・・実は割りと下戸なんだっけ。
「なかなか今日もうまく行ってよかったですね!」
底抜けに笑顔なマイワイフ。
(ブレイク後の遷移がやや遅かったけどな・・・)
なんてことを思っていたら、
「・・・なにか言いたいことでもあるのかしら?・・・ア・ナ・タ?」
目撃者の証言
ひとつだけ言っておくッ!
おれは今やつの怖さををほんのちょっぴりだが体験した
い…いや…体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……
,. -‐'""¨¨¨ヽ
(.___,,,... -ァァフ| あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
|i i| }! }} //|
|l、{ j} /,,ィ//| 『笑顔のはずなのに、冷や汗が止まらず
i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ いつのまにか失禁していた!自分が怒られている訳でもないのにな!』
|リ u' } ,ノ _,!V,ハ |
/´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人 な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
/' ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ おれも何をされたのかわからなかった…
,゙ / )ヽ iLレ u' | | ヾlトハ〉
|/_/ ハ !ニ⊇ '/:} V:::::ヽ 頭がどうにかなりそうだった…
// 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
/'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐ \ 催眠術だとか超スピードだとか
/ // 广¨´ /' /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
ノ ' / ノ:::::`ー-、___/:::::// ヽ }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::... イ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
「ん?最終ブレイクのとき、タイミング外しただろ?・・・冷静に自己分析しないと向上せんぞ」
彼女の(ざらついた)プレッシャーを受け流しそう告げる。
「・・・ごめんなさい」
根は素直な子で助かる。
やや重くなった空気の中、愛すべきKYリーダーの一言が場を和ます。
「でも、君ら2人が来てくれて本当に助かったよ。一時はどうなることかと思ったけど、これでようやく軌道に乗ったかな」
このアクロチーム“SOG A分遣隊”(東京都 Y.Yさんからの投稿、ありがとうございました!)は最初の訓練期間を経て、各国へと興行に赴いている。
主に親会社である某航空会社の路線がある国へと向かうのだが、現在はEUの招待によりヨーロッパの各国を回っている最中だ。
「そうだな。まぁ一時的な助っ人とはいえ、こうして名を上げておけば何とかなるだろう」
「ホント。訓練生の時間が稼げただけでもありがたいのに、お呼ばれする位だからなぁ・・・。やっぱ持つべきものは同期だな!」
「はい、自慢のだんな様です!」
室内が笑いで満たされた。
そう。あくまでもこのアクロチームへの参加は「一時的なもの」という契約だ。
どこぞのきな臭いやつらが第3次世界大戦へと水面下で動き出す中、身軽に各国を回り情報収集ができるこのチームは
まさに隠れ蓑に最適だった。中には軍事基地でのショーも開催され、効果的な収集が出来るときもあった。
・・・もっとも、ただの飛行機乗りのできる情報収集などたかが知れているがね。
しかし、各国の状況を肌で感じ取れる良い機会だと捉えて、楽しんでいる。
「さて、今度のショーはウクライナ、ハルキウ国際空港だ。ぼちぼち片付けていきましょうかね」
次の開催地はウクライナ・・・ハルキウ。ロシアとの国境付近の都市で、キエフに続き第2位の人口規模を持つ大都市だ。
特に、機械工業、兵器製造(戦車等)、航空機生産、トラクター生産が盛んな都市でもある。
目的地までの移動中、窓の外を眺めていると急に話しかけられた。
「次の結果次第では・・・戻ることも考えなければいけませんね」
静まり返ったバスの中、急に副官の顔になってささやくように言うアレックス。・・・決して「ギャップ萌え」などとは言わない。
「そうだな。配備状況、街の雰囲気・・・気を引き締めていこう」
今まで回ったヨーロッパの各都市。物々しい・・・とまでは行かないが、基地周辺の警備状況や夜の街の雰囲気等から、やや緊張が高まっている気配があった。
そして、一番の火種であるロシア近郊の都市。
何事もなければ良いのだが・・・
最終更新:2012年05月02日 18:50