―AMS総合基地 サンフランシスコ本部 地上3階 AA隊準備室―

まったくこの男達は、どうしてこうも理性より感情に走るのか……
考えるよりも先に身体が動き、それが元でトラブルに巻き込まれる。
いいかげん、学習してもいい頃だろうに。

「ぶつぶつ言うな、やっちまったもんは、しょうがねぇだろ!」

「そうそう、ドナルドはね、ムカつくとついヤッちゃうんだ♪」

そう発言した二人の男は、銃を手に持ち、二つの銃口からは硝煙が漂っている。

「まあ、仕方ないよね、そこのお偉いさんの命令は馬鹿なあたいだって、わかるくらい
 無茶なんだからさ」

「して、先程の命令……本気ですかな?『大将閣下殿』」

さらに二人がこの原因を作った男を責め立てる。
大将閣下……椅子に座っているトンヌラ・グレゴリーの顔には恐怖のあまり、形容しがたい
顔をしており、大量の汗が出ている。それもそのはず、彼の頬には今しがたできたばかりの
銃弾による擦過傷がある。

この部屋の中には5人の男女と、猫が一匹……

 ――白髪に眼鏡をかけた、仕立てのいいスーツを着た恰幅の良い男――
                          名はカーネル・サンダース
 ――赤髪アフロに派手な軍服を着た、赤い銃を持つやや細身の男――
                          名はドナルド・マクドナルド
 ――金髪にかなり小柄な体系の女性は机で頬杖をついている――
                          名はミニー・ラット
 ――黒髪に筋肉質の大柄な男は、大将に銃を突きつけている――
                          名は九鬼玄乃上
 ――そして、一番日当たりの良い机の上に、体長1m程の大きな猫――
                          名はニーギ

彼らはAMSの中でも詳細不明とされている部隊、陸軍AA隊である。
現在公表されているのは 「ASCII Attackers」 という部隊名のみ
  《ASCIIとは、American Standard Code for Information Interchangeの略》
  《現代英語や西ヨーロッパ言語で使われるラテン文字を中心とした文字コードである》

設立当初は、暗号解読や偽造情報の送信などの文字コードを使った
撹乱任務中心の部隊と聞いている。

―――しかし現在は……

問題兵士ばかりを集めた、いわくつきの部隊である。
個々人の性格に問題ありの上、矯正不可能と太鼓判を押された者が来る
そんな糞の吹き溜まりの部隊……
あまりにもAMSの利益にならないことばかりしているため
最近はAA隊のことを「Anti AMS」とまで揶揄されている。
まったくもって、正当な評価だろうな。あらゆる意味において……

6人も入れば手狭になる、小さな部屋を包んでいる感情は、圧倒的な殺意。
問題児4人はトンヌラが下手な事を答えれば、即座に殺すつもりでいる。
それは彼らを詳しく知らない人から見れば、そう見える状況だが……
1年も付き合った我輩からすれば、こんなものは挨拶代わりにすぎない。
常々、穏便にすませろと言ってきているが、もはや無駄ではないかと思い始めている。

……そういえば、我輩の自己紹介が遅れたな。
我輩の名は「XERD_003SSE……通称トカゲ13」
今、九鬼が手にしており大将の頭を狙っている銃……それが我輩だ。


The name of the story is 「Demon's Spirit ~Belief of Soldiers~」
――――the Story of interlude――――

第一話 「AMS最低部隊 ~狂人達の宴、開演~」


 ――冒頭より約20分前――

AA隊準備室は、名ばかりの部屋である。
その証拠に部屋の大きさは10畳程度、各々仕事ができるように(書類仕事等、見たことないが)
5個机が置かれており、2つずつが向かい合わせ、残りの一つは
一番奥の窓際にあり、いわゆるコの字型に配置されている。
これにロッカー等もあるため、中は非常に狭い印象がある。

そんな部屋の中、AA隊の面々は自分の席に座り、好き勝手に自分の作業をしている。
右奥の席……カーネル少佐は新聞を読んでいる。
その正面である左奥の席……ドナルド大尉は手榴弾を赤く色付けしている。
ドナルド隣……全てにおいて、小さいと形容できるミニー少尉はノートPCと睨めっこ中。
カーネルの隣……我輩の相棒である九鬼少尉は、人の眼も気にせず寝ている。
一番奥の窓際の席……現在空席であり、机には「大総統席」と書かれているが、
          一番日当たりが良いため、ニーギが気持ち良さそうに日光浴をしている。

カチッ カチッ カチッ

時計の音のみが響く部屋に、バタン、と扉が開き、男が一人入ってくる。
入ってきたのは、かなり肥え太った男……トンヌラ・グレゴリー大将である。
上位階級者が入室してきたというのに、誰一人として敬礼せず、椅子から立ち上がりもしない。
そんな状況に不満はあるのだろう、トンヌラはフンッ、と鼻を鳴らしながら、奥の席に座った。

 ―まるで、本物のブタだな―

九鬼が呟いている。つい先程まで寝ていた顔には見えない顔つきである。
なにか、きな臭い予感がしたのだろう。AA隊でも一番勘のいい奴なのだから。

「さて、貴様らゴミ部隊に任務を言い渡そう」

開口一番、これだ。
相変わらず、尊大な物言いである。この1年……数こそ少なかったが
任務を持ってきた男の一人である。この男の任務は全て却下されていたがな。

「1年前……謎の壊滅をしたゲゼルシャフトが今になって再起したとの情報が入ってきた。
 そこで、貴様らに奴らの基地を調査をしてもらう」

「あたいたちは忙しいので~ 他をあたってくださいな~」

ミニー少尉がキーボードを叩きながら適当に答える。
それを聞いたトンヌラは、苦虫を噛み潰したような表情で続けた

「貴様らなんぞ、誰が好き好んで使うものか……」

「つまり、我々でしか成しえない任務と言いたい訳ですかな?」

カーネル少佐が、新聞を机に置きながら尋ねる。

「そうだ、貴様らの性格や忠誠は最低だが、能力だけはAMSの中でも随一だからな。」

「アラー?♪それって説明になってないよ、もったいぶるなら、ドナルドやっちゃうよ?」

ドナルドが立ち上がり、トンヌラに近づくが
何かやるよりも早く、慌てたようにトンヌラが口を挟む

「に……任務は言っただろう、奴らの基地の調査だ。
 貴様らをわざわざ使う理由は、ゲゼルシャフトは壊滅前にサイボーグ技術を確立しておった。
 ならば、普通の部隊では歯が立たんのは明白だ」

その言葉を聞いた4人は、不信感を顕わにする。
九鬼は立ち上がり、トンヌラの正面まで行き

「そりゃ、おかしいなぁ……大将、あんたが隠し持ってるサイボーグ部隊がいるじゃねぇか
 そいつを使ったらどうなんだ?」

トンヌラの顔には、驚愕となぜ秘密部隊を知っているのか……
その二つがミックスされた、なんともわかりやすい表情をしている。
腹芸の一つもできんとは……つくづくレベルの低い男だ。
どうやって大将まで登りつめたのか、不思議になってくる。

「そうだね~ あたいの情報でも、大将の部隊の予定は白紙なんだけどな~」

「な……何を言っておる、貴様らッ! そんな部隊があれば、貴様らなんぞを頼りは……」

ドンッ

トンヌラが最後まで言い終わるより早く、九鬼とドナルドは電光石火の早業で、銃を抜き発砲した。
我輩の銃口から放たれた銃弾は、トンヌラの頬を掠り、傷をつける。
ドナルドの銃弾は、見当違い方向……窓の外へ出て行った。
この距離ではずすとは、別の意味ですごい才能である。

「まったく、この男達は、どうしてこうも理性より感情に走るのか」

思わず、小声で愚痴を零してしまう。

「ぶつぶつ言うな、やっちまったもんは、しょうがねぇだろ!」

「そうそう、ドナルドはね、ムカつくとついヤッちゃうんだ♪」

聞こえていた二人は、文句を言ってくる。トンヌラにも、聞かれたか? と不安になったが
恐怖のあまり、今の発言を理解できていないようだ。

「まあ、仕方ないよね、そこのお偉いさんの命令は馬鹿なあたいだって、わかるくらい
 無茶なんだからさ」

「して、先程の命令……本気ですかな?『大将閣下殿』」

カーネルが殊更、『大将閣下』と念を込めて尋ねる。
その声は、聞くものの嘘を絶対に許さない……圧倒的なプレッシャーを感じる。

「あ……も、勿論だとも、戦力を考えて、貴様らに命令しとるのだッ!」

無駄に声を張り上げて、答えるトンヌラ。
そうでもしないと、この場の雰囲気に呑まれてしまうのだろう。
小心者なことだ。

そして、トンヌラの命令を聞いた4人は、《丁重にお帰りいただく》ように、決意を固めた。
4人が同時にトンヌラを接待しようとした瞬間に、気の抜けた鳴き声が部屋に響き渡る。

「にゃ~~ご (この任務、受けても良いのではないか? 少年たちよ)」

ニーギの鳴き声……トンヌラ以外の4人には、鳴き声以上の意味が込められていることを
理解した。
しかし、この一言で納得できるものではない。4人はこの鬱憤をトンヌラで晴らすことにする。

「なるほど……ならば、その任務をお受けしましょう」

カーネルの返答を聞いたトンヌラは、了承を受けた喜びより
単純に生き残った喜びの方が大きいようだ。
だが、カーネルは最後に「しかし……」と続け、後の言葉を聞いたトンヌラは
また険しい表情に変わることになる。

「任務を受ける条件は、我々が陳情していた要求を通してもらうことですな」

「Aha♪ チキン野郎にしては良い案じゃないか! 」

「そうだろうな、クレイジービーフな貴様には、想像もできん提案だろうな……」

売り言葉に買い言葉……生涯をかけて争っている二人の、我輩たちにとって
見慣れた光景が繰り広げられている。ただ、彼ら二人の間に大将がいるが……
ケンカに巻き込まれるのが嫌なのだろう、この場からいち早く撤退したいトンヌラは
早口で、捲くし立てた。

「わ……わかった、貴様らが陳情していた物は全て揃えよう。
 もういいだろう、資料は置いていくから、後はまかせたぞッ!!」

逃げるように、部屋を飛び出していくトンヌラ……
後に残されたのは、すぐにでも殺し合いを始めそうな二人と、
それに興味のない二人……仕方ない、AA隊ブレーキ役の我輩が、止めるとするか

そう思い、口を開こうとした瞬間、またしてもニーギの言葉が聞こえてきた

「にゃん (さて諸君、任務について話し合おうか)」

その言葉? を聞いた、4人は自分の席に座り資料を手渡す。
まったく、我輩ではこうもうまくいかんだろうな。
これも年の功というものか。

「して、何故あの外患罪を犯す犯罪者の命令を、聞かねばならないのかね?」

「にゃにゃん! (信念を曲げぬ少年よ、話は単純だ、奴の息の根を止める
         そのために、奴の用意した罠にわざと飛び込むのだよ)」

「なるほどね~ 1年前の対ゲゼルシャフト作戦では、大隊規模(約600名)の部隊を
 生贄に出してたもんね~ 当時欲しかったのは、部隊行動のデータと予測しま~す
 それを考えると、今回のオーダーは、人間の枠組みに入らないデータでも
 欲しいのだろうね~ 失礼しちゃうなぁ、あたいは真人間なのに~ 」

この中である意味、一番性質の悪いミニーが資料を見ながら情報をまとめる。
勿論、先程ミニー少尉が発言したことなど、資料のどこにも記されていない。
彼女は普段から自前のPCを使い、あらゆる情報を集めている……彼女がAA隊に配属された理由の一つは
情報収集が行き過ぎ、知りすぎたためである。

「にゃおッ! (その通りだ、愛に生きる少女よ、君達のデータを取るつもりなら
        基地内でサイボーグとの戦闘になるだろう。そこでデータを
        取っている証拠を持ち帰って、奴を追及すればいい)」

「データを持ち帰ったとして、奴がしらばっくれる可能性もあるんじゃねぇか?」

九鬼にしてはめずらしく、真っ当な意見を言う。
いや、違うな……タダ働きを極端に嫌う男だ。無駄を極限まで省きたいだけだろうな。

「にゃ~お (よく眠る少年よ、そちらは私が裏づけを取っておこう、安心したまえ)」

「らんらんる~♪ それじゃあドナルド、がんばっちゃうよ! 」

「ならば、我輩達がやるべきことは決まったな」

我輩の言葉を機に、それぞれが立ち上がる。
任務前の最終確認終了の合図……AA隊に唯一ある、訓示の唱和である。

『 我らは罰の代理人
    信念を貫く代行者

  我らが死命は
    我が戦友に立ちはだかる愚者を
       二度と立ち上がれぬよう完殺すること―』

さあ、これから楽しく無残な戦争が……始まる

             To be continued

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最終更新:2012年05月06日 17:26