―カザフスタン共和国 コスタナイ州 ゲゼルシャフト第5研究所近辺―
ソスナという村から、3マイル程北にある湖の畔……
林の中に隠されるように、その建物はあった。
時刻は深夜の3時、外は雨が降っている。
暗い道路の脇に九鬼が静かに車を止めた。車は赤のワンボックス。
ワイパーがフロントガラスの雨滴をせわしげに拭っている。
「これ以上、車で行くと気づかれるな……旦那、どうすんだ?」
九鬼が助手席に座っているカーネルに尋ねる。
車の窓から雲を確認し、九鬼の質問に答える。
「ふむ……都合良く雨が降っているな、進入するには申し分ない状況だ」
「ええ~ 雨の中進むの~? あたいのお化粧が落ちちゃうから、ヤダ~ 」
後部座席で、とんでもない不満を上げるミニー少尉。
というか、不満を上げるなら夜更かしの方が効果的だと個人的には思う。
そして、一番の問題児は……
「どどどうでもいいから、早く研究所に行こう……ドナルドは、寒いと死んじゃうんだ」
毛布を被りながら、それでも寒そうに震えているドナルドが答えた。
時期的には6月……夜中にしても、それほど寒くはないがドナルドの体質上、仕方あるまい。
「ふむ……そこの軟弱者は放っておいて、進入口を捜すとしよう
とりあえず、私と九鬼で様子を見てこよう」
二人は特に会話もないまま車を降り、林の中を進み始める。
暗闇には、密生した植物が発散する濃密な香りが充満している。
それを吸い込みながら5分ほど歩いたろうか、ようやく林の縁に辿りつく。
雑木林を切りひらいて作られた広い芝生の庭の中央に、闇に沈んで
鉄筋コンクリート3階建ての、かなり大きな建物がぼんやりと
輪郭を滲ませている。
二人は闇の中の気配を探っているようだが、我輩のセンサーでも
建物の外に見張りが出ているようには思えない。
研究所の窓はどれもみな暗く、まだ寝ないで起きている人間がいる様子もなかった。
建物の全体が、すっかり寝静まっているようだ。
「さて、どうするかね?」
我輩が二人に尋ねる。
罠だという可能性は非常に高いだろう。
トンヌラから、今夜AA隊が襲撃するという情報がリークされているのだろうな。
十全に準備万端といったところだろうか……
「見張りがいないのは中に誘っているつもりだろうが、電気まで消しているのは妙だな。
少なくとも、威力偵察くらいは試してみるべきだろう」
九鬼に言われて、気づく。たしかに襲撃が分かっているのに電気を消す必要はない。
むしろ、迎え撃つ側としてデメリットしかないと思われるが、
そんな疑問を晴らすため、カーネルが説明する。
「あくまでも、我々の能力を見たいのだろう。サイボーグの暗視性能と
ミニー少尉の実力……どちらが上か図りたいといったところだろう」
なるほど……たしかに彼女ならばこういった状況でも問題ないだろうが
それでも不審な点がある。
「しかし、カーネルたちのデータを知っておいて、そのような下策をとるのかね?
いくらなんでも、あちらの分が悪すぎるだろう」
「あくまで、旦那達のデータ上のスペックしか知らねぇんだろ。
だから、実戦でのデータが欲しい……
だとすれば、奴らの思惑に付き合う必要はねぇが……
そもそも、俺達に相手の出方に合わせて戦術を変えるなんてできねぇしな」
九鬼が見る者を竦ませる凄惨な笑みを浮かべる。
その笑みを見て、カーネルのプランも決まったようだ
「その通りだ……やるべきことは……一方的な殲滅だ」
第二話 「過去より続く因果 ~蘇る超兵器と葬られた超人類~」
―ゲゼルシャフト第5研究所 第3区画入口前―
「ここの扉を開けると、サイボーグが20人スタンバイしてるね~
イヤ~ン、あたい怖いよ~」
区画への扉の前で、ミニー少尉がしなを作りながら中の様子を報告する。
彼女はPDAしか持っておらず、中の様子を覗える道具など
何一つ持っていないにもかかわらず……である。
「ふむ……ここまでで最大の人数か、残った人員をかき集めたのだろうな」
カーネルが推測している。ここまでの道中、一度の戦闘で襲ってきたのは
最大でも6人までだったからだ。勿論、ミニー少尉のおかげで
完璧に奇襲を成功させ、断末魔を上げる余裕すら与えずに殲滅してきた。
そのため、あちらの危機感が高まったのだろう。
「さすがに20人ものサイボーグが居るならば、こちらも作戦と連携が必要だと思うが」
我輩が無駄だと思いつつも提案する。何しろ単純計算で戦力比は1:5である。
ミニー少尉は戦おうとしないから、それ以上になるだろうな。しかし、やはりというか
そんな我輩の心配を他所に、こやつらは話を進めている。
「AHa♪ 少ないなぁ……ドナルドはやっと体が暖まってきたところダヨ!
それに、そこの白髪チキンと協力するくらいなら、一人で突貫するネ! 」
ドナルドは、中指を立てながら答えている。それを向けている相手は言わずもがな……カーネルだ。
他のことなら温和なカーネルだが、ドナルドにだけはすぐ熱くなってしまう。
「ここまでまともに働かず、そのチキンの後ろにいるだけだったのは、ドコのダレだったかな?
まあいい……私としても、貴様と協力なんぞ、反吐が出る。まずはお前が突撃しろ」
撤退戦なら、まだあり得るかもしれないが、今は基地制圧戦……セオリー無視の
単独突撃命令だと言うのに、誰も疑問を挟まずに作戦は決まっていく。
「なら、初めにドナルドが突撃して敵の第一射攻撃後、時間差で俺と旦那が残敵掃討……
そんなところだな。ミニー、中の奴らの配置はどうなんだ? 」
「両翼を前方に……入口近くに張り出して半円型だね~ 勿論、お互いが射線軸に
入らないよう位置しているよ~ 部屋に入った瞬間に、マシンガンでミンチになるだろうね~」
半円型……この星でいうところの鶴翼の陣だろうな。
どうやら、データ収集は終わったか諦めたか……どちらでもいいが、いずれにせよ
我輩達を本気で殺すつもりのようだ。
普通に考えれば絶望的な状況だというのに、誰一人としてそんな感情はない。
勿論、我輩にもな。
そして、この中で一番楽観的に考えている男が口を開く。
「な~んだ♪ 銃弾をご馳走になるなら、ドナルドは奴らにアンハッピーセットを用意するヨ!」
そう言い残し、こちらの返事を待たず、ドナルドは重苦しい耐火扉を開けた。
ドナルド以外の3人は、中から死角になっている位置にいる。
唯一人、何も恐れていない人外の男は
悠然と、散歩にでも行くように中に入っていった。
次いで、部屋から軽快な音が響き渡り、マズルフラッシュによる光の華が咲く。
計20丁のアサルトライフルが一人の男を狙い撃ちしている。
常人ならば、原型を留めない攻撃と量である。
しかし、それでもサイボーグたちは未だに射撃をやめる気配がない。
中の奴らから漂ってくる雰囲気……大多数が恐怖に駆られている。
人数も、装備も圧倒している彼らだが、その様子は狼に追い詰められた羊の様だ。
硝煙で、見えにくくなっている部屋中央に、人の立っている影が見える。
この銃撃の雨でも身じろぎせず、ただ突っ立っている。
そんな常軌を逸した男は、辺りを見まわしひとり呟いた。
「う~ん……よし♪ 君にしようカナ! 」
獲物を決めたドナルドの行動は素早かった。
中央奥の10人に向かい、疾走……フェイントも何もなく、ただ一直線に向かう。
疾い……いやそれよりも銃弾を弾く、あの防御力は対峙している者にとって脅威だろう。
自身の攻撃は効かず、何をしても無駄、という疑心暗鬼にかかってしまえば
心が折れるのも時間の問題だ。
いまや敵の攻撃は、全てドナルドに向けられている。
中央突破しているドナルドを狙っているため、両翼の攻撃は中央の仲間も狙っているはずだが
そんな判断が出来ないほど、恐怖に駆られているようだ。
その様子を見て取った二人の男……カーネルと九鬼が動き出す。
右翼の5人――向かうカーネルの両手には、ナイフが握られている。
音を極限まで殺しながら走る姿だけでも、かなりの技術があることがわかる。
そのまま気づかれずに、入口から一番近かったサイボーグの首にナイフを突き立てる。
狙いは首の真後ろ……通常、サイボーグの体には刃物など通じない。
しかし、エネルギー供給のためのプラグがそこにはある。
カーネルは直径5mmの供給プラグを寸分違わず刺す。そのままナイフを抜かずに
次の獲物へと向かう。
刺されたサイボーグは、後ろから刺された衝撃で、そのまま前へ倒れる。
倒れた音で、残りの4人がカーネルに気づき、振り向く。
しかし遅い―――カーネルはスピードを緩めずに、次のサイボーグの腕を取り投げ飛ばす。
重量250kgが宙を舞い、首から投げ落とす。その自重により首はあらぬ方向へと曲がった。
しかし、カーネルの攻勢はそこまで。残りの3人がその手に持つアサルトライフルのトリガーを引く。
けたたましい音を上げ、カーネルに必殺の銃撃を見舞う。
サイボーグとの距離は約3m……避けられるものではない。
にも関わらず、カーネルは尚も前進する。サイボーグたちは目の前の敵を殺したと判断するが
直後、ありえない光景を眼にする。
まるで奇術のように、カーネルは銃弾の弾幕を避ける。
銃弾の隙間、地を這い、舞踏の様にステップを踏み
わずかな銃弾の隙間に体を滑り込ませ、無傷で突破する。
一秒にも満たない、常人には見えない舞踏……それはまさしく
見る者を魅了する、絢爛舞踏と呼ぶに相応しいダンスだ。
敵を殺したと判断していた、残りのサイボーグ3人は、
銃弾の弾幕を正面から突破する異常事態に反応できず、頚椎を切断され、絶命した。
左翼の5人――向かう九鬼の手には、我輩が握られている。
このような姿になる前であれば、ただの燃費の悪い光学兵器だったが……
今の我輩は「XERD_003SSE」――最後尾にE(Earth type)を付けて、改造済みだ。
九鬼は一番奥にいるサイボーグに狙いをつける。狙う場所は目だ。
いかなサイボーグと言えども、視力を失えば、木偶の坊と同じになる。
素早く二発、我輩の銃口から9mmパラベラム弾が吐き出される。
狙いは見事、サイボーグの目に命中するが……衝撃でよろめいたぐらいだ。
位置を確認した左翼の5人が、こちらに攻撃を開始する。
元々、他の4人からの反撃を見越していた九鬼は、素早く柱の陰に隠れ
「おいッ! どういうことだ? 目を狙えば、片がつくんじゃねぇのかッ!!」
怒り心頭といった面持ちで、我輩を怒鳴りつけてきた。
知るか……我輩が聞きたいくらいだ。
サイボーグという者は、たしかに強靭な機械の体を持っているが
その精神は、人間のままである。
この人間の精神というものが厄介な代物だ。機械の体に、手足の本数を増やしたり、
目や鼻などの位置を変えることは可能だが、間違いなく精神に異常を来たす。
生物の脳というものは、それぞれが最適にフォーマットされているからだ。
だからこそ、手足の本数は増やせないし、各種器官の役割も位置も同じ……
にも関わらず、目を失ったサイボーグは問題なくこちらを銃撃している。
ふむ、さっぱり分からんな
「今、重要なのは奴らの殺し方だ。こうなれば、奴らを塵にまでしてやるために
対物ライフル《アンチマテリアルライフル》にでも変形しようか?」
「お前はアホか? そんなもんに変形されたら、身動きできねぇだろ」
我輩をアホ呼ばわりとは……自分の知能を振り返ってみろ
と反論しようとしたが、できなかった。
サイボーグが二人、柱の両側から回りこんできたからだ。
我輩と九鬼の思考が一致する。九鬼は独楽のように回転をし、サイボーグの首筋を狙う。
声に出さずとも、その行動のために我輩は最適の兵器に変形する。その選択は剣……
目の前で銃が剣に変形したというのに、サイボーグに驚きの色は見えなかった。
たかが剣による攻撃では何も効かないことがわかっているからだろう。
避けるそぶりすら見せずに、刃がサイボーグに襲い掛かる。
柱の後ろに残ったサイボーグ3人は訝しむ。襲い掛かった二人が、動きを止めたからだ。
何かしら、問題があったと判断した3人は、柱に近づこうと動き始めようとした矢先、動きがあった。
サイボーグの一人が、いや……首のないサイボーグだったモノを盾にし、九鬼が3人に襲い掛かった。
自分達に向かってくる残骸と九鬼を認識し、銃撃をくわえる。
しかし、サイボーグの残骸がその銃撃をシャットアウトする――サイボーグまで、残り10m――
そのまま、3人に近づく。――残り7m――
サイボーグたちは狙いを変え、九鬼が残骸から飛び出す瞬間を見極めている。
だが、いつまで経っても九鬼が飛び出す気配はない。――残り3m――
このまま押し倒すつもりと予測したサイボーグたちは、九鬼の横に回りこむが――残り0m――
その瞬間に3人の首が音もなく跳ね飛ばされていた。
その首を断ち切った我輩の兵装は……剣、単分子の厚みしかない、あらゆるもの切り裂く
極薄の刃だ。欠点はすぐに折れるところだが、今回は無事だったようだ。
やれやれ、またもや命拾いしたようだな。
中央の10人――5人ずつ二列横隊になっている部隊に、ドナルドが襲い掛かかった後がある。
まさしく、惨劇の後だ……サイボーグはその誰もが、力任せに腕を、足を、首を引き抜かれ
無残な姿を晒している。その瓦礫の中心に、奇怪な笑みをその顔に貼り付けた男がいる。
銃撃に晒されて服はボロ屑になっているが、体は無傷……その姿はまさに「狂った暴君」であった。
その瓦礫の山に動きがあった。首が不自然に折れ曲がり、両腕がないサイボーグがなんとか
起き上がり、入口に向けて走り出した。
ぎりぎりで、致命傷ではなかったのだろう。もはや、脇目もふらず逃げ出している。
誰も追いかける者はいない。その事実に逃げ出したサイボーグは安堵している。
なんとか、生き延びられる。そんな感情が彼を支配している。
その先に、AA隊のジョーカーがいることも知らずに……
サイボーグが扉を抜けた。これで助かる……廊下を走り抜けた彼に、不思議な感覚が襲う。
上下の方向感覚がなくなり、自分が立っているのか、倒れているのかも分からなくなる。
ゴトンッ
何かが廊下に落ちる音がした。サッカーボール程の大きさの、重量物が落ちた音に似ている。
――おかしい? 倒れたつもりはないのに、何故、地面を見ているんだ?
というか、足が動かない……あれ? 目の前にある体は……オ…れ…ナの…か?――
首だけになり、自分の体を離れた場所で見つけたサイボーグはその機能を停止した。
「いや~ サイボーグがこっちに来た時は怖かったな~」
ミニー少尉が、指をワキワキと細かく動かしながら、部屋に入ってくる。
先程、廊下に飛び出したサイボーグの首を切断した、ワイヤーを回収しているのだろう。
目に見えない程細いワイヤーに、ダイヤモンド粉末を塗した逸品だ。
ミニー少尉の技量も相まって、その切断力は折り紙付きだ。
「よくそんなことが言えるな……まあいい、早いところ、
奥に向かうとしようではないか」
辟易しつつ、呟いてしまう。すでに4人は部屋の中に集まっている。
4人は各自、現状確認を手早く済ませ、移動を開始する。
―ゲゼルシャフト第5研究所 第5区画 研究所最深部―
その部屋に入った第一印象は汚い……いや、よく見るとわざと荒らしたように感じた。
サイボーグの研究区画なのだろう。よくわからない計器類と、手術台、薬品棚、
オイル、そして人型機械の設計図が貼り出されている。
そのいずれもが荒らされ、壊されている。特に酷いのは、備え付けの大きなPCは念入りに破壊されている。
「どうやら、データを回収するだけして、研究者たちは逃げ出した後のようだな」
カーネルが、残っているものを見渡しながらぼやいた。
ため息を吐きつつも、他の3人に指示を出す。
「仕方ない……残っているとは思えないが、何か手がかりになる物を探すとしようか」
ダラダラと、めんどくさそうに動き出す3人……マシなのはミニー少尉くらいだ。
もっとも、彼女の場合は有益な情報を見つけたときに、どこかに高値で情報を売りつける
下心があるためだろうな。
小一時間ほど探していたところ、九鬼がある書類を見つけた。
「…おい、ちょっとこいつを見てくれ」
作業台の上にその書類を投げて、全員に見えるようにする。
その書類には次のことが記されていた。
―次世代型 機械兵士開発案―
・現状の機械兵士(サイボーグ)は確かに生身の兵士より強力だが、弱点という意味では
生身の人間よりも多いという問題点がある。
この問題点を克服するために、私はひとつ提案する。
機械の体に、人の精神などという不確かなものを入れるから、エラーが出るのだ。
ならば、人の精神を0と1の二進数に分解し、完全なるAI制御を……
人の判断力を持つ、知能をもったソフトを作れば解決すると断言しよう。
・このソフトの良いところは、同じ人格をコピーできるところにある。
もしコピーを行い、同じ思考を持つサイボーグを開発できるなら
それは、同一人物と言っても差し支えない。
そうなれば、作戦行動・連携行動などを完璧に近い連携率で達成できるだろう。
《化学式や、難解な専門用語が記載されているため、中略》
・以上の観点から、人の精神をAIに投射することは可能である。
よって、次の被験者により実験を行うものとする。
また、これより次世代型機械兵士のことを「ネクスト」と呼称する。
・被験者名 ネクストM型・・・ハン・バーグラー 備考・・・遺伝子進化研究所にて発見
gene projectの被験者
ネクストF型・・・ナインチェ・プラウス 備考・・・人の持つ可能性の、コードネーム[099]と
長時間過ごした経験有
開発総責任者:メイヤー・マック
その書類を確認した4人の反応は、皆、似たり寄ったりだが……一番近い感情は、困惑だろう。
ミニー少尉が確認のために発言する。
「ハンとナインチェって……あの時死んだはずだよね~?」
「確かに、殺したはずだ……遺伝子進化研究所を壊滅させた時にな」
過去を思い返し、反芻するようにカーネルが答えた。
その表情はひどく険しい。
彼らのルーツを考えれば、それも当然と言ったところか。
それとは対照的に、残りの二人は凶悪な……嬉しそうな笑みを浮かべている。
「HaHa♪ まさか、またハンと殺し合いができる可能性が出てくるナンテ!
ああ、ドナルドは楽しみだな……前の時は最高だったしネ」
「あいつを……もう一度殺せる。確かに魅力的な誘いだな。
世界広しといえど、愛した女を二回も殺せるなんてめったにあることじゃねぇしな」
物騒なことを口走る二人……以前の戦闘でも思い出しているのだろう。
下手にツッコミを入れて、暴走されても適わんので無視しておくことにしよう。
「しかし、どうするのかね? 当初の目的である、トンヌラとの接点が見つからない以上
もうここに用はないと思うのだが」
我輩の提案に、思いのほか早く答えるカーネル。
すでに心の中で決意は固まっていたのだろう。
「無論、このネクストなどという、ふざけた研究を壊滅させる。
この開発案の日付は約10ヶ月前……既に、試験機は完成しているだろう」
「でもさ~ そこまでする理由はあたいたちにないよ~?
トンヌラなんて、叩けば埃ばっかり出てくる身なんだからさ~
このまま帰るのも、ありじゃないかな~ 」
ダンッ
カーネルは拳を握り締め、書類の載った作業台を叩いた。
その衝撃で、作業台の端にあったガラクタが落ちる。
「確かにそうだ、その通りだ。
しかしミニー少尉……貴様はこの新たな機械人形を見て何を思う?
私はな、戦争や個人の闘争は厳粛であるべきだと思う。
他者と命のやり取りをするということは、殺す相手の命を背負うということだ。
それを、このような人形を許せば、戦争はただの金持ち達の道楽ゲームになってしまう。
人を殺すという事は、殺される覚悟がある者しか行ってはならない行為だと私は思う。
まあ、このような人間らしい理由を述べたがね……一言で言うと、気に入らないからだ」
いつになく饒舌なカーネルは心情を露にする。
それほど、この研究が気に入らないということだろう。
かつての仲間が関わっていることも、関係しているかもしれないがな。
「じゃあ~ 次の目的は決まったね~ 」
あっけらかんと、特に明るくミニー少尉が言う。
その雰囲気に乗って、我輩も発言する。
「ああ、次の相手は……ネクスト共だな」
兵士達の信念がぶつかる時は……近い
To be continued
最終更新:2012年05月26日 10:20