大きな教会だった。学校の校舎ぐらいはありそうな、古めかしい立派な外見を有している。礼拝堂である本館を挟んで、寄宿舎と孤児院が東西に建っていた。
「ロハス、リック、ジョーは正門から西館を。残りは東館にいけ。僕とガルシアは礼拝堂を探す」
無言で頷き、部下が散開して行く。
僕らはそれを見送る事もせず、壁沿いに素早く礼拝堂へ接近した。

「鍵は?」
「掛かってない」
正面玄関ではなく、建物横の小さなドアに僕らは取り付いた。

ドアノブをガルシアが回し、すこしだけ開ける。隙間からワイヤーの有無を確かめた僕はドアを勢いよく開け、M733-SOPMODを構えて中に滑り込んだ。

電灯が落とされているからか、ひどく薄暗かった。M733-SOPMODの筒先に取り付けたフラッシュライトを起動し、木張りの床にコンバットブーツを這わせた。
銃口とリンクした視線を素早く振り、屋内を精査する。僕の横をすり抜けるようにして、ウルティマックスLMGを手にしたガルシアが先行した。
角で立ち止まり、先に僕が飛び出す。ドットサイトを通路にポイントしながら、
「クリア」
「OK」
ガルシアが僕の肩を叩いた。僕は慎重に前進しながら、せわしなく視線を動かす。

どうやら礼拝堂の外周通路のようで、僕たちはぐるりと建物の外側を回り、正面玄関脇に出た。

「敵影なし、気配なし、トラップも確認できず。ぬこ殿の情報ミスか」
「気を抜くなガルシア」
「わかってるよ」

豪奢なステンドグラスから月明かりが差し込み、礼拝堂のなかをうっすらと色とりどりに照らし出している。
僕らは木製の座席や、牧師が使う台などが作り出す影に気を配りながら、月光の装飾に身を乗り出した。

「レフトクリア」
「ライトも同様。上方にも異常はない……いや、まて…」

ガルシアが唇に人差し指を当て、礼拝堂の壇上を指指す。
僕は息を詰め、銃口を壇上に向けながら耳を澄ませた。
冷たい夜気に、小さな金属音。爆薬の類を疑った瞬間、壇上から控えめな、それでいてしっかりと響く「月光」が流れ出した。

「警戒」
「やってるっ」

誰かいる。それはつまり、今僕らは危険な状況だという事だ。
ライトの光条が礼拝堂の壁を舐めまわし、複雑な影模様を作り上げる。一階を確認し、2階の屋内バルコニーまで確かめた僕は、間髪いれずに壇上にM733-SOPMODを向け直す。

人の気配を感じた。ライトが教壇にぶち当たり、その向こうの「誰か」を影が覆い尽くす。

「出てこい」

月光の美しい旋律が、しんと静まり返った空間に染み入るように響いている。時折、頭上で空気が振動しているのは、仲間が空戦を繰り広げているからだろうか。

「出てこいと言った」

二度目。応答はない。僕がトリガーに指をかけると返事の代わりに乾いた拍手の音が教壇の向こうで発した。
「いやはや、君は変わらないなユーリ。出て行ってもいいけど、ライトは消してくれないかな?」
眩しいからね、と付け足した男の声。聞き覚えのあるその声に、
「君は誰だ」
ライトを消し、半ば”確信に近い”モノを抱きながら僕は返す。

「わかっているだろう? 俺の事を忘れたとは言わせないよ」

月光を背に、スーツに身を包んだ男が現れる。プラチナブロンドの髪が月明かりを浴びて青味がかった輝きを放っていた。不敵な笑みを唇の端に刻んだ、美貌の青年。彼の名は……

「ああ、本当に久しぶりだな。……セルゲイ・ルクサース・カミンスキィ」

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最終更新:2012年03月02日 01:22