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部員めぐり・穏乃

607 名前:4月9日(火)[saga] 投稿日:2013/06/25(火) 05:25:11.76 ID:gJOGb28Do

俺は――



考えた。

考え抜いた。

布団にくるまり。

鈍いまどろみの中で。

これまでの俺自身のこと。

次にこれからの俺自身のこと。

遥々奈良まで来て何がしたいのか。

麻雀部に入って何をするつもりなのか。

そのへんのなんやかんやをあれこれ考えて。

ショート寸前の思考回路が導き出すひとつの解。



――諦めるか、攻略。

624 名前:4月9日(火)[saga] 投稿日:2013/06/26(水) 01:27:54.89 ID:wpCub4ejo

……
…………
………………

教室の喧騒の中で、昨夜のことを思い出す。

あれはまさしく苦渋の選択と呼ぶに相応しかった。

新子さんとは仲良くなりたい。

しかし神はそれを許さず、残酷なトラブルとアクシデントの波状攻撃が俺達を襲った。

入学初日と部活初日、たった二日の間にだ。

それから数日が経った程度では、未だに新子さんからの当たりが尋常でなく厳しいのも無理からぬこと……うん、からぬからぬ。

このまま新子さん一人に拘泥すれば、その過程で周囲の心証をも悪くしてしまう恐れがある。

俺の目標は青春を謳歌することだ。

故に今、勇気が求められている。

順番を入れ替える勇気が。

即ち、新子さんの攻略は一旦保留。

先に同じ部活の仲間との親交を深める。

それこそが、俺が暗中に見出した唯一の活路なのだった。

625 名前:4月9日(火)[saga] 投稿日:2013/06/26(水) 01:57:35.49 ID:wpCub4ejo

と、いう訳で。

短い休み時間、素早く行動しなくては。

颯爽と席から立ち上がり、身体ごと横を向く。

京太郎「おーい、新子さーん」

憧「……なに?」ジトッ

うーん今日も平常運転。

しかし俺の方は一味違う。

京太郎「穏乃って隣のクラスだっけ?」

憧「、へ?」

京太郎「穏乃。隣のクラスだったよな確か」

憧「そうだけど……しずのクラスなんて訊いてどうするのよ?」

京太郎「もちろん会いに行くに決まってんだろ」

憧「は?」

京太郎「んじゃなー」

憧「あ、ちょっと!?」

627 名前:4月9日(火)[saga] 投稿日:2013/06/26(水) 03:02:28.44 ID:wpCub4ejo

京太郎「となりのしっずの♪ しっずーのー♪」フンフン

俺が作詞作曲を手掛けた圧倒的オリジナルソングを口ずさみながら廊下に出る。

憧「ちょ、ちょっと待ちなさいってば!」

すると新子さんに呼び止められた。

京太郎「どーした?」

憧「………………あたしもついて行く」

京太郎「!?」

なん……だと……

急がば回れ作戦がこんなにも早く効果を上げたというのか?

しかし俺の見立てでは彼女はまだツン期の真っ只中のはず……

……待てよ? つまり? これは?

「あのセリフ」を言わせるチャンスなんじゃなかろうか。

そう考えた途端、自然と口が動いた。

京太郎「新子さん、もしかして………………ヤキモチか?」キリッ



憧「勘違いしないでよね。別にそんなんじゃないんだからね。須賀くんがしずにヘンなことしないか心配なだけなんだからね」

京太郎「あ、はい……」

真顔で言われたぁ……

654 名前:4月9日(火)[saga] 投稿日:2013/06/27(木) 01:45:56.37 ID:V211d0tqo

気を取り直して隣の教室へ。

京太郎「えーっと……あ、いた」

窓際でクラスメイトと談笑しているようだった。

憧「良かった、あたしら以外にもちゃんと友達いたんだ」ホッ

京太郎「ひでーな……おーい、しz」

新子さんの毒舌(無自覚だろう。だよな?)に呆れながら、俺は穏乃を呼――ぶのを中断した。

憧「なに、どうかしたの?」

京太郎「いや……」

新子さんに訝しまれながら、俺は考える。

他のクラスから来た男子にいきなり名前で呼ばれていたら、穏乃は自分のクラスメイトにどう思われるだろう。

考え、加味した結果、

京太郎「……高鴨~」

憧「??」

日和ったった。

655 名前:4月9日(火)[saga] 投稿日:2013/06/27(木) 02:21:46.18 ID:V211d0tqo

穏乃「でさーくさくってさー」アハハ

「へーそうなんだー」ウフフ

しかし聞こえてないっぽい。

注意する余り声が小さ過ぎたか。

京太郎「高鴨ー」

中くらいの声量でリトライ。

穏乃「」ピクッ

おっ。

穏乃「?」キョロキョロ

不思議そうに教室内を見渡す穏乃。

どこの誰に呼ばれたかまでは分かっていないのか。

仕方ない、もう少しだけ声を張ってみよう。

京太郎「たーかーかーもーっ」

こっちこっち。廊下廊下。

穏乃「!」

今度こそ確実に聞こえたらしく、とうとう目が合った。

すると穏乃はパァッと笑顔になって立ち上がり――



穏乃「京太郎ー! 憧ー!!」ブンブン

京太郎「オレノドリョクガー!!?」ガーン



――元気一杯、大声と共に手を振りやがる穏乃に、俺も思わず声を荒げてしまった。

657 名前:4月9日(火)[saga] 投稿日:2013/06/27(木) 03:04:38.63 ID:V211d0tqo

  ざわ...
           ざわ...
     ざわ...

京太郎「あああ……」

案の定、広がるざわめき。

多くの視線が俺と穏乃へ交互に向けられる。

憧「何やってんだか……」

今まで静観していた新子さんも呆れている。ぐうの音も出そうにない。

京太郎「ぐう!」

憧「!?」ビクッ

出た。

穏乃「どしたのっ?」

そうこうしている内に、穏乃がとてとてと駆け寄って来た。

本人こそあっけらかんとした表情だが、その背後では――

「うそ、高鴨さんに男子の来客……!?」ガタッ
「ないないないないノーウェイノーウェイ」ガクガク
「まさか入学一週間で彼氏……? メゲるわ」カタカタ

姦しいことこの上なかった。

京太郎「あー……とりあえず廊下に出よう。な?」

穏乃「?」キョトン

659 名前:4月9日(火)[saga] 投稿日:2013/06/27(木) 03:18:56.77 ID:V211d0tqo

三人で廊下の窓際に並ぶことに。

京太郎「ふぅ」トスッ

穏乃「ほっ」ポスッ

憧「……」

憧 京 穏

 窓 窓 窓



  京 穏 
 窓 窓 窓


    憧
  京 穏 
 窓 窓 窓


  京 穏 憧
 窓 窓 窓

泣かねぇ。

662 名前:4月9日(火)[saga] 投稿日:2013/06/27(木) 04:20:43.10 ID:V211d0tqo

穏乃「で、本当にどうしたの? なんか用事?」

京太郎「用事ってほどじゃないんだけど……穏乃と話したくってさ」

穏乃「私と?」

京太郎「おうよ。部活のメンバー同士仲良くしようぜ」ニッ

穏乃「おぉー! 友情って感じでなんかいいね! なに話す!?」ワクワク

京太郎「その前に。お前、さっき俺のこと名前で呼んだよな?」

穏乃「呼んだよ? ていうか京太郎こそなんで苗字で? 穏乃でいいって言ったよね?」

京太郎「いや言われたけどさ。部活以外の場所で呼ぶと人目とか気になるかなーとか思ったんだよ」

穏乃「人目? ならないならない! 友達なんだから気にすることないじゃん!」ペカー

京太郎「おおお……」

なにこの新鮮な反応。

拒絶されない――たったそれだけのことが泣きそうなぐらい嬉しい。

自分で感じていた以上に傷付いてたんだな、俺。

665 名前:4月9日(火)[saga] 投稿日:2013/06/27(木) 04:52:04.03 ID:V211d0tqo [7/10]

京太郎「お前……いい奴だなぁ」ナデナデ

穏乃「ふぉ」

気が付けば俺は穏乃の頭を撫でていた。

まったくの無意識だった。

すかさず新子さんが吠える。

憧「ちょっ、なにいきなり女の子の頭撫でてるのよ!?」

京太郎「あ、悪い。つい」ナデナデ

クセで。

咲よりもいくらか低い位置にある頭は非常に触り心地が良く、いつまでも撫でていられそうだった。゙

憧「だから撫でるのやめなさいったら!」

京太郎「ウィッス」パッ

「いつまでも撫でていられそうだった」じゃねーよって話ですよね。

668 名前:4月9日(火)[saga] 投稿日:2013/06/27(木) 06:29:33.73 ID:V211d0tqo

穏乃「えー、もうやめちゃうの?」

「「!?」」

京太郎「し、穏乃サン?」

憧「しず、あんた今……なんて?」

穏乃「気持ち良かったから続けて欲しいな~」

「「!!?」」

固まる。

俺が、新子さんが、それぞれ驚愕に硬直する。

指一本たりとも動かせないレベルの緊張。

俺が新子さんより早くその状態から抜けられたのは、まったくの幸運だった。

京太郎「………………撫でていいの?」

穏乃「いいよー」

いいらしい。

女の子ってわっかんねー。

思わず穏乃と新子さんを見比べてしまう俺だった。

671 名前:4月9日(火)[saga] 投稿日:2013/06/27(木) 07:02:56.28 ID:V211d0tqo

京太郎「えっと、じゃあ、まあ」スッ

ぽす。

なでなで。

穏乃「ん……んへへ……♪」ニマ

どんな笑い方だ。

目を細めて俺の手を受け入れている穏乃。

犬か猫を愛でてるみたいで、とても心が和む。

京太郎「お客さん、どこか痒いところはございませんかー」ナデナデ

穏乃「ございませーん……ってそれ違うから」テシッ

などとゆるいやり取りを楽しみながら。

結局、休み時間が終わるギリギリまで俺は穏乃の頭を撫で続けた。





その際、ようやく硬直の解けた新子さんから、

憧「しーずー! 髪っていうのは女の命で、男に気安く触らせていいものじゃないんだからね!? ちゃんと分かってるの!?」

穏乃「???」

とか説教されてたが、本人はイマイチ分かっていない風だった。
最終更新:2013年10月16日 00:45