投稿者:美貴 投稿日:2005/11/03
それぞれの人たちの、それぞれの最後。
もしも、今日で世界が終わるなら、貴方はどうしますか?
世界が終わるまでに、今日、何ができるだろう?
※パラレルです。政治団体や国とは何の関係もありません。
CASTはまだ未定ですが、年長戦士が現役・OB(OG)問わず出てきます。
目次
「今日でこの世界はなくなります」
その報告を、それぞれの場所で聞く全世界の人間たち。
そして、最後のこの日に何かしないと、と焦りだして、動き始める。
もう、働いたって何の意味もないから、テレビ局も放送をやめてしまい、
電車などの交通機関もストップ。
開いている店なんか、ほとんどないに等しい。
最後のお知らせが、ラジオという手段で人々に伝わった。
「……核ミサイルが…全世界………日本も迎撃……」
電波が悪くて、良く聞こえない。声とノイズが混ざり合う中、
その言葉だけは、不思議と正確に自分の耳に伝わる。
「明日の午前0時で日本は滅び、午前11時までにこの世界は滅亡します」
そして、ラジオ局も最後の放送を終わり、
ラジオだったはずのその箱からは、ノイズだけが、流れている。
きっかけなんて、本当に些細なこと。
ある、経済的にも有力な国の重要ポストに着いている人が、
酔っ払って、誤って許可を下してしまった。
コンピューターはそれをそのまま受理し、
その国からあらゆる国へと核ミサイルが放たれた。
そして、軍事衛星がそれに反応し、
迎撃ミサイルを、また、あらゆる国へと放った。
報復のための、自衛のためのステムが、
これから、全てを滅ぼそうとしている。
それぞれの国は、それぞれの時間に滅び、
明日の午前11時には、この世界は、完全に滅びる。
それを知った人々の行動は、明日を恐れ自殺するものもいれば、
どうせ警察ももう動かないからと犯罪に手を染める人もいれば、
最後は自分らしく生きたいと願う人もいる。
けれど、全ての人々の運命は一緒で、
今日、何をしようとも、明日には皆、跡形もなく無くなってしまうのだ。
ラジオを聴いた私の決断。
最後の今日をどう過ごすかは、すぐに決まった。
「ナナセ、父さんと母さんは、おばあちゃんの家に行く。
おまえは、どうする?」
両親は、最後のこの日を、自分の両親と共に過ごすことに決めたのだろう。
「……やめておく」
「……そうか」
少し考えた後に返事を返すと、父の寂しそうな声が返って来た。
「ごめんね……。
でも、私は、私の大切な人のところへ行くって決めたから」
「そう……、そうね。それがいいわね」
母が、そう言って少し悲しそうに笑ってみせた。
「お母さん、いつもお弁当ありがとう。美味しかったよ」
「ナナセ…良い子に育ってくれて、ありがとうね」
そう言って、母は私をぎゅっと抱きしめた。
「ナナセはまだ15年間しか生きていないのに……残酷なことだな」
「そんなことない。私、15年間精一杯生きたもん。
今までありがとう、お父さん」
父も、また母と同様に私を抱きしめた。
そして、両親の最後の笑顔を見て、見送った後に、
私はテーブルの上に放ったらかしだった携帯を手に取った。
慣れた手つきでその人の名前をアドレス帳から出して、メールを打った。
「今日、暇?」
いつもと同じ感覚でメールを打つ。返事はすぐに来た。
「メールはまだ繋がるんだね。電話はもう繋がらないみたいだけど。
すっごく暇してるんだ、うち、来ない?」
彼女のメールを見て、少し微笑んだ。
彼女も、いつも通りだったから、嬉しかったんだと思う。
私は鍵なんか閉めず、携帯だけポケットに入れて、
他は何も持たずに家を出た。
犯罪が多いと予測される繁華街をできるだけ避けて、
路地裏とか出来るだけ目立たない道を通って、彼女の家まで駆け足。
インターホンを鳴らすと、彼女はすぐに出てくれた。
「いらっしゃーい!待ってたよ」
「お邪魔しまーす」
そう言って、いつも通りに彼女の家に入った。
家の中はやけに静かだった。
「ハルナ、家族の人は?」
「皆でかけちゃった」
「そっか」
「紅茶、淹れてくるね!それから、お菓子も持ってくよ!」
「ありがとう!」
私はそう言って、先に彼女の部屋へと足を運んだ。
最後の日の彼女の部屋も、やっぱりいつも通りだった。
明日は本当に来ないの、なんて思っちゃうぐらい。
私たちはこの時間までの今日を、普通に、いつも通りに過ごしていた。
「お待たせー!」
そう言って、彼女は大きめなトレイに、
暖かい紅茶とクッキーとチョコレートを持ってきた。
「はい、いつものでよかったよね?」
「うん!ハルナの特性のミルクティーでしょ?」
「そうだよ」
そのあと、また、いつもように他愛もない会話をしたあと、
ハルナの顔はいきなり真面目な表情になった。
「……こんなにさ、普通なのに、明日はもう来ないんだよね」
「……うん、そうだね」
「私さ、明日は必ず来るんだって思ってた」
「あはは、それは皆一緒だよ、きっと」
「そうだね」
私たちは、そう言ったあと、また少し微笑んで、
他愛もない会話に話しを戻した。
どんなにシリアスな会話をしている人たちも、
こんなバカバカしい会話をしている私たちも、
待ち受けている運命は一緒なんでしょう?
なら、少しでも、楽しい最後でありたいじゃない。
もっと遊べばよかったとか、橋本君に好きって言えばよかったとか、
ハルナともっと一緒にいたかったとか、
両親は無事におばあちゃん達と会えたのかなとか、
後悔なんて、悔やみなんて、言い出せばキリがないもの。
だから、そんなマイナス思考な考えよりも、
両親との最後の笑顔でよかったとか、今まで生きることができてよかったとか、
一番最後を親友と過ごせてよかったとか、今の幸せに感謝しよう。
「わー、もう11時だよ!」
「ほんとだ!すっごいよ、私たち。
お昼ごはんも食べずにずーっと喋ってるもん!」
「あはは、でも、お菓子はこーんなに食べたけどね?」
そう言って、空になったクッキーなどのお菓子が山ほど入っていた缶とか、
スナック菓子の袋を2,3袋見せる。
「あちゃー、太るよ、コレは」
「しかも、ミルクティーとコーラだからね」
「きつー!」
私たちはそう言って大笑いした。
お腹を押さえて、転げて、たくさん笑った。
ハルナは、ふと立ち上がって、カーテンを開けて窓の外を覗いた。
「わ!ナナセ、見てみなよ!空、ヤバイって!綺麗すぎ!」
「マジで?」
そう言って、私もハルナと一緒に夜空を見上げた。
そこには、星と月だけの世界があって、本当に綺麗だった。
「……ナナセ、私ね思うんだ」
「え、何?」
ハルナは、少し切なげで、でもしっかりとした口調で、私に声をかけた。
「私たちね、あれに還るんだよ」
「……星に?」
「うん、星もそうだけど、地球が生まれるずっとずっと前に還るの。
皆で、宇宙に還るんだよ」
「そっかあ、そうだね」
私はそう言って微笑んだ。
そうだよね。私たちは、皆で宇宙に還るだけ。
「……それなら私、恐くないなあ」
「うん、私も!だって、また宇宙でハルナと会える気がするもん」
「あ!凄い!私、今ナナセと同じこと考えてたんだよ!」
「以心伝心じゃん!」
私たちがそう言って笑いあって、空を見上げていたときだった。
真っ白な光が私たちを包んで、何もかも、ハルナも見えなくなった。
私たちは、皆で一斉に宇宙に還っただけだから、ひとりなんかじゃないんだ。
今日が世界の最後の日って、そんな知らせを聞いた後、
私は一目散に家を飛び出して、愛しい人の家へ向かった。
「リホ!」
「ゴウキ!」
半分ぐらいまで走ったところだった、
彼も私のところへ来ていた途中だったらしい。
道端で会った私たちは、人目なんか気にせずに、強く抱き合った。
「……ゴウキ、会えてよかった」
「俺も……。今日、会えなかったら、俺、死んでも死にきれねえもん」
そう言って、ゴウキは軽く笑った。
その後、私たちは近くの公園に入った。
いつもはたくさんいる子供達は勿論いなくて、
私とゴウキと遊具だけの静かな公園は、少し奇妙だったけれど、
ゴウキが横にいるという事実がひたすら嬉しくて、
そんなことは気にしなかった。
「……びっくりしたよね」
「…うん、そうだな」
「って、びっくりしてない人間なんて、いてないだろうけどね」
私はそう言って、苦笑いをこぼした。
だっって、そうでしょ?
私たちは皆、明日は必ず来るものだって信じて疑わなかった。
まさか、こんな日が来るなんてこと、
少しだって考えてもいなかったのだもの。
そんなことを考えていると、隣でゴウキが少し微笑みながら口を開いた。
「でもさ、俺……、ちょっとすっきりしてんだ」
「え?」
「確かにさ、やっぱ恐いとか思うよ?
でも、何だろな、なんか、すっきりしてる。
俺さ、今まで、バスケすっげぇ頑張ってきたじゃん?
やっぱそれはさ、将来、なりたい自分があって……、
将来があったから頑張れたわけじゃん?」
「……うん、そうだね。
将来がないなんて分かったら、頑張ったって意味がないもんね」
「だからさ、……もう頑張らなくていいんだとか思うと、
少しほっとした気もする。
勿論、もう出来ないってのも悲しいって思うよ?
皆と、おまえと会えなくなるのも悲しいし寂しい。
でも、今まで頑張ってきたから、大丈夫だって、
どこかでそんな確信があるんだ」
ゴウキの顔は、最後の日だなんて思えないぐらい、
自信に満ち溢れていて、笑顔で、格好よかった。
私は、どうだろうな?どんな顔しているのかな?
最後の日ぐらい、ゴウキみたいに格好よく終わりたい。
でも、私にはゴウキが全てだったから、
ゴウキがなくなると、何もなくなってしまう。
「……ゴウキには、頑張ったってことが残る。
でも、私には何も残らないね」
私がそういうと、ゴウキは呆れたような顔をして、私を見た。
「バーカ。あるだろ?1個ぐらいは残るもんが」
「え……?」
私がそういうと、ゴウキは少しの間もあけずに、
自分の唇と私の唇を重ねた。
目の前にいるのは、愛しのゴウキだけで、
その数秒間が、永遠にすら感じた。
「……おまえが俺を愛してて、
俺がおまえを愛してたっていう事実も、ずっと残るだろ?」
「…そうだね」
「それから!今、キスしたってことも」
「今私が抱いてほしいって思ってることも?」
私が、いつもよりも少し積極的になってそういうと、
彼は少し驚いたように笑って、私をぎゅっと抱きしめた。
ああ、この暖かさも、残る。
なら、大丈夫だね。私たちが消えたって、大丈夫。
私にもそんな確信が生まれて、お互いに抱きしめたまま、
その後の最後の時間を過ごした。
「……リホ」
「なーに?」
「……あの世ってあるとか分かんねえけどさ、
このまま俺達が消えても、ちゃんと愛が残るんなら、
俺達、また会える気がする」
「…私も、そんな気がするな」
私たちはそう言ったあと、また少し離れて、口づけをした。
いつの間にか、周りは暗くなってだいぶ経つ気がする。
公園にある少し大きな時計台を見ると、
もう、11時50分をまわっていた。
「ね、もうすぐ0時だよ。あと、10分ぐらい」
「10分なんて、すぐだな」
「カウントダウンなんて、したくないね」
「ああ、嫌だね」
私たちはそう言って、時計が見えぬよう、
抱きしめたまま、またキスをした。
最後は、互いの体温を感じ、互いの愛を感じながら、消えてゆこうよ。
私たちを真っ白な強い光が襲ったのは、
そんなことを考えたすぐ後だった。
私たちが消えても、残るものがあれば、大丈夫だよね。
今日で世界が最後、なんて言われても、
やっぱりそんなにすぐ実感なんて沸くものじゃなくて。
両親は2人で最後の1日を過ごすと言っていた。
俺と姉貴も自分の好きなように今日を過ごせと言われて、
姉貴は迷わず彼氏に会いに行った。
俺は、何もすることが思い浮かばなくて、とりあえず、外に出てみた。
繁華街は危ないと、通りすがりの誰かが言っていたのを聞いて、
俺はそういう道は避けて、東京都内でも、
わりかし目立たないような道を選んで歩いた。
途中、小さな公園があって、ふと何気なく見てみると、
同年代ぐらいのカップルが抱き合っていた。
姉貴も、今頃彼氏の家でこんなことしているのかな?
なんて考えてどこに向かうわけでもなく、ひたすら歩いた。
残念ながら、俺は、生まれてこの方1度も彼女というものがいなかった。
彼女というものを知らないまま死んでいく。
まあ、別にそういうことはいいけど。
もともと、恋というものにはあまり興味がなかったから。
ドンッという音がして、はっとして振り返った。
ヤバイ、誰かにぶつかった。
「あ、すんません!つい、ボーっとしてて……」
「いえ!こちらこそ…って……リュウイチ?」
「……チヒロじゃん」
そこには、去年、隣の校区に引っ越した元クラスメイトのチヒロがいた。
そういや、結構歩いたもんな。
「わー!ひっさりぶりだねー!」
「おう、ほんと、1年ぶりぐらい?」
「どう?元気?……って、明日にはみんな消えちゃうんだったね」
チヒロはそう言って、寂しそうに笑った。
「…まあ、な……。そうだ、チヒロ、これから暇?」
「超暇!友達は彼氏と過ごすって言うしさ。何?リュウイチもなの?」
俺は笑って頷いた。
「やった!仲間だ仲間だ!」
「俺ら寂しいー」
「まあまあ、今日、ここで会えたのも何かの縁だしさ!
一緒にどっか行こうよ!」
チヒロはそう言って、歩き出した。
俺も、その隣を合わせて歩く。
チヒロとは、よくバカみたいなことで騒いでいた。
小学校の6年間、中学校の1年と同じクラスだった俺達は、
その辺の友達よりも仲が良かった。
「そうだ!聞いてよ、うちの学校の社会の先生さ、すっごくウザイの!
明日でアイツも死ぬと思うと、ちょっと嬉しかった」
そう言ってチヒロは軽く舌を出して笑った。
「ひっでえ奴ー」
「えー、リュウイチだってそういう人いない?」
「まあ、いないこともないかな……」
「じゃあ一緒じゃん!」
そう言って、俺達は、行くあてもなく、歩き続けた。
しばらくすると、見たこともないような景色になって、
チヒロはあるものを見つけた。
「あ!見てよ!あれ、桜の木だよ!」
そう言って、チヒロは少し駆け足で、その木に駆け寄った。
少し枯れかけの桜の木は、どこか切なげだった。
「俺、桜ついてないと、桜の木とか分かんねえ」
「私、植物好きだもん!」
そういうと、チヒロは少し、悲しそうな、寂しそうな顔をした。
「……どした?」
少し気になってそういうと、彼女は苦笑いをこぼして言った。
「……この木もさ、なくなっちゃうんだよね」
俺は、彼女の言葉に耳をすませた。
「私さあ、実を言うとね、人間なんて汚い生き物、
滅びても、別に構わないと思った。
むしろ、他の生き物たちにとっては、その方が幸せなんじゃないかって。 でもさ、世界が終わるってことは、
他の生き物たちにとっても、同じなんだよね。
明日で、世界はなくなるんだから、みんな、消えちゃうんだからさ…、
そう思うと、ちょっと寂しいなあって」
そう言うチヒロの顔は、今までみるどんな笑顔よりも綺麗で、切なかった。
俺は、言い返す言葉を捜すけれど、なかなかうまい言葉が見つからない。
チヒロはそんな俺を察して笑ってくれた。
「気にしないでいいよ!ごめんね、変なこと言っちゃってさ!」
「あ、いや、別にいいんだけど……その」
「リュウイチからうまい言葉が出るなんて、
最初っから期待してないから大丈夫だよ?」
「うわ、きっつー…」
俺はこのとき初めて、明日で世界が終わるのだと、確信した気がした。
そして、それと同時に俺の中に生まれたのは、恐怖という感情だった。
世界が終わって、俺が消えて、チヒロが消えて、周りが消えて、全てが消える。
それが、どうしても恐いのだ。
死ぬのが、恐い。
死ぬことに実感が沸くと、恐怖は止められなかった。
「……リュウイチ?」
「……」
チヒロが心配そうに俺を見るけれど、
それに応える余裕すら、今の自分にはなかった。
「……どうしたの?なんか、急に変になっちゃって…」
「……チヒロは平気なわけ?」
「え?」
聞いてはいけないことだったかもしれない。
でも、一度出した俺の声はとどまることを知らなくて、
気遣いすらない、そのままの素直な俺の言葉を、チヒロにぶつけた。
「……死ぬってさ、すっげぇ痛いんだろ?
おまえは恐くないわけ?平気なわけ?
植物の心配とかより、自分の心配とか、ないわけ?
……普通に考えて恐いだろ……。
死ぬんだぞ?植物だって、他の生き物だってなくなるかもしれねえけど、 何より自分が消えちまうんだぞ!?」
途中、何回も自分で自分をとめようとした。
やめろ、これはただの八つ当たりだ。大人気ない。
チヒロを傷つけて、何になる?
それでも、俺は、チヒロに言葉をぶつけることをやめなかった。
「……おまえの考えが分からねえ。
俺は、恐いよ、死にたくない。もっと、生きたい。
こんなところで死ぬなんて、そんなの嫌だ」
「……でもさあ」
チヒロが少し俯いて口を開いた。
そんなチヒロを見て、俺は、少しだけ冷静さを取り戻した。
「……でもさあ、どうせ死ぬんだよ?
どうあがいたって、死ぬんでしょ?」
「…それは……」
「なら、……最後が分かってるんなら、笑ってたいって思うじゃん。
私だって恐いよ、死にたくないよ。
まだまだやりたいことだって、いっぱいあるんだよ?
でも、これが私の運命なんだよ……。
どうにも変えられない、運命ってやつなんだよ。
だからさ、この運命を受け止めようよ。」
なら、運命すら変えてみせる。
心の中でそんな強気なことを言ってみたけれど、ただの悪あがきだった。
「大丈夫だよ、死ぬのは誰でも恐いんだから。
それに、私たちは死ぬんじゃない。
歴史が、元に戻る。それだけのことなんだから」
チヒロはそう言って、少し切なげに笑った。
「……そろそろ、行こう?」
「……ああ、そうだな」
俺達はそう言って、その後は無言のまま、歩いた。
周りはいつの間にか、真っ暗になっていて、
それでもチヒロと俺は無言のまま、歩き続けた。
そんなとき、チヒロがふと足を止めた。
「……あと、5分」
「え?」
「0時まで、あと5分だよ、リュウイチ……」
チヒロはそういうと、泣きそうになって笑った。
「笑おうよ…、ねえ、リュウイチも笑ってよ……私、最後は笑ってたいよ?」
「……うん」
俺も、色々な感情を抑えながら、笑った。
泣きそうになって2人で笑った。
急にあふれ出す涙。
感謝の気持ち。恐怖。寂しさ、悲しさ、悔しさ。
俺は、すべてを涙にたくして、白い光が俺達を包み、
俺達の歴史が崩される最後のこの瞬間まで、ずっと笑っていた。
きっと大丈夫、歴史が元に戻るだけだから。
「ううん、仕方ないよ。帰ってこれないのは」
私は自分に言い聞かすような口調で両親にメールを送った。
「ごめんね……ユキコにはいっぱい迷惑かけたわね」
「そんなことない。私、この家に生まれて良かった。ありがとう」
「サユリをよろしくね。…あの子、強がりだけど、怖がりだから」
「知ってるよ、本当に今までありがとう。お父さんにも伝えておいてね!」
「こちらこそ、私たちの子供になってくれてありがとう」
私はそのメールを送ったあと軽く笑った。
そして、それ以上返事は送らなかった。
世界最後の日、私の両親は仕事で大阪にいた。
交通機関はストップ。
もう、会えない。
今日、生き別れになってしまった家族は、
いったいどれくらいいるのだろうか?
私も、その中の1人だけど。
世界が終わる、なんて、思ってもなかったことだけど、
こうなってしまったのなら、仕方ないこと。
それぐらいは誰もがわかっているけれど、
誰もが感情を抑えることなんかできずに、
自殺をしたり、犯罪をおこしたり。
どうせ今日で終わるのに、そんなことに時間を使うなんて、
勿体無いのにね。
「サユリ」
私は1個下の妹のところへと行った。
強がりで恐がりの私の妹は、青いソファーに座り、クッションを抱きしめていた。
泣きそうな顔が、クッションの間から見えて、やけに切なくなった。
それを振り切るために、私は笑顔でサユリにもう1度話しかけた。
「サユリ!少し、昔話しようよ?」
「え…?」
私がそう言ってサユリの隣に座ると、
サユリは不思議そうな顔をして私の方を見た。
「サユリ、私ね、最後の日を大好きな妹と一緒に過ごせて嬉しいよ」
「……私も。今、隣にお姉ちゃんがいて、本当に良かった」
「だからね、私、最後の最後まで、サユリと笑顔でいたいな」
「……私もだよ!お姉ちゃん!」
サユリはそう言ってニッコリ笑った。
私も、笑った。
人生1番の笑顔を、人生の1番最後にできる私たちは、
きっと、どの世界のどんな人よりも、幸せに死ねるよね。
「それでさあ、サユリってばそのあとまーた泣いちゃって!」
「だーかーらー!それはお姉ちゃんとお母さんがさあ」
私たちは他愛もない会話に華を咲かせていた。
人生まだ16年と15年。昔話って言っても、
1,2時間で終わっちゃって、そのあとはこれからのことを話していた。
「私はね、純白のウェディングドレスがいいの!」
「あー、サユリ、白似合うもんねー!私はね、薄いピンクがいいなあー」
「あ、それも可愛い!」
これからもし、もっと生きることが出来たのなら、
どんなことが出来ただろう?
大学、就職、恋人、結婚、子供、孫、老後。
「子供にはさ、どんな名前付ける?」
「男の子ならソラで、女の子ならリエ!」
「あー、お姉ちゃんっぽいかもしんない!
私ならね、男の子ならツバサで女の子ならミユキかなあ?」
「あ…、ツバサっていい!ツバサ君ってなんかいい!」
その時間は本当に楽しくて、朝、泣きそうだったサユリが嘘のようだった。
お昼ごはんは特別に何か食べるのはやめて、
家に落としたチキンラーメンに卵をおとして食べた。
私たちがよく食べていたものだった。
美味しいね、なんて言って笑う私たちは、少し、切なかった。
夜になって、周りが暗くなってきた。
もう私たちが死ぬまでに、そう時間はかからないのだろう。
そのとき、サユリは、突然顔つきを変えて話し出した。
「お姉ちゃん、私ね、本当は凄く恐いんだ。
お母さんとお父さんにもう会えないのも、凄く辛いんだ。
でもね、今、私たちはきっと、誰よりも幸せだよ。
だって、1番大切な人の隣で、死んでいけるんだもん!」
サユリは少し、切なげに笑った。そして、私も笑ってうなずいた。
「……本当は、お姉ちゃんともっといっぱい生きて、
もっといっぱいしたいこもあったんだけど、
今が凄く幸せだから、それは我慢することにしたんだ!」
「私も、……幸せだよ、サユリ」
私がそういうと、サユリは私の手をぎゅっと握った。
それから、サユリは少し不安そうな顔で、私を見る。
「もし、あの世があったり、生まれ変わったりすることができるのなら、
また、私のお姉ちゃんになってくれる?」
近くて、でも近すぎて遠く感じるときもある。
そんな、妹っていう大事な位置にいられるのは、
サユリだけに決まってるじゃない。
「なーに言ってんの?当然でしょ?」
私ははそう言って、サユリの手をぎゅっと握り返した。
その瞬間、白い光が私たちを包んで、
私とサユリは手を繋いだまま、世界の全てのものと一緒に消えていった。
生きていても、死んでいても、私たちは仲良し姉妹だよね。
その知らせをラジオ越しに聞いた私は固まってしまった。
そして、すぐに走り出した。
会いにいかなきゃ、早く、早く。早く彼に会いにいかなきゃ。
昨日、彼氏と喧嘩したばかりだった。
理由は、彼氏が浮気紛いのことをしたから。
勿論、彼は違うと言い張っているけれど、
女の先輩と楽しそうに話しをして歩く姿は、
私にはそうとしか思えなかった。
それでも、つまらない意地を張って、
嫉妬したのは、彼を信じてあげられなかったのは、誰でもない自分。
謝らなきゃ。
謝って、最後の時間を一緒に過ごしたい。
私はそれだけを頭において、出来るだけ早く行こうと、繁華街を走った。
前から、男の人が来る。
でも、そんなの気にするわけもなくて。
ただ、通りすがるとき、腕に、激しい熱を感じた。
痛い、腕が、痛い。
「…っ………」
私は、腕を押さえて、その場に座り込んだ。
ぱっと後ろを振り返ると、
男は狂ったようにニヤニヤと笑って私を見ていた。
そして、彼は突然口を開いた。
「痛いか?痛いだろ!?でもなあ、どうせ明日には死んじまうんだ!
おまえも、この俺もな!」
男はそう言って、逃げるように走ってその場から立ち去った。
周りは一瞬私に目をやったけれど、ふと周りを見ると、
私みたいに誰かに傷を負わされた人は、たくさん転がっていた。
その中には、死体と思われるようなものもあった。
まだ、ナイフで腕を刺されただけでよかったじゃない。
死にやしないわ。
私は、そう考えることにして、
痛む腕をぎゅっともう片方の手で押さえながら、
彼の家へとできるだけ早く走った。
彼の家について、インターホンを押すけれど、
家からは誰も出てこなかった。
嘘?どうして?行き違い?
それとも、昨日のアレは本当に浮気で、
あの先輩のところに行っちゃったの?
ノゾミは今、どこにいるの?
大切な、愛しい人に、会えないかもしれないという不安と恐怖、
そして、絶望を感じて、私はその場に座り込んだ。
腕の痛みなんて、どうでも良かった。
目から、暖かいものがあふれ出す。
ああ、涙だ。私、泣いている。
「……ノゾミ…どこにいるのよ……?出てきなさいよ!」
私がそう叫んだときだった。
「………ツグ…ミ……?」
自分の背後から、彼の声が、聞こえて、私はゆっくりと後ろを振り返った。
そして、そこにいたのは、ノゾミ。
「……ツグミ…あの、っておまえ、怪我してんじゃん!」
ノゾミは私の名前を呼んで、何か言いかけたあと、
私の腕に気づいて、焦ったように私の方へ駆け寄った。
「うわ、結構深いな、こりゃ……。とりあえず中入れよ」
ノゾミはそう言って、私を家の中へ通した。
家には、誰もいない。私とノゾミと2人きり。
多分、家族の人たちは、どこかへ行っちゃったのだと思う。
私が、自分の家族に別れも告げずに、ここに来たのと、原理は同じだ。
「…しみるぞ」
そう言って、ノゾミは消毒液を私の腕にこぼした。
そのとき、急激な痛みが襲った。
ノゾミは出来るだけ優しく手当てしてくれたけれど、
やっぱり、しみたみたいだ。
「ま、これでとりあえずは大丈夫」
「……ありがとう」
ノゾミは最後にカーゼと包帯で私の腕を止血するかのように強く巻いて、
私を見てニィっと笑った。
「でさ…、いきなりだけど、会えてよかった」
「……会いに来たんだよ」
「…ごめん、俺、昨日……」
「私もごめん!……意地張って。でも、今日、本当に会えてよかった……」
「ん…」
ノゾミは私をぎゅっと抱きしめた。
嬉しかった。
暖かいノゾミの腕の中に自分がいるということが、
自分でも驚くほど、嬉しかった。
「……ノゾミ、私、ノゾミが大好きだよ」
「俺も……ツグミが大好き」
ノゾミのとびきり綺麗な笑顔が、横から少しだけ見えて、私の頬も緩んだ。
そのあと、ノゾミはコーヒーを淹れてくれた。
「ごめん、あんまり自分で淹れたことないから、美味しくないかも」
「いいよ、別に」
苦笑するノゾミに笑顔で応えて、私はコーヒーを1口飲んだ。
「反抗期……とはいえさ、親のことなんか、どうでもいいって思ってた…。
こうやってコーヒー淹れてくれてたのも、おふくろなのにさ。
……1人で生きてるって思ってたけど、違うんだよな」
「……そうだね」
ノゾミの素直な言葉に、私も素直に返した。
いつもは、意地を張って、強がってばかりだけど、
今日ぐらいは、素直にノゾミに気持ちをぶつけてみよう。
後悔だけはしないように。
「あと、数時間で死んじまうんだよな……ツグミ、何かしたいことある?」
「あるよ」
ノゾミの望んでいてくれたらいいな、
なんて心の中で思っている自分が、少し恥ずかしい。
「…ずっとノゾミの隣にいたい」
ノゾミは、しょうがないなあなんて冗談っぽく笑いながらも、
私の隣に来て、優しいキスを額に落とした。
そのあと、ずっと寄り添いながら座って、ただ、愛を感じていた。
たまに、目が合うと、お互い恥ずかしさを隠すために、笑った。
そのたびに、私の中のノゾミの笑顔が1つ増えていって、嬉しかった。
「……あと、10分だね、ノゾミ」
「ああ…このまま待つか」
「そうだね」
ノゾミは私をぎゅっと抱きしめた。
少し、腕が痛んだけれど、気にしなかった。
こんなに、強く抱きしめあっているのだから、どんな衝撃がきても、大丈夫だよね。
「俺より先に死ぬなよ」
「分かってる」
「同時に死ぬんだから」
「うん」
抱きしめあったまま私たちは笑う。
少し顔をあげると、ノゾミの優しい瞳が私を見つめていた。
「最高に幸せな最後だよね」
「悪くない死に方だな」
「ねえ、絶対に離さないでよ?」
「じゃあ、しがみついてろよな」
ノゾミはもう1度、抱きしめる腕に力をこめた。
そして、再びノゾミが私に優しいキスをしたとき、
白い光に襲われて、私たちは一緒に最後を迎えた。
意地っ張りな私だけど、向こうでもよろしくね。
今日で世界が終わるという知らせを聞いて、
とりあえず俺は家族に別れを告げに行った。
「親父、……マジで今までありがとな、いろいろ迷惑かけて」
「ほんとにな。まあ、あの世でまた会えるだろ」
「おふくろも、弁当サンキュ」
「今度親子になったら、部屋の片付けぐらいちゃんとしなさいよ」
親の暖かい言葉を聞いたあと、俺は、軽く手を振って、家を飛び出した。
向かうのは、いつも彼女と寄り道して帰った小さな公園。
彼女はもう来ているだろうか?まだ来ていないだろうか?
連絡なんてとらなかった。
だって、絶対彼女もこの場所にくるだろうという自信があったのだ。
そして、彼女はもうその公園に来て、いつものベンチに座っていた。
「アリサ!」
「タクヤ」
いつものように、ニコっと頬を緩めるアリサが、愛しくて俺も笑った。
「知らせ、聞いた?」
「聞いたから此処にいるんじゃない」
「それもそうか」
「これからどうするの?」
「どうもしない。いつもどおりに過ごすだけさ」
「そうだね、それがいいね」
そう言って、俺達はどちらかともなく、手を繋いで歩き出した。
「どこ行こうか?」
「たこ焼き屋さんは?」
「あー、あそこ、あいてるかな……、店もだいぶ閉まってきてるから」
「行ってみよ!まだ、時間あるんだしさ!」
俺はそう言って、アリサの手を引いて、小走りになる。
アリサも俺もいつもと同じように、
楽しそうに笑っていて、話しも盛り上がっていた。
本当に明日世界がなくなるのが、信じられないくらい。
「あ、見て!あいてるよ!」
「マジで?やったじゃん!食おうぜ!」
そう言って俺は、もう顔見知りのおばちゃんの方へ近寄った。
「おばちゃん!たこ焼き6つずつ!」
「まあ、タクヤ君にアリサちゃんじゃない。ちょっと待っててね」
何度も何度も学校帰りに寄ったから、
おばちゃんは俺達の名前を覚えてくれていて、それが凄く嬉しかったんだ。
「はい、最後だからお金はいいよ」
「ほんとに?」
「ああ、もうもらってもどうしようもないからねえ」
「サンキュ!」
俺達はそう言って、たこ焼きと爪楊枝を2本受け取った。
そして、素朴な疑問をぶつけてみた。
「どうして、おばちゃんは……こんな日まで、店開いたんだ?」
おばちゃんはニッコリと笑って俺たちを見た。
「そんなの決まってんでしょ、最後の日だから、
自分が好きでやっている店のおばちゃんでいたいのよ。
2人とも、向こうに行ってもたこ焼き作るつもりだから、
また買ってよ、おまけつけてあげるから」
「…うん!ありがとう!」
隣にいたアリサが笑顔でそう言った。俺も、頷く。
そして、俺達は再び歩き出した。
「此処で、食おうか」
俺達はそう言って、路地裏に入った。
さっきいた公園に寄ってみたら、
隣のクラスのカップルが抱き合っていて、入れなかった。
「やっぱ、ここのたこ焼きうまいよなー」
「うん!ほんっと美味しいよね!」
そのとき、突然、たこ焼きを食べていたアリサの手が止まった。
「……どうした?」
「いや、別にどうってこないことなんだけどね……、
私たちがこのたこ焼き食べてるみたいに、
爆撃も私たちを飲み込んじゃうんだなあって思って」
アリサはそういうと、またたこ焼きを1つとって、
美味しそうに口を動かした。
たこ焼きは食べきられ、俺達も爆撃に飲み込まれる。
そうか、今夜起こる惨事とは、そういうことなんだ。
ふと、昨日の昼休みがよみがえる。
『分かんないよ、高校入ったら突然ノゾミの背越すかも』
そんな日はもう二度と来ない。
そして、そういえば昨日の放課後、
ノゾミと彼女のツグミちゃんが喧嘩していたことを思い出して、
仲直りできたのかな、なんて考えた。
「これから、どうしよう?」
「んー……たこ焼き食べたしなあ」
「繁華街は危ねえし」
たこ焼きを食べ終えた俺達は、そう言って頭を悩ませた。
「何もしたいこと、思い浮かばないね」
「そうだな」
そう言ったあと、俺は、繋いでいた手に力をこめた。
そして、そっと呟く。
「いつも一緒にいたんだし、今日も一緒にいれば、いっか」
「そうだね!」
俺達は、一般的で平凡を絵に描いたような中学生のカップルで、
毎日こうやって過ごしてきた。
だから、今日もそうやって過ごせばいい。
最後の日を迎えるのに、何も気を張ることはない。
「最後まで、ここにいようか」
「そうだね、ここなら、誰もこないだろうしね」
ふと、告白した日のことが思い出された。
アリサとは元々仲の良いクラスメイトで、よく一緒に遊んだりしていた。
そして、俺の方から告白して、
アリサの返事もすぐに帰ってきて、付き合うことになった。
付き合うってさ、皆が騒ぐようなことじゃない。
キスすることでもなければ、エッチをすることでもない。
一緒にいること、それが1番忘れがちで、1番肝心。
こうやって何も喋らないで手を繋いで横に座っていることが、
付き合っているってことだから。
一緒にいるということが、1番大事なことだから。
それから、時間が経つのは早かった。
「もうすっかり夜だねー」
「こんな時間まで一緒にいるの、初めてだな」
アリサは頷いて、少し笑って自分の時計を見た。
「あと、1時間か」
「早かったな」
俺は、そう言って、繋いでいた手をふわりと離し、
アリサをぎゅっと抱きしめた。
「ね、タクヤ」
「ん?」
「最後までね、こうやって抱きしめてて欲しい」
「…じゃあ、そうしよう」
そう言って、軽くキスを交わす。
その後も、何度も何度もキスをした。
まるで、それしか知らない子供のように、キスをした。
数十回目のキスをしているときだった。
アリサの顔は見えなくなって、白い光が舞い降りた。
ただ、抱きしめている感覚と、唇の熱だけが、残っていた。
あの世に行っても大丈夫なのは、俺とアリサが一緒だから。
最終更新:2012年03月05日 19:20