目次
ママとパパから言われた言葉が理解できなかった。
「明日でね、ママもパパもジュネも皆、死んじゃうの」
「エマも?隣の家のお兄ちゃんも?」
「そう、皆よ」
ママの声があまりにも泣きそうで、どうしてなんて聞けなかった。
「会いたい人がいるなら、会いなさい。
やりたいことがあるなら、やりなさい」
パパの声があまりにも悲しそうで、どうしてなんて聞けなかった。
「……エマに会って、一緒に遊びたい。一緒にいたい」
そう言うと、ママは行ってらっしゃい、と頬にキスをしてくれた。
パパもぎゅっと抱きしめてくれた。
「ジュネ、優しい子に育ってくれて、ありがとう。
ママ、ジュネが大好きよ」
「向こうに行ったら、また遊ぼうな」
「うん…」
ママとパパにそう返事を返して、家を元気良く飛び出した。
いつも皆で遊んでいる公園を通り過ぎるけど、
中学生ぐらいの男女のカップルがいるだけだった。
近道だよ、って近所のお兄ちゃんが言っていた路地裏には、
たこ焼きを食べているカップルがいるだけだった。
エマの家まで走るのは、ちょっと大変だったけど、
何だか凄く会いたくて、苦にならなかった。
「エマー!」
インターホンを押してそう叫んだら、エマはすぐに出てきてくれた。
「ジュネ!あのね、エマもすぐ行こうと思ってたんだよ!」
「一緒に遊ぼう!」
「うん!」
エマのママとパパが出てきて、エマを抱きしめる。
ジュネのママとパパと一緒だね。
それから、エマと一緒に学校まで走った。
エマのママとパパが、1番好きだった場所に行きなさいって言ったから。
ジュネたちは、学校が大好きだったから。
学校には誰もいなくて、物音1つしなくて、何だか寂しかった。
「……誰もいないね」
「うん……」
上靴に履き替えて、自分達の教室に向かった。
「あー!エマ、昨日、日直だったのに、日誌書くの忘れてたぁ!」
「ダメじゃん!ちゃんと書かなきゃ!」
「分かってるよー!」
エマはそう言って、教卓においてあった日誌に、
忘れ物の筆箱から鉛筆を借りて、書き始めた。
「藤田君、ちょっと借りるよ」
「最後なんだって。だから、許してね」
大丈夫だよ、藤田君は優しいから、きっと怒ってないよ。
「えーっと……1時間目が算数で、2時間目が国語。
3時間目と4時間目が図工で……、
ねえ、ジュネ、5時間目と6時間目なんだっけ?」
「えっとねえ……5時間目が体育で、6時間目が社会!」
「ありがとう!」
ジュネはエマが書く日誌を、エマの横でずっと見ていた。
エマの字は、綺麗だから、ジュネ大好き。
「給食はー、カレーとご飯とサラダと牛乳……」
「ジュネ、カレー大好きだから嬉しかったなあー」
「エマもカレー好きだよ!」
そう言ったあと、エマはうーんと悩みだした。
「…どうしたのー?」
「あのね、感想って何かけばいいの……?」
「……分かんない」
「んー…どうしようっかなあ……」
ジュネも一緒に考えたけど、良い案は浮かばなくて、
後ろのページを見て、皆の書いた感想を読んでみた。
『休み時間、みんなでおにごっこして楽しかった』
『給食のメニュー、好きなのだったからうれしかった』
『そうじ、大変だったけど、きれいになったから良かった』
エマはそれを読んで、あって顔をして書き始めた。
「エマー、何て書いてるの?エマの腕が邪魔で読めないよー」
「あーとーでー!」
エマはそう言って、また書き始めた。
長いなあ、何書いているのかな?皆、そんなに長く書いていないのに。
「出来たぁ!」
「出来たぁ?」
エマはにっこり笑って、日誌をジュネに見せてくれた。
『今日で世界はおわりです。
でも、ジュネとあそべて良かったです。
きのうの給食のカレーもママもパパも先生も、
それからジュネも大好きだから、しんでもずっと忘れないです』
嬉しくなって、ジュネも笑った。
「エマ、ジュネもエマが大好きだよ」
「じゃあ、一緒だね」
「うん!」
ねえ、本当に明日で世界はなくなっちゃうの?
だって、エマの笑顔、一緒だよ?
全部昨日と一緒なのに、何で急になくなっちゃうの?
ジュネ、まだまだ生きたいよ。
やりたいことがいっぱいあるよ。
もっともっとエマと遊びたいよ。
どうして死ななきゃいけないの?
「エマ……あのね、どうして今日で世界が終わりなの?」
「……あのね、爆発するんだって。ママが言ってた」
「爆発するの……?」
「うん。でもね、ママもパパも先生もジュネも、皆一緒に死ぬから、
死んでからもまた会えるんだって。
だから、全然悲しくなんかないんだって」
「そっかあ……」
死んでもまた、会えるんだ。
「わ!もう5時だよ!」
「どうしよっかあ……?」
「……エマ、ジュネと一緒に学校で死にたい」
「……ジュネも、エマと一緒に学校で死にたい」
そう言って、エマとジュネは手を繋いで、いろんな教室に行った。
職員室も、図書室も、6年生の教室も、それから、音楽室も。
「ジュネ、エマね、この歌大好きなんだ!」
そう言って、エマは昨日習ったばっかりの歌を歌った。
GoodDayって歌で、凄く元気の出る歌。
でも、途中まで歌っていたら、気づいたことがあって、
思わず、歌えなくなった。
「ジュネ、どうしたの?」
エマも心配そうにしている。
「……ジュネたち、未来作れなかったね。
僕らで未来を作ろうって歌なのに、未来を作れなかったね」
エマはそれを聞いて、ちょっと俯いたけど、
またすぐに歌いだしたから、ジュネもまた歌いだした。
ずーっと歌っていたら、眠くなってきて、時計を見たら、10時だった。
「わ!エマ見て!もう11時だよ!」
「本当だ!エマ、こんなに夜更かししたの初めて!」
「ジュネも!」
そう言ってはしゃいでいたら、もっと眠くなってきて、
机を端っこに寄せて、エマと一緒に寝転んだ。
「音楽室で寝るの、初めてだね」
「うん!」
エマと手を繋いで、最後まで歌っていたら、
白い光が見えて、歌えなくなった。
今度生まれたときは、一緒に未来を作ろうね。
ラジオを聴いて、でも何をする気も起きなくて、ベッドに転がった。
現在時刻は、午前9時ちょうど。
あと15時間後にこの世界はなくなるなんて、
いったい誰が予想しただろうか?
もっとやりたいことがたくさんあったのに、
どうして政府の過ちなんかで、
俺たちのような関係のない一般市民が死ななくてはならないのか。
腹が立った。
そんなとき、メールの着信音が鳴った。
「何してる?」
幼馴染のフミヤからのメール。
「別に、何もしてないけど」
そう返事を送って数分後だった、窓に石が投げつけられた。
「……フミヤだな」
俺は投げ捨てるようにそう言って、窓を開けた。
「よ!出てこいよ!」
「……何?」
「学校行こうぜ!」
「…学校?」
「そ!中学校!」
「……は?」
ちょっと待て。俺たちはまだ小学校6年生のはずだ。
そうだ、小6だ。
中学校に行かなくてはならない理由などはないはずだよな?
「……何でまた、中学校?」
「俺が中学生に憧れてたから!」
フミヤはそう言ってニィっと笑った。
俺は、やることもなかったし、
こうなるとフミヤは引かないということを知っていたから、すぐに家を出た。
「お、出てきた出てきた!」
「出て行かなきゃおまえ、霊になっても待ってるだろ」
「あったりぃー!」
また、フミヤはニィっと笑った。
何だかんだ言って、フミヤは俺の1番の友達で、
俺のことを1番分かってくれている奴で、俺が1番大切だと思っている奴。
調子乗るから、絶対こんなこと言ってやらないけど。
「で、何でまた中学校なわけ?」
「んー……トップシークレット!」
「はあ?何だ、それ。人つき合わせといて」
「まあまあ、……ユウキだから一緒に行きたいって思ったんだよ」
そう言った声が、いつもより真剣に感じて、
思わずフミヤの顔をぱっと見たけど、
その顔はいつもの笑顔で、少し安心した。
中学校には、勿論、誰もいなかった。
「わーすげぇ!でっけぇー!」
「そりゃあそうだろ。隣の小学校とも同じ中学になるんだろ?
じゃあ、単純計算して今の学校の2倍の大きさないといけないってことだからな」
「まあそうだけどさあ……あ!教室行ってみようぜ!」
そう言って、靴を履いたまま下駄箱を通り過ぎた。
まあ、いいよな、最後だし。
これぐらいの校則違反は許せって。
「あ、ここが職員室かー…」
フミヤがそう言ってガラっとドアを開けた。
「ふーん」
「先生の仕事してる後姿ってさ、なんか普通のリーマンっぽいよな」
「それ、分かる。なあ、クラスの教室行ってみようぜ。1年1組」
「おう!」
1年1組、2年4組、3年1組。
小学校のときの俺たちのクラス。
腐れ縁っていうのは本当にあるもので、
俺達は小学校の6年間をずっと同じクラスで生きてきた。
『俺たちさ、このまま、9年同じクラス制覇狙ってみねえ?』
『面白そうじゃん』
いつだったか、フミヤとそんなことを言っていた気がする。
結局、俺が私立に行くことになってしまったのだけど。
「わ!広くね?」
中学校の1年1組の教室は、
小学校のとき1年1組の教室よりも一回り広く感じた。
机の量も多かった。
「広いなあ……掃除とか大変そ」
「確かに…」
フミヤは頷きながら黒板に近寄って、
白いチョークを手にとって何か書き出した。
「何書いてんのー?」
「さあ、なんでしょうか!」
フミヤは相変わらず笑いっぱなしだった。
俺も、少しおかしくなって軽く微笑んでいた。
「出来た!」
「……何それ?」
「何って…ドラえもんに決まってんじゃん!」
「はあ?コレが?へたくそだよな、相変わらず」
「ひっでぇー!これから色塗るんだから!」
そう言ってフミヤは青いチョークで色塗りを始めた。
そんな光景が、何だか嬉しかった。
こんなにも穏やかに笑えるのは、とても久しぶりなことだった。
「どうだ!これでドラえもんらしくなったでしょ?」
「んー……3点!」
「低っ!」
笑っていた。
久しぶりにずっと笑っていた。
そして、それから、いろんなことをした。
壁に落書きしたり、家庭科室に残っていた牛乳飲んだり、
美術室中を絵の具で汚してやったり。
全ては、俺たちが此処に生きていたという存在の証拠ために。
いつの間にか、辺りは暗くなってきていて、
また、1年1組の教室に戻ったのはもう夜の11時のときだった。
「わーすっげぇ楽しかった!」
「俺も。久しぶりに楽しかった」
「なら良かった!
……ユウキさ、小6なって塾とかで忙しそうで、
なんか、毎日つまんなさそうでさ……、
ちょっと幼馴染として心配してたんだ」
フミヤはそう言って苦笑した。
そういや、今年にあがってから、
私立の中学受けることなって、勉強尽くしだったからな……。
楽しいことなんて、何もなかったから、笑わなかった。
嬉しいことなんて、何もなかったから、笑えなかった。
「……サンキュ。それにしてもさ、なんでまた、中学校を選んだわけ?」
「……俺の小さな夢だったから。
おまえと、同じ中学行って、ずっと一緒にいることが。
……でもさ、ユウキ、私立行くことになっちゃったじゃん?
もう無理だって思ってたら、世界最後の日が来て……、
絶対、やらなきゃって思ったんだ。
後悔して死んでいくなんて、ごめんだからな」
フミヤはそう言って、また、チョークで黒板に何か書き始めた。
ドラえもんの隣に、今度は黄色いチョークで、書かれた文字。
『ユウキとフミヤ。2人は仲良し、2人組み』
「…へへ、懐かしくない?」
「小2にあがる前に、1年1組の教室に2人で書いたっけ。すぐ消されたけど」
そう言って互いに笑った。
そのとき、窓の外から強い光が俺たちを襲って、
笑いあったまま、俺たちは綺麗に消えた。
向こうに行っても2人はずっと友達だよな。
午前0時17秒。
少しの時差とともに、その核ミサイルは白い光と共に美しく舞い降りた。
家に、いつもの公園に、目立たない路地裏に、学校に、名も知らぬ場所に。
歴史が元に戻り、全てが無にかえった。
『皆で、宇宙に還るんだよ』
私たちはこの星に生まれて、
『俺がおまえを愛してたっていう事実も、ずっと残るだろ?』
誰かを愛しながら、
『俺は、恐いよ、死にたくない。もっと、生きたい』
少しの恐怖を感じながら、
『私はね、純白のウェディングドレスがいいの!』
未来を予想しながら、
『悪くない死に方だな』
とても自然に、
『最後までね、こうやって抱きしめてて欲しい』
大切な人と最後を迎えた。
『音楽室で寝るの、初めてだね』
そして幸せの中で、
『ユウキだから一緒に行きたいって思ったんだよ』
共に笑った。
私が生きていた証拠が貴方で、貴方が生きていた証拠が私だと、
今なら、胸を張って言えるはず。
私たちは
世界が終わるまでの瞬間を、生き抜いたのだ。
確かに、存在していたのだ。
やり残したことだってたくさんあるけれど、
後悔だって数え切れないけれど、
『だって、また宇宙でハルナと会える気がするもん』
『俺達、また会える気がする』
『私たちは死ぬんじゃない』
『また、私のお姉ちゃんになってくれる?』
『同時に死ぬんだから』
『最後まで、ここにいようか』
『死んでからもまた会えるんだって』
『後悔して死んでいくなんて、ごめんだからな』
また、必ず会うと誓ったのだから。
ありがとう。またどこかで。さよならは言わないよ。
END
まずは、此処まで読んでくださった全ての皆様へ、
ありがとうございました。
心から感謝しています。
たくさんの人からの感想や声援、とても嬉しかったです。
正直、ここまで皆様に気に入っていただけるとは思っていなくて、
感動したと言ってもらえたりすると、本当にこっちが泣きそうなぐらい驚いていました。
この小説の内容は重いかもしれません。
でも、私が伝えたかったものは、そんなたいそれたものじゃなくて、
誰の心にだって宿ってる、普通の素直な感情です。
それは、愛だったり、恐怖だったり、友情だったり……。
それから、大切な人と一緒にいれる喜び。
少しでも感じていただけたのなら、幸いです。
次の作品は、まだネタが確定していませんので、
どんな内容になるのかは分かりません。
同じようなシリーズになるかもしれませんし、普通の長編になるかもしれません。
また、機会があれば読んでやってください。
では。
作者より
最終更新:2012年03月05日 19:25