獣の卍(後篇) - (2009/07/14 (火) 16:22:55) の最新版との変更点
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*獣の卍(後篇) ◆TPKO6O3QOM
(四)
巨猿の拳が唸りを立てておれに迫る。掠っただけで肉を持って行かれそうな、重い拳だ。愚者(ザ・フール)で受け止め、おれ自身は一気に後退する。くそ、おまえに用はねえんだよ。
巨猿はやたら楽しそうに瞳を輝かせている。こっちは楽しくねえっての。
間合いを一足飛びで詰めたワニ野郎の右フックが巨猿の側頭部を狙うが、巨猿は一瞬で胡坐をかきそれを回避する。ワニ野郎の拳が虚しい風音を残す。
巨猿はそこから肩の筋肉だけで跳ね上がり、両足でワニ野郎の胸部を蹴り押した。ワニ野郎がよろめきそうになる身体を尻尾も使って支えるのを見て、巨猿は嬉しそうに歯を剥いた。
この巨猿、どうもおれとワニ野郎の両方を相手にしたいらしい。奴にとって、今は両手に肉の状態ってわけだ。仮にワニ野郎を倒せても、今度は巨猿を相手にしなきゃならねえ。身軽な身体能力と豪腕による攻撃は脅威だ。
今はワニ野郎が居るから注意が分散されているが、おれ一匹に定められたら身体が保たねーぞ。
ふと、おれの耳が西より近づいてくる足音を拾う。足音は一つだ。それも二足歩行。アホダヌキが逃げ帰ってきたか?
いや、違うな。こりゃあいつの足音じゃねえ。先刻のを聞く限り、あいつの走りはもっと無様で騒がしい。一方、今近づいてくる足音は静かで、酷く穏やかだ。それでいて、どこか兇気を宿している。
導かれる結論は、だ。つまり、バカ犬は大バカ犬に成り下がったってことさ。あの二匹もどうなったか。
潮時だな。だが、まだ一矢報いちゃいねえんだよなー。
ワニ野郎は巨猿の猛攻に、左手に巻き付けたマントを使って防戦に徹している。いや、糸口を探しているのか。布の影から奴の右目が光っている。
ふとした閃きとともに、おれは一迅の風のごとくワニ野郎へと突進する。隙を突かれ蹴り飛ばされた巨猿の股下を駈け抜け、おれは地面を蹴った。
左からワニ野郎へと突撃するおれが大きく牙を剥いた。マントに弾かれたおれの口腔にワニ野郎の拳が叩きこまれた。砲弾のような拳はおれの上顎を飴細工か何かの如く粉砕し、脳の詰まった頭蓋までを打ち抜く。どろりと灰色の脳漿が宙にぶちまけられた。
……自分と同じ姿をしたものが惨死する様ってのは気持ちのいいもんじゃねえな。
ワニ野郎の瞳が吃驚に見開かれる。拳に打ち抜かれたおれの死体の表面が流砂のごとく乱れたかと思うと、中から機械仕掛けの獣の姿が現れた。
そうさ。さっき砕かれたのはおれに化けさせた愚者(ザ・フール)だ。
愚者(ザ・フール)を蹴って跳躍距離を稼いでいたおれは漸くワニ野郎の左肩に着地する。愚者(ザ・フール)の前足が閃き、ワニ野郎の右目に赤い筋が走った。
ワニ野郎の絶叫が響く。右目を抑える指の間から鮮血が迸っていた。ワニ野郎の残った左目が怒りと屈辱に塗れた目でおれを捉えた。
へへへへーッ、ざまあみやがれ。これでチャラにしてやるぜ、ワニ野郎。
ワニ野郎が引っ掴んでくる前に、おれは愚者(ザ・フール)を飛行形態へと変化させ、それに飛び乗った。風を掴んだ愚者(ザ・フール)は高く舞い上がり、暁の空を滑空していく。ワニ野郎たちは既に遥か後方だ。
明け方の澱みない空気のおかげで遠くまで見渡せる。意外に大きな建物が多いんだな。
十分距離を稼いだところで、高度を下げ、愚者(ザ・フール)を解除する。
実はもう限界だったのさ。酷い倦怠感がおれの身体に満ちていた。頭もガンガンしやがる。歩きでいくしかねえ。
のろのろと足を進めながら、おれは北西を見やった。
コロマルよォ、仇討ってのは生きている奴の自己満足なんだよ。死人に口なし。何を死人が望んでいるかなんざ、生者の勝手な想像でしかねえ。
あいつはな、てめえの友達のことをずっと考えてた。おれみてえな奴に伝言まで頼むんだからな。あいつの生前の望みは、マンマルとツネジローに再会することだったはずさ。そいつはついに叶わなかったが、奴の伝言はまだ生きている。
考えるだけで面倒だが、死人の言伝を放っておくのも寝覚めが悪いし……やってやるよ、タヌタロー。時間は間に合いそうにねえが、そこは勘弁しろな。
ま、そういうわけだ。コロマル、てめえが仇討を望むなら夢枕にでも立ちな。袖擦り合うのも多生の縁ってんで、考えてやるぜ。
……アバヨ、バカ犬。
【D-3/北/1日目/早朝】
【イギー@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】:全身打撲(小)、疲労(大)、精神的疲労(大)、南に移動中
【装備】:腕時計
【道具】:支給品一式(食糧:ドライフード)、犬笛、世界の民話
【思考】
基本:面倒なので殺し合いには乗らない。
1:マンマルとツネジローを探し、タヌタローのことを伝える。
2: どこかで休みたい
【備考】
※イギーの参戦時期はペット・ショップとの戦闘で、下水道に逃げ込む前後です。
※スタンドの制限に気づきました。
※タヌ太郎に少し心を許しました。
※コロマル、アライグマの父と情報交換をしました。
※少し休憩を取らなければスタンドは使用できそうにありません。
※アライグマの父を死んだものと思っています。
飛び去っていく犬を見やり、夜叉猿は口惜しげに瞳を揺らめかせた。二兎追うものは一兎も得ず。二匹同時相手は欲張りすぎたか。残されたのは片目を潰された大蜥蜴のみ。
怒りを吐き出すように大蜥蜴が拳を振るうも、明らかに距離感が狂っている。避けるまでもなく夜叉猿の平手に叩き落とされ、その横面に彼の掌底が容易に吸い込まれた。血と共に折れた牙を吐きだし、大蜥蜴の身体が傾いだ。
つまらぬ。と夜叉猿は閉口する。先ほどまでが快楽の絶頂であっただけに、その落差が非常に大きく感じられた。距離感がなくとも問題のないように、密着状態での超接近戦でも仕掛ければ多少熱を取り戻せるだろうか。
右上方からの尾の振り下ろしを右手でいなし、大蜥蜴の懐へと滑りこむ。腰の回転で勢いを付けた左拳を大蜥蜴の装甲の砕けた脇腹に叩きこんだ。大蜥蜴は悶絶の声を上げる。
と、途端夜叉猿の視界一杯に深紅が広がり、次の瞬間に星が飛んだ。平衡感覚が狂い、膝が崩れる。頭突きを受けたのだと察する。
追撃を恐れて距離を取ろうとするが、中々身体が言うことをきいてくれない。それどころか、無理に動こうとしたために足がもつれて夜叉猿は仰向けに引っくり返った。寸前まで身体があった場所を、大気を穿つような一撃が突き抜ける。風圧が彼の鼻を撫でた。
陽炎如く定まらぬ視界に蠢く影がぼんやりと映っていた。大蜥蜴だ。それに向かって夜叉猿は力を振り絞って足を突きあげる。無造作に放った蹴りは運よく大蜥蜴の顎を打ち抜いたようだ。大蜥蜴が地面に手を突いて倒れたことを、僅かな振動が知らせてくれた。
夜叉猿はころころと転がって、大蜥蜴から十分に距離を取った。
まだ自由に動かない身体を叱咤しながら、一方で夜叉猿は笑みを刻んだ。諦めるのは性急であった。まだこの蜥蜴は楽しめる。
どうにか立ち上がり、地面を踏みしめて具合を確かめる。視力も戻った。未だ立ち上がれずにいる大蜥蜴の姿がはっきりと確認できる。
雄たけびと共に大蜥蜴に向かって大地を蹴り上げようとした夜叉猿の目の端に銀光が映った。慌てて跳び退った夜叉猿の右上腕にぴしりと痛みが走る。着地地点でもう一度跳び、その最中に乱入者を見る。
それは血刀を下げた狼だった。犬が撤退したのは狼の接近を察したからか。狼は切っ先を夜叉猿に向けたまま、摺足で大蜥蜴の近くにまで移動する。
「苦戦しているようだな」
大蜥蜴の様子を一瞥し、狼が固い口調で言葉を投げかける。大蜥蜴は頭を振りながら、狼を見た。
「あのバウンドウルフはどうした?」
「……逃げられた。あのキラーエイプはオレの相手だ。手出しは無用!」
大蜥蜴が足もとに転がった丸太を手に取る。成程。あれならば、狂った距離感を多少なりとも補うことができるかもしれない。
「断る。今ここで貴方に死なれては私が困るからな」
大蜥蜴が何かを言い掛けたようだが、それを待たずに夜叉猿は飛び出した。粉塵を後方に残し、加速する。狼の間合いに入る直前に小さく右手に跳ぶ。
左に空振りしていく白刃を眼の端に映しながら、夜叉猿は付いた右足で今度は上方に跳躍する。轟と足元の虚空を突いたのは大蜥蜴の丸太だ。
空中で回転し、踵を大蜥蜴の肩口に叩き込む。布の下で肩の装甲が砕け、その下の筋肉が軋みを立てる。大蜥蜴が膝を地に付けた。更にその反動で小さく跳躍し、夜叉猿を見失っている狼の背中を蹴り付ける。薄紫の鬣を振り乱し、狼が前方に倒れる。
着地すると、そこに丸太が叩き下ろされた。逆立ちし、丸太を挟み込み――止める。崩れた体勢からの一撃とはいえ、その圧力に身体を支える筋肉が悲鳴を上げた。と、踏み込みの音。背筋を使って上半身を反り上げると、その下を半月が空を両断していった。
夜叉猿は背筋の勢いのままに身を宙に投げ出した。
ふわと着地した夜叉猿の目が、こちらに迫る狼の姿を捉える。脇から上段へと構えが変化し、跳び込みと共に刀が打ち下ろされる。風を纏う剣先が通り過ぎ、半身を仰け反らせた夜叉猿の左手首に血の花が咲いた。
腱までは断たれなかったもの、浅くはない。
右に跳ぶも、狼はそれを追ってきた。着地した左足を踏みこみに変え、逆袈裟に刃が伸びる。夜叉猿は敢えて引かず、逆に狼の間合いの中に大きく足を踏み入れた。脇腹に痛みが走るも、刃は巌のような腹筋の表面で止まっていた。
内懐に踏み込まれたがために刀に十分な力が伝わらず、また夜叉丸に喰い込んだのは切れ味の鈍い鍔付近であったために骨どころか肉も斬れなかったのである。
焦りに狼の瞳が揺れる。夜叉猿は歯を剥いた。そして引き裂かんと右手を振り下ろす――が、それを狼は刀を手放すことで紙一重で回避する。逃げ遅れた体毛が一房、陽光に輝きながら散る。
夜叉猿は刀を外し、まだ宙の狼に投擲した。その際に脇腹から血が毀れ、地面に斑を加える。狼が両腕を交差し守りに入った。
だが、刃が彼女に突き刺さることはなかった。狼の前に紫紺の緞帳が広がりそれを弾いたからだ。刀が地面に落ちる音を後方に残し、大蜥蜴は夜叉猿へと迫る。
大蜥蜴は夜叉猿が間合いに入った瞬間に、丸太を下段から跳ね上げるようにして振るった。夜叉猿は左に身体を“の”の字に回転させてそれを避けようとするも、丸太は逃げ遅れた左手に直撃した。手頸の骨が粉ける乾いた音を夜叉猿は他人事のように聴く。
彼の身体は大蜥蜴の右側、つまり彼の死角に入っている。
まず肘で大蜥蜴の蟀谷を打つ。蹈鞴を踏んだ大蜥蜴の上体が逸れ、装甲に覆われていない首元が露わになる。夜叉猿は牙を突き立てようと首を伸ばすが、ぞくという悪寒を感じて直前に動きを止めた。無理な動きに首の筋肉が引き攣る。
剣風が夜叉猿の鼻先を掠めた。それは刀を拾い、滑るように馳せ寄った狼の斬撃だ。
思わず怯んだ夜叉猿に丸太の突きが迫る。これを右腕で払いのけ、更に後退する。丸太が大蜥蜴の掌から弾け飛ばされる。丸太は駅舎に突っ込み、その壁の一部を破砕した。
その隙に攻めへと転じようと足を踏み変えるが、合間を縫うように振るわれる狼の刀がそれを阻んだ。霧雨の如き細く精緻な彼女の太刀を凌ぎきった時には大蜥蜴の準備が既に整っていた。
負傷した右目のせいでどうしても大きくなってしまう大蜥蜴の隙を、回転の速い狼の剣が埋める。
それが幾度も繰り返された。
明らかに狼は大蜥蜴の呼吸を読んで行動している。夜叉猿は攻めへの転機を掴み兼ねていた。それほどまでに二匹の連携が取れてきている。
いつのまにか、夜叉猿の毛皮は血でしとどに濡れていた。狼の剣を完全に捌き切れなくなってきたのだ。今までの疲弊と傷が夜叉猿に一気に圧し掛かり、身体が不安定に揺れる。
大蜥蜴の構えが目に映る。彼も疲れが出てきたのか、振りが大きい。
夜叉猿は呼吸を半分ほどずらし、釣られて飛び出した大蜥蜴の拳を見送る。狼が割入る隙を与えず、夜叉猿は跳んだ。空中で回転し、爪と牙を交互に繰り出す。最初の一撃は大蜥蜴の装甲に爪痕を刻む。大蜥蜴は跳び退り、布を打ち広げ守りに入った。布が夜叉猿の視界を覆う。
夜叉猿は咆哮を上げた。そして渾身の一撃を翻る布の裏に隠れた大蜥蜴の頭目掛けて打ち込む。
手応え――なし。
夜叉猿の拳は宙を突きぬけた。拳に飛ばされた布がはらりと舞う。その内より現れたのは狼の姿。狼の後方に控える大蜥蜴と夜叉猿の眼光が交錯する。夜叉猿の雄叫びが虚空に轟いた。
狼の左足が大地を強く踏み締め、歌声のような吐息が空気を震わせた。彼女の腕が寸分の無駄もなく、むしろ流麗と形容してもよい動きで孤を描くのが目に映る。
碧空に一条の光が閃いた――。
胸板から盛大に血飛沫を吹き上げながら、大ザルはどうと大地に倒れ込んだ。斬り上げた剣を戻し、シエラは大ザルに近寄る。ぴくりとも動かないが、念のため首を突き、捻る。剣を抜くと、傷口からどろと鮮血が毀れた。血振りし、鞘に納める。
二呼吸ほどして、シエラはようやく安堵の溜息を吐いた。激しく上下する胸を軽く抑え込む。
地面に落ちたマントを拾い、クロコダインの元へと向かう。クロコダインは潰れた右目から流れる血もそのままに、地に座り込んでいた。その顔は愧恥に歪んでいる。
傍にまで来たシエラを見上げようともしない。小さく嘆息して、傷を見せるよう促す。存外に彼は素直に従った。
鎧は砕け、あちこちで鬱血している。ただ、打撲に関しては当事者の彼自身の方がよく分かるだろう。
問題なのは右目だ。一度水で血を洗い流し、押し広げる。クロコダインの喉が小さく呻いた。シエラは口吻を歪める。眼球が完全に潰されていた。感染症を防ぐ以外の治療は意味をなさないだろう。
(とはいっても、薬が……)
たしか、クロコダインの支給品の中に彼が薬と主張するものが入っていた。しかし、言われてみれば薬に見えなくもないといった代物で、試しに使ってみる気はおきない。
シエラは新たに手に入れた三つのデイバックに目を移した。探った結果、当て布として使えそうなリボンに清潔な端切れ、傷薬が幾つか見つかる。
もう一度洗浄した後、傷薬を傷口に塗布し、端切れとリボンで作った眼帯でしっかりと覆う。これで我慢してもらうしかない。
「……おまえの傷はどうなのだ?」
マントを羽織りながら、クロコダインがやっと口を開いた。
「貴方よりずっと軽傷だ。気にするな」
火傷と脇腹の咬傷がずきりと痛むが、顔には出さなかった。咬傷にだけ、傷薬を塗布しておく。火傷は放っておいても支障はないと診断する。
そして、手に入れた新たな支給品を確認し、一先ず各々のデイバックに振り分けた。
「訊いていなかったが、おまえの方はちゃんと仕留めたのか? あのあと、更に二匹向かったようなのだが」
支給品を片端からデイバックに放り込みながらクロコダインが問う。
「赤眼は殺した。それともう一匹。だが、後から来た悪相の獣には逃げられてしまった」
澱みなく答えるも、シエラの手の動きが止まる。赤眼との最後の数瞬を思い出す。
赤眼が遠吠えした途端に自分を幾つもの陣が包み、燐光が爆ぜた。あの刹那の、形容できない酷く恐ろしい何かに心臓を鷲掴みされるという経験は今までしたことがない。赤眼とその従僕がとてつもない魔法を使おうとしたことだけは分かる。
だが、光が消えたとき、倒れていたのは赤眼の方であった。冷たい汗がじっとりと肢体を濡らしていたものの、調べられる範囲で自身に異常は見当たらなかった。
昏倒した獣の、ゆっくりと上下する胸に刃を突きいれたときの感触はまだ手に残っている。
罪なき者を殺した。その事実に息が詰まる。
だが更に彼女を恐怖させたのは、二匹目以降へ向けた刃があまりに軽かったということだ。霜刃はあっさりと帽子を被ったバウンドウルフの首の肉に潜り込み、脛骨を断った。まるで蝋細工か何かのように。
あのときの自分に躊躇いはなかった。ラルクを守るために好ましい変化であるはずなのに、そこに喜びはない。三匹の血を吸った刀が最初よりも酷く重いように感じられるだけだ。淀みが腹の奥に溜まっていく。
「そう、か。…………あいつは、強かったなあ」
クロコダインの呟きに、シエラは顔を上げた。彼は左目で大ザルの死骸を見つめている。
「そうだな。……自分だけの力で倒したかったか?」
「それはそうだ。武勲なくして何が戦士か」
シエラは肩をひょいと竦める。無言を同意と受け取ったのか、クロコダインが口元に剛毅な笑みを刻んだ。ぽつとシエラは言葉を紡ぐ。
「余計な事をしてくれたと、怒っているか?」
クロコダインはきょとんとした表情を一瞬浮かべた。それはすぐに苦笑へと変わる。
「……いや。おのれの未熟さに腹は立つがな」
ついとクロコダインは眼帯を撫ぜた。
「頼りにしているぞ、相棒」
相棒、か。
クロコダインが彼女の問いを否定するのは予想していた。短い付き合いだが、クロコダインがそういう男であることは分かっている。
ただ相棒と彼が口にするとは思ってもいなかった。契約者とはいえ、彼女らは最終的には殺し合う宿命だ。そんな相手のことを口が裂けても相棒とは言うまい。何と返してよいか分からず、曖昧な笑みをクロコダインに向け作業を再開する。
ただ、彼の相棒という言葉の響きに何処か心地よさを覚えていた。それがただの逃避だと頭の片隅で何かが囁くも、彼女はその声から耳を閉ざす。
デイバックの口から覗くドラグーンナイフが彼女に何かを訴えるかのように、きらと朝陽に光った。
【C-2/駅付近/1日目/早朝】
【チーム:契約者】
基本思考:ラルクを除く全参加者の殺害
1:移動する
2:どこかで身体を休める?
【所持品】
クロコダインの支給品一式、丸太×1
シエラの支給品一式(ドラグーンナイフ@聖剣伝説Legend of Mana、不明支給品0〜2個。確認済み)
タヌタローの支給品一式(不明支給品×1。確認済)
ボニーの支給品一式(不明支給品×1。確認済)
夜叉猿の支給品一式(傷薬@ペルソナ3×1、不明支給品0〜2個。確認済)
コロマルの支給品一式
【備考】
※契約内容
クロコダイン、シエラ、ラルクが最後の3人となるまで、クロコダインとシエラの協力関係は継続される。
それが満たされれば、契約は破棄され、互いの命を取り合って最後の一人を決める。
※互いが別世界の住人であることに気付いていません。
※支給品はまとめただけです。新たな不明支給品の中に目ぼしい武器等がないというわけではありません。
※タヌタローの不明支給品は、クロコダインには薬に見えるようです。シエラにも薬と見えなくはないようです。他の参加者には別の物に見えるかもしれません。
【シエラ@聖剣伝説Legend of Mana】
【状態】:疲労(中)、両腕と全身の所々に火傷(小)、脇腹に咬傷(中。治療済)、血塗れ、覚悟、不安定
【装備】:電光丸(倍率×1000)@大神
【思考】
基本:ラルクを最後まで生き残らせる
1:クロコダインと協力して他の参加者を殺す
2:ラルクには出来れば会いたくない
【備考】
※参戦時期はドラグーン編のシナリオ終了後です。
※電車を知りません。キュウビの用意したトラップだと思っています。
※イギーの情報を得ました。
【クロコダイン@ダイの大冒険】
[状態]:疲労(中)、多数の打撲(中。特に腹部)、右目失明(治療済)
[装備]:王者のマント@ドラゴンクエスト5、クロコダインの鎧(腹部と左肩の装甲破損) 、眼帯(ただの布切れ@ドラゴンクエスト5、ビアンカのリボン@ドラゴンクエスト5)
[思考]
基本:全参加者の殺害
1:もっとまともな武器が欲しい
2:許されるなら戦いを楽しみたい
3:イギーは今度こそ殺害する
4:シエラとラルクの実力が楽しみ
最終:キュウビの儀式を終わらせ、任務に戻る
[備考]
※クロコダインの参戦時期はハドラーの命を受けてダイを殺しに向かうところからです。
※参加者は全員獣型の魔物だと思っています。
※キュウビを、バーンとは別の勢力の大魔王だと考えています。
※身体能力の制限に気づきました。
※電車を魔力で動く馬車のようなものだと考えています。
※片目を失ったため、距離感をあまり取り戻せていません。
※C-2の駅舎に丸太が一本突っ込み、壁が一部破損しています。
【傷薬@ペルソナ3】
市販の治療薬。消毒効果、多少の治癒促進効果がある。
夜叉猿に3個支給。
【ドラグーンナイフ@聖剣伝説Legend of Mana】
シエラが使っていた短剣。短剣の中では攻撃力は二番目に高い。
コロマルに支給。
【ただの布切れ@ドラゴンクエスト5】
本当にただの布切れ。防御効果はほとんどない。
コロマルに支給。
&color(red){【コロマル@ペルソナ3 死亡】}
&color(red){【ボニー@MOTHER3 死亡】}
&color(red){【夜叉猿@グラップラー刃牙 死亡】}
&color(red){【残り39匹】}
死体は上から順に、C-1北東、C-2北西、C-2駅付近に放置されています。なお、マリオの帽子@スーパーマリオシリーズはボニーが装備中です。
*時系列順で読む
Back:[[獣の卍(前篇)]] Next:[[鎮魂花]]
*投下順で読む
Back:[[獣の卍(前篇)]] Next:[[鎮魂花]]
|028:[[獣の卍(前篇)]]|シエラ|067:[[誰がために陽はのぼる]]|
|028:[[獣の卍(前篇)]]|クロコダイン|067:[[誰がために陽はのぼる]]|
|032:[[獣の卍(前篇)]]|イギー|049:[[異境異聞]] |
|032:[[獣の卍(前篇)]]|&color(red){コロマル}|&color(red){死亡}|
|034:[[獣の卍(前篇)]]|&color(red){夜叉猿}|&color(red){死亡}|
*獣の卍(後篇) ◆TPKO6O3QOM
(四)
巨猿の拳が唸りを立てておれに迫る。掠っただけで肉を持って行かれそうな、重い拳だ。愚者(ザ・フール)で受け止め、おれ自身は一気に後退する。くそ、おまえに用はねえんだよ。
巨猿はやたら楽しそうに瞳を輝かせている。こっちは楽しくねえっての。
間合いを一足飛びで詰めたワニ野郎の右フックが巨猿の側頭部を狙うが、巨猿は一瞬で胡坐をかきそれを回避する。ワニ野郎の拳が虚しい風音を残す。
巨猿はそこから肩の筋肉だけで跳ね上がり、両足でワニ野郎の胸部を蹴り押した。ワニ野郎がよろめきそうになる身体を尻尾も使って支えるのを見て、巨猿は嬉しそうに歯を剥いた。
この巨猿、どうもおれとワニ野郎の両方を相手にしたいらしい。奴にとって、今は両手に肉の状態ってわけだ。仮にワニ野郎を倒せても、今度は巨猿を相手にしなきゃならねえ。身軽な身体能力と豪腕による攻撃は脅威だ。
今はワニ野郎が居るから注意が分散されているが、おれ一匹に定められたら身体が保たねーぞ。
ふと、おれの耳が西より近づいてくる足音を拾う。足音は一つだ。それも二足歩行。アホダヌキが逃げ帰ってきたか?
いや、違うな。こりゃあいつの足音じゃねえ。先刻のを聞く限り、あいつの走りはもっと無様で騒がしい。一方、今近づいてくる足音は静かで、酷く穏やかだ。それでいて、どこか兇気を宿している。
導かれる結論は、だ。つまり、バカ犬は大バカ犬に成り下がったってことさ。あの二匹もどうなったか。
潮時だな。だが、まだ一矢報いちゃいねえんだよなー。
ワニ野郎は巨猿の猛攻に、左手に巻き付けたマントを使って防戦に徹している。いや、糸口を探しているのか。布の影から奴の右目が光っている。
ふとした閃きとともに、おれは一迅の風のごとくワニ野郎へと突進する。隙を突かれ蹴り飛ばされた巨猿の股下を駈け抜け、おれは地面を蹴った。
左からワニ野郎へと突撃するおれが大きく牙を剥いた。マントに弾かれたおれの口腔にワニ野郎の拳が叩きこまれた。砲弾のような拳はおれの上顎を飴細工か何かの如く粉砕し、脳の詰まった頭蓋までを打ち抜く。どろりと灰色の脳漿が宙にぶちまけられた。
……自分と同じ姿をしたものが惨死する様ってのは気持ちのいいもんじゃねえな。
ワニ野郎の瞳が吃驚に見開かれる。拳に打ち抜かれたおれの死体の表面が流砂のごとく乱れたかと思うと、中から機械仕掛けの獣の姿が現れた。
そうさ。さっき砕かれたのはおれに化けさせた愚者(ザ・フール)だ。
愚者(ザ・フール)を蹴って跳躍距離を稼いでいたおれは漸くワニ野郎の左肩に着地する。愚者(ザ・フール)の前足が閃き、ワニ野郎の右目に赤い筋が走った。
ワニ野郎の絶叫が響く。右目を抑える指の間から鮮血が迸っていた。ワニ野郎の残った左目が怒りと屈辱に塗れた目でおれを捉えた。
へへへへーッ、ざまあみやがれ。これでチャラにしてやるぜ、ワニ野郎。
ワニ野郎が引っ掴んでくる前に、おれは愚者(ザ・フール)を飛行形態へと変化させ、それに飛び乗った。風を掴んだ愚者(ザ・フール)は高く舞い上がり、暁の空を滑空していく。ワニ野郎たちは既に遥か後方だ。
明け方の澱みない空気のおかげで遠くまで見渡せる。意外に大きな建物が多いんだな。
十分距離を稼いだところで、高度を下げ、愚者(ザ・フール)を解除する。
実はもう限界だったのさ。酷い倦怠感がおれの身体に満ちていた。頭もガンガンしやがる。歩きでいくしかねえ。
のろのろと足を進めながら、おれは北西を見やった。
コロマルよォ、仇討ってのは生きている奴の自己満足なんだよ。死人に口なし。何を死人が望んでいるかなんざ、生者の勝手な想像でしかねえ。
あいつはな、てめえの友達のことをずっと考えてた。おれみてえな奴に伝言まで頼むんだからな。あいつの生前の望みは、マンマルとツネジローに再会することだったはずさ。そいつはついに叶わなかったが、奴の伝言はまだ生きている。
考えるだけで面倒だが、死人の言伝を放っておくのも寝覚めが悪いし……やってやるよ、タヌタロー。時間は間に合いそうにねえが、そこは勘弁しろな。
ま、そういうわけだ。コロマル、てめえが仇討を望むなら夢枕にでも立ちな。袖擦り合うのも多生の縁ってんで、考えてやるぜ。
……アバヨ、バカ犬。
【D-3/北/1日目/早朝】
【イギー@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】:全身打撲(小)、疲労(大)、精神的疲労(大)、南に移動中
【装備】:腕時計
【道具】:支給品一式(食糧:ドライフード)、犬笛、世界の民話
【思考】
基本:面倒なので殺し合いには乗らない。
1:マンマルとツネジローを探し、タヌタローのことを伝える。
2: どこかで休みたい
【備考】
※イギーの参戦時期はペット・ショップとの戦闘で、下水道に逃げ込む前後です。
※スタンドの制限に気づきました。
※タヌ太郎に少し心を許しました。
※コロマル、アライグマの父と情報交換をしました。
※少し休憩を取らなければスタンドは使用できそうにありません。
※アライグマの父を死んだものと思っています。
飛び去っていく犬を見やり、夜叉猿は口惜しげに瞳を揺らめかせた。二兎追うものは一兎も得ず。二匹同時相手は欲張りすぎたか。残されたのは片目を潰された大蜥蜴のみ。
怒りを吐き出すように大蜥蜴が拳を振るうも、明らかに距離感が狂っている。避けるまでもなく夜叉猿の平手に叩き落とされ、その横面に彼の掌底が容易に吸い込まれた。血と共に折れた牙を吐きだし、大蜥蜴の身体が傾いだ。
つまらぬ。と夜叉猿は閉口する。先ほどまでが快楽の絶頂であっただけに、その落差が非常に大きく感じられた。距離感がなくとも問題のないように、密着状態での超接近戦でも仕掛ければ多少熱を取り戻せるだろうか。
右上方からの尾の振り下ろしを右手でいなし、大蜥蜴の懐へと滑りこむ。腰の回転で勢いを付けた左拳を大蜥蜴の装甲の砕けた脇腹に叩きこんだ。大蜥蜴は悶絶の声を上げる。
と、途端夜叉猿の視界一杯に深紅が広がり、次の瞬間に星が飛んだ。平衡感覚が狂い、膝が崩れる。頭突きを受けたのだと察する。
追撃を恐れて距離を取ろうとするが、中々身体が言うことをきいてくれない。それどころか、無理に動こうとしたために足がもつれて夜叉猿は仰向けに引っくり返った。寸前まで身体があった場所を、大気を穿つような一撃が突き抜ける。風圧が彼の鼻を撫でた。
陽炎如く定まらぬ視界に蠢く影がぼんやりと映っていた。大蜥蜴だ。それに向かって夜叉猿は力を振り絞って足を突きあげる。無造作に放った蹴りは運よく大蜥蜴の顎を打ち抜いたようだ。大蜥蜴が地面に手を突いて倒れたことを、僅かな振動が知らせてくれた。
夜叉猿はころころと転がって、大蜥蜴から十分に距離を取った。
まだ自由に動かない身体を叱咤しながら、一方で夜叉猿は笑みを刻んだ。諦めるのは性急であった。まだこの蜥蜴は楽しめる。
どうにか立ち上がり、地面を踏みしめて具合を確かめる。視力も戻った。未だ立ち上がれずにいる大蜥蜴の姿がはっきりと確認できる。
雄たけびと共に大蜥蜴に向かって大地を蹴り上げようとした夜叉猿の目の端に銀光が映った。慌てて跳び退った夜叉猿の右上腕にぴしりと痛みが走る。着地地点でもう一度跳び、その最中に乱入者を見る。
それは血刀を下げた狼だった。犬が撤退したのは狼の接近を察したからか。狼は切っ先を夜叉猿に向けたまま、摺足で大蜥蜴の近くにまで移動する。
「苦戦しているようだな」
大蜥蜴の様子を一瞥し、狼が固い口調で言葉を投げかける。大蜥蜴は頭を振りながら、狼を見た。
「あのバウンドウルフはどうした?」
「……逃げられた。あのキラーエイプはオレの相手だ。手出しは無用!」
大蜥蜴が足もとに転がった丸太を手に取る。成程。あれならば、狂った距離感を多少なりとも補うことができるかもしれない。
「断る。今ここで貴方に死なれては私が困るからな」
大蜥蜴が何かを言い掛けたようだが、それを待たずに夜叉猿は飛び出した。粉塵を後方に残し、加速する。狼の間合いに入る直前に小さく右手に跳ぶ。
左に空振りしていく白刃を眼の端に映しながら、夜叉猿は付いた右足で今度は上方に跳躍する。轟と足元の虚空を突いたのは大蜥蜴の丸太だ。
空中で回転し、踵を大蜥蜴の肩口に叩き込む。布の下で肩の装甲が砕け、その下の筋肉が軋みを立てる。大蜥蜴が膝を地に付けた。更にその反動で小さく跳躍し、夜叉猿を見失っている狼の背中を蹴り付ける。薄紫の鬣を振り乱し、狼が前方に倒れる。
着地すると、そこに丸太が叩き下ろされた。逆立ちし、丸太を挟み込み――止める。崩れた体勢からの一撃とはいえ、その圧力に身体を支える筋肉が悲鳴を上げた。と、踏み込みの音。背筋を使って上半身を反り上げると、その下を半月が空を両断していった。
夜叉猿は背筋の勢いのままに身を宙に投げ出した。
ふわと着地した夜叉猿の目が、こちらに迫る狼の姿を捉える。脇から上段へと構えが変化し、跳び込みと共に刀が打ち下ろされる。風を纏う剣先が通り過ぎ、半身を仰け反らせた夜叉猿の左手首に血の花が咲いた。
腱までは断たれなかったもの、浅くはない。
右に跳ぶも、狼はそれを追ってきた。着地した左足を踏みこみに変え、逆袈裟に刃が伸びる。夜叉猿は敢えて引かず、逆に狼の間合いの中に大きく足を踏み入れた。脇腹に痛みが走るも、刃は巌のような腹筋の表面で止まっていた。
内懐に踏み込まれたがために刀に十分な力が伝わらず、また夜叉丸に喰い込んだのは切れ味の鈍い鍔付近であったために骨どころか肉も斬れなかったのである。
焦りに狼の瞳が揺れる。夜叉猿は歯を剥いた。そして引き裂かんと右手を振り下ろす――が、それを狼は刀を手放すことで紙一重で回避する。逃げ遅れた体毛が一房、陽光に輝きながら散る。
夜叉猿は刀を外し、まだ宙の狼に投擲した。その際に脇腹から血が毀れ、地面に斑を加える。狼が両腕を交差し守りに入った。
だが、刃が彼女に突き刺さることはなかった。狼の前に紫紺の緞帳が広がりそれを弾いたからだ。刀が地面に落ちる音を後方に残し、大蜥蜴は夜叉猿へと迫る。
大蜥蜴は夜叉猿が間合いに入った瞬間に、丸太を下段から跳ね上げるようにして振るった。夜叉猿は左に身体を“の”の字に回転させてそれを避けようとするも、丸太は逃げ遅れた左手に直撃した。手頸の骨が粉ける乾いた音を夜叉猿は他人事のように聴く。
彼の身体は大蜥蜴の右側、つまり彼の死角に入っている。
まず肘で大蜥蜴の蟀谷を打つ。蹈鞴を踏んだ大蜥蜴の上体が逸れ、装甲に覆われていない首元が露わになる。夜叉猿は牙を突き立てようと首を伸ばすが、ぞくという悪寒を感じて直前に動きを止めた。無理な動きに首の筋肉が引き攣る。
剣風が夜叉猿の鼻先を掠めた。それは刀を拾い、滑るように馳せ寄った狼の斬撃だ。
思わず怯んだ夜叉猿に丸太の突きが迫る。これを右腕で払いのけ、更に後退する。丸太が大蜥蜴の掌から弾け飛ばされる。丸太は駅舎に突っ込み、その壁の一部を破砕した。
その隙に攻めへと転じようと足を踏み変えるが、合間を縫うように振るわれる狼の刀がそれを阻んだ。霧雨の如き細く精緻な彼女の太刀を凌ぎきった時には大蜥蜴の準備が既に整っていた。
負傷した右目のせいでどうしても大きくなってしまう大蜥蜴の隙を、回転の速い狼の剣が埋める。
それが幾度も繰り返された。
明らかに狼は大蜥蜴の呼吸を読んで行動している。夜叉猿は攻めへの転機を掴み兼ねていた。それほどまでに二匹の連携が取れてきている。
いつのまにか、夜叉猿の毛皮は血でしとどに濡れていた。狼の剣を完全に捌き切れなくなってきたのだ。今までの疲弊と傷が夜叉猿に一気に圧し掛かり、身体が不安定に揺れる。
大蜥蜴の構えが目に映る。彼も疲れが出てきたのか、振りが大きい。
夜叉猿は呼吸を半分ほどずらし、釣られて飛び出した大蜥蜴の拳を見送る。狼が割入る隙を与えず、夜叉猿は跳んだ。空中で回転し、爪と牙を交互に繰り出す。最初の一撃は大蜥蜴の装甲に爪痕を刻む。大蜥蜴は跳び退り、布を打ち広げ守りに入った。布が夜叉猿の視界を覆う。
夜叉猿は咆哮を上げた。そして渾身の一撃を翻る布の裏に隠れた大蜥蜴の頭目掛けて打ち込む。
手応え――なし。
夜叉猿の拳は宙を突きぬけた。拳に飛ばされた布がはらりと舞う。その内より現れたのは狼の姿。狼の後方に控える大蜥蜴と夜叉猿の眼光が交錯する。夜叉猿の雄叫びが虚空に轟いた。
狼の左足が大地を強く踏み締め、歌声のような吐息が空気を震わせた。彼女の腕が寸分の無駄もなく、むしろ流麗と形容してもよい動きで孤を描くのが目に映る。
碧空に一条の光が閃いた――。
胸板から盛大に血飛沫を吹き上げながら、大ザルはどうと大地に倒れ込んだ。斬り上げた剣を戻し、シエラは大ザルに近寄る。ぴくりとも動かないが、念のため首を突き、捻る。剣を抜くと、傷口からどろと鮮血が毀れた。血振りし、鞘に納める。
二呼吸ほどして、シエラはようやく安堵の溜息を吐いた。激しく上下する胸を軽く抑え込む。
地面に落ちたマントを拾い、クロコダインの元へと向かう。クロコダインは潰れた右目から流れる血もそのままに、地に座り込んでいた。その顔は愧恥に歪んでいる。
傍にまで来たシエラを見上げようともしない。小さく嘆息して、傷を見せるよう促す。存外に彼は素直に従った。
鎧は砕け、あちこちで鬱血している。ただ、打撲に関しては当事者の彼自身の方がよく分かるだろう。
問題なのは右目だ。一度水で血を洗い流し、押し広げる。クロコダインの喉が小さく呻いた。シエラは口吻を歪める。眼球が完全に潰されていた。感染症を防ぐ以外の治療は意味をなさないだろう。
(とはいっても、薬が……)
たしか、クロコダインの支給品の中に彼が薬と主張するものが入っていた。しかし、言われてみれば薬に見えなくもないといった代物で、試しに使ってみる気はおきない。
シエラは新たに手に入れた三つのデイバックに目を移した。探った結果、当て布として使えそうなリボンに清潔な端切れ、傷薬が幾つか見つかる。
もう一度洗浄した後、傷薬を傷口に塗布し、端切れとリボンで作った眼帯でしっかりと覆う。これで我慢してもらうしかない。
「……おまえの傷はどうなのだ?」
マントを羽織りながら、クロコダインがやっと口を開いた。
「貴方よりずっと軽傷だ。気にするな」
火傷と脇腹の咬傷がずきりと痛むが、顔には出さなかった。咬傷にだけ、傷薬を塗布しておく。火傷は放っておいても支障はないと診断する。
そして、手に入れた新たな支給品を確認し、一先ず各々のデイバックに振り分けた。
「訊いていなかったが、おまえの方はちゃんと仕留めたのか? あのあと、更に二匹向かったようなのだが」
支給品を片端からデイバックに放り込みながらクロコダインが問う。
「赤眼は殺した。それともう一匹。だが、後から来た悪相の獣には逃げられてしまった」
澱みなく答えるも、シエラの手の動きが止まる。赤眼との最後の数瞬を思い出す。
赤眼が遠吠えした途端に自分を幾つもの陣が包み、燐光が爆ぜた。あの刹那の、形容できない酷く恐ろしい何かに心臓を鷲掴みされるという経験は今までしたことがない。赤眼とその従僕がとてつもない魔法を使おうとしたことだけは分かる。
だが、光が消えたとき、倒れていたのは赤眼の方であった。冷たい汗がじっとりと肢体を濡らしていたものの、調べられる範囲で自身に異常は見当たらなかった。
昏倒した獣の、ゆっくりと上下する胸に刃を突きいれたときの感触はまだ手に残っている。
罪なき者を殺した。その事実に息が詰まる。
だが更に彼女を恐怖させたのは、二匹目以降へ向けた刃があまりに軽かったということだ。霜刃はあっさりと帽子を被ったバウンドウルフの首の肉に潜り込み、脛骨を断った。まるで蝋細工か何かのように。
あのときの自分に躊躇いはなかった。ラルクを守るために好ましい変化であるはずなのに、そこに喜びはない。三匹の血を吸った刀が最初よりも酷く重いように感じられるだけだ。淀みが腹の奥に溜まっていく。
「そう、か。…………あいつは、強かったなあ」
クロコダインの呟きに、シエラは顔を上げた。彼は左目で大ザルの死骸を見つめている。
「そうだな。……自分だけの力で倒したかったか?」
「それはそうだ。武勲なくして何が戦士か」
シエラは肩をひょいと竦める。無言を同意と受け取ったのか、クロコダインが口元に剛毅な笑みを刻んだ。ぽつとシエラは言葉を紡ぐ。
「余計な事をしてくれたと、怒っているか?」
クロコダインはきょとんとした表情を一瞬浮かべた。それはすぐに苦笑へと変わる。
「……いや。おのれの未熟さに腹は立つがな」
ついとクロコダインは眼帯を撫ぜた。
「頼りにしているぞ、相棒」
相棒、か。
クロコダインが彼女の問いを否定するのは予想していた。短い付き合いだが、クロコダインがそういう男であることは分かっている。
ただ相棒と彼が口にするとは思ってもいなかった。契約者とはいえ、彼女らは最終的には殺し合う宿命だ。そんな相手のことを口が裂けても相棒とは言うまい。何と返してよいか分からず、曖昧な笑みをクロコダインに向け作業を再開する。
ただ、彼の相棒という言葉の響きに何処か心地よさを覚えていた。それがただの逃避だと頭の片隅で何かが囁くも、彼女はその声から耳を閉ざす。
デイバックの口から覗くドラグーンナイフが彼女に何かを訴えるかのように、きらと朝陽に光った。
【C-2/駅付近/1日目/早朝】
【チーム:契約者】
基本思考:ラルクを除く全参加者の殺害
1:移動する
2:どこかで身体を休める?
【所持品】
クロコダインの支給品一式、丸太×1
シエラの支給品一式(ドラグーンナイフ@聖剣伝説Legend of Mana、不明支給品0〜2個。確認済み)
タヌタローの支給品一式(不明支給品×1。確認済)
ボニーの支給品一式(不明支給品×1。確認済)
夜叉猿の支給品一式(傷薬@ペルソナ3×1、不明支給品0〜2個。確認済)
コロマルの支給品一式
【備考】
※契約内容
クロコダイン、シエラ、ラルクが最後の3人となるまで、クロコダインとシエラの協力関係は継続される。
それが満たされれば、契約は破棄され、互いの命を取り合って最後の一人を決める。
※互いが別世界の住人であることに気付いていません。
※支給品はまとめただけです。新たな不明支給品の中に目ぼしい武器等がないというわけではありません。
※タヌタローの不明支給品は、クロコダインには薬に見えるようです。シエラにも薬と見えなくはないようです。他の参加者には別の物に見えるかもしれません。
【シエラ@聖剣伝説Legend of Mana】
【状態】:疲労(中)、両腕と全身の所々に火傷(小)、脇腹に咬傷(中。治療済)、血塗れ、覚悟、不安定
【装備】:電光丸(倍率×1000)@大神
【思考】
基本:ラルクを最後まで生き残らせる
1:クロコダインと協力して他の参加者を殺す
2:ラルクには出来れば会いたくない
【備考】
※参戦時期はドラグーン編のシナリオ終了後です。
※電車を知りません。キュウビの用意したトラップだと思っています。
※イギーの情報を得ました。
【クロコダイン@ダイの大冒険】
[状態]:疲労(中)、多数の打撲(中。特に腹部)、右目失明(治療済)
[装備]:王者のマント@ドラゴンクエスト5、クロコダインの鎧(腹部と左肩の装甲破損) 、眼帯(ただの布切れ@ドラゴンクエスト5、ビアンカのリボン@ドラゴンクエスト5)
[思考]
基本:全参加者の殺害
1:もっとまともな武器が欲しい
2:許されるなら戦いを楽しみたい
3:イギーは今度こそ殺害する
4:シエラとラルクの実力が楽しみ
最終:キュウビの儀式を終わらせ、任務に戻る
[備考]
※クロコダインの参戦時期はハドラーの命を受けてダイを殺しに向かうところからです。
※参加者は全員獣型の魔物だと思っています。
※キュウビを、バーンとは別の勢力の大魔王だと考えています。
※身体能力の制限に気づきました。
※電車を魔力で動く馬車のようなものだと考えています。
※片目を失ったため、距離感をあまり取り戻せていません。
※C-2の駅舎に丸太が一本突っ込み、壁が一部破損しています。
【傷薬@ペルソナ3】
市販の治療薬。消毒効果、多少の治癒促進効果がある。
夜叉猿に3個支給。
【ドラグーンナイフ@聖剣伝説Legend of Mana】
シエラが使っていた短剣。短剣の中では攻撃力は二番目に高い。
コロマルに支給。
【ただの布切れ@ドラゴンクエスト5】
本当にただの布切れ。防御効果はほとんどない。
コロマルに支給。
&color(red){【コロマル@ペルソナ3 死亡】}
&color(red){【ボニー@MOTHER3 死亡】}
&color(red){【夜叉猿@グラップラー刃牙 死亡】}
&color(red){【残り39匹】}
死体は上から順に、C-1北東、C-2北西、C-2駅付近に放置されています。なお、マリオの帽子@スーパーマリオシリーズはボニーが装備中です。
*時系列順で読む
Back:[[獣の卍(前篇)]] Next:[[鎮魂花]]
*投下順で読む
Back:[[獣の卍(前篇)]] Next:[[鎮魂花]]
|046:[[獣の卍(前篇)]]|シエラ|067:[[誰がために陽はのぼる]]|
|046:[[獣の卍(前篇)]]|クロコダイン|067:[[誰がために陽はのぼる]]|
|046:[[獣の卍(前篇)]]|イギー|049:[[異境異聞]] |
|046:[[獣の卍(前篇)]]|&color(red){コロマル}|&color(red){死亡}|
|046:[[獣の卍(前篇)]]|&color(red){夜叉猿}|&color(red){死亡}|
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