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英雄なんかじゃないから - (2016/08/01 (月) 05:49:45) の編集履歴(バックアップ)


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英雄なんかじゃないから◆dKv6nbYMB.



『現時刻をもって、このエリアは禁止エリアに指定されました。エリアに滞在する場合は三十秒後に首輪が爆発します』
「いっ!?」

高坂穂乃果がいるという音乃木坂学院へと走っていたエドワードは、突如鳴り響くアラーム音に慌てて足を止める。
確かに先の放送ではG-5が真っ先に禁止エリアに指定されると言っていたが、しかしこのタイミングでタイムアップを迎えるとは思ってもいなかった。
不幸中の幸いか、G-5エリアに侵入してからはさほど時間が経過していなかったため、全力で北上すればかろうじて抜け出すことに成功した。

「やれやれ、肝を冷やしたが無事でなによりだ」
「けど、音ノ木坂学院は遠くなっちまった」

エドワード達が北上を選んだのは、なにも運任せなどではない。
迫る時間の中、先程までいたアインクラッドからここまでの道のりと地図を脳内で照らし合わせ、生き延びる最善の手が北上することだった。
だが、それは音ノ木坂学院から遠のく選択肢である。
つまりは、黒子から託された穂乃果から遠ざかるのと同意義だ。
そんな選択肢を仕方なかったで受け入れられるほど彼は大人ではなかった。

(...だからって、このまま止まるわけにはいかねえ)

ここで止まっていれば、穂乃果だけでなく他の生存者も危険に晒される可能性がある。
ならば、今すぐにでも足を動かすべきだ。

(今の位置はG-4...音乃木阪学院に向かうには、G-3から周らないと行けない)

向かい側のF-4との間には川が流れているため、北上してから南下するという非常に遠回りな行程を進むことになる。
だが、たたでさえ黒子に御坂の全てを任せている現状だ。
いまは一秒一刻さえ惜しい。
とはいえ、川幅は目算では泳ぎきれない距離ではないが、かといって泳いで渡ればそれだけ体力を消耗し、且つ狙い撃ちにでもされればどうしようもなくなる。

(なら、これしかないよな)

両手を合わせ、地面を急繕いの橋を錬成する。
奈落を渡った時にも使用した方法だ。
あの時よりも川幅は狭いため、どうにか対岸まで橋を繋ぐことには成功。
これを渡れば時間はだいぶ短縮されるはずだ。



「とはいえ、早く渡らねえとな」

さほど長くない橋とはいえ、急繕いな以上耐久は酷く脆い。
崩れてしまうにはさほど時間を要さないだろう。
早速、エドワードは猫を肩に乗せ渡りはじめる。

「なあ、エドワード」

おもむろに猫が呼びかける。

「お前、このまま高坂って嬢ちゃんのところに行くつもりか?」
「どういう意味だ」
「そのままの意味だ。このまま行ってなんになる」

猫の言葉に、エドワードは思わず足を止める。

「早く渡らないと橋が崩れちまうぞ」
「......」

促す猫の言葉にひとまず従い、再び足を進める。

「仮に高坂って嬢ちゃんとこのまま合流できたとする。お前は嬢ちゃんをどうするつもりだ」
「死なせないに決まってるだろ」
「黒子との約束か」
「それもある...けど、それ以上に誰も死なせたくねえんだよ」
「これ以上誰も傷付けないでか」

やがて橋がボロボロと崩れ落ちていく。

「なんだよ、さっきから文句つけるようなこといいやがって」
「文句をつけてるんだ。幻想(ゆめ)を見すぎたんだよ、俺たちは」


唐突な言葉にもエドワードは足を止めない。
真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに進んでいく。
それでも、橋はやはり崩れてしまう。

「エドワード、お前の言う殺さない覚悟ってのは、お前一人で出来ることなのか?」
「......」
「敵意を持った人間の殺し方は簡単だ。致死量の電撃流したり急所に刃物をぶち込んだりすればそれで終わりだ。だが、敵意を持った人間を殺さない方法は難しい。
だってそうだろ?いくらこっちが説得しても相手は常に殺る気でくるんだ。御坂なら、武器を奪おうが能力を奪おうが関係ない。上条って奴を生き返らせるまでお前を殺しに来るぞ。
いや、御坂だけじゃない。お前の殺さない相手ってのは、後藤やキング・ブラッドレイも入ってるんだろう?お前は少なくともその三人を敵に回して、それでも誰も傷付けず殺さないで済ませられると思っていたのか?」
「それは...」

『何度も言わせないでよ、効かないって。それがアンタの“殺さない覚悟(じゃくてん)”、だからあのみくって娘も誰もかもアンタの生き方(つよさ)に着いて来れず死ぬのよ!!』

脳裏に、先刻の御坂の言葉がよぎる。

そうだ。
死地に身を置く者ならば、死なない攻撃など気に留める必要は無い。
その攻撃を受け止めれば、エドワードを殺すチャンスが訪れるのだから。
そして、御坂に効かなかったものが、殺戮マシーンである後藤に、ホムンクルスであり戦闘狂でもあるラースに効くはずもない。
たった一人相手にも勝てないというのに、そんな強者三人に勝てるか―――不可能である。
勝機は針の穴、なんて生易しいものではない。
零だ。零でしかないのだ。

「現実を見ろ。お前は少し妙な力を使えるガキで、いまの俺はただの喋る猫。そんな奴らが、なんのリスクも無しにあいつらを抑え込むのは無理だ」

彼らが渡り終えた橋が崩れ落ちる。
彼らの理想を掲げる時間は、ここに終わりを告げたのだ。




「じゃあ...どうしろって言うんだよ」

エドワードの拳が握り絞められる。
答えなどもうわかっている。
御坂との戦いの最中、脳裏を過った様々なIFと彼が殺さなかったために多くの悲劇を生み出してしまったこの現実。

殺さない覚悟が枷となっているなら、その信念を曲げるしかない。
そう。つまり。
エドワード・エルリックが殺す覚悟を持つしか―――

「いや、お前は不殺(それ)を変えるな。生半可な覚悟よりは、馬鹿みたいに貫いた方がマシだ」

今まで築いてきた信念を変えるのは難しい。
よしんぼ変えられたとしても、黒子のような絶対の意思が無ければ、先程の橋のように急繕いの不良品だ。
そんなものより、不器用でも真っ直ぐな意思を貫いた方が道は開ける。

「けど、俺じゃ敵わないんだろ」
「お前一人じゃな。一人でやれることには限界があるんだよ。お前に限らず...な」

猫はエドワードの肩から降り、地に足をつける。

「俺が言いたかったのはそれだけだ。というわけでしばらく別行動だ」
「どこに行くんだ」
「ここのところ俺はなにもやってないからな。せめて、あいつらを呼んでくるんだよ」
「あいつら?」
「佐倉杏子たちだ」

佐倉杏子―――武器庫近辺での戦いの後に別れた"仲間"の一人。
彼女や一緒にいたウェイブや田村玲子も合流できれば心強い。
だが...

「...けど、あいつらを巻き込むわけにはいかねえ」
「はぁ?」
「あいつらはまだ怪我人だ。それに―――御坂がもし黒子を殺したら、俺が止めなきゃいけねえんだ」
「関係ない奴らは巻き込みたくない、か...エドワード、少し俺に顔を寄せろ」
「?」

猫の指示通り、しゃがみ込み猫との距離を縮める。

瞬間

猫は跳びあがり、鋭く尖る爪が振り上げられ

ザッ

―――エドワードの頬に、三本の赤い線が走った。



「~~~~ってぇな!なにしやがる!」
「お前の物わかりが悪すぎるからだ」

地面に降り立つ猫は、エドワードを睨みながら言葉を紡ぐ。

「この際だから言っておくぞ。誰かを巻き込みたくないだとか、責任を果たさなくちゃいけないだとか、もうそんな次元の話じゃなくなったんだ」
「もとをただせば、俺たちがロクな戦力も持たずに御坂とブラッドレイを探しに行った時点で失敗だったんだ。
考えてもみろ。エスデスが現れて状況を混乱に陥れた時、俺たちは戦力不足で撤退を余儀なくされた。その結果、敵も味方も大勢死んじまった。だが、あの場に杏子たち3人の内1人でもいればどうなる」

敵である御坂を除けば、あの場での生還者はエドワードと黒子のみ。
しかし、あの3人の内1人でもいればどうなったか。
花陽の逃走の手助けをし、犠牲者を減らすことができたかもしれない。
気絶してしまったさやかを連れてくることもできたかもしれない。
タツミが決死の特攻をすることもなくエスデスを止めることが出来たかもしれない。

そう。
修羅場を経験してきたあの3人の内1人でも一緒に連れて来ていれば、少なくとも犠牲者はもっと減らせたはずだ。

だがエドワードは事を急いて戦力を手放してしまった。
その結果がこれだ。

「所詮は結果論だがな。だが、一人でできなければ数を増やすってのは合理的に考えなくても1番効率のいい手段だろう」
「......」
「お前はもう少し俺たちを信じろ。仲間と思ってるなら尚更だ―――っと、あんまり話し込んでる場合じゃないな」

猫は、そのままエドワードに背を向け闇に姿を消そうとする。

「待て」

そんな猫をエドワードは呼び止める。

「なんだよ。これ以上引き留めると時間が―――」
「わかってる。けどもう少し時間をくれ」

訝しげに振り返った猫にエドは地図を突き付ける。

「いいか、俺たちは奈落に錬金術で橋をかけて渡ってきたからだいぶ短縮できた。けど、俺とお前が別れたらその手は使えない。そのぶんお前は杏子達を連れてくるのに遅れちまう」
「まあ、そうだな。俺は猫だ。普通の人間よりも遅いしスタミナもない。時間はかかっちまうだろうな」
「もしも黒子が負けて、御坂が俺や穂乃果たちを殺しに来たら間に合うか?」
「時間によっちゃ厳しいだろうな」
「だろうな。だから、合流は音ノ木坂学院じゃなくて図書館にする」

図書館のある場所は、D-5。ちょうど市庁舎と音ノ木坂学院の中間付近だ。

「時間は次の放送後...あと4時間もないけど、順調にいけば難しくはないと思う」
「わかった。もう話し合うことはないか?」
「ああ。...気を付けろよ、猫」
「お前もな、エドワード」


再会の約束を交わし、猫は市庁舎へ、エドワードは音ノ木坂学院へと向かって走りだす。



(俺は、視野が狭くなっていた)

御坂にみくを殺させてしまったあの時から思い込んでいた。
全ては俺の責任だ、あいつは俺が止めなければいけない、自分が決着を着けなければいけないと。
そして、これ以上誰も巻き込むわけにはいかないと。

(違うだろ。俺はいつからなんでも解決できる正義のヒーローになったんだ)

今まではどうだった。
1人でなにかを為せたか。
違う。
自分の力で救えたものなんて、掴めたものなんて一握りだった。


(そうさ。俺は一人でなんでもできる英雄なんかじゃない)

エドワード・エルリックという少年は、万能ではあれど決して"最強"ではない。

錬金術に幅はあれど、御坂美琴を打ち破るのに必要な"火力"という一点においてはロイ・マスタングの方が上だ。
錬金術師には珍しい格闘術においては、ホムンクルス達やスカー、佐倉杏子にはやはり遅れをとる。
戦闘経験も、ウェイブやリン達の方が積んでいることは疑いようもないだろう。


だからこそ。

自分一人では届かないものがあれば、信念を貫くためには、敵であった者でも同盟を持ち掛けた。利用できるものはなんだって利用してきた。
それを見失ってしまえば、勝てるものも勝てなくなってしまう。


―――もしも信念を貫きたいならば。

手段を選ぶな。活かせるものは全て活かせ。
これ以上負けてたまるものか!


少年は決意を新たに、闇夜をひたすらに駆けだした。


【F-4/二日目/黎明】


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、精神的疲労(大)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、黒子に全て任せた事への罪悪感と後悔
[装備]:無し
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、不明支給品0~2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、パイプ爆弾×2(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす。
0:黒子から託された、高坂穂乃果を探す(とりあえず音ノ木坂学院へ向かう)。 放送までに彼女たちを連れて図書館で猫と合流する
1:大佐……。
2:前川みくの知り合いを探したい。
3:エンブリヲ、御坂、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
4:一段落ついたらみくを埋葬する。
5:首輪交換制度は後回し。
6:魔術を解析したい。発見した血の練成陣に、魔術的な意味が含まれていると推測。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※エスデスに嫌悪感を抱いていますが、彼女の言葉は認めつつあります。
※仮説を立てました。




【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[思考]
基本:帰る。
0:杏子たちを探すためにひとまず市庁舎付近へ向かう。次の放送までに図書館でエドワードと合流する。
1:黒の奴、飲んでないといいが。
2:銀……。


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