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振り返ればいつだって ◆dKv6nbYMB.

『...静かだ』

誰もいなくなった大地で、アヌビス神は独りぼやく。
恐怖の対象でしかなかったブラッドレイも、一時の主だったアカメももういない。
残されたのは、一振りの刀でしかない己と傷ついた戦場跡のみだ。

『もう少しだったんだよなァ...』

最後の交差、ブラッドレイを上回ったあの瞬間を思い出す。
初見ではあれだけ恐怖に怯えあがった彼を、あの瞬間だけはついに超えたのだ。

本当に、本当にあと少しだったのだ。
あと少しの差が縮まれば、アヌビスはあの怪物に勝利していたのだ。

『けど、当分戦いたくねえな』

しかし、アヌビスは戦いに負けた悔しさよりも、別の感情が勝っていた。
燃え尽き症候群というものをご存じだろうか。
部活動を引退する高校3年生や、オリンピックや世界大会を終えた日本代表選手などがそれまでの人生最大の目標を終え、打ち込む物が何もなくなったという虚脱感に襲われるアレだ。
DIOとは別ベクトルで突き抜けた怪物であるブラッドレイをあそこまで追い詰めたのだ。
今まであれほどの怪物に挑んだことのないアヌビスが、どこか達成感を憶えてしまうのも仕方のないことだろう。

『...タスクの奴はどうなったかな』

ブラッドレイと一人で奮闘し、致命傷を負った青年の安否に想いを馳せる。
雪乃に任せて逃がしたが、あの重傷―――放っておけば死ぬだろう。

タスク。彼がいなければ、アカメがブラッドレイに勝利することはなかった。
彼が命を賭けて繋いだ時間があればこそ、新一が選択し、ミギーがアカメの傷を塞ぐ暇が作れたのだ。
アヌビス自身にとっても恩人といえよう。できれば無事でいてほしいが...

『もしもDIO様に会えたら、あいつらだけは見逃して...って、なに言ってんだ、俺は』

漏れた言葉に対し、バカバカしいと自分でも思う。
アカメたちに協力していたのは、あくまでも保身のためであるはずだ。
確かにコンサートホールから救い出してくれた恩義はあるが、DIOへの忠誠心が消えたわけではない。
彼女達は、コンサートホールでの一件でDIOに対して怒りを燃やしていたが、自分は違う。
もしも、やってきたのがブラッドレイではなくDIOだったら、優先するのはアカメたちよりもDIOへの忠誠のはずだ。
たかが会って数時間の人間たちに移る情などないはずだ。

そう。

他者のために己の命を捧げた新一とミギーを。
絶対的な力の差にも、決して絶望しなかったタスクを。
なんの力も無い癖にブラッドレイに啖呵を切って見せた雪乃を。
託された想いと執念でキング・ブラッドレイに勝利したアカメを。

彼らを目の当りにしたところで、自分はなにも変わっていないはずだ。


『...静かだ』

もう一度呟く。

いまのアヌビスは独りきりだ。
コンサートホールで置いて行かれた時と同じ、誰もいない孤独である。
ただ、違うのは、あの時は壁や瓦礫に覆われていたが、いまは綺麗な夜空が見えること。
そして。

『本当に、静かだ』

ポッカリと胸に穴が空いたような、妙な気持ちになってしまうこと。




「ひどいな、これ」

杏子は戦場であろう場所へ辿りつくなり、そう言葉を漏らした。
草木はもちろんのこと、建物すらも傷つき、地面は抉れている。
至る所に走る傷、傷、傷。
ここが戦場であったことは明白であり、何も音がしないことから既に戦いが終わっていることも察せる。

「結局、間に合わなかったのか」

勝ったのはアカメか、ブラッドレイか、それとも相討ちか。
この目で確かめる以外に知る方法などないため、杏子は恐れず足を進める。

(ま、今さらビビったところでな)

もしも勝者がブラッドレイであり、彼が襲い掛かってくれば、杏子に勝ち目などないだろう。
しかし、雪乃にも言ったように、死んだら死んだでそれだけのことだ。
むしろ、好き勝手やってきたワリにはよくもまあ長生きできているものだと素直に感心する。

(...この辺りか)

デバイスのライトで足元を照らし、血の跡を追う杏子。
彼女が辿りついた先は、エリアの端。つまりは崖だった。

「なるほどね」

血はここでパッタリと途切れている。
一瞬で勝負がつくほどの実力差であれば、すぐに勝者は雪乃のもとへと舞い戻るはずだ。
杏子が病院に着くまで雪乃たち以外に誰もいなかったことから、実力は大差がなかったはず。
そして、どちらが勝ったにせよ、立ち去った勝者の血の跡が残っていないのは不自然極まりない。
つまり、考えられる答えは相討ち。
それも、この奈落に落ちての、だ。

「...なんて言えばいいのかな」

別れ際の彼女の眼を思い出す。心底アカメの心配をしていた雪乃の目を。

「素直に伝えるしかないよな」

杏子が辿りついた時には全てが終わっていた。
わかったのは、アカメもブラッドレイも奈落に落ちたという結果だけ。
収穫などなにもない。
関与すらしていないのだから当然だ。

そのことを伝えるとなると、やはり気が滅入ってしまう。



とりあえずは雪乃たちの待つ病院へと踵を返した時だった。

「っ」

足元を照らしたライトの光が、なにかに反射し杏子の目を眩ます。

(なんだこりゃ)

光を反射したのは、地面に突き刺さる一振りの刀。
その刀の刃渡りは、妖艶とも思えるほどに美しいものだった。

(ところどころに血が付いてるってことは...アカメかあのオッサンの武器だろうな)

どちらのものにせよ、これを回収しておくにこしたことはない。
もちろん、自前の槍を持つ自分が使う訳ではなく、病院にいる雪乃たちに渡すためである。

(あいつらロクな武器持ってなかったからな。ないよりはマシだろ)

杏子が、刀を引き抜くために柄に手をかけたその時だ。

『誰だおまえ?』

突如響く声に、杏子は思わず臨戦態勢をとる。
が、誰もいない。
集中して耳を澄ますが、気配もない。

『おっと、俺を放すなよ!落ち着いて俺の話を聞いてくれ。慌てて奈落にでも捨てられちゃたまらねえからな』
(放す?放すって...)

杏子が握り絞めていたのは、刀の柄。
そこで彼女は理解した。

(...ああ、そういうことか)

喋る猫に動くステッキがいるんだ。
別に、今さら喋る刀がいても驚きはしない。

ただ。

「ほんと、妙なのに縁があるな、あたし」




暗い夜道の中、杏子は雪乃たちの待つ病院へと引き返していた。

『DIO様が死んだって!?』
「あたしの目の前でな。それに放送で呼ばれてただろ」
『あのオッサンのせいで聞きそびれちまってたんだよ。それより、なんであの御方が』
「あたしだってよくわからねえよ。気が付けば後藤に食われてたんだ。...ってか、あんたDIO『様』ってことは...」
『ギクッ!あ、いや、それはだな...』
「...いや、いいよ。あんたがDIOの仲間だろうがなんだろうが、残ってる奴らを殺してまわるつもりはないんだろ?」
『...まあな(ホントは俺一人じゃなにもできないからだけど)』
「なら、あたしがなにか言える立場じゃねえ」

そこで、会話は途切れ、少女と刀は病院への道を歩く。
やがて、沈黙を打ち破るように、アヌビスが話しかける。

『なあ、雪ノ下の奴と会ったんだよな』
「会ったよ」
『あいつと一緒にいたタスクって奴は無事なのか?』
「なんとかな。あの様子なら放っておいて死ぬことはないよ」
『そ、そうか』

そこで会話は途切れ、再び沈黙が空気を支配する。時折、鼻をすするような音がするだけだ。
杏子は、立ち止まることなく病院へとその歩を進めていく。


『...なあ』
「なんだよ」
『泣いてるのか?』
「さあね」

否定はしなかった。
けれど、視界が滲んでいるのはそういうことなのだろう。

(嫌になるよ、ホント)

アヌビスから聞き出した、まどかや承太郎たちのコンサートホールでの顛末。
まどかを殺したのは足立という男らしいが、いまはそれは置いておく。
重要なのは、承太郎が『魔法少女』を敵だと認識しつつあったのは、自分が一因であることだ。
最初に承太郎を襲ったから、彼は『魔法少女』を警戒してしまった。
もしも、承太郎に襲いかからず一緒に行動していれば、こんなことにはならなかった。
―――尤も、コンサートホールでの事態はそう単純ではないのだが、杏子はそう思わざるをえなかった。

(...また、謝らなきゃいけない奴らが増えちまった)

杏子のとった行動が、巡りに巡って鹿目まどかを、空条承太郎を、暁美ほむらを殺してしまった。
そう思えば思うほど、絶え間ない後悔が押し寄せてくる。

ようやく迷いを振り切れた矢先にコレだ。
きっと、これは杏子に対する罰なのだろう。

(罪ってのは、巡りにめぐって罰となる...ってやつか。よく身に染みたよ)


両親に妹、ノーベンバー11、アヴドゥル、ジョセフ、承太郎、サファイア、セリム、マミ、まどか、ほむら、さやか...
謝りたい者たちは数あれど、それで杏子が足を止めることは許されない―――彼女自身が許さない。

まだ何も終わっていないのだ。
この殺し合いも。エドワードとの約束も。御坂との決着も。
全て―――は不可能でも、どれか一つはやり遂げなければ死にきれない。

(だから、あんたらに謝りに行くのはもう少し後だ。その時が来たら、煮るなり焼くなり好きにしてくれ)

この過ちだらけの人生に祝杯は求めない。彼女が求めるのは、贖罪の果てにある答えのみ。
それが希望か絶望かは、彼女自身にもわからない。

だからいまは―――ただ進むだけだ。



【C-1/二日目/黎明】



佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、精神的疲労(大)、顔面打撲 、精神不安定(中)
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ、使用不可のグリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ
    クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:とりあえずアヌビスを雪乃に渡す。
1:その後、市庁舎へ戻る。
2:さやかも死んじまったか……。
3:御坂美琴はまだ――生きているのか。

[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
DIOのスタンド能力を知りました。
※シャドウと遭遇中に田村にデイバックから引きずり出されたため、デイバック内での記憶はほとんど忘れています。
※アヌビス神と情報交換をしました。

【アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態] アカメ・新一・タスク・雪乃への好意(?)
[思考・行動]
基本方針:がんばってできるかぎり生き残る。
0:しばらくは雪乃たちのもとにいる。
1;DIO様が死んだってマジかよ。

※キング・ブラッドレイとの戦いで覚えた強さはリセットされています。
※杏子と情報交換をしました。 るまでの間です。
※足立の捏造も入っていますが、情報交換はしています。



193:アカメが斬る(前編) 佐倉杏子 198:不安の種
最終更新:2016年10月04日 10:10