065

図書館にて ◆w9XRhrM3HU


「アイドルかぁ。俺はあまり見たことないけど、何か華やかなイメージがあるな」
「ステージに上がれば衣装や、飾り付けで豪華だけど練習は大変だよ?」
「確かに歌って踊るなんて、体力が要りそうだしね」
「そうそう。特に大変なのは―――」

図書館に向かうまでの道すがら、タスクと未央は知り合いの情報交換から始まり、取り留めのない世間話をしていた。
特に盛り上がったのが、未央の言うアイドルの話だ。
やはり、そういう芸能界の裏側というのは一般人からすれば好奇心を擽られるのだろう。
タスクは物珍しそうに質問し、それに答えるのは結構気分がいい。
自慢するわけではないが、自分がアイドルだというちょっとした優越感に浸れた。

(良かった。不安感は拭えたみたいだな)

未央の笑顔が増えたのを見て、タスクは心の中で安堵の息を吐いた。
少し前まで笑顔の似合う、その顔は暗く俯いたままだった。見かねたタスクが話を切り出し、気付けばアイドルの話に結びつく。
すると、それが思いも寄らぬ効果を見せ、未央の不安を解消してくれた。
余程入れ込み、夢中になっているのだろう。

(それにしてもアイドル、か。シンデレラプロジェクトとか聞いた事がないけど、俺が詳しくないだけかな?)

世間知らずという訳ではないが、無人島暮らしが長く世間に精通してる訳でもないタスクは深く考えない。
確か、アンジュがまだ皇女アンジュリーゼだった頃はファッションだのスポーツだので、テレビに引っ張りだこだったと聞く。
その時の名残で、アイドルにも詳しいかもしれない。会った時に聞いてみるのも良いだろう。

(まあ、女の子のアイドルの話をして、ヤキモチ焼かれても困るけど)

アンジュがきのこを目の前で。力一杯食い千切る光景が浮かんだ。
思わず股間に寒気が走り、手で押さえたくなる衝動を我慢する。
アイドルの事を聞くのは、やっぱりやめた方がいいのかもとタスクは思った。

「それで……プロデューs「見るな!」

いきなりタスクが未央の視界を遮るように手を翳し目の上に置く。
一瞬、暴力を振るわれるのかと勘繰ったが、そうではないらしい。
むしろ逆だ。置かれた手は、下の眼球に配慮してかとても優しい。だが、その視界を開放させないが為に、力強く固定されている。

「このまま、図書館に入ろう」
「え? あっうん……」

タスクの視線は図書館ではなく正反対、逆の位置に注がれる。
そこには一つの生首が晒され、ご丁寧にイェーガーズにより正義執行!の貼り紙が付いていた。

(誰があんな事を……晒し首なんて、時代誤差にも程があるだろ!)

堪らず胸の内で毒を吐いた。
恐らくは殺し合いに乗っている者達の牽制及び、そうでない者達を安心させる為に、あんな真似をしたのだろう。
生首の主には申し訳ないが、あの面構えはどう見ても悪人。何かここでやらかし、返り討ちにあったとしか思えない。
問題は牽制にはなるだろうが、乗ってない者があんなものを見たところで、安心できるはずもなく、ただ無闇な混乱が起こるだけだ。
タスクでさえ、見ていて気分が悪いのだ。せっかく安定してきた未央に、あれを見せるわけにはいかない。
幸い距離があったお陰で、未央の目に入る前に手で遮れた。
一先ず図書館の中に入り、あの生首から未央から遠ざけた方が良い。

「ね、ねえ? どうしてあんな事を……?」
「……知らないほうが良い」

笑顔の戻った未央の顔が曇る。
薄々何があるのか、察し事態はついているのだろう。生首とは思いつかずも、それに近いものがあったとは分かっているはず。
タスクも誤魔化しは聞かないと分かりながらも、言葉を濁し話を反らした。
出来れば、自分達が図書館に居る間に誰かあの首を除けておいて欲しいと願い、図書館に足を踏み入れた。








黒と戸塚が去った後も、狡噛は図書館内の探索を続けていく。
様々な本が目に付いては流れていく。
小説や観光地などのガイドブック、歴史の伝記を始め、漫画やアイドルの情報誌まである。
情報誌を適当に手に取りページを開いてみる。

「渋谷凜、島村卯月……名簿にあった名前だ。アイドルまで巻き込まれているのか」

駆け出しのようではあるが、注目度は高いらしい。
それが同時に失踪となれば、世間が騒ぐのは想像に難くない。
アイドルとしては、それはかなり致命的なスキャンダルだろう。
出来れば、そう事が大きくなる前に彼女達を元の生活に帰してやりたい。
刑事としての職業柄がまだ抜けないのか、あるいは狡噛自身の気性からそう思ったのか。本人にも定かではなかった。

情報誌と名簿で共通する名前を頭に叩き込み、情報誌を元の場所へ返す。
感傷に浸るのもそこそこにし、頭に冷静さを取り戻させる。
先の情報誌も今まで読んだ本と同じく、狡噛の知る基礎知識と大きく外れていた。
やはり戸塚の言っていたように、パラレルワールドという説も考慮すべきなのかもしれない。
仮に槙島を殺し、首輪を外せ、広川をどうにか出来ても、異世界からどうやって帰えればいいのか分からないでは話にならない。

「と言っても、まだ情報不足だな」

図書館内も粗方探索が終わった。
そろそろ、動いた方が良いのかも知れない。
だが、槙島が図書館に向かう可能性も十分に考えられる。もう少し待って、様子を見るべきかとも思える。

(槙島がこの辺に居れば間違いなく図書館には寄る筈だ。
 でも、奴の姿は見えない。……遠い位置に飛ばされたか? だとすれば、奴が図書館以外に向かう場所は?)

今、槙島は図書館、本以上に何か熱中するもの。十中八九、この場に呼ばれた参加者に興味を惹かれているに違いない。
まず黒たちが来た北の方向。あそこは人がそう多くはない。
黒たちも後藤以外に会っていないらしい上に、後藤のような化け物がたむろしているとなれば尚更だ。
槙島がそう足を止めるとは思えないし、後藤に出会えばさっさと黒たちのように図書館へ駆け込んでいるだろう。

(人……待てよ? そういえば)

先ほど置いた情報誌を再び手に取り、アイドルのページを開く。

(全員、学生だ……。考えれば、ここの参加者は学生が非常に多かった)

最初に磔にされたあの場所。記憶を辿れば、多くの学生服が視界に写っていた。
あの殺された上条という少年も学生だった筈だ。黒と共に居た戸塚も同じく。

(学生……それも高校生辺りの数が多い。となれば)

体は成長したとしても精神はまだ子供だ。
そんな学生達が殺し合いという異常下において、真っ先に目指し集まりそうな場所。

「……学校。音ノ木坂学院」

学生が全員学校を好きになるとは言い難いが、殺し合いへの逃避として学生生活の象徴とも言える学校を目指す。
あるいは、同じく殺し合いに巻き込まれた学友との合流を考え、学校へと急ぐ。
ある程度の参加者が興味を持つのは間違いない。
槙島がそう予想してか、偶然音ノ木坂学院にてそういった参加者と遭遇してかは定かではないが、槙島が居る可能性は高いのではないか?
こんな事なら、黒達と同行すべきだったかもしれないと少し後悔も沸く。
今から向かってもいいが、図書館の事も捨てきれない。下手に動いて行き違いになるのも避けたい。
確か、デバイスに死者の名を流す定時放送があると書かれていたのを思い出す。
キリ良くその一回放送まで待ってから、音ノ木坂学院に向かってもいいだろう。

そこまで考え付いた時、黒達が足を踏み入れた時のように狡噛の仕掛けが音を鳴らした。

「誰だ?」
「待ってくれ! 俺達は殺し合いには乗っていない!」

黒の時とは違い来訪者の姿はそのまま、両腕を上げながら狡噛の前に立っていた。








「そうか、待ち合わせか」
「はい、ブラッドレイって人で」

互いに殺し合いに乗る意思がないことが分かり、素性を明かし情報を交換し合う。
狡噛が情報誌で未央がアイドルだと知っていたことも、警戒を溶かす一因となり穏便に話は進められた。
狡噛は図書館内を探索しており、黒と戸塚は殺し合いに乗っていないこと。そして槙島と後藤が危険であるということを伝える。
タスクと未央は両者の探し人の名を話し、エンブリヲが危険であり、ブラッドレイが討伐に向かい今はその帰りをここで待っていることを伝えた、

「それより、狡噛さん。ずっと図書館に居たらしいですけど、外のアレを見ましたか?」

情報交換を終え、タスクが言葉を反らしながら狡噛へと問いかける。
狡噛自身はそのアレに該当するような物を知らない。
タスクへ何のことか疑問を返すが、視線だけを図書館の外に投げるだけで口を開かない。
話せないというより、未央の前で話したくないのだろうと狡噛は察し、頷いてから図書館の外へ出る。

(生首?)

前時代的な、俗に言う晒し首のように首だけになった男の生首が置かれていた。
こんなものは狡噛が来た時にはなかった。無論、黒と分かれた時も出口まで見送りに行ったが、生首があった様子はない。

(黒と別れて、俺が図書館に篭った間に誰かがこれを置いたって事か?)

血の滴りが奥へと続いている。それを追いかけると首のない男の死体が見つかった。
間違いなく、あの男のものだろう。
服が乱れ、ボタンなどが適当に閉められてるとことから、検分の跡が見られる。
いくら図書館に篭っていようとも、こんな殺害の現場の近くに居れば悲鳴の一つや二つ聞こえてもいいはずだ。
だが、狡噛の耳には届かなかった。殺害時刻は殺し合いが始まって即、深夜辺りだろう。少なくとも狡噛がまだ図書館に来る前だ。
男の体に性犯罪者に多い爪痕があるのを見るに、女性を襲ったところを殺害されたのかもしれない。
その後、狡噛が図書館に入り黒達が図書館を過ぎた後、何者かが死体を発見し首を切り取り晒し、ご丁寧に首輪まで持ち去った。
「イェーガーズにより正義執行!」とある辺り正義感が強く、この男が性犯罪者と確信していた人物が行ったと見るべきだ。

「こいつを殺した女から話しを聞き、わざわざここまで来たか……。
 死体に動じず支給品を持ち去るどころか、どころか服を剥いで性犯罪者か確認する辺り警察関係者かもな……」

人相も悪く、爪跡からもほぼ黒に近いグレーの男だがそれだけでは犯罪者と呼ぶには証拠が少ない。
もっと、何か犯罪者であると強い確証があったに違いない。
もし襲われた女ががむしゃらに逃げ、その正義感の強い者に助けを求め、真偽を確かめる為に検分に向かい、犯罪者と確証を得て、燃える正義感に従い首を斬り、合理的に首輪と男の支給品を回収した。
そう考えれば、矛盾は殆どない。
この首を放置するもの気が引けたが、一先ず図書館へと引き返しタスクにだけ死体の検分結果と自分の推理を聞かせる。

「イェーガーズ……確か、近くにその本部がありましたね」
「間違いない。貼紙の通り、首を晒したのはそこの関係者がやったんだろう」

狡噛とタスクが話し合う。
道徳的には生首を片付けたいところだったが、下手に片付けて犯人を刺激するのは避けた方が良いかもしれないと狡噛は伝える。
わざわざ貼紙を残すほどなのだから、様子を見に来る可能性は高い。もし生首を片付けられているのを見たら、怒り狂いこちらに襲い掛かってくるかもしれない。
様々な犯罪者を見た狡噛だから分かるが、この手のタイプは自分の価値観にずれた行為を行った者を見た場合、何をするか分からない。

「まあ、気味が悪いのも確かだ。それに他の参加者が変な勘違いを起こす可能性も高い。
 片付けるかどうかはお前に任せる。今なら俺も手伝えるが」
「……いえ、未央を連れてる以上、変なトラブルは避けたいし、ここに長居する気もないですから。
 ブラッドレイと会った後、未央と一緒に裏口から出ることにします」
「そうか。俺は一回放送まで、図書館で待ってその後、音ノ木坂学院の方に行こうと思う。
 短い間になるが、よろしく頼む」
「いえ、俺のほうこそ」

短い付き合いになるが、互いに腕の立つ味方が出来たのは心強い。
タスクは安堵の溜息を吐いた。




【D-5/図書館/一日目/早朝】

【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:健康
[装備]:スペツナズナイフ×2@現実
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
1:アンジュを探す。
2:ブラッドレイを待つ。
3:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
4:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
5:未央には生首は見せないでおきたい。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。

【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康、
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
1:渋谷凛、島村卯月、前川みく、プロデューサーとの合流を目指す。
2:ブラッドレイを待つ。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。

【狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】
[状態]:健康、左腕に痺れ、槙島への殺意
[装備]:リボルバー式拳銃(4/5 予備弾50)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考]
基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:槙島を見つけ出す。
2:槙島の悪評を流し追い詰める。
3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
4:銀、八幡、雪乃、結衣に会ったら黒と彩加の事を伝える。
5:後藤を警戒。
6:一回放送まで待った後、音ノ木坂学院に向かう。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒、戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※タスク、未央と情報交換しました。
※デレマス勢の四人(プロデューサー以外)の顔を覚えました。



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045:揺れる水面のアイオライト タスク 101:間違われた男
本田未央
063:サイコパス見し、酔いもせず… 狡噛慎也 096:Future Style

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最終更新:2015年08月26日 01:11