102
noise ◆BLovELiVE
「君が、
御坂美琴じゃと?」
「何よ、文句でもあるっての?」
「いや、君は殺し合いに乗った人間じゃと聞いておったのでな…」
「言ったでしょ。
DIOってやつをぶっ倒すまでの協力だって」
「むぅ……」
エドワードと美琴がジョセフと合流後、3人は情報交換を行い。
そしてその少女が御坂美琴であるという事実にを知るまではそう時間はかからなかった。
「だから勘違いとかしないでよ。私はあくまであいつを倒すまでの間は協力してあげるって言ってるだけなんだから」
「…ではDIOを倒した後はどうするつもりじゃ?」
「聞かなくても分かるでしょ」
「初春という子が、君のことを気にかけておったぞ?」
「……関係ないでしょ、あんたには」
「君が乗ったのはあの最初に死んだ少年のことか?」
「しつこいわよ。これ以上踏み込むようだったらこの休戦も破棄するものだって見なすわ」
ジョセフを睨みつけながらバチリ、と威嚇するように電気を放出する美琴。
脅しではないことは分かる。おそらくこれ以上の説得をすると彼女との戦闘となってしまうだろう。
「あー、分かった分かった!これ以上は何も言わん!だからその電気は止めてくれ!」
「………」
(むぅ、やはり一筋縄ではいかんか、少し時間がかかるかもしれんのぅ…)
美琴のその様子には説得を受けることそのものよりも、それによって戻される自分に拒絶感を感じているようだった。
そこにあの上条当麻という少年の死が大きく影響していることは察することができる。
だが下手にいきなり踏み込みすぎるとおそらく彼女の逆鱗に触れてしまうだろう。
少しずつ、彼女が道を踏み外さないように見守りつつ時間をかけてその心を支えていくしかない。
「それで、じーさんは学校から来たってのか?」
「ああ、あそこには今は真姫、初春という娘と
田村玲子という婦人がおる」
「それで、図書館には…」
「ああ、
泉新一という青年が向かっておる。
アカメと
雪ノ下雪乃という少女と合流する、と言ってな」
「………」
チラリ、と美琴の顔色を伺うジョセフ。
泉新一、アカメ、雪ノ下雪乃。美琴が一度襲ったという三人だ。
中でも新一、アカメの二人は戦力とするならばそれなりに期待できる。
しかし果たして、一度襲撃をかけたという美琴のことを三人は信用するだろうか。
逆に一触即発となっても何ら不思議ではない。
そしてそうなればDIOを倒す仲間を集めるどころではなくなってしまうだろう。
「どうしたんだよ、図書館に向かって仲間を探すんじゃねえのかよ」
「……気が変わったわ。別の場所を当たった方がいいわね」
「イェーガーズ本部とかいうところか?」
「しかし、そこまで向かって仲間を探す、となるとDIOを逆に見失ってしまうのではないか?」
イェーガーズ本部の場所はここからかなり離れた場所、図書館よりさらに向こう側だ。
そこから北東に向かうとなるとかなりの時間を要することになる。
二人の情報から、DIOの存在はここからさらに北へと向かったことは確認できている。
そしてエドワードはDIOに攫われた前川みくという少女を助けに行きたいと言っていた。
「じゃが、やはりDIOがいったいどのような状況にあるのか分からぬままに探しにいくのも危険…。
ワシの紫の隠者で念写できればいいのじゃが」
『ジョセフ様、少々よろしいでしょうか?』
「む?」
と、ジョセフの隣で突如声をかけてきたサファイア。
『そのジョセフ様の能力による念写についての説明は受けております。そしてその能力にかけられた制限も。
ですから、少し試してみたいことがあるのですが』
◇
「…本当に大丈夫なのじゃな?」
『分かりません。しかし可能性はあります』
その手に掴んだサファイアに、ジョセフは手をかざして問いかける。
もしそれが可能であるのならば、この先の施設における研究所の探索、DIOの所在と現在の状況を確かめるのには大いに役立つ。
しかし、失敗すればおそらくサファイアは普段念写に使用しているカメラのように破壊されることになる。
それでも。
『皆様が命をかけて戦われておられるのです、私だけ何も賭けずに生きているのは嫌なのです』
「…分かった。じゃあ行くぞ」
サファイアの想いを汲んだジョセフは、その手に紫の茨を生み出し、サファイアへと巻きつけ。
「紫の隠者(ハーミット・パープル)!!」
バチッ、と電流を流すかのような閃光が走り、サファイアへと流れこむ。
『う、あああああああああああああああ!!!』
「どうした!?やっぱり無理か!?」
『だ、大丈夫です――――、まだ……!』
悶えるように叫び声を上げるサファイア。
魔術のことなど全く分からぬジョセフだが、それでもこの念写を人体に向けて使ったらどうなるのかという情報はない。
サファイアは人体ではないが、しかし人格を持った存在。この念写の影響がどういうものを与えるのかは分からない。
しかし、サファイアの意志は固い。
『もう、少しです……!』
「無理ならいつでも止める!決して無理はするな!」
『っぁああああああああああ!!!』
と、やがて大きく一声絶叫した時だった。
サファイアの体から現れた投影機から光が発し、空中に映像を写し出した。
「いけたか?!」
そこに写り込んだのは、研究所のような施設の中の光景。
のっぺりとした表情で腕を刃のように変化させて振るう男。
漆黒の鎧を着込んだ何者か、槍を携えた赤い少女。
そして、等身大の黄色の人形を横に侍らせた男。
「こいつだ…!こいつがDIOだ!」
「ビンゴか。じゃが些か厄介な状況に陥っておるようじゃな…」
「……何だこの男…、キメラか?」
『はぁ…はぁ…、私の探索能力とジョセフ様の念写能力を合わせたことで、北東地域に限定したものですが現時点でのDIOとその周囲の様子を映し出すことができました…』
「体は大丈夫か?」
『少々疲労を感じますが、機能に大きな障害を負った様子はありませ――』
ボンッ
「何じゃ!今の爆発は!?」
『…探知機能に異常が生じたようです。
自己修復には取りかかりますが、しばらく先ほどのやり方は使用できないと考えてください』
「お主自身は大丈夫なのか?」
『動作には大きな問題はありません』
「それならよかった、安心したぞ」
と、空中に投写された映像を確認するジョセフ。
「それにしてもこの男は…」
『ジョセフ様』
「ああ」
ジョセフとサファイアにはそのDIOと同じ場所にいると考えられる謎の男の存在に心当たりがあった。
田村玲子が言っていた、彼女の知り合い、といってもおそらくは敵である存在。
闘争と殺戮を好む寄生生物。
後藤。
「まずいな、奴がいるとなるとDIOの近くの危険度は跳ね上がっておる…」
「じゃあ急がねえとみくは…!みくはどうなってんだよ!」
『申し訳ありません。どうやらこれが限界だったようで…』
「とにかく分かったのはあそこにはDIO以外にもヤバイやつがいるってことでしょ。だったら尚更味方は必要じゃないの?」
「そんな呑気にやってる間にみくが危ねえだろうが!」
DIO以外にも危険な相手がいるとなればこの三人でもどうにかなるか分からない。
故にあくまでも戦力を増やしてから向かうべきと言う美琴。しかしエドワードにとって優先すべきはみくの安全。DIO以外の脅威が確認された今一刻も早く向かう必要がある。
同じ目的を目指していながらも、しかしその先に求めるものが異なる二人の行動方針は咬み合わない。
「まあ、落ち着け二人とも。ここはクールに、な」
そんな二人を宥めるジョセフ。
「DIOとあの男、後藤が協力し合っているようには見えん。むしろ敵対しておると考えるべきじゃろう。
なら、これは逆にチャンスじゃ」
DIOは強敵ではあるが、あの後藤という男も一筋縄でいく相手ではないと聞いている。
その二人が戦っているというのであれば、逆に攻め込むチャンスでもある。
「…その二人が潰し合って消耗したところを、ってこと?」
「そういうことじゃ。その隙に前川みくという娘も救出してやればよいじゃろう」
「決まりだな。行こう」
「嬢ちゃんも、それでいいな?」
エドワードとジョセフが向かうという。向かう二人に対し、向かわないというのは自分だけ。
かといってここで向かわないことを選んだとしても仲間を見つけられるとは限らない。
「初春という娘から話は聞いておる。確か学園都市のレベル5、要するに超強いってことじゃろ?
ワシらがおってもまだ勝てないと思うほどに自分の力に自信がないのか?」
「誰に向かって言ってんのよ!ちっ、…分かったわよ」
あからさまな挑発に乗って、舌打ちしながらも返答する美琴。
だが、エドワードとジョセフはそれで怖気づく性質ではない。
不利な状態でも、守りたいもののために死地に向かおうとするその姿。
何故か、それが美琴には妙に苛立たしく感じられていた。
そうして北に向けて走り始めたジョセフ。
その道中、ふとジョセフはエドワードと美琴に問いかけた。
「二人とも、一つ確認しておきたいんじゃが。
君たちが体験したDIOの能力についてだが――――――」
◇
「さて、杏子、と言ったか。確か君も魔法少女と言ったが、イリヤスフィールとはまた別の魔法少女ということになるのかな?」
「少なくとも私の知り合いにそんなやつはいないね。だけど興味はある。どんな奴だったんだ?」
「喋るステッキを使って変身する小学生くらいの子供だ。その力があれば空を飛ぶことも可能らしい」
「ああ、じゃあ私達の知ってるやつとは別だな」
能力研究所の一室。
入り組んだ室内で、警戒心を隠すこともなく表す杏子に対してDIOはそれを受け流すように紳士的な口調で話しかける。
「さて、君の魔法少女というのは一体どんな仕組みなのか、聞かせてくれないかな?」
「…大したもんじゃないよ。ただ、変な生き物に騙されていいように使われて戦わされる、バカの集まりみたいなものさ」
「ほう、詳しく聞かせてもらいたいな」
「その前に、少しいいかな」
と、杏子とDIOに追随するように歩いていたノーベンバーは割り込むように話しかけた。
「話が終わったら、あの猫は返してもらいたいんだ。
杏子と会えた以上、君がこの猫ちゃんを連れている意味もないだろう?」
「フフフ、ならそこに背負っている娘と交換としてもらおうか。彼女は大切な実験要員なのでね」
「実験って何だよ?」
「操祈から聞いているのだろうが、彼女の能力制限を図る必要があってね。みくにかけた洗脳がいつ解けるかを図る必要があるのだよ」
「……なるほど。一考させてもらおう」
ノーベンバーはそれ以上の追求をすることは止めていた。
果たしてこの少女の足を引きちぎる必要はあったのか、という部分。
契約者の視点で見てもそれが効率のいい、合理的な手段には思えない。
だが、同時に言っても無駄だろうということも同時に察しがついていた。
意味は無い。ただこの男がそうしたいからやったということだ。まるで息を吸うように、歯を磨くように。
そこには合理、非合理の理屈などない。ただ男の性質がそういうものだったという、ただそれだけの理由。
できれば一刻も早く離れたいところだが、下手に逃げようとしてあの時の後藤のように謎の現象に見舞われたらそれも叶わない。
それは杏子も分かっているのだろう。だからこそ、あくまでもこの場では穏便に済ませようとしている。
ならば、この少女に関しては諦めるしかない。
情がないわけではないが、己の命と天秤にかけられるものではない。
それが契約者のするべき合理的な判断。
「さて、それじゃお話をしようじゃないか。
佐倉杏子」
◇
能力研究所。
その内側は多くの部屋、通路によって構成され非常に入り組んでいる。
DIO達のいる一室がどこであるか、それを見つけるのは容易なことではない。
カツ カツ カツ
それでも、後藤は闘争の気配を感じて迷うことなく一歩ずつ足を進めていく。
田村玲子を探し彼女を取り込むことで己の力を高める。それも重要ではある。
だが、己を成す衝動は闘争。
例え相手が得体のしれない力を持っていたとしても、それが引く理由にはならない。
体の傷も、戦いに差し支えるほどのものではない。
田村玲子の位置は大まかな地点すら分かっていれば見つけ出すことは難しくはない。
カツ カツ カツ
それに、この場にいることで大きな闘争が発生する。
そんな予感があった。
部屋の扉を開く。
だが中には人一人いない。
「………」
このまま虱潰しに探して行っても時間だけが過ぎていくだけだ。
そう考えた後藤はバッグから首輪探知機を取り出す。
同じ建物の中にいるのであれば探し出すことは可能だろう。
探知機の反応は6つ。
一つは自分。残りはあのDIOや鎧の男、そして槍を携えた女達だろう。
場所はちょうど自分のいる付近。しかしそんな気配はない。
「階層違いか」
同じ座標の、別の階層にいる、ということなのだろう。
だがいちいち階段を使って向かうのも手間だ。
ふと部屋を見回して、その隅に窓ガラスがあることを確認する後藤。
そのまま腕を刃へと変形させ、一片の躊躇もなく研究室のガラスから飛び出し。
そして外壁に刃を突き立てて張り付く。
そのまま、蜘蛛のように壁を伝って上の階へと上がり始めた。
その時だった。
壁に張り付いた後藤に向けて何かが炸裂するかのような轟音が奔ったのは。
◇
その音は、彼らが会話をしていた一室までへも響いていた。
「…奴は追ってきたようだな。すまない、話の続きは後ということでお願いできないかな」
「ああ、大丈夫だ。こちらとしてもあの後藤という男が追ってきたなら迎え討たなければまずいしな」
「にゃははは、みんな集まってきたのかにゃ?じゃあみんなで一緒に遊ぼうにゃ~」
「…こいつはどうするんだよ」
「そうだな、操祈。彼女の傍にいてやってくれ。俺は客人を迎えに行かなければならないのでな」
冷静に表情を崩すこともなく部屋を立ち去るノーベンバー、その後ろで槍を構えて退室する杏子。
その最中、杏子はふと後ろを振り返る。
「おい、行くんじゃねえのかよ?」
出迎えると言ったDIOが部屋から出る気配がかなり遅れているようにも見えたのだ。
杏子にしてみればこの男に背後を任せるという事自体に気が置けない。何しろ少女の足をもぎ取っておきながら平気な顔をしているような男だ。
加えてあの得体のしれない能力。
例え気休めだとしても後ろを取られたくはない。
「…すまない。少し先に行っていてくれないか?あの鎧の疲労が少し抜けていないみたいでね」
「そうかい」
DIOの答えに、まだ付いてくるつもりはないということが分かった杏子はそのままノーベンバーについて外へ向けて駆けていった。
(この感覚…、どうやら来たようだな)
会話中は特に意識していなかったが、あの音で意識を戻すと共に体の中で何かが知らせていた。
この会場に着いてからというもの、エジプトにいた時と比べればあまりにも弱くなっていた感覚。
それが、たった今はっきりとした形で感じられている。
これが何を意味しているのか。
「――――
空条承太郎、あるいはジョセフ・ジョースター!」
己の因縁のある、ジョースター家の血を引く男の存在。
それがすぐ近くまで迫っているということ。
◇
「何やってんのよ!いきなりそんなものぶっ放すやつがある!?」
「うるせえ!こういうのは先手でドカンとやっておかねえとダメだろ!」
地面から生えるように作られた巨大な砲台の傍で、美琴とエドワードが叫び合っている。
ジョセフの勘とサファイアの探知機能を便りに多くの建物が立ち並ぶ地帯を駆けていた3人は、当たりだと思える一つの建物へとたどり着いた。
だが、その時目に入ったのが壁を蜘蛛のように伝って歩く何者かだった。
両腕や足を刃のように変形させて壁に突き刺しながら進んでいく姿は普通の人間のものに見えるはずもない。
かといってこの距離。どう対処すればいいのか。
それを考えていた時に、地面から大砲を錬成したエドワードが轟音と共に砲台を撃ち出していた。
「でもあんた、それ当ててないでしょ!先手必勝が聞いて呆れるわよ!」
「あいつを引きずり下ろせればそれでいいんだろ!」
「むぅ、もしこの中にDIOがいるとするなら、もっと派手にやってくれても…いや、それでは奴以外の人間を巻き込んでしまうかもしれんか…」
エドワードとしてはみく救出に逸る思いがあり、それが後藤という危険な存在かもしれないということから考えるより先に手が出てしまった、という辺りだった。
壁面には大きな穴があき、そこに後藤の姿はない。
後藤がいた場所はその中心部からはある程度離れた、しかし崩れ落ちている場所。
直撃を避け、壁を崩すことで地面に叩き落とすことを目的とした一撃だ。
カツ、カツ、カツ
そして、もしジョセフから聞いた後藤という男がそのとおりであるなら、あれで死ぬとも到底思えない。
目の前で起き上がっている後藤は、脚の関節をまるで飛蝗のように逆方向に曲げてバネのようにして着地していたのだろう。
地面に叩き落とした時のダメージがある程度あることは期待したが、その様子はない。
「ち、本当にキメラみたいな奴だな…」
「お前、後藤という名じゃな?」
「俺の名前を知っているということは会ったな。田村玲子か泉新一に。
奴らはどこにいる?」
「教えると思うか?」
「教える気がないならそれで構わん。力づくで聞き出すだけだ」
腕が触手のようにうごめいたと思うと、幾重にも枝分かれして刃へと変形する。
「来るぞ!まだこの後はDIOと戦うことになるじゃろう!深追いはするな!」
「ち、誰に向かって言ってんのよ!」
美琴が電気を放出して後藤へと走らせる。
青白い光は地面を伝っていき。
しかし後藤はその光を横に大きく飛んで回避。
「うおりゃああああ!!」
その移動した後藤へとエドワードが走る。
手には先に作り出した砲台から再錬成し直した巨大な槍が握られている。
向かい来るエドワードに気付いた後藤はしなる刃を向ける。
しかしエドワードはその軌道を読むように体を捻り紙一重のところで避けて接近、その腕に向けて槍を叩きつけた。
だがその腕はまるで岩を殴っているかのように固く、後藤自身も怯む気配も見せない。
「ち、固え…!」
「小さな体に助けられたな」
「誰がチビだって!!」
後藤に槍を叩きつけた態勢のエドワードに向けて、外した刃が後ろから迫る。
エドワードの背中を貫かんと来るそれに対し。
「紫の隠者(ハーミット・パープル)!!」
ジョセフの腕から出された茨がその腕を絡め取って押さえつけた。
その隙に槍を再度叩きつけた後その反動で離脱する。
「手を合わせて謎の力を引き起こす男、その服を着た風や瞬間移動をする女。
お前たちも奴らと同類の力を持っているということか」
「…?誰のことだ…?」
「風と瞬間移動…、婚后さんと黒子…?」
すぐにその存在に行き着いた美琴。
一方でエドワードには心当たりがない。
知っている存在はホムンクルスとキンブリー、マスタング。
しかしその二人は錬成陣を用いた錬成を行う。自分のように錬成陣無しでの錬成はできないはずだ。
自分たち以外に錬成以外の力を使う者がいるということだろう。そう解釈して思考を打ち切る。
「ええいっ!」
再度後藤に向けて地面を走る電流。
しかしその行動を予測していた後藤はあっさりとその軌道を回避。
「お前の力はそれだけか?」
接近戦において最も不慣れである者は美琴だと判断した後藤は、電撃を素早い身のこなしでかわしつつ刃の攻撃範囲まで迫り。
そのまま目にも留まらぬ動きで、巨大化させた刃を一気に振りぬく。
「―――フ」
一瞬、美琴が笑みを浮かべたような気がして。
その瞬間、後藤の腕が一気に大きく美琴から外れた場所まで逸れる。
「む」
思わず目を腕にやる後藤。
その腕の触手部分に先のエドワードが振りぬいていた槍がまるで腕を巻き付けるかのようにあった。
バチリ、と槍から一瞬帯電しているかのように電気が走る。
電気を通す金属であれば、手元から離れていても美琴にとっては磁気を操ることで自在に動かせる。
あの腕の機動力を封じるために、その一つを封じたのだ。
態勢を崩してたたらを踏む後藤。
そこに横からエドワードが迫り。
両手を合わせて槍に触れる。
まばゆい閃光が走り、槍が形状を変化させる。
触手を捉えていた槍は地面へとしっかり根付き、加えて檻のようにその腕を拘束して離さない。
「じーさん!今だ!」
「じーさんじゃない!ジョセフじゃ!」
そのまま後藤へと向けて、今度はジョセフが迫る。
抜け出せぬ後藤は動ける左腕を素早く展開。
「おっと!」
その速さに驚きつつもどうにか回避しながらも迫る。
しかし三本全てを回避しきることはできず、その中で一本がジョセフの体へと迫る。
「――!」
思わず腕で刃から庇うジョセフ。
だが後藤の刃は腕で防ぎきれるようなものではない。
その場にいた誰もがジョセフの腕が切り落とされ、そのまま体をも切断される未来を見た。
だが。
「次にお前は『何だその腕は?』という」
「何だその腕は……む?」
ジョセフは腕すら切れておらず、もう一方の手を眩く光らせながら握りしめる。
切れた服の奥に見えたのは人の肌とは思えぬ灰色。そこにあったのは生身の人体ではなく鉄の義手。
あくまでも人の体を斬ることを目的として振りかぶった一撃では鋼鉄を切り裂くには至らなかったのだ。
「波紋疾走 (オーバドライブ)!!」
その手に溜め込んだ波紋ごと後藤の顔へと叩き込まれたその一撃は、後藤の体を大きく後ろに吹き飛ばした。
「ふぅ、じゃがさすがに今のは冷や冷やしたぞ」
『…もう少しご自身の安全を考えてください』
「なぁに、義手が少し傷ついたくらいじゃ。結果オーライじゃよ」
サファイアの諫めにも軽口を返して答えたジョセフは、再度後藤を見る。
常人であればしばらくは動けないだろう一撃だったが、しかし相手は人間ではない。
いっそ吸血鬼のような存在だったならば終わったのだろうが、そうもいかないだろう。
「不思議な一撃だ。体の中に何かを流し込まれたような感覚を覚える」
「…しかし何じゃな。この男の声、何故だか知らんが妙に気に障る気がするわい」
「だが威力自体はDIOのものと比べればそれほどでもない。それでは俺は殺せん」
「じゃろうなぁ…」
別にジョセフ自体、今の一撃で倒せることを期待していたわけではない。
だが、それでもこの後藤という男の戦い方、力に関して測ることには成功していた。
二度目はないだろうが、素早い一撃は人体を切り裂くことは容易でも鉄のような物質を切り裂くには威力不足。
おそらくはそれでも斬ることはできるのだろうが、そうなった場合は大振りの一撃を放つことになるのだろう。
そしてエドワードの一撃を見るに体自体もその刃と同じ程度の硬さを持っている。内側はどうかは知らないがあの肌色の肉体の下には鎧のように防御されているのだろう。
それだけの情報を得るためにこちらは手の内をある程度晒してしまったが。
だが、これ以上時間をかけているわけにもいかないだろう。
何しろ、この先にはDIOがいる。ジョセフの接近はおそらくDIOの知るところだろう。
今は日中。あの建物の中から出てくることはないはずだが。
これ以上近くで戦闘行為が続くのはDIOの逃走、ひいては攫われたという前川みくという少女の救出にも失敗することになる。
(ここは戦力を分担して動くべきか…?)
危険ではあるが、目の前の後藤を倒すことは必要なことだが優先事項ではない。
最悪前を
前川みく救出までの時間さえ稼ぐことができるならば。
と、そこまで考えたときだった。
「うおりゃあっ!!」
窓を割って、赤い少女が後藤に向けて槍を抱えて突っ込んできた。
拘束されていた後藤の腕が切り落ち、片腕と引き換えにその体に自由が戻る。
「ずいぶん楽しんでるみたいじゃん。さっきはずいぶんとコケにしてくれた借りを返させてもらおうか!」
「この娘は…確か…」
ジョセフの記憶では、確か佐倉杏子という名前。
美樹さやかの知り合いの魔法少女の一人のはずだ。
「…君は、佐倉杏子という名前か?」
「あん?何で私の名前…、誰かに会ったのか?まあいいや。
あんた達、こいつの敵なんでしょ?こいつぶっ飛ばすまでの間でいいから、とりあえずちょっと手を組まない?」
「それは願ったり叶ったりじゃが……」
ジョセフとしても敵対するつもりのない者であれば友好的にするつもりではある。
だが、それが後藤を倒すまでの間、というのは妙に引っ掛かる。
しかし思考をその事に回し続ける時間はなかった。
切断された後藤の片腕が蠢き、形を崩したと思うと後藤の本体の元へと迫っていき。
そのまま何事もなかったかのように、後藤の腕は元の形を取り戻して再生していた。
「な……」
驚愕で絶句する杏子と美琴。
「…話には聞いておったが……。体に5体の寄生生物を飼っておる、だから五頭(後藤)ということじゃと。
じゃがこうして実物を目の当たりにするとすさまじいものじゃな…」
少なくともこいつを倒すには腕や脚を切り落としたとしても一時の時間稼ぎにしかならない。
するのであれば、その核である心臓を叩くしかないだろう。
だが、そこは堅牢な肉体の鎧で包まれており自身の力では破ることは難しい。
だとするとこの場でキーとなるのは―――
(この御坂美琴という嬢ちゃんじゃが…)
「ふむ、やはり苦戦しているようだね」
と、今度は研究所の正面玄関からスーツを着た一人の男が現れる。
特に武器を持っている様子もないが、その佇まいは戦い慣れした者のそれだ。
「君は…?」
「私はジャック・サイモン。まあ言いたいことはあるだろうが、今はこの名前で通らせて欲しい。
見るとあの後藤という男とは敵対しているみたいだね。どうだろう、ここは共同戦線を張らせてもらう、というのは?」
男がいかなる力を持っているのかは分からない。しかし共に戦ってくれるというのであれば願ってもないこと。
様子を見るに佐倉杏子とは共に行動した仲なのだろう。彼がいれば彼女の手綱は握っていてくれるのかもしれない。
ただひとつ、見過ごせないことがあった。
それは、この男がDIOがいると思われる建物から出てきた、という事実。
「おい、この建物の中にDIOはいるのか!?みくは無事なのか?!」
「ああ、二人ともこの中だ。みくという子も命には問題なかったが―――」
逸る気持ちのままエドワードがジャックに問いかけていた、その時だった。
ダッ
地を蹴った後藤が、エドワードとジャック目掛けてその刃を振りぬいたのは。
両腕の合計6つの刃が迫る。しかし二人の反応が間に合わない。
素早い一撃はグランシャリオ、鋼の義手でかろうじて防ぐ。
しかしその後で追撃をかける大ぶりの一撃。回避しなければまずいそれまでは対応が間に合わない。
ガキィン
しかし、その瞬間二人の間に砂鉄を操る美琴、そして槍を構えた杏子が割り込む。
その一撃を防いだだけで砂鉄は霧散し槍は砕け散り二人は吹き飛ばされる。
「悪ぃ、美琴!」
「助けられたね杏子」
「礼なんていいわよ、あんたはDIOを倒すために必要なんだから、こんなところでやられちゃ困るのよ!」
「礼なんていらねえよ。あんたは私がぶっ飛ばすっていっただろうが」
「おやおや二人とも似たようなことを言うね。それは所謂ツンデレ、というやつかな?」
「「誰がツンデレだっ!」」
ノーベンバーの軽口に過剰に反応する二人。
「さて、エドワード君といったかな。前川みくのいる部屋なら知っている。
王子様のように迎えにいくというなら急いだ方がいいかもしれないね」
「みくはどこにいるんだ!?」
ノーベンバーからみくのいる部屋を聞き出すエドワード。
それなりに高い階層にある一室に、DIO、
食蜂操祈と共に、あるいは操祈のみと共にいるという。
それだけを聞いて、エドワードは急いで研究所の中に突入していく。
「…最も、今の彼女に会うというのならそれなりの覚悟をしておかないと―――ってもう行ってしまったか」
「…………」
と、そこまで様子を見るように構えていた後藤が動き始めた。
残った4人はそれぞれどの方向から攻撃が来てもいいように構え。
そんな彼らを通りすぎて、エドワードを追って研究所の中へと入っていった。
「?!やべえ!あいつを屋内に入れたら―――」
あの壁や天井を縦横無尽に飛び回り読めない軌道からの攻撃を繰り返すあの時の戦いが思い出される。
おそらく後藤自身皆が追ってくるだろうということは読んでいるのだろう。追わねばエドワードが危ない。
その上で、自分に有利な状況での戦いをするつもりなのだ。
「ち、追うぞ!
…ジャック・サイモンと言ったか。あんたはDIOとはどういう関係なんじゃ?」
「彼とはここで会っただけの仲だ。少し話をしただけだよ。仲間、というには彼のやり方はあまり趣味に合わないものでね」
「分かった。嘘を言っておる目には見えん。あんたの言葉は信じよう。DIOは中なんじゃな?」
話しながら、残された4人もまた後藤を追って建物の中に突入していった。
◇
物陰の奥から外の様子を眺めるDIO。
「なるほど、ジョセフ・ジョースター、老いぼれの方が来たか。
嬉しいぞ、わざわざこの俺に血を提供しにきてくれるとはな」
インクルシオの鎧があればあの場所で戦いに交じることも可能だったが、むしろ消耗したあいつらを一網打尽にしてやった方が効率がいい。
そう思い研究所内で待機していたが、そううまくいくものでもなかった。いくら老いぼれとはいえ腐ってもジョースターというところか。
連れてきた者も一度は叩きのめしたとはいえ地力は高い連中ばかり。
だが、そんなやつらを完膚なきまでに叩き潰す、ないしは屈服させてこその帝王だろう。
後藤の存在が気がかりではあるが、いくら老いぼれとはいえあんな生物にやられるようなジョースター家の男ではないだろう。
もしもの時はジャックと杏子が始末、ないしは足止めしてくれる。
ならば、こちらはこちらで自分のやるべきことを優先するとしよう。
後藤を始末するならば、その後だ。
「フフフ、いくら貴様達が強くとも、この『世界』の前では塵にも等しいということを教えてやる」
陽の光が入らぬ薄暗い空間で、DIOは微笑を浮かべて獲物を待ち続ける。
◇
結果として、後藤を追う事自体はそう時間のかかることではなかった。
それなりに開けた通路の一つに、まるで待ち構えるかのように後藤は立っていたのだから。
しかしそれは皆にとっても助かるものではなかった。
「ち、やっぱ屋内じゃ…」
縦横無尽に壁や地面を足場に飛ぶ後藤に、多節棍と化した槍を振るい広範囲に打撃を仕掛ける杏子。
しかし後藤はそれを安々と弾き飛ばして刃を杏子へと振るう。
直撃は避けるが、脇腹を刃が掠めて傷を作る。
その着地した後藤の背後から、美琴が雷撃を放出。
死角に位置するその攻撃を後藤が避けられるはずもない。そう思っていた。
ギロリ
攻撃が当たる直前、その後頭部に美琴を睨むかのように瞳が姿を見せる。
ヤバイ、と判断した美琴は咄嗟に自身の体から発した磁力によって背後の巨大な金属製の機器の元へと吸い寄せさせて後退。
コンマ一秒の差で、美琴のいた場所を刃が通り過ぎていった。
「まずいな…」
ジョセフとノーベンバーは物陰でその様子を伺っている。
別に逃げているわけではない。ただ、あまりにも状況が悪かった。
二人が後藤と屋内での戦いを行うのは不利、と判断するにはそう時間のかかるものではなかった。
無策で戦うのは無謀、と判断した二人だったが、しかし杏子と美琴は後藤が発した挑発のような言葉にまんまと乗せられて今の状態に至っている。
かといって見捨てるわけにもいかず、こうして判断を待っている状態だ。
「おい、ジャックよ。あんたの能力は、確か氷を作り出すというものじゃったな?」
「まあ無から作り出せるというわけではないがね。水気、ないしは水分があるならというところだ」
「なるほど。…水分か。あの嬢ちゃんの協力も必要になるが、やってみる価値はあるか」
周囲に散らばった多数の金属片を磁力で操り、弾丸のように一斉に射出する美琴。
しかし後藤はそれを腕を巨大な盾のようにして防ぐ。
杏子がそこに思い切り槍を叩きつけるが、逆にかわされて盾に殴られて吹き飛ばされる。
その次の瞬間、杏子がいたことで死角となっていた場所から美琴は電撃を放つ。
だがそれは盾で防ぐでもなく、飛び退き壁に張り付いて回避。
「ち、しつこいってんのよ…!!」
物理的な攻撃は受け止めるが、電撃だけは当たろうとしない。少なくともその体に電気を流すこと自体は有効なのだろう。
だがそれは後藤自身も分かっていること。不用意に撃って当てられるものでもない。
「どうした?その程度か?」
そのまま壁を蹴って美琴の元に飛びかかる後藤。
回避も間に合わぬ速度でその腕の刃が迫る。
その寸前だった。
視界に割り込むかのように眼前に何かが写り込んだのは。
爆弾か、薬物か、あるいは何かしらの攻撃手段か。
直感的になぎ払う後藤。そして直後にその体は美琴の元に到達する。
刃が美琴へと振るわれるタイミングがずれたことでその身が斬られることはなかったものの、その勢いまで殺すことはできず、体当たりの衝撃が美琴を突き飛ばす。
「ぐあっ…」
地面を転がる美琴の体。
だが、追撃はない。
後藤は自分がたった今薙ぎ払った何かに目をやる。
それはペットボトルに入った水。
水は地面を伝い、一人の真っ黒な鎧を纏った男の足元まで伸びる。
その男の体から光が発したと思うと、後藤の足元がこぼれた水を通して凍り始めた。
しかし後藤はそれが脚に到達する寸前には飛び退く。
その手自体は一度見たものだ。
だが今は勝手が違い、あの時と比べれば相手取る者が多い。凍らされて氷を砕く間にも別の誰かの攻撃が迫ってきては面倒だ。
再度壁を蹴ってノーベンバーのグランシャリオを着込んだ体に向けて全身を丸めて体当たりを放った。
刃であれば鎧を切り裂くに留まる可能性があるが、こちらならば鎧の内部にも衝撃を与えられる。
吹き飛ぶノーベンバーの体、同時にグランシャリオも解除される。
そして、地面を見ると自分の体からノーベンバーの元に向けてもまた水が残っている。
またペットボトルの水をこちらの突撃と同時に撒いたのだろう。
故に後藤はノーベンバーの体を触手で殴り飛ばした。
斬ればそれで終わっただろうが、死ぬまでの一瞬の間にまたしても能力の発動を許すのも手間だ。
「ふ、ふふふ」
「何がおかしい?」
「いや、うまくいったなと思ってね」
おかしそうに笑うノーベンバーに対し、後藤は訝しげにしながらも近寄る。
あの男の体はこちらに氷を届けさせられる距離にはない。
「ところで知ってるかな?水というものはね、電気をよく通すんだよ」
「―――!」
バチリ、と。
美琴の放った電撃は濡れた地面の端を捉え。
後藤に避ける暇も与えぬほどの速さで水を伝ってその体に到達する。
「ぬ、がああああああああ!!」
体に流された電流は後藤の動きを止める。
威力自体は後藤の巨体の心臓にトドメを刺すほどのものではない。
しかしその肉体に流された衝撃は体の統率を乱し、動きを鈍らせる。
そんな状況にあっても、後藤は冷静に周囲の状況を見極めようと知覚に全てを費やす。
佐倉杏子の槍が迫る。統率の乱れた体に強引に支持を出し、急所だけは避けるように体を守らせる。
胸を狙った一撃は弾き飛ばして終わる。
『執行モード、デストロイデコンポーザー』
ふと、後藤の耳に届いた音。
音の発生源はジョセフ・ジョースター。
その手に構えられた、異常に大きな銃のような武器。
『対象を完全排除します。ご注意ください』
回避するには脚の統率が戻らない。何しろ最も電気の影響を受けた箇所だ。
受け止めるために、後藤は腕を巨大な盾に変形させて防御を図り。
しかし放たれた光弾は後藤の盾を吹き飛ばした。
「やったか?!」
『いえ、当たりましたがあの男本人には届かなかった様子です』
視界が晴れた先には、右腕を喪失しながらもまだその2つの脚でしっかりと地を踏みしめた後藤の姿。
デコンポーザーの射程がギリギリ後藤の体に届かなかった。ドミネーターの説明自体を詳細に見ていなかった弊害だった。
しかしその腕が再生する様子はない。
先の一撃は確かに後藤の体を破壊したのだろう。
「―――やってくれたな」
歓喜か苛立ちか、それとも怒気か。
それまで無表情だった顔をいずれかの激情に任せ、後藤はその腕を再度作り変える。
両腕に刃こそ戻ったものの、その数は先と比べれば半減している。
「やはり俺も少し遊びがすぎたようだ」
そんな時、屋上の階層から轟音が響いてきた。
「む、まさかDIOとあの小僧が」
上の階にいるのはみくを助けに行ったエドワードのはず。
そこから響いてきた音は、DIOと遭遇したことを示しているのだろう。
気がかりではあるが、目の前の後藤もまた健在。
放置していくわけにもいかない。
と、そこで後藤の前に杏子が立ち塞がった。
「あんたら、気にしてるんだろ?なら行きな。
今のこいつなら私らでも戦えるかもしれないし」
「…じゃが……」
「私はDIOのやつと戦おうとかってわけじゃないけど、あいつのことは気に入らねえ。あんた達が倒してくれるってんならそれに越したこともねえしな。
それに、こいつには個人的な貸しがあるだけだ。それを返すまでは離れられねえってだけだ」
「分かった。では当てにさせてもらおう。嬢ちゃん、着いてきてくれ。行くぞ」
「言われなくても」
先行して走り去る美琴。
追って先に向かおうとしたジョセフは、ふと杏子の方へと振り向く。
まるで言い残したことがあるかのように。
「ところで杏子ちゃん、と言ったか。
巴マミ、という人を知っておるか」
「…………」
無言。
この場合のそれは肯定を意味するものだろう。
「ワシも聞いただけで直接会ったわけでもないが、彼女は強大な力を持った者を相手に立ち向かい、死んでいったそうじゃ」
「…それが何だってんだよ」
「別に深い意味はない。ただ知り合いなら伝えておかねばと思っただけじゃ」
それだけを伝え、ジョセフは美琴を追って走っていった。
「…………」
「センチメンタルになっているところ悪いが」
「そんなんじゃねえよ」
後藤の腕が迫る。
刃の数こそ減っているが、しかしその威力は変わらない。
正確に受け止め続けるその目の前では再度グランシャリオを纏って手にした大剣でもう一方の刃を受け止めるノーベンバーの姿。
(…誰かのために戦ったって自分のためになんてならないってのにさ。ホント、あんたはやっぱバカだよ)
ふと思いを寄せた一人の魔法少女の姿。
誰に呟いたわけでもない言葉は、しかし何故か自分の中に得も言われぬ感情を生み出し続けていた。
◇
最終更新:2015年08月26日 00:45