001
正義の名は此処に ◆BEQBTq4Ltk
どれだけ走ったのだろうか。
呼吸を乱している少女は木陰に隠れるとその場に腰を下ろした。
初めての土地では場所も何もかも不明なため普段よりも大きく疲れている。
島村卯月は自分が置かれている環境に不安を覚えながら休憩を取り始めた。
彼女の記憶が正しければシンデレラプロジェクトのメンバー達とライブをやり終えていたはず。
今まで頑張ってきた努力が形を成し最高の笑顔を飾れた瞬間でもあった。
それがどうやって殺し合いに巻き込まれるのか見当もつかない。
開催の宣言をされたかと思えば次はまた突然に森の中へ移動させられていた。
黙っていれば誰かに殺される、そんな恐怖心が島村卯月の心を占領し彼女は走りだした。
大きな音をたてればそれだけ誰かに気付かれる可能性が上昇する。
危険人物か優しい人物かは出会うまで分からない。
そんな可能性のリスクも考えずに彼女は独りで森に居る孤独と恐怖から脱出するため走りだした。
それが数分前の話である。
(はぁ、はぁ……ど、どうしよう)
これからのこととそれからのこと。
方針が全く定まっておらず足掻くにもどう足掻けばいいか分からない。
知り合いも居なければ土地勘もなく広さも分からない会場に独り残された島村卯月。
その未来に輝きは見出だせず明日も生きている保証が出来ない程の不安定な空間。
このまま逃げ回り助けを待つのが理想的だろう。
自分が行方不明になれば誰かしらが気付いてくれて警察に連絡するはずだ。
そうなれば警察が動き殺し合いを運営している人間を捕まえて自分たちは日常に開放されるだろう。
そうなると時間を待つために安全な場所へ移動しなければならない。
森の中では気付かれにくいと思うがずっと居る訳にもいかない話である。
夜を越すにはせめて屋根と壁が欲しい。室内を目指すべきだろう。
近くに建物があるかどうかも分からないが慎重に移動し安全を確保するのが最優先と島村卯月は判断した。
余談だが彼女は道具を一切確認しておらず現在地点も地図も名簿も何一つ不明なままである。
月明かりだけが唯一の光。
深夜の森では視界も日中に比べれば機能していない。
誰かが現れても近くに行かなければ顔が見えないのは辛い話しである。
島村卯月は木陰から動き出すために姿勢を低くしたまま歩き出した。
誰にも気付かれないように、生き残るために、安全な場所へ逃げるために。
ゆっくりと、ゆっくりっと……。
「……あう!?」
大きめの石を踏み揺らいでしまった島村卯月。
反射的に声を上げてしまい静かな森の中へ響き渡ってしまった。
身体の体勢を保とうと力を入れるが今更そんなことをしても手遅れだろう。
おまけに体勢を崩し尻もちをついてしまった。更に音をたてた。
「こ、こんな時に……っ」
バッグの中身が落下の衝撃で散乱してしまった。
ペットボトルが転がり電子機器などが落ちている。
拾おうと想い立ち上がろうとするが足に力が入らない。
「これを落としたのはあなたですか?」
(ひ、人……殺し合いに参加している人……!?)
気が付いた時には目の前に一人の女性が立っていた。
自分が目立ってしまったばかりに位置が分かってしまったのだろうか。
島村卯月の脳内には自分が殺される場面が映し出されている。
このまま殺されてしまう、死んでしまうと。
「ひっ……」
忘れていた記憶が蘇る。
始まりの儀式にて殺されてしまった男性。
彼は首輪の爆発により死んでしまった。
その首は宙を舞う。そしてこれから自分もその後を追うのだ。
現実逃避から下を向いた島村卯月の視界には一つの紙切れがあった。
それは
参加者名簿であり見知った名前も発見出来た。
知り合いの名前があり孤独から開放されてことに喜ぶべきか。
それとも同じく殺し合いに巻き込まれた境遇を悲しむべきか。
そんなことをゆっくりと考える。これが走馬灯とやらだろう。
「あれ? そんなに怯えなくても悪はこの私が滅ぼしますよ!」
「……へ?」
「悪人は全て私達イェーガーズが滅ぼしますから安心してください!」
島村卯月の前に現れたのは悪の殺し屋ではなく正義の執行人であった。
見た目はそう変わらない橙色の髪をした女性は宣言の後に笑顔を向けた。
「わ、私は卯月。島村卯月で……す」
初対面の人間に自己紹介をするのは危険である。
殺し合いの状況の渦中でわざわざ名乗りを上げるメリットはないだろう。
しかしセリューの笑顔は何処か心を安心させてくれる。それに伴い口が動いてしまった。
「私はあっちに転がったペットボトルを拾ってきますのでシマムラさんは近くの物を拾ってくださいね!」
言い残すと離れていくセリュー。
先ほどの笑顔はアイドルでも中々見れない輝きを放っていた。
言われたとおりに周りの物を拾っていると人影が一つ。
セリューではなく新しい人影。
警戒心が薄れていた島村卯月の心拍数は急激に跳ね上がる。
「私も手伝うよ」
「あ、あなたは……?」
出会う人物は全員笑顔が似合う女性と決っているのだろうか。
考えてしまう程セリュー・ユビキタスと南ことりの笑顔は輝いていた。
学生服から彼女もまた近い年頃の女性だろう。
殺し合いに巻き込まれたとは思えないほどの明るさは見習いたいものである。
「私は島村卯月です、ことり――」
「よろしくね、卯月ちゃん!」
「――はい! ことりちゃん!」
初対面の他人との距離感は測り辛いものがある。
しかし南ことりは島村卯月の心配を吹き飛ばすように話しかけた。
単純ではあるが距離感が縮まった二人は軽い会話を行いながら散乱してしまった物を拾っている。
「ことりちゃんの知り合いはその……えーと」
「ここからここまでが私の友達!」
名簿に指を滑らせながら南ことりは島村卯月の問に答えた。
高坂穂乃果、園田海未、南ことり、
西木野真姫、星空凛、
小泉花陽。
本人を除けば五人の知り合いがこの会場に居ると記されていた。
「私の大切な友達で、仲間で、メンバーなの」
「め、メンバーですか?」
「そう! μ'sっていうスクールアイドルの」
「アイドル……?」
奇遇な事に島村卯月もアイドルである。
シンデレラプロジェクト。そのメンバーの一員だ。
「私もアイドルなんです! シンデレラプロジェクトっていう、プロダクションは――?」
「そう……プロダクションってすごいね!」
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ南ことりの表情が変わっていた。
妬むような。
まるで目の前に親の仇がいるような深い感情を背負った表情。
言葉を詰まらせた島村卯月だがセリューの合流により場は流れた。
「セリュー・ユビキタス、ただいま戻りましたよーって新しい人が」
ペットボトルを拾ってきたセリューは直ぐに南ことりの存在に気付く。
会釈を済ませた後互いに自己紹介を行っていた。
それを見ている島村卯月は考える。
名簿の中には自分の知り合いの名前も在る。
南ことりの知り合いも記載されており一部のグループが拉致されているのではないだろうか。
シンデレラプロジェクトとμ's、アイドルグループからの誘拐。
島村卯月はμ'sを知らないがスクールアイドルならばローカル、それでもアイドルだ。
シンデレラプロジェクトより知名度は劣るかもしれないがアイドルに変わりはない。
最も島村卯月はそんな事を考えず同じアイドルとして南ことりと接している。
気になることと言えば一瞬だけ垣間見えた表情だ。
「ねぇ卯月ちゃん」
「はい?」
「私の友達、特に穂乃果ちゃんと会ったらよろしくって伝えてね」
「こ、ことりちゃん……?」
小さく呟かれた言葉はとても弱くて。
それでも何処か強い決意が隠れているような。
その言葉を最後にことりちゃんは包丁を握り締めセリューさんに向かって走っていました。
「ことり――セリューさんッ!?」
知らせるために。
生命の危険が迫っていることを知らせるために。
島村卯月は叫ぶ。居場所が他人に気付かれても構わない、構っていられない。
南ことりは島村卯月の言葉に振り向くこと無くセリュー目掛けて走っている。
会話をしていた頃の柔らかい空気は消え去り、漂うのは緊迫感のみ。
その包丁に乗っている覚悟は一体。
スクールアイドルには似合わないその刃物でセリュー・ユビキタスの首を――。
「尻尾を出したなこの屑が」
包丁を握っていた右腕を掴むと大きく捻り南ことりの体勢ごと崩す。
苦痛の表情を浮かべた南ことりは包丁を落としてしまう。それを見逃させず蹴り飛ばすセリュー。
南ことりの顔がある程度まで下がると見計らったように肘打ちを加え大地に叩き落とす。
鮮血が舞い大地には欠けてしまった前歯が落ちていた。
「い……いた……いよ……」
「包丁で刺された方が痛いに決っているだろ」
「あぐッ!」
痛みを呟いていた南ことりの顔を踏み付けたセリューは言葉と共に唾を吐き捨てる。
彼女の笑顔は数分前の輝きが感じられない。
それは悪魔、悪魔の表現が一番似合う邪悪な笑顔だった。
島村卯月は状況を飲み込めず、南ことりが傷付いている中行動出来ないでいた。
「一応聞いときますけど殺し合いに乗った動機を答えなさい」
「うぅ……助けて穂乃果ちゃん……」
「答えろ!!」
問に答えない南ことりに対し脚の力を強めるセリュー。
その影響か血を吐き出しながら涙を流す。救ってくれる者は存在しない。
何故殺し合いに乗ったのか。
島村卯月との会話どおり彼女はスクールアイドルだ。
血や硝煙の匂いは似合わない表舞台の人間である。
「私が頑張らないと穂乃果ちゃん達が……死んじゃうかもしれない……ん、だから」
「友達のために他人を殺してもいい? そんな訳ないだろ、取り繕っても悪は悪だ」
「ちが……私はみんなで帰れるならそれでいい。汚れるのは私だけでいいかなって……。
だから、ね。卯月ちゃん。みんなに会ったらよろしくって……穂乃果ちゃんにごめんね――」
穂乃果ちゃんにごめんね――その言葉の続きを島村卯月とセリューが聞くことはなかった。
言葉の最後はセリューによる脳天への突き刺しにより途切れてしまった。
血、血、血。
止まることを知らないのか、死体の頭から流れ出る鮮血。
それはやがて血溜まりとなり周囲を不快へと誘う黄泉の門となる。
南ことりと呼ばれた少女の生命は潰えた。
彼女はただ願っていただけ。もう一度みんなと帰りたい、笑いあいたい。
ただ巻き込まれただけ。何が殺し合いだ、血はアイドルに似合わない。
彼女はただ帰りたかっただけ。それだけなのに――。
「制裁完了」
使命をやり遂げたセリューは達成感に満ち溢れている。
死んだ南ことりを嘲笑いながら己の正義に酔っているのだ。
事実として彼女は殺し合いに乗った――殺人鬼を殺したことになる。
文字で見れば正当な行いだ。少なくとも正当防衛になるのだ。
特殊警察イェーガーズ。
帝都に巣食う悪を制裁する正義の名。
その行い、悪に対しては容赦を知らず徹底的に叩きのめす。
セリュー・ユビキタスはその中でも正義感に燃える女性だ。
止まることを知らず、世界に蔓延る悪を駆逐するためならば彼女は喜んでその手を汚す。
「殺し合いに乗る悪は残らず殺してやる! 正義の名のもとにィ!」
笑う悪魔に月明かりはよく似合う。
彼女の歪んだ正義は全ての悪を殺すまで収まることはない。
例え殺したとしても消えることはなくセリュー・ユビキタスの生命ある限り燃え続けるだろう。
その姿を唯一目撃した島村卯月は気を失っていた。
始まりの儀式にて殺された男性に続いて二人目の死亡を見てしまった。
裏の世界に耐性のない少女は厳しい世界、耐えられる筈もない。
セリューは彼女を背負うと安全な場所を目指して歩み始める。
「私が必ず守るので安心しててくださいね」
その笑顔は女神のように優しかった。
【南ことり@ラブライブ! 死亡】
【残り71人】
【D-5/森(西)/1日目/深夜】
【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:日本刀@現実、包丁@現実
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、不明支給品0~4
[思考]
基本:会場に巣食う悪を全て殺す。
1:悪を全て殺す。
2:島村卯月を安全な場所へ移動させるためイェーガーズ本部を目指す。
3:
エスデスを始めとするイェーガーズとの合流。
4:ナイトレイドは確実に殺す。
[備考]
※参戦時期はマインとの決戦前です。
※十王の裁きは五道転輪炉(自爆用爆弾)以外没収されています。
他の武装を使用するにはコロ(ヘカトンケイル)@アカメが斬る!との連携が必要です。
【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:気絶中、悲しみ、死に対する恐怖、セリューに対する恐怖
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1~3
[思考]
基本:元の場所に帰りたい
1:気絶中。
[備考]
※参戦時期は最終回(前期)終了後です。
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
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最終更新:2015年12月09日 23:47