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幕開け ◆QAGVoMQvLw


始めは全てが闇に覆われていた。
まるで霧散するがごとく、徐々に闇が晴れていく。
やがて全てが明らかになった時には、その男も完全に目を覚ます。
部屋に明かりが満ちると共にその男、ジョセフ・ジョースターも意識を取り戻した。

(…………ここはどこじゃ?)

その部屋はジョセフにとって全く見覚えのないものであった。
どれほど周囲の様子を伺い、目を覚ます前の記憶を検めても、
なんの心当たりも見出せない。
ただ周囲を観察すればするほど、その部屋の異様さに気付いていく。

部屋と言ってもそれは天井と、そこに等間隔で点在する円い光源から推測されただけで、
その照明とも言えないような光源以外は、扉や窓どころか四方の壁も見当たらない。
広さも定かではないその空間に見当たる物体は、”人”のみ。
何よりそこに居並ぶ人々の様子が尋常ではなかった。

人種も年齢も性別も衣装も様々な人々が、光源と同じく等間隔に並んでいる。
そして全員が直立不動のまま、両腕を水平方向に上げている。
まるで見えない十字架に掛けられているかのように。
誰一人として身動ぎもせず、呻き声も立てない。
ジョセフはそこで、同じ体勢になっている自分が、
指一本動かすことができず、声を出すこともできないことに気付いた。

そして居並ぶ者たちとジョセフにはもう一つの共通点が見つかる。
全員がその首に、金属製の輪を嵌めていた。

(拘束されている!? わしも気付かぬ内に、敵に捕まっておったのか!!?)

長年戦いの世界に身を置いていたジョセフは、すぐに敵の攻撃を受けた可能性を思いついた。
スタンド攻撃に対応するため、ジョセフは自身のスタンド『隠者の紫(ハーミット・パープル)』を出そうとする。
しかしハーミット・パープルのヴィジョンである茨が発生しない。
自分の精神力のヴィジョン、スタンドすら発現させられない。

(OH! MY! GOD! スタンドまで封じられている!)

自分の身体もスタンドも封じられたジョセフ、そしてこの場に居る全員が、
この状況を仕組んだ者に命運を握られた形になる。
そんな者が居ればの話だが。

「やあ諸君」

不意に声が聞こえてきた。
ジョセフの意識が声の主に引き寄せられる。
いつの間にか居並ぶ者たちの中央に、机と椅子が置かれていた。
その椅子に座る男が一人。

革張りの椅子に深く座り、いかにも高級そうな木製の机の上で自然に手を組んでいる。
特徴に欠ける、しかし沈着な雰囲気と威厳のある男だった。

「わたしの名は広川。今から行うバトルロワイアルの司会進行を務める。
バトルロワイアルとは簡略して言えば殺し合いのことだ。きみたちにはそのために集まってもらった」

男は事も無げに言い放つ。
殺し合いと。

(あいつ、やはりDIOの手下のスタンド使いか!!? しかしそれならば、何故すぐにわしらを殺さん!?)

広川が、自分たちを狙うDIOの刺客であるとしか思えないジョセフ。
しかしそれにしても不自然な点が残る。
ただ命を奪いたいだけなら、とうにジョセフは死んでいるはずだ。
ジョセフたちを嬲り者や見世物にして楽しみたいにしても、やはり違和感がある。
歴戦の策士であるジョセフにとってすら、状況の脈絡がまるで読めない。
かつてない異様な事態に、ジョセフの緊張感は嫌でも高まる。

「バトルロワイアルはここではなく、専用の会場となる場所に移動して行う。
移動先ではきみたち全員に、デイパックを一人につき一つずつ支給する。
中には飲食物の他に地図や名簿などの共通支給品と、個別の物を最低一つから最大三つまで入っている。
ちなみに支給品にはルールブックも含まれていて、バトルロワイアルの詳細なルールが記してあるから、
良ければそれで確認してみるといい」

聞く者の緊張や警戒などお構い無しに、広川は淡々と説明を始めた。
抑揚の無い言葉の羅列を、ジョセフは必死に記憶していく。
広川の話から察するに、殺し合いはかなり大きな規模で行われるらしい。
ますますDIOの手先であるとしたら違和感のある事態だ。

「バトルロワイアルの会場は、地図の上で縦横の線によって区切られている。
それらの四辺形は、各々にアルファベットと数字が振られてエリア分けされており、
エリアはランダムで一つずつ禁止エリアとして指定されていく。
そして禁止エリアに侵入した参加者には、ペナルティが課せられる訳だが、
ここからは特に心して聞いて欲しい。きみたちに如何なるペナルティを課せられるかをだ。
それこそ、きみたちがバトルロワイアルを行わなければならない理由となる物だ」
「いいかげんにしろよこの野郎!!」

初めて広川以外の声が聞こえた。
広川と向かい合うように、少年が立っている。

怒りも露に広川を睨み付けている。

「きみは上条当麻くんだったね。まだバトルロワイアルの説明の途中なのだが……」
「バトルロワイアルだかなんだか知らねぇけどな……まず皆を解放しろ!!」

上条は広川にもまるで臆することなく怒鳴りつける。
しかし上条の射抜くような鋭い視線を受けても、広川の態度に変化は無い。
相変わらず抑揚の無い口調で話を続けた。

「かれらの動けない状態は、バトルロワイアルの会場に送られると同時に解くから安心するといい。
殺し合いは会場に送られると同時に開始するからね」
「……そうかよ、お前があくまで殺し合いをさせるって言うんなら…………
俺たちを脅して殺し合いをさせられるつもりなら……まずは、その幻想をぶち殺す!!!!」

上条は自分の怒りを込めるかのように、右手を握り締めた。
震えるその右拳には、何か尋常ならざる力が込められているようにすら思える。
上条は今にも殴り掛かりそうな雰囲気だが、それでも広川は変わらぬ調子で上条に話し掛ける。

「幻想ね……ところで”何故”だと思う?」
「何故かなんて、どうでもいいんだよ! どんな理由があったって、殺し合いなんてさせて良い訳がねえだろ!!!」
「わたしもそんなことは問うていない。”何故、きみだけが動けるようになった”と思う?
少しは周りを見た方が良い。他の者は先ほどまでのきみのように拘束されたまま、喋ることも動くことも叶わない。
わたしがきみだけを動けるようにしたんだよ」

上条の表情に初めて動揺の色が差す。
しかし次の瞬間には意を決したらしい上条は、広川に向かって襲い掛かった。

広川の前にある机に一足飛びに乗り上がり、
上条は広川の顔面に向けて右拳を振るう。
右拳が届く前に上条は胴体から机にぶつかる。
更に頭も机に叩きつける。
全身を机に叩きつける形となった上条。
上条自身が何が起こったのかわからないらしく、驚愕の表情を浮かべている。
伸ばした右腕は広川に届かない。
まるで見えない何かに押し潰されているかのように動けなくなったらしい。

「上条くんが再び喋れなくなったので、わたしの方から彼について説明しよう。
彼について、と言っても彼の能力についてだが……彼の右手にはある特異な能力が宿っている。
彼は超能力者育成施設である学園都市ではレベル0、無能力者だと判定されているが、
超能力や魔術等、あらゆる異能をその右手で打ち消すことができる。
最弱にして最強の異能、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の持ち主だ。
そのあらゆる異能を打ち消せるはずの上条くんの動きも、こうして封じられている訳だ」

広川が説明する上条の能力。
それはどうやら、波紋とスタンドという二種類の異能を持つジョセフにとっても未知の系統の物らしい。
他にも学園都市等と、未知の機関の名前も出ている。
広川や上条の様子から察するに、ただのでまかせやハッタリの言葉だとも考え難い。
情報を拾えば拾うほど、事態の闇が深まっていく。

「幻想殺しに限らない。超能力、魔法、スタンド、錬金術……きみたちのあらゆる異能を自由に制御することがわたしには可能だ。
それに関しては、現に異能を封じられているきみたち自身が最も実感しているのかもしれないな。
……話を戻そう。禁止エリアに侵入した際のペナルティだが、彼の首に巻かれている物を見て欲しい」

上条の首を指差す広川。
そこには他の者と同じく首輪が嵌まっている。
ジョセフは自分の首にかかる金属の冷たさを思い返し、嫌な予感が過ぎる。

「この首輪はきみたち全員に掛けられた物と、内部構造から全て同様の物だ。
仕込まれている爆弾も含めてな。そしてどの爆弾も、わたしの任意で爆破することができる。
首輪の爆破条件は禁止エリアへの侵入以外にも三つある。
一つはバトルロワイアルの会場の外に出ること。一つは首輪が破損すること。
もう一つはわれわれに反抗することだ」

爆発音。

そして上条の頭が、胴体を離れてゆっくりと転がっていく。
大量に流れ出る血と、肉の焼ける臭いが、嫌でも上条の死を五感に伝えてきた。

「幻想殺し、か……上条くんは正にその身を以って幻想を殺してくれたと言えるな。
わたしに逆らい得る、わたしの手の中から抜け出し得ると言う短絡で愚昧な幻想を……」

誰も動くことも声をあげることもしない。
しかし明らかに場の空気が変わる。
静寂の中、重苦しい空気が波紋のごとく広がっていく。
その中でもやはり調子の変わらない広川は、淡々と説明を続けていった。

「さて……何度も脱線をしてすまなかったね。今度こそ最後まで説明を続けるとしよう。
禁止エリアは最終的に会場全体を埋め尽くすことになるから、そうなればきみたちは全員が死亡する。
禁止エリアの指定を停止する条件は一つ。バトルロワイアルの参加者が一名以下になることだ。
それがバトルロワイアルを終了する唯一の条件だ」

重苦しい空気は晴れないまま、緊張感だけが高まっていく。
そこには確かに殺し合いの理由が成立していた。
生存できるのが真に一名以下ならば、あるいはその座を巡って殺し合うしかないのかも知れない。

「最後の一名となった者は、首輪を外し元の世界に帰還させよう。
更に褒章としていかなる望みでも一つだけ叶えよう。”いかなる望みでも”だ。
財や権力は言うに及ばず、死んだ者を蘇らせることでも、失くしたはずの人としての身体を取り戻すことでも、
因果律も等価交換の法則も、この世のあらゆる条理を無視して”いかなる望みでも”叶えよう。
信じられない者も居るだろうが、きみたちの中にはそのような奇跡に心当たりのある者もいるだろう」

いかなる望みでも叶える。
その言葉に今までの重苦しさや緊張とは違う空気が混じる。
それが不信によるものか、希望によるものか、
確認する方法はジョセフには無い。
ジョセフ自身ですら、望みが叶うと言う言葉を聴いて、
死の危険が迫る自分の娘を思い浮かべずにいられなかった。

「それではこれ以上、長々と説明するのは止めてバトルロワイアルを始めるとしよう」

明かりが落ちて、部屋の中が闇に満たされていく。
景色が暗くなっていく中でジョセフは、闇に消えていく自分の孫の姿を見た。

「……最後にこれは説明ではなく忠告だが、生還者を出したいと望むのなら、迅速に殺し合いを進めることだ。
何名も生還しようとして徒労を重ねて、全てが手遅れになれば、誰の望みも叶わない結果になるからな」
(イ、イカン!! このままでは本当に殺し合いが始まる。もし――――――――)

全てが闇に覆われていった。
そして闇に落ちると共に、ジョセフの意識も落ちていく。
やがて全てが暗闇に覆われた時には、その男も完全に目を閉ざす。
部屋に暗闇が満ちると共にその男、ジョセフ・ジョースターも意識を失った。





――――――――再び目を覚ました時、バトルロワイアルの幕は上がっていた。



【上条当麻@とある科学の超電磁砲 死亡】


【主催】
【広川 剛志@寄生獣 セイの格率】




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上条当麻 GAME OVER
ジョセフ・ジョースター 014:戦闘潮流
最終更新:2016年01月17日 22:14