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第三回放送 ◆dKv6nbYMB.


ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ。

きみ達の知りたい情報を発表する重要な時間だが、先に謝罪しておかなければならないことがある。
先の放送で設置した首輪交換機についてだ。
既に何名かは試してくれたようだが、なにぶん設置したばかりの装置でね。少し不具合が生じていたようだ。
放送の終了と共にデータを更新し、不具合がないように改善する手筈だ。
なにも得られなかった首輪については今回限りは返却しておこうと思う。

首輪は、首輪を入れた交換機に名前を告げ、投函者と一致すれば返却される。なので、自分の都合の良い時に訪れてくれたまえ。
ただ、その投函者がもし死亡すれば、勿論この首輪の譲渡権は消える。
その場合、この首輪は交換機に寄り、名前をいち早く告げた者へと返却されることになる。言わば早い者勝ちという訳だ。
それだけは伝えておこう。

さて、そろそろ陽が沈むころになると思うが、夜はなにかと危険が多い。
くれぐれも周囲には注意してゲームに臨みたまえ。

...では、禁止エリアを発表する。

禁止エリアは

H-6
B-4
E-8

だ。

余談だが、E-8においては、電車に乗っている間は首輪が禁止エリアに反応しないようになっている。
なので、電車は安心して利用してくれて構わないよ。

続いて死亡者だ。


以上9名だ。


...さて、72名もいた参加者も既に半分を切っている。
ここまで生き残った参加者しょくんは、みな手強い者だと思って貰っていい。
純粋に戦いが強い者。
言葉巧みに人心を操り集団に溶け込む者。
運が強かった者。
その『強さ』は様々だ。そして、その『強さ』は時に戦況を覆す思いもよらない要因になるかもしれない。故に、一見大したことが無いと思える相手でも、決して侮ることなかれ、とだけ忠告しておこう。
温厚なふりをして、牙を研いでいる者もいるかもしれないしね。
そのことを肝に銘じてこれからもゲームに励んでくれたまえ。


それでは、健闘を祈るよ。


暗い、暗い部屋の中。

広川の放送は、"彼"のもとまでも届いていた。

"彼"は思いを馳せる。

かつて、小さなフラスコの中で見たあの光景。
"彼"が名前をつけた、"彼"の『親』と共に眺めていた夕陽。
あれは綺麗だった。

―――お前から見たらバカバカしいかもしれないけどよ。家族とか仲間とかそういうものに幸せってのがあったりするんだよ、俺たち人間は。

―――ふーん、そんなもんかねえ。

―――じゃあ、おまえの幸せってなんだ?

そんなことを語り合っていた。
確かその時は、フラスコから出られる身になれば幸せだと答えたっけ。
そうだ、始まりはそんなささやかな願いからだった。
せっかく生まれたのだから、もっと多くのものに触れてみたい。何にも縛られずに歩いてみたい。
ただ、それだけだった。

ところが、年月を重ねる内に願いは肥大化していき、留まることを知らなかった
思惑通りに自在に動ける身体を手に入れてから、どれほどの時が過ぎただろうか。
ふと、思ったのだ。

より高みに昇りつめたい。完全な生物になりたい、と。

そのために、長い、長い年月をかけて準備をした。

『色欲』・『強欲』・『怠惰』・『暴食』・『嫉妬』・『憤怒』・『傲慢』...感情の根本を為すものを切り離したりもした。
やがては、『彼』を見下ろす神ですら目障りになり、支配下に置こうとした。
時には誰にも気づかれないように、時には欲にまみれた人間を利用し、時には『子供』と称した分身たちを使い。
その願いを叶えるためなら、"彼"はなんでもやった。

―――しかし、"彼"の願いは果たせず、光の届かないフラスコの中に閉じ込められる。
"彼"の残したものはなにもなく、"彼"を想う者もおらず、"彼"の夢を継ぐ者もいない。
これが、"彼"の本来辿るべきはずだった未来。覆すことのできない運命だ。

"彼"には、それが認められない。
教えられた未来を、受け入れたくない。
だから、こうして新たな力と可能性を手に入れ改めて舞台に立とうとしている。


呪いよりも濃い『血統』という運命にのまれる『ジョースター』と等価交換の法則を無視して精神を力に変える『スタンド使い』。

全てを作る神に等しき『調律者』と『彼の恩恵を受けし者』、そして彼に造られた世界に生きつつも抗い続ける『ノーマ』と『古の民の末裔』。

血と血を洗う殺戮に興じる世界における、負の感情を誰よりも受け止めてきた『暗殺者』・『軍人』・『危険種の血』。

自らと同じく『神』へと到達するために研究される、科学と魔術の交差する世界の『超能力者』。

その身に孕んだ呪いと引き換えに、奇跡を起こした『魔法少女』と、神の領域を侵す可能性を秘めた『叛逆者』。

己の影―――内に秘める闇と向き合い、己の力とする『ペルソナ使い』。

周囲の人間を湧き立たせる魂の輝きを放つ『アイドル』と『スクールアイドル』、そしてその輝きを見つけ、導く力を持つ『プロデューサー』。

奇跡の産物、地獄門からの恩恵を受けし『契約者』と『最大の災厄』。

他者の身体を奪い生き、可能性を求め続ける『寄生生物』。

戦いの末に願いを叶える権利を得る『聖杯』と、それの儀式の器(カギ)となる『アインツベルン』。

嘘と本物が入り混じる平凡な生活の中、『本物(しんり)』を求め続ける少年少女。

統制された倫理感の中、それでも己という存在を崩さない『精神病質者』と運命の如き因縁を抱く『復讐者』。

空想を現実へと干渉させるまでに至った『ゲームマスター』と、彼に作られたシステムという壁を打ち破った『プレイヤー』。

計画のためにその身を与え、"約束の日"において血を取り込むことができなかった『"彼"の息子たち』




―――そして、"彼"の乗り越えるべき運命ともいえる『錬金術師』。



本来の世界では、"彼"は結局は真理―――『神』へと到達できなかった。
しかし、幾多もの可能性を秘める世界、そしてその世界で生きる者たちの血をもってすれば。
数多の可能性を持つ魂を取り込めば、あの『真理』の領域へと到達できるかもしれない。
そして、神を支配し全てを手に入れる。
そのためだけに、"彼"は与えられた力を利用してまでも、この殺し合いを開いた。

無論、願いを叶える方法がそれだけではないのは知っている。
聖杯やインキュベーターなど、奇跡を与えてくれるものの存在は知っている。
しかし、それではダメなのだ。結局、それでは支配されているのと同じだ。
だから、例え遠回りであろうとも、"彼"はあくまでも自分のやり方で、力で、願いを掴みたいと思っている。


"彼"は目を開け、ジッと天井を見つめる。

無表情でありながら、その先にあるものを見据えているかのようにただ一点のみを見つめている。

(お前のことだ。私の計画が成功しようが失敗しようがどうでもいいと思っているのだろう?)

"奴"の目的は、経過の観察と結果だ。
殺し合いの参加者も、広川もアンバーも、そして自分も。全ては"奴"の好奇心を埋めるための手ごまに過ぎないのだろう。
この殺し合いの果てがどうであれ、"奴"は干渉をしないし、手助けもしないだろう。

いいだろう。いいだろう。いいだろう。
精々、己の玉座が脅かされるその時まで私を見下ろしているがいい。

"彼"に力を与え、高みの見物を決めている"奴"へと向けて。
やがて、"彼"は微かに口を動かした。




―――貴様も私の敵だ。イザナミ


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最終更新:2016年02月19日 18:24