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第四回放送 ◆dKv6nbYMB.
☆
さて。これから四回目の放送の時間となるが...この殺し合いが始まってから一日になるとは早いものだ。
各々どういった思いで過ごしたかはわからないが、私にとってはあっという間でもあるし、長かったとも思える有意義な時間だったよ。
とはいえ、諸君が聞きたいのは私の感傷などよりも、役に立つ情報だろう。挨拶はこのくらいにしておくとしよう。
では、記録をとる準備をしたまえ。
...できたかな?では、禁止エリアから発表しよう。
禁止エリアは
G-5
D-3
E-4
だ。
続いて脱落者の発表だ。...未だにここまで戦いの火種が燻っていたことには私自身驚いているよ。
以上一四名だ。
この放送を終えた時点で、72名もいたきみたちも、気が付けばもう21名となっている。
正直、ここまで順調に進むとは予想外だったよ。
そこでだ。ここまで順調に進めてくれたきみたちのやる気が更に上がるように褒美を加えるチャンスを与えよう。
まあ、このチャンスを逃しても深刻なリスクは発生しないため、軽いレクリエーションのようなものだと思ってくれ。
10人。
次の放送までに10人以上の死者が出れば、優勝した者には、願いを叶える権利に加え、望んだ者を五人まで蘇生させる権利を与えようと思う。
この殺し合いで死んだ者でも、殺し合い以前に死んだ者でも構わない。
仲間がいるから殺し合うのを躊躇う者でも、優勝すれば大切な者たちと共に元の場所に帰ることができるんだ。
望んだ者たちを生き返らせた上で、この殺し合いに関する記憶を消して元通り、なんてことも可能だ。
今まで人類が築きあげてきた歴史のように、見たくないものなどわざわざ見る必要もないしな。
ちなみに、10人に届かずともこちらからペナルティを与えることはしないため、是非とも参加してくれたまえ。
どうだい、この話を聞いてやる気が湧いてきたのではないだろうか?
もちろん、この権利を使うかどうかはしょくんらの自由だ。
蘇生の権利が不必要であれば、元来通り望みをひとつだけ叶えるだけとなる。
...ただ、私の言葉を信じず、たった一日で培った薄い繋がりを信じて無駄なことを続けるのは止めておいた方がいいとだけ忠告しておこう。
虎視眈々としょくんらの寝首をかこうとしている者もいる...かもしれないしな。
そんなことに己の生を費やし、せっかくのチャンスを棒に振るのは...あまりオススメしない。
さて、そろそろ放送の時間も終えようか。
機会があるかどうかはわからないが、次の放送でまた会おう。
☆
ふぅ、と一息をつき、広川はマイクを手放す。
『思い切ったことをするものだな』
「ええ。なにせ終盤ですからね。彼らにもこれくらいの役得があってもいいでしょう」
背後の強大な存在に、広川は視線だけを向ける。
『それで円滑に進むのなら構わないが...少々気にかかる』
「なにがです?」
『お前のことだよ、広川』
"フラスコの中の小人"は、広川へと向ける視線に殺意を含ませる。
『首輪交換機のこともそうだが、何故私に黙って行う?』
「......」
『下手な小細工は計画を狂わせる。...それがわからない人間ではないだろう』
ピリピリと空気が張り詰める。
それに当てられ、広川のこめかみから一筋の汗が流れる。
だが、それだけだ。
彼は一切動揺もせず、ただジッと眼前の強者を見据えている。
『答えたまえ、広川剛志。お前はいったい、なにを企んでいる』
もこり、と地面が動き出したかと思えば、四本の石柱が広川を取り囲む。
答えなければ殺す。
広川を見下す視線とその行いには、そんな意味も込められていた。
「....私を殺すと言うのなら好きにするといい」
だが、それでも広川は揺るがない。
「だが、あなたは必ず後悔するでしょう。『殺した意味がなかった』とね」
まるで、自分は何も悪いことなどしていないとでも言うかのように、釈然とした態度で、堂々と言ってのけた。
『あくまでもきみには何の裏もないと』
「ええ。私はこの殺し合いの主催としての務めを果たしているだけですよ」
シン...と静寂に包まれる部屋の中。
『...いいだろう。広川よ、いまはまだお前に運営を任せる。だが、次に余計なことをすれば命は無いと思え』
「肝に銘じておきますよ」
それを最後に、"フラスコの中の小人"は広川を残し、部屋から立ち去った。
それから数分が経過した時だった。
ピロン、と広川の持つ携帯電話の音が鳴る。
メールが届いた音だ。
"どうだった?"
書かれていたのはこの一文だけだ。
広川は慣れない手つきで、携帯のボタンを操作し、返信を返す。
"流石に少々肝を冷やしたよ。アレの件といい、急に頼まれても困るのだがね"
"ごめんね。でも、断ろうと思えば断れたはずだよ?"
"まあ、ただの隠れ蓑として招かれたこの殺し合いがどう動くのかは個人的に興味があるからな"
"そのために静観するんだ"
"どの道私の生前の願いを果たすのは不可能らしいからな。なら、興味を満たすために僅かな時間を生きるのも悪くない"
返信を終えると、携帯電話を閉じ、椅子に腰かけ背もたれに身を預けた。
「もうすぐかな」
誰にも届かない彼の声が虚空に消える。
誰にも知られない、舞台裏でのほんの一幕。
しかし誰に知られずとも確かに物語は進んでいる。
生者たちはそれぞれの思惑を抱き、長く短い一日を終え―――新たな一日が始まる。
【残り21人】
最終更新:2016年06月09日 11:10