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寄り添い生きる(前編) ◆dKv6nbYMB.


『どうだ?』
「駄目だ。ここにも見つからない」

コンサートホールも探索し終えた一行は、病院へと訪れていた。
しかし、何者か―――タスクの情報では、エドワード・エルリックという少年と佐倉杏子という少女―――が使用していた痕跡はあるものの、それだけだ。
特殊な機器など姿形もない。

『少し休憩しよう。みんな、だいぶ疲れも溜まっているだろう』
「なに言ってるんだよ。一刻も早くロックを見つけ出さないと」
『だが、この疲弊しきった状態で敵に見つかればどうなる?最悪全滅は免れないぞ』
「でも、こうしてる間にもヒルダやマスタングさん達は...!」
『落ち着け。闇雲に探しても見つかるわけじゃない。それに、一旦情報の整理もしたい』
「...クソッ」

タスクは、歯を噛みしめ、渋々と言った様子でミギーの指示に従う。
別にミギーに怒っているわけではない。
だが、アンジュや狡噛の件を未だ引きずり、必要以上に責任を感じている所為で半ばヤケクソ状態になっているのだ。

「......」

その様子を見兼ねたアカメは、突如タスクの服の裾をまくり上げ、服を脱がしにかかる。

「ちょっ」
「雪乃、新一、タスクを押さえてくれ」

アカメの突然の行動に疑問の色を示しながらも、二人はタスクを取り押さえる。

「なに?なんなのこの展開!?」

そして、あっという間にパンツ一丁のあられもない姿になってしまうタスク。

「や、やめてくれ!」

どうにかして雪乃と新一を振り払い、まるで乙女のように両手で胸板を隠す。

「お、俺はアンジュの騎士だ!初めて...はもう捧げたけど、じゃなくて!」


顔を赤らめてまくし立てるタスクに、アカメは思わず疑問符を浮かべて小首を傾げる。

「その、俺の身体はアンジュ専用というか、戦いが終わるまでエロスはご法度というか、えっと、えっと...!」
「...お前、そんなこと考えてたんだな」
「違う、誤解だ!」

新一の冷ややかな視線に対して、あたふたと弁明するタスク。
そんな中、まじまじとタスクの身体を見つめていたアカメは。

「よかった」

タスクが思わず見惚れてしまうほど、無垢に微笑んでいた。

「だいぶ気を張っているように見えたから、大けがを隠しているんじゃないかと思ってた。ダメージはないようでなによりだ」
「あっ...」

ようやく、アカメの行動の真意に気が付いたタスクは、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
自分の態度が、言動が、どれだけ周囲を心配させていたか、自覚したのだ。

「...ごめん。俺、焦ってたみたいだ。心配してくれてありがとう」

顔を綻ばせたタスクに、アカメも微笑みと共に頷き返す。

「新一、お前も脱いでみろ」
「俺も?」
「お前は私の手当はしてくれたが、お前自身は応急処置しかしていなかったからな」

第三回目の放送が流れる前は、新一がアカメの治療を終えたところで放送が響き、方針を定めたところで流れるように狡噛と槙島の戦いに遭遇してしまった。
コンサートホールでも腹部の応急手当はしたが、万が一のこともある。
そのためにアカメは身体の確認を申し出たのだが...

「その...俺はいいよ」

新一は、目線を逸らしつつやんわりとそれを断る。

「やはり、なにか隠しているのか?」
「そういう訳じゃ...」
『見て貰え、シンイチ』
「ミギー?」
『アカメやタスクはもっと苛酷な世界で生きてきたんだ。今さらきみの傷を見たくらいでどうも思わないだろう』



普段なら警戒するか口出しをしないであろうミギーを、新一は意外に思う。
アカメたちを信頼しているのか、それともこんな状況とはいえ、気兼ねなく人間と接することができるこの時間を彼なりに楽しんでいるのか。
ただ、ミギーの言う事は尤もである。
今さら隠すことでもないだろう。
新一は服を脱ぎ、身体をアカメに看てもらうことにした。

「...凄い傷ね」

思わず雪乃が呟いてしまったのは、彼の胸に走る大きな傷。
まるで、巨大な刃にでも刺されたかのような傷だ。
このような怪我とは縁のない彼女が驚くのも無理はないだろう。

「だが、随分前のもののようだ。それに、綺麗に縫い合わせて...いや、繋ぎ合わせられている。帝具でも使ったのか?」
『私がやったんだ。刺された心臓を修復するために、シンイチの身体と同化してな。シンイチが常人よりも優れた身体能力を発揮できるのはそのためだ』
「すごいな、ミギー。そんなこともできるのか」
『だが、リスクはある。私の一部を身体に同化させているのだから、あまりシンイチの身体に同化しすぎると私の自我が消えてしまうんだ。
後藤が解りやすい例だ。身体を自在に変化させることが出来た奴だが、いまは身体能力が向上した代わりに手足が変形できなくなっていただろう』
「自らの命と引き換えに...って奴か。そうそう都合よくはいかないな」
「えっと、そろそろ服着ていいかな」

ミギーの解説に夢中だったアカメとタスクが、新一の言葉で本来の目的を思い出す。
新一も新一で、女子の前でいつまでも上半身裸でいるのはどこか気恥ずかしさも感じてしまっていた。

「すまない、早速治療をしよう。雪乃、お前も服を脱いで準備をしておいてくれ」
「ここで脱ぐのはちょっと...」

タスクから徐々に距離をとりつつ、自分の身体を抱える防御態勢に入る雪乃。
その目は、新一と同種の、いやそれ以上にどこか冷ややかなものを含んでいた。
その意味を察したタスクは慌てて弁明しようとするが

「だからさっき言ってたのは誤解だっ...わあっ!」

数歩歩み寄ったところで、僅かに凹んでいた床に足を引っかけてしまい、前のめりに倒れるタスク。
その際に雪乃も巻き込み、タスクの視界は暗転し―――

「もがっ...!」
「ッ...!」

雪乃の股間に、顔を突っ込んだ。

「ご、ゴメン!わざとじゃないんだ!」

慌てて雪乃の股間から離れるタスクだが、当然彼女の蔑みの視線を避けることはできない。
誤解を解かなければならない。そのために、タスクは誠心誠意思いのたけをぶちまけた。

「本当に下心はないんだ!そもそも俺はアンジュ以外は愛したくないし、きみの慎ましすぎる胸とか股間とかはあまり好きじゃな」



病院の一室の長方形型のテーブル。

そこで、簡素的な治療を終えた一同は、おにぎりや乾パンといった簡素な食事を取りつつこれからの方針を話し合っていた。

「どうする?予定通りに北方司令部に向かうか?」
『...いや、止めておこう。ヒースクリフの推測が正しいなら、中央に近い北方司令部にはなにもないかもしれない。
焦るなとは言ったが、時間は有限だ。可能性のある方から調べた方がいいかもしれない』
「なら、次の目的地は時計塔か?」
『四方、という割りにはあまり釈然としないがな』

ミギーの言葉に、アカメ、新一、右頬を赤く染めたタスクが同意する。
現状、目ぼしい施設は時計塔か北方司令部くらいしかないのだ。
ならば時計塔を探し、なければ南下する他あるまい。
そう、結論を出しかけていた。

(...なにか引っかかるわね)

彼女、雪ノ下雪乃を除いては。

(確かに目ぼしい施設は時計塔くらいしかないけれど...本当にそれでいいのかしら)

もう一度地図全体を眺めると、彼女の中で違和感の塊が燻りはじめる。

(どこかおかしいのよ。この地図...というよりは、一部ね)

雪乃の目に留まったのは、A-1。
北西端のなにもないエリアである。

(どうして、こんな形をしているのかしら)

他の四隅のエリアには、それぞれなにがしかの施設があり、道路も通っている。
つまり通行自体に不便はなく、それ故に多少の地形の歪みを作ってもおかしくはない。
だが、このA-1は違う。
森を突っ切るか回り込まなければ辿りつけないうえに、なんの施設も記されていない。
そんなエリアの一部だけが、なぜ『一施設の分』だけ飛び出しているのだろうか。



新たに湧き出てきた疑問に、雪乃は既視感を覚える。
周囲に比べて、明らかに浮いているのに、誰もなにも気づかない。
なぜか。
そもそも、解除されていたロックはどこにあったのか。
ヒースクリフやここにいる者たちの考察では、音乃木坂学院だろうと考えていた。
実際、地獄門のロックについて知っているのはヒースクリフと黒だけであり、どこかに留まりでもしない限りはロックを解除するなどという発想は思いつかない。
だから、解除されたロックは音乃木阪学院にあると疑わず、目ぼしい施設を探すことにしか目が向いていなかった。
だが、一度気が付いてしまえばそれまでだ。
存在感が他の施設よりも遙かに増し、嫌でも目に留まってしまう。
この既視感は―――


―――ならばどうする!勝つしかあるまい!目覚めるときは今なのだ!立てよ県民!

(...誰だったかしら)

違う。近い気がするけどこれじゃない。

―――た、たとえ義輝死すとも勝利は死なず!我が人生に一片の悔いなし...

だから違う。これじゃなくて、そう、その後ろに...

「あっ」

雪乃の脳裏に、意味不明なことを喚き散らして悪目立ちする眼鏡をかけ肥えた青年―――の脇を悠々と通り過ぎる比企谷の姿がよぎる。
そうだ。確かあの時彼は―――



「...ちょっと待って。もう少し考える時間が欲しいの」

『私はここが気になるわ』

雪乃は突如声をあげ、地図の一部を指し示す。
それと同時に、筆談で会話をするように皆に促す。
彼女が指示したのは、北西端。つまり、A-1エリアだった。


『...?なにもないじゃんか』
『ええ。なにもないわ。けれど、それが却って気になるのよ』

雪乃は、地図の四隅をなぞりながら新一たちに理由を説明する。

『見てわかる通り、地図の四隅にはそれぞれ地獄門、カジノ、発電所といった施設があるわ。...厳密に言えば発電所は違うかもしれないけれど
そして、それぞれの施設は曲がりなりにも道路が設けられていて、普通に足を運ぶ分には大した障害はないように思える』
『けれど、このA-1エリアには何もない。わざわざ森を抜けていかなければいけない場所に、なにも記されてないのよ』
『ただの偶然じゃないか?』
『そうかしら...もう一度見てみて』

雪乃はA-1の更に北西端の部分を指差す。

『妙じゃない?目だった施設もなく、通行も不便な誰も気にかけないような場所を、一施設ぶんだけ不自然に残しているなんて』
『...確かに不自然だ。けど、そのヒースクリフって人は、ロックはどこかの施設にあるかもしれないって言ってたんだろ?』
『いや。北西にもなにかあるかもしれないと言っていただけで、施設とは言っていないな』
『じゃあ、まさか』
『可能性は高いわね』

新一は思わず息を呑む。
ロックの一つが施設から見つかれば、残りの二つもまた施設のどこかにあるはずだと思い込む。
その逆もまた然り。
ロックの一つが施設以外の場所で見つかれば、おそらく残値二つも施設以外の場所で見つかるはずだと思い込む。
その心理誘導に、皆は見事に引っかかっていた。
もしも、雪乃の予想通りにA-1にロックの解除があるとしたら、彼女が気が付かなければおそらく解除にはかなり時間がかかっただろう。
だが気にかかることがある。



『しかし、なんだって広川はこんな手がかりを遺したんだろうな』

もしも、A-1にロックを置くのが必須だったとして。
わざわざ一部だけを残して島を歪な形にしたり、道路をA-1だけひいていなかったりと、違和感を遺している。
まるで、気が付く者は気が付けるように取り計らったようだ。

『...もしかしたら、主催は三人以上いるのかもしれないな』

タスクの言葉に、新一は思わずぎょっとしてしまう。
広川一人ではここまで大がかりなことはできないため、何者かが糸を引いているだろうことは薄々勘付いていた。
だが、それが更にもう一人までいるとなると...

『大丈夫。広川についてはわからないけど、たぶん主催の中でも対立が起きてると思う。でなけりゃ、もっと痕跡を残さずにロックの場所を決めるだろう』

もしも、主催陣が一枚岩の固い結束で結ばれていれば、こんな意図的な痕跡を残すはずもない。
恐らく主催は、何らかの思惑で敵対若しくは分裂している。
片方がこちらの味方ではないにせよ、真の黒幕への敵対の意思があるならばそれだけでもマシに思う。
その事実は、幾らか一同を安堵させた。

「アヌビス、お前はなにか心当たりはないのか?」
『いやー、俺も気が付いたらデイバックの中に詰め込まれてたもんで』
「...そうか」

支給品であるアヌビスならば、もしかしたら主催の顔を少しでも見たかもしれないと淡い期待を抱いたアカメだが、当然それは崩されてしまう。
とはいえ、大して期待もしていなかったため、それはそれとして置いておく。

「...よし。とりあえず目指すのはそこでいいんだな」
『私もそれがいいと思う。闇雲に動き回るよりはそちらの方が可能性が高い...しかし、よく気が付いたな』
「他者を目立たせ、その陰で自分は甘い汁を吸おうとする。そういう卑屈な精神の人がやっていたことを思い出しただけよ」


こうして、四人は進路を変更。
ロックがあると思われるA-1へと進むことにした。

そして、病院をあとにしようと正面玄関から出た時だった。




―――ゾ ワ リ



突如、四人の背筋が凍るような感覚に襲われる。

アカメ、タスク、新一の三人は反射的に戦闘態勢をとり、雪乃もまた周囲を何度も何度も見渡してその正体を探る。
四人が感じたのは、殺気。特に、雪乃以外は殺し合いに巻き込まれる以前の世界でも幾度もぶつけてこられたものだ。

だが、これはその中でも一際異常。
殺気を放つ本人が見当たらないというのに、全身の細胞から震えあがっているような危機感を抱かせている。

(な、なんだってんだよ、こいつはよぉ...!)

この中で唯一自由に動けないアヌビス神は、血の気がひくような思いを感じ取っていた。
底の見えない、純粋な殺意。
今まで感じたことのない、根源たる恐怖。

やがて、その殺意の持ち主は姿を現す。
決して速くはないその歩みを止めるものはいない。
アカメも、タスクも、新一も、雪乃も。
誰もが、威風堂々とした彼が目前にまで迫るまで、なんの抵抗もできなかった。―――いや、許されなかった。



「最初の相手はきみたちか」

老人の声と共に、カツンと軍靴の音が鳴り響いた。


アカメも雪乃も新一もタスクも、その存在から目を離すことができなかった。
身体の至るところに傷を負いながら、それでも尚衰えないその男。

キング・ブラッドレイ
彼の登場に、先程までのどこか和やかな空気など瞬く間に吹きとばされてしまった。




(エドワード・エルリックはいない、か)

ブラッドレイは、エスデスたちとの戦いの後、御坂美琴と戦うため、一度イェーガーズ本部へと立ち寄っていた。
しかし、御坂はおらずもぬけの殻。
ならば先にエドワードと決着を付けようと、再び北上を始めた。
イェーガーズ本部より北にあるのは市庁舎・コンサートホール・病院・時計塔・北方司令部。
彼なら傷ついた仲間をどこへ連れて行くか。
誰よりも関係者が傷つくのを嫌う男だ。
おそらく、病院で仲間の治療をするはずだ。
その考えのもと、ブラッドレイは病院まで一直線に北上することにした。
この時、ブラッドレイは不運にもエドワードが奈落を渡るために錬成した橋を見逃していたのだが、それを知る由はない。

そして、病院に辿りついた結果、エドワードこそはいなかったが、一度は敗北した者たちがいた。
結構だ。相手にとって、不足は無い。

「キング・ブラッドレイ...!」
「久しぶりだな、タスクくん―――どうかね、調子は」

タスクの背にどっと冷や汗が流れる。
マスタングやアカメ達の話から、彼は殺し合いに乗りつつあると聞いている上に、狡噛からは彼の本性は戦闘狂だという推測も聞いている。
そんな彼が、首輪に関してまだほとんど進んでいないと聞けばどうなるか―――想像に難くない。
だが、だからと言って適当な嘘で誤魔化せる相手だろうか。―――否。その時点でタスクに首輪解除の可能性はないと見なされ、事態は悪化するだけだ。
ならば、素直に話し、交渉するしかない。

「...まだ、首輪のサンプルを手に入れたばかりなんだ」
「そうか」

言うが早いか、ブラッドレイは二刀の剣を構える。

「ま、待ってくれ!いま、俺たちは脱出できる可能性を―――」
「タスクくん」

ヒースクリフ及び先程の雪乃の考察を交渉の種にしようとするタスクを遮り、ブラッドレイは言葉を紡ぐ。

「私は、ここに来てから多くの者と戦ってきた。美遊・エーデルフェルト、エンブリヲ、渋谷凛、御坂美琴、セリュー・ユビキタス、ウェイブ、ロイ・マスタング、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、エスデス、ヒースクリフ。そして...きみの後ろにいる三人だ」
「それに加えて、私が連れて帰るべき者...プライドとマスタングくんが死んだ時、気付いてしまったんだよ。なににも縛られず、ただ闘うことの心地よさ...楽しさに」
「きみのせいではない。ただ、一度それを味わってしまえば、もう戻れんのだ。...戻るつもりもないがね」

デスガンの剣の切っ先をタスクに向け、告げる。

「生きて帰りたくば、私と戦いたまえ。できなければ、君たちに待つのは"死"のみだ」

(くそっ...!)

タスクは思わず唇をかみしめる。

マスタングが死んだという思いがけない情報。
同行者である未央の安否も気がかりだ。

だが、それ以上に。

狡噛の予測は当たっており、ブラッドレイもまた一切退く気はない。
全ては遅いのだ。
最早、ブラッドレイとの共闘は不可能。
ならば、戦うしか―――殺すしかない。


「さて...私はご覧の有り様だが」

「討ち取って名をあげるのは誰だ?」

「未知なる技術者か」

「右手の異形か」

「口達者な女子(おなご)か」

「殺し屋か」

「それとも...全員でかかってくるか?」


キング・ブラッドレイの鋭い眼光が、四人を射抜く。


(なんだこれ...ぼろぼろのオッサン一人に勝てる気がしない...)

ごくり、と誰かの唾を呑む音が聞こえた気がした。
いまのブラッドレイはこの場の誰よりも満身創痍だ。
致命傷が無くとも、まともに動くのは困難な筈。
だというのに、その威圧感は増すばかりだ。

「...新一、タスク、雪乃。奴にのまれるな」

動けずにいる三人の前に、アカメは進み出る。
すれ違いざまに、新一は気が付いた。
アカメの手が...微かに震えていることに。
彼女も解っているのだ。キング・ブラッドレイとの圧倒的な実力差を。
だが、それでも彼女は真っ先に先頭へと立った。
そんな彼女の姿を見れば、三人の闘志も自然と駆り立てられるというものだ。


「キング・ブラッドレイ」

―――いいか、アカメ。生きて妹に会いたいなら、お前はもっと非情にならなくちゃいけねえ。

かつて、父と呼んでいた指導者の言葉を思い出す。

―――自分の中でスイッチを切り替えるんだ。...そうだな、なにか『言葉』がいい

それは、刷り込まれてからは常にやり続けていたことだ。

―――任務をこなす時、それを実際口に出すか、心の中で呟くか...どっちでもいいからやっておきな。おまじないみたいなもんだ

闘うために。生き残るために。弱い己を隠すために。
アカメは、アヌビス神を構え、言い放つ。


「お前が私たちの前に立ちはだかるのなら、"葬る"」


それは、全ての引き金だった。

新一が、雪乃が、タスクが覚悟を決めた。

アカメの震えがおさまった。

ブラッドレイは駆けだした。

そして。

アカメとブラッドレイの刀が重なり。



全ての終わりは始まった。



最終更新:2016年06月07日 21:22