008

無能力者 ◆fuYuujilTw


「水35L、炭素20kg、アンモニア4L、石灰1,5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、
硫黄80g、フッ素7,5g、鉄5g、ケイ素3g、その他15の元素を少量、か」

誰に言うでもなく、そう呟いた。

先ほど少女と出会った。サテンルイコと名乗ったこの快活な少女は、
殺し合いの場だというのに私に話しかけてきた。
何でも詳細名簿を持っていたらしい。
運の良いことだ。
彼女は記載された情報から、私が信頼に足る人間であると判断したという。
随分と買いかぶられたものだ。


私はあの日見た、あの体を失った少年の目を思い起こしていた。
人体の構成物を用意することは容易い。だがそれを組み立てることは別問題だ。
等価交換の原則。
そして命と等価なものなど存在しない。

存在しない……?

多くの罪なき者の命を奪ってきた私が何を言っているというのか。


1人の力など、たかが知れている。
だから私は自分で守れるだけ、わずかでも大切な者を守ろう。


ヒロカワという男の言う通り、最後の1人になれば。

あいつの顔が思い浮かぶ。

……だから他の参加者を焼くというのか?

かつて散々鼻を突いた肉が焦げるあの匂いを再び思い出した。

そうだ。私は国家のため、国民のため、部下のため、罪なき者を焼いてきたではないか。

――鋼のもこの下らんゲームに参加している。

奴をも焼けというのか?

いや、そんなことは今考えることではない。

手始めにこの少女を――。

この少女には何の罪もない。イシュヴァールの民の様に。

彼ら2人はあまりにも向こう見ずであまりにも愚かだった。
しかし、今の私は彼らと同じ愚か者だ。

私の支給品は燻製と銃だ。

私は覚悟を決めた。


「……すまないな、私は君の思っているような人間ではない。私には成さねばならないことがあるのだ」

「ヒューズさんのこと、ですか?」

ビクン、と体が震えた。
なぜ彼女があいつのことを知っているのか?
そうだ、詳細名簿。そこにあいつのことが載っていたに違いない。

「……ああ、そうだ」

私が何をやろうとしているのか、彼女は察したようだ。

「そんなこと……そんなことして、許されると思ってるんですか!」

「……許される、許されないの問題ではないのだ」 

「それに、エドワードさんだって……殺すつもりなんですか?」

「うるさい!」


鋼の、を頭から振り払い、銃口を向ける


「……君に何が分かる。君は大切な人を失ったことがあるのか?」

怯えの中に毅然たる感情を交え、彼女は答えた。

「……私には分かりません。でも、初春がそうやって喜ぶとは思えません……! きっと、悲しみます……!
今あなたのやろうとしていることは、ヒューズさんのためではなく、自分自身のためです!」

「……!!」

この少女と彼女とは似ても似つかないというのに、彼女の言葉が思い返された。

「過去って、確かに簡単に割り切れるものじゃないと思います……。 
過去の自分があって今の自分があるわけですし……。その過去が大事ならなおさら……。
……でも、だからって今の自分を傷つけたり、大切な人を悲しませたりすることが許されるはずはないです!」

ルイコの言葉はあまりに青臭く、そしてまっすぐだった。


私は中尉に背中を任せたはずではなかったのか?


大切な者のためと道を踏み外すことは許されるのか?


かつての私なら考えることもなく、許されると答えただろう。

鋼のは、中尉は、私を仇と狙っていた男は、何と言ったか?



私は大総統を目指す人間ではなかったか?



全ての国民を守るという理想を掲げたはずの人間が、自らの為に動こうとしていた。

鋼の、の言葉が思い起こされる。

そして、かつてあいつに言った言葉が思い起こされる。

殺し合いを止める。

ああ、確かに青臭い理想だ。

しかし、理想を語ることを止めた瞬間、あいつは私のことを笑うに違いない。

私は銃を下ろした。

「……すまなかった」

「い、いえ、いいんですよ……!」

ほっとした表情で彼女は言った。今まさに私に殺されそうだったというのに。


「……私は非力な人間だ。それ故に全てを守るには君の協力が必要だ。
……私が君の命を守る。君はその手で守れるだけ……わずかでいいから他人を守れ」

「非力って……私の方がよっぽど非力ですよ! 大体レベル0だし……」

「攻撃をしたり、何かを生み出したりすることだけが力ではない。
私は全ての国民の上に立つことを望む人間だ。……本当は私にこそ強い力が必要なのだ」

「力……」

佐天涙子にはあの事件の後の親友の言葉が思い起こされた。



「君はあのヒロカワという男を知っているかね?」

「いえ、詳細名簿にも広川については載っていないし……私には分かりません」

「そうか……」

「ところで、ロイさんは焔の錬金術師だって書いてありました。広川も錬金術がどうとか言っていましたけど、
それって超能力のようなものなんですか? 私の知る限りでは、錬金術っていうのは昔の人の考えたものなんですけど」

「超能力? いや、そんな非科学的なものではない」

「いやいやいや! 超能力っていうのは科学的なものですよ!」

「それならば、見せてくれたまえ」

「いや、その、あたしは無能力者で……」

「"無能"力者か。まあいい。……もののついでだ。見せてあげよう」

ロイ・マスタングは近くにあった鉄パイプから剣を錬成する。

「す、すごい……」

学園都市であったら、レベル4は確実であろうと佐天涙子は思った。

「この首輪についてはさっぱりなんだがね。これは君が持っていたまえ。それで、これからどうする?」

「エドワードさんと、御坂さんに白井さん、それと初春を探しましょう。初春はきっと脱出に役立つはずです。
それに殺し合いに乗っていない人もきっといるはずです」

「そうだな……」

詳細名簿を先ほど見せてもらったが、その人物の趣味や嗜好といった情報は記載されているものの、この場で直接役に立つ情報が
載っているとは言いがたい。私であれば、「焔」の錬金術師と呼ばれていることは記載されている。しかしそれがどのような
能力なのかという説明はない。人間関係についても、ヒューズや中尉との関係は簡単にとはいえ載っているが、鋼のとの関係は省かれている。
要は肝心な情報が得られないのだ。どの人間が殺し合いに乗っているかを判別するのはこれだけでは不可能に近い。

「しかし、分からんな。君の言うことと私の言うことがことごとく食い違っている」

「もしかしたらですよ、パラレルワールドか別の惑星なんじゃないですか? ロイさんのいた世界と私のいた世界って」

「そんな馬鹿なことが……」

「いやだって、アメストリスなんて国、聞いたことないですし、私たちが使っているのは大陸歴じゃなくて西暦ですよ?」

「私もニホンなどという国は聞いたことがないな。文字からしてシン国に近いとは思うのだが」

「その国も聞いたことがないです……」

ロイ・マスタングは考える。
名簿に嘘がなければ、このゲームには死んだはずのホムンクルスも参加しているということになる。
”お父様”は確かに消滅した。一体あのヒロカワという男が何者なのか見当もつかない。
彼女の言うことを信じた訳ではないが、何らかの強力な力が働いているのは確かだろう。
とりあえず今は情報が足りない。脱出のため必要な人間を探すべきであろう。


(いずれにせよにせよ、必ず生きて帰る)

国家のため、国民のため、部下のため、友人のため、そう心に誓うのだった。


【B-8 発電所 /1日目/深夜】

【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブ@PERSONA4 the Animation
[道具]:基本支給品一式 、魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
1:佐天を守ってやる。
2:佐天の知り合いとエドワードを探す。
3:ホムンクルスを警戒。
4:火種となるものを探す。
5:脱出に役に立ちそうな人間を探す。


[備考]
参戦時期はアニメ終了後。
*学園都市や超能力についての知識を得ました。


【佐天涙子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:剣
[道具]:基本支給品一式、詳細名簿。
[思考]
基本:ゲームから脱出する。
1: 初春、御坂、白井、エドワードを探す。
2:ロイと協力する。


[備考]
参戦時期は幻想御手事件以後。

*錬金術についての知識を得ました。
*ロイのいた世界が自分たちのいた世界と別ではないかと疑っています。
*上条との面識はありません。

詳細名簿について

全参加者の名前と参戦時点での写真(アングルは参加者毎に異なる)とプロフィールがアルファベット順に載っています。
プロフィールについては、その人物の作中世界における表向きの来歴を中心とした基本的に簡素な記述となっています。
そのため、ネタバレとなるような記述は省かれています。
基本的に参加者の特殊能力や参加者同士の関係、広川についての記載はありません。
情報の記載内容については参加者毎に差があり、全く記載がない参加者もいます。
国家錬金術師の様な作品独自の用語についての解説はありません。


記載例 
    キング・ブラッドレイ アメストリス国の大総統。
    後藤 記載なし。
    空条承太郎 東京都在住の高校生。17歳。父は貞夫、母はホリィ。好きな歌手は久保田利伸、好きなスポーツ選手は千代の富士、
          好きな女の子のタイプは日本人的な女性、大嫌いなタイプはウットーしい女、好きな映画は『ネバー・クライ・ウルフ』、
          趣味は船や飛行機に関する本を読むこと、好きな色は透明感のある色。
    御坂御琴  常盤台中学校2年。実家は神奈川県にある。住居は第7学区・『学舎の園』外部にある常盤台中学女子寮208号室。
    鹿目まどか 見滝原中学校2年。家族構成は母の詢子、父の知久、弟のタツヤの4人。志筑仁美の親友である。


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ロイ・マスタング

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最終更新:2015年08月09日 01:39