007
展望は無いが度胸でクリアするしかないや ◆rZaHwmWD7k
草木も眠る様な深夜。
月は煌々と辺りを照らし、一匹の蟲の音すら響かぬ静寂が支配していた。
だが、ここが凄惨な殺し合いの会場である以上、そんな状況も長くは続かない。
会場の一角にある温泉に、静寂を破る者が現れる。
「アルは……いねーのか」
赤いコートを纏った金髪金眼の少年―――鋼の錬金術師
エドワード・エルリックは呟きをもらした。
彼の手にあるのは目が覚めた時に背負っていたディパックにあったタブレット型の多機能デバイス。
彼の世界の技術では未知の代物だったので少々使いこなす事に苦労したが、天才と呼ばれた頭脳をフル活動させ、10分後には全ての機能を使いこなす事に成功していた。
その機能の一つを使ってまず注目したのが名簿。
弟のアルフォンスがこの腐ったゲームに連れてこられていないのは喜ぶべき事なのだろうが――他があまりにもまずい。
「大総統やプライドがいる中で信用できる相手が、あの大佐だけってのはなぁ……」
正直、あまりにも心の元無さすぎる。
やはり世界で最も信用でき、尚且つ自分が一度もケンカに勝った事のない弟か、
強欲の名を冠したホムンクルスと魂を同居するバカ皇子でもいれば心持ちもまた違っただろう。
さらに想定し得る中で最悪なのが―――ホムンクルス達の親玉である“お父様”が裏で手を引いていた場合だ。
こうなると、アルフォンスがいないのも自分に対する人質のためという可能性もありうる。
実際に首にはめられている首輪を錬金術によって解除しようとしても錬成エネルギーすら通らなかった。
この首輪が通常の物質で構成されているなら錬金術での干渉は容易と思われたのだが…。
恐らく自分の知らない未知の物質で作られているか、あのお父様と呼ばれたホムンクルス達の親玉が使った錬金術封じのような細工がなされているのだろう。
必ずしもお父様が絡んでいるとは言い難いが、錬金術封じの技術から見て可能性はある。
もしそうならはっきり言って状況は暗い。現在いる温泉施設の明るさがふさわしくない程。
だが、
「諦めるってこたねーよな……」
これまで旅を続ける傍ら、ホムンクルス達の計画に迫ってきたが、そこで得た情報やホーエンハイムによって齎された“約束の日”の情報とは大きく食い違っている。
もしかすればこれはお父様が絡んでいるにしても独断によるものか、もしくは奴らにとっても完全にイレギュラーな事なのかもしれない。
もしそうならば足元を掬うチャンスもあるはずだ。
「うしっ、まずはここ回ってみて、明るくなったら大佐の奴を探すか!」
土地勘のない場所で深夜に徘徊するのは危険と判断し、現状の拠点の把握を優先。
本来ならば一刻も早く大佐と合流したいところだが―――普段はいけすかない無能でも過去にイシュヴァ―ルの英雄と呼ばれた凄腕の錬金術師だ、そう簡単にくたばったりはしないだろう。
そう行動方針を固め、デバイスから目を離すと、花瓶に入った赤い花が目に映った。
なんとなしに手にとる。花を愛でる趣味は自分にはないが、赤は好きだ、血がたぎる。
「花泥棒は罪にならないってな……」
そのまま左手で花をポケットに突っ込むと、鋼の右腕を握りしめ、行動を開始する。
こんなくだらないゲームで犠牲者を出さないために。
弟の元へ帰還するために。
「待ってろよド三流……」
彼がポケットに入れた花―――ゼラニウムの花言葉と同じ、揺るぎない意志を、胸に秘めて。
▽
細長い廊下を抜け、混浴と書かれた暖簾を潜ると先ほどの部屋とは違い広い部屋に出た。
広い、と言ってもたくさんの籠が詰められた巨大な棚が所狭しと並べられている、いわゆる脱衣所なので存外、人のいられるスペースは少ない。
「!?」
故に、その少ないスペースに横たわる少女を見つけることも容易だった。
「おいっ、大丈夫か、しっかりしろ!」
何故か猫耳を付け、未だ意識が覚醒していない少女の肩を揺する。
目立った外傷は無いため、単にこの場所に連れてこられてまだ目が覚めていないだけだと推測できた。
「う…、にゃ……?」
「目が覚めたかねーちゃん」
推測の通り、愛らしい声と共に少女が、
前川みくが目を覚ます。
と、同時に声と同じく愛らしい顔に恐怖の色が浮かび上がる。
先程のホールでの凶行、殺し合いをしろとの命令。全てを思い出したからだ。
そして、現在目の前にいる見知らぬ少年の存在がそれを加速させる。
「にゃ゛あ゛あ゛ッ!」
「お、おいちょっ!」
軽度ではあるが恐慌状態に陥ったみくはエドワードを突き飛ばしディパックに飛びつくと中にあるものを彼に投げつけだした。
食糧。水。タブレット。
とにかく手あたりしだいの物がエドワードに向かって飛来してくる。
それを何とか躱しつつ宥めようとするが、飛んできたみくの支給品――ガラス製の靴が彼の鼻っ柱に突き刺さった。
「こ、こんのヤロ……」
――――――刃物が入ってたらどうする!?
やんちゃ盛りの年齢の上、元々短気な性分であるエドワードの目に怒りの炎が燃え上がった。
が、強硬手段にでようとした所で、みくの様子が目に映り体が止まる。
彼の目に映った少女はただ怯えているだけだった。殺し合いに怯え、死に怯え、他者に怯える被害者だった。
軍人や、ホムンクルスなどとは縁の無い日向の世界を歩んできた事が伺える。
自分の幼馴染と同じ、守られるべき人間なのだ。
たとえ組み伏せて大人しくさせても余計状況を悪化させるだけだろう。
(ったく、こんなのはアルの方が得意だろうに)
元々弟に比べ短気なのは自覚しているし(断じてカルシウム不足ではない)、彼の周りの女性と言えば精神面、肉体面で強いか、恐ろしいか、あるいはその両方だったので扱いに困ると言うのが本音だ。
それでもやらなければならない
言い聞かせる様に心の中でそう呟くと、未だに投げつけられるペットボトルをその身に受けながらコートを脱ぎ、自身のディパックと共にみくの足元へと投げる。
少女の腕が一瞬止まる。
「頼むから落ち着け、俺にアンタをどうこうしようって気は無い
もちろん殺し合いにも乗ってない」
「…………ホント?」
一言でも確かな会話。
これを好機としエドワードは両腕を挙げながら一歩、二歩と後退する。
彼なりの戦意の無い事の証明だった。
「ああ、俺はアンタと話がしたいだけだ」
「………」
目に猜疑と涙を浮かべ、最初は無言だったが、エドワードがまず自分の知っている事を
話すうちに、彼女もポツリポツリと言葉を漏らしていく。
数分後、2人とも広川と言う人物についての情報は無く、名簿に載っている知り合いの名を言うだけのぎこちなく、短い情報交換は終わった。
「これからどうしたらいいの……みく全然分からない」
一抹の落ち着きを取り戻し、みくはエドワードに向け独り言の様に問いを投げる。
その口調はポップでキュートな猫耳アイドルではなく真面目で聡明な“前川さん”のソレだった。
「そんなもん自分で考えろ」
帰ってきた答えは実にドライなモノ。
しかし、未だに信用されていない以上、彼はこう答えるしかなかったのだ。
「もし俺が怖いなら今すぐここから出ていくさ…アンタはここにいろ」
できれば自分が何とかしてやりたいがヘタに連れまわす方が危険だろう。
この施設は広い。噂に聞くアームストロング家と同じくらい広いかもしれない。
隠れる場所も、脱出口も多いためジッとしていれば外よりも余程安全だ。
そう結論付け、あえて冷たく突き放しエドワードは踵を返そうとする。
しかし、彼の赤いコートの裾を震えた手が掴む。
「何だよ」
「まだ…謝れてないにゃ、エドワード君はみくの事気遣ってくれたのに…
みくは酷い事しちゃったから、その、ごめんなさい……」
手と同じく震えた声から紡がれるは謝罪の言葉。
「もう別に気にしてね-から。……それより必ずアンタの知り合いをここに連れて帰って来てやるから、それまでは待っててくれ」
これがアルならばもう少し気の利いた言葉が吐けたかもしれないが―と心中で自嘲しながら
未だ尻餅をついているみくの手を取り、そう答える。
「…………うん。みくはここにいるにゃ。
でも、エドワード君が悪い人じゃ無さそうって言うのは分かったから、朝になるまでこにいるといいにゃ」
少年の精一杯の言葉に少女も精一杯の返事で返す。
奈落の底で、ぎこちなくとも、暖かなモノが生まれようとしていた。
だがその時、
「ん」
みくが投げた床の荷物は既にエドワードが情報交換の傍ら回収したというのに何かが二人の眼の前に転がってきた。
ソレは鉄アレイサイズの円筒形の物体だった。
―――その瞬間エドワードの背筋に寒気が走る。
アレの正体は分からないが、ヤバい!何か猛烈に嫌な予感がする!
「ヤベェ―――!」
「エドワード君!な、何を……」
2人分のディパックを引っ掴み、暴れるみくを無理矢理担ぐと脱兎の勢いで駆けだす。
そのまま大きなガラス戸を蹴りあけ、露天風呂の方に飛び出した。
さらに走りながら何とか両手を合わせ巨大な石壁を錬成する。
肩でみくが何かを叫んでいるが気にしない。
とにかくアレから離れなければヤバい、彼はそう判断した。
その判断は間違っていない。
2人の間に転がってきた物は参加者の一人である
暁美ほむらがかつてインターネットで情報を入手し、魔女との戦いのために自作した“武器”。
その物体の名は、パイプ爆弾。
元々はみくの支給品であり、エドワードに投げつけた時は偶然棚に引っ掛かっていたため幸運にも爆発はしなかった。
だが、そのせいで床の散らばった荷物を回収したエドワードも気が付かず、
あくまでうまく引っ掛かっていただけなので時間の経過と共にあっさりと落下。
……さらに、その衝撃で今度こそ爆弾のスイッチが入った。
その結果。
「にゃっ!へ、部屋が光っ―――」
当然の如く、爆発。
棚が、窓ガラスが吹き飛ぶ。
地面を防護壁に錬成していなかったら二人は破片を全身に浴びていただろう。
たかが一個の爆弾と侮るなかれ、その威力は魔女を一撃で殲滅するほどである。
直接の爆風はガラスと錬成された岩壁によって防がれたが、爆風の余波は二人を地面から吹き飛ばし、そして――――
「どわあぁああああぁああぁあああぁあああっ!」
「何でこうなるにゃあああああああああああああああああ!」
鋼の名を冠した錬金術師と猫耳を付けた灰被りの少女は二人仲よく湯船に向かって華麗に突っ込んだ。
これからが、彼と彼女の始まり――
【H-5 温泉 /1日目/深夜】
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:健康、犬神家状態。
[装備]:無し
[道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
不明支給品×3~1、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×4(ディパック内) @魔法少女まどか☆マギカ、みくの不明支給品1~0
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
1: 水没中
2:大佐の奴をさがす。
3:前川みくの知り合いを探してやる。
4:ホムンクルスを警戒
[備考]
登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
*前川みくの知り合いについての知識を得ました。
*ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。
*爆発音が周囲に響きました。
【前川みく@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康、犬神家状態
[装備]:猫耳
[道具]:なし
[思考]
基本:生きて帰りたい。
1:水没中
2:卯月ちゃんや
プロデューサー達と会いたい。
[備考]
*登場時期はストライキ直前。
*エドワード・エルリックの知り合いについての知識を得ました。
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最終更新:2015年05月31日 02:02