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第五回放送 ◆dKv6nbYMB.
これより時刻は二度目の早朝をまわり、いま再びの朝を迎える。
陰鬱な時間は過ぎ、終焉へと向かう朝日の切符がきられようとしているのだ。
☆
前回の放送から6時間が経過したため、放送に入らせてもらう。
一刻も早くレクリエーションの結果を知りたいだろうが、まずは落ち着いて聞いてもらいたい。
せっかくここまで生き残ったのだ。逸る気持ちでこの放送を聞き逃し、うっかり禁止エリアに踏み込み爆死するなどゴメンだろう。
...気持ちは落ち着いたか?では、これまで通り30秒後に禁止エリアの発表をする。
準備はできただろうか。
では、発表にうつる。
禁止エリアは
D-1
B-5
G-3
だ。
禁止エリアも15か所となった。全体のおよそ4割だ。だいぶ逃げ場もなくなってきたのではないか?
あと何度放送があるかはわからないが、囲まれないように気を付けるべきだと警告しておこう。
ここまで生き残ってきた君たちには言うまでもないことだろうがな。
...さて。諸君も待ちわびているであろう脱落者の発表といこう。
心の準備はいいだろうか。
では発表しよう。
脱落者は
以上13名だ。
...予想外の結果に驚いている。
君たちは私のレクリエーションを無事にクリアした。それも、私の指定した10人を遙かに超えてだ。
おめでとう、と素直に賞賛と賛辞の言葉を送らせてもらう。
やはり君たちという種は己を守ることにおいては如何なる生物よりも優れている。
その点だけは私も認めざるをえまい。
生存者諸君、是非ともその調子で最後の一人になるまで生き残り、私の前にたちたまえ。
私は心より君たちの功績を讃え、望み通りの報酬を渡すとここに誓おう。
おっと、忘れていたが忠告を兼ねた助言をしよう。
『24時間以内に誰も死ななければ全員がゲームオーバーになる』というルールを覚えているだろうか。
先程の放送で連ねた通り、生存者は一桁を切っている。
しかし、禁止エリアに指定された場所は4割といえど、まだ指定されていない場所は49か所、実質通行できる場所に限っても君たちの倍以上はある。
参加者同士が接触できる確率が減ってしまったということだ。
座して獲物を待つか、動いて獲物を探しに行くかは君たち次第だが、私の助言は努々忘れぬよう気を付けたまえ。
...では、私はこの辺りで失礼させてもらう。
この催しの最後の一秒まで、諸君らの健闘を祈っている。
☆
「...ふう」
放送を終えた広川は、周囲を見回し一息をついた。
気が付けば、額には冷や汗が流れ、心臓の鼓動はかつてないほどに早まっている。
柄にもなく緊張しているというのだろうか。...そうかもしれない。
もともと、広川剛志は己の生にあまり関心を持たない男だった。己の命を軽視、していると言い換えてもいい。
市庁舎に自衛隊が攻めてきたからといって保身を考えることがなければ、数多の銃口を向けられても己の言いたいことを淀みなく言い放つことができた。
極端な例だが、自分がパラサイトに食われることにより生態系のピラミッドが安定するとすれば、彼は喜んでその身を捧げるだろう。
ヤケ、ではなく己の命を一つのモノとして等しく見ている彼だからこそ、そのような所業に及べるのだ。
では、そんな彼が緊張しているのはなぜか。
(...そろそろ、か)
第4回放送の時も思い浮かべた言葉。
広川剛志は、真面目な男ではあるが嘘をつかない男ではない。
多くの人間に己の本性と思想を偽り市長へとなりあがったのがいい例である。
故に、ここでも広川は偽りの仮面を着けていた。
だが、市長の当選は失敗したところで大したリスクはなかったが今は違う。
首輪の交換機の設置から始まり、10人殺害のレクリエーション、アンバーとの密通、
タスクたちへの接触...これらすべてが、広川にとっては博打そのものであった。
ひとつ間違えば自分が死ぬ危険にさらされるだけでなく己の目的が完全に為せなくなってしまう。
そのような博打を重ねれば、彼とていささかの緊張はしてしまうのだ。
だがそれももうじき終わる。もう少しで悲願が達成される。
その終焉が来るまでは、決して気を抜いてはならない。
「...さて。待たせてすまなかった。立場上、こちらも放送をしない訳にはいかないのでね」
気を引き締め直し、広川は誰にも悟られないように願いつつ、ボソボソと手元のマイクに声をかけ始めた。
☆
果たして自分はちゃんと目的に近づけているのか、とアンバーは一抹の不安を覚えていた。
彼女の契約者としての能力は時を操ることである。
それを行使するには己の存在を消しかねないほどの多大なリスクが生じ、易々とは使用することができない。
この点に関していえば、彼女は
暁美ほむらやDIO、
エスデスといった少ないリスクで時間に干渉できる者たちを羨んだことがないとは言い切れない。
そして、当然ながら、主催の身に甘んじている間もそのリスクを踏まえた上で使用すべき場面は幾度もあった。
だが、どうにもこの殺し合いではうまく能力を行使できず、自分に不都合になりそうな場面への干渉はできなかった。
せいぜいできたのは、魏志軍に本来の未来の白昼夢を見せ、黒との出逢いを急かしたことだけだ。
何故、彼に対してだけ辛うじて能力が通じたのかはわからない。おそらくそれ自体には理由は無く、考えるだけ無駄だろう。
能力がうまく使えないのは、この殺し合いが多種多様の可能性と運命が集った蠱毒だからだろうか。それとも...
(...使えない理由に縛られていても仕方がない)
未来の一切視えない世界に不安は消えないが、かといって手をこまねくだけではどうしようもできない。
いまは、能力を計画から排し尽力することだけだ。
この殺し合いの参加者たちは失敗など考えず、如何な形にせよ己の手で運命を切り開いてきたのだから、彼女だけが怯えてチャンスを逃すわけにはいかない。
(彼は私に疑念を抱いているはず。チャンスは一度きり...)
電波の向こうの調律者たちを見据える。
彼らとの対話はまだ終わっていない。
もしもこの計画が失敗すれば、最悪の結果を招くことになるだろう。
現状、時の逆行を計算に入れてはならない。
命を懸けてもやり直しがきかない、失敗の許されぬこの逢引き。
改めて意を決し、彼女は静かに口を開いた。
☆
フラスコの中の小人―――通称、『お父様』。
彼は逸る気持ちを抑えていた。
奴がなにかを企んでいるのはわかっている。それが自分に都合の悪いことであろうこともだ。
本当ならば今すぐにでも『邪魔をするな』と潰してやりたいところだ。
だが駄目だ。
いまはその時ではない。
下手に動けば全てが水泡に帰してしまうかもしれない。
まだ、奴に手を出してはいけない。
いまは辛抱の時である。
願いを叶えるためならば、茶番にもいくらでも付き合ってみせよう。
かつてホーエンハイムに知識を与えた時の様に。
かつて感情を息子と称し世に放った時の様に。
撒いた種が花咲かせるその時まで。
今度こそ、何者にも邪魔されぬようにと願いを抱き、ただひたすら、深い闇の底の底で静かに時を待つ。
☆
この殺し合いの主催者として物語を管理していた者たちは、元々が一枚岩ではなかった。
だが、ここにきて彼らはその様相をさらに強く醸し出す。
互いに仮面を被り、騙し合い、出しぬかんとする様はもはや参加者そのものである。
...さて。ここに至るまで、多くの命が未来を求め、その身を燃やしつくしてきた。
そのひとつひとつが記憶に新しい気もすれば遠い昔のような気もする。
私は、この物語に携わり散っていった者たちを誰一人として忘れはしない。決してだ。
そんな感傷に浸っている間もなく、事態は加速しつつある。
幾多の時間軸や運命を巻き込んだこの劇の終幕も近い。
果たして赤に染まりし舞台の最後にまで立っているのは誰だ。
その性欲はいまや成りを潜め、ひたすらに理想の世界を追い求める孤独な調律者か。
幾度も泥にまみれそれでも明日を掴むために何度でも立ち上がる鋼の名を冠する錬金術師か。
在りし日の幻影を追い求め、誰よりも彼女を信頼し愛を注いでくれる仲間すら討ち取った電撃使いか。
多くの繋がりを失い、それでも尚一般人で在りつづける奉仕部部長か。
数多の死を受け入れ、いま再び黒の死神の道へと舞い戻った男か。
後悔を重ねた末にようやく吹っ切れた、夢と希望とは縁遠い魔法少女か。
仮面に身を委ね、受け入れることを放棄し関わるもの全てを欺いてきた道化師か。
執行官や愛する姫の牙を受け継ぎ主催への反逆に身を注ぐ古の民か。
飽いて止まない探究心を追い求め、ついには己を縛る枷をも外してみせたゲームマスターか。
人知れぬ影で死線を渡ってきた、隠れ蓑として呼ばれただけのはずの男か。
かつては幾度もその身を捧げ危機を救い、この場では誰からも理解されぬ戦いに興じていた時かける女か。
敗北を経験してもなお己を昇華させることを諦めない独りぼっちのホムンクルスか。
それとも、役者の全てが舞台より消え失せるか。
―――いずれにせよ、始まってしまった物語には結末は訪れる。
その果てにあるのが万人からの嘲笑だとしても。拍手満載のカーテンコールだとしても。他の誰にも見向きもされないであろう空虚なものだとしても。
私は、遙か高みよりその結末まで見届けよう。
【アニメキャラ・バトルロワイアルIF 参加者 72人 脱落者 63人 残り 9人】
最終更新:2017年05月03日 21:18