遊技盤の主は盤上を支配するのか(後編)◆BEQBTq4Ltk
部屋に通されるまでに彼らの間に会話は発生せず、ただ黙って足を進めるのみ。
広川の導きにより案内された
タスクであるが、近場にあった椅子を引き寄せ腰を落とす。
周囲を見渡せば壁一面には巨大な液晶が掲げられており、どうやら会場を監視する一室のようだ。
そこにはヒースクリフの姿も映されており、タスクを除く八人の生存者の現状が確認出来る構図となっていた。
「よかった……無事だったか」
半ば脅しの形で言い包めた
足立透に不信感が残っていたが、彼は役割を全うしたようだ。
錬成陣の地点にて
雪ノ下雪乃、
佐倉杏子と一緒に行動している姿を確認しタスクの表情に笑顔が浮かぶ。
しかし、安心することは出来ず。脳内を切り替えると視線は目の前に座る広川を捉えた。
「これからどうするつもりだ。此処まで辿り着いたなら最後まで乗ってやる……次はどうすればいい」
「お前達の予定からして次は鋼の錬金術師による首輪を外すことが重要……ならば、少しは時間を稼げ」
「だからこうしてこの部屋に案内したんだろ。問題はその後だ……お父様? と次に遭遇した時が問題だ」
己の役目は黒幕を欺くこと。
お父様の本拠地に結果として招かれたタスクは唯一、自由に主催へ干渉出来る立場となっている。
無論、言葉を掛けるだけであり、実際に戦局を左右するような権限は持ち合わせていない。
「問題……ならば遭遇しなければいい話だろう」
「……お前は何を言っているんだ」
「この場から抜け出す方法がある。勿論、その準備は最初から出来ている」
広川の言葉を鵜呑みにしては都合の良い方向――主催にとって。
流されるがままになってしまう恐れがあり、抽象的な表現こそ多いがタスクは全ての欠片を拾い上げるように耳を澄ます。
「一応聞こうか。どうやって俺は帰る事が出来る」
「簡単だよ。扉を抜ければそれで終了さ」
質問をした所で、的のない答が返ってくることは予想していた。
切り口を変えてみるかと考えるも、それは無駄な所要だろうとも思ってしまう。
広川の真意を見出すことは不可能なのか。それとも、ヒースクリフのような頭脳に長けた存在ならば可能なのか。
「気になっていたことがある。一つじゃないけど、ヒースクリフさんはどうして首輪を解除されているんだ」
「彼は彼女のお気に入り……と云うよりも、彼だから外れていると言っていいかもしれないな。
私の他にも此度の運営に関わっている存在がいてな。彼女は彼女で動いているのさ――私と同じように」
「どうして黙っていたんだよ……って言っても期待するような答は返って来ないよね。
分かったよ、元々、三つの計画が同時に動いているから他にも内通者が居たことは気になっていたんだ」
「三つ……?」
「俺がこうして時間を稼いでいること。
エドワード・エルリックが向かっていること。ヒースクリフさんがもう一人の内通者と接触していること」
なるほど。と、短く呟いた広川は何かを思い返すような遠い目で液晶を見ていた。
タスクの視線も釣られて推移し、そこには
御坂美琴以外の参加者がある程度纏まっている光景が映し出されていた。
雪ノ下雪乃、足立透、佐倉杏子。
比較的彼らに近いエドワード・エルリック。
そして一人外れた場所に居るが、着実と近付いている御坂美琴。
――俺が失敗したら皆に迷惑が……さて、どうしようか。
悩む時間すら惜しい。何せお父様との謁見まで――残り数分。
◆――
仕込みの時は終了し、残るは実行のみ。
最後の鍵を握るは鋼の錬金術師。
今宵、彼が欺くは誰になるのか。
全ての事象は因果によって構成され、遊技盤の主はほくそ笑む。
足掻け、足掻け、足掻け。
宙に上げられたコインの結果など、最初から決まっているのだ。
――◆
死者の名前が告げられるよりも時は遡る。
学院内のとある一室に身を寄せたエドワード・エルリック。彼の視界に飛び込んだのは発光する四角形状の機械であった。
錬金術が発達した彼の世界に於いて、パソコンなる文明は登場していない。未知なる存在に警戒心が最大限にまで引き上げられる。
予想を立てるならば参加者に支給されているデバイスに近い代物だろう。
液晶と呼ばれる表面に並べられた文字列。真偽は不明であるだ何者かが鋼の錬金術師に語り掛けているようだ。
近場にあった椅子を引き寄せるとそれを液晶の前方に置き、腰を下ろした段階で彼は腕を組んだ。
画面の向こうから接触を図る存在は何者なのか。
お疲れ様などと言っていることから、参加者よりも運営側に近い存在であることが伺える。
そして、運営側の存在などエドワード・エルリックからしてみれば一人しかおらず、脳内に浮かび上がる人物像は自ずと彼を形成する。
――広川が今になって俺に接触を……?
疑問は残る。はたして本当に運営は広川一人で行っているのか。
名簿に記載されていた複数のホムンクルスが闇に潜むあの存在を連想させた。しかし、
エンヴィーは今回の経緯を知らないような素振りをしていた。
こちらを騙すための演技の可能性もあるが、あの状況で嘘を吐くだろうか。敵ながらにしても、思う所はある。
ならば彼らホムンクルスは親から見捨てられたのか。その可能性は大いにあるだろう。かの造り手が情など持ち合わせている筈もない。
会場の中で遭遇し交戦、或いは共同戦線を張ったホムンクルス達。
エンヴィーとプライドは殺し合いの真理を知らずに、エドワード・エルリック達と同じように何も目的を掴めぬまま放り投げ出されたようだ。
彼の睨みではホムンクルスの親玉が関係していると思い込んでいた。
美樹さやかを救出した際に辿り着いた疑似・真理の空間からして錬金術に博識のある者が絡んでいるのは間違いないだろう。
依然として主催者と言い切れる存在は広川のみであり、倒すべき相手の全貌すら掴めぬまま、今を生きている。
【突然で驚いているかもしれないが、君に話がある】
さて、どうしたものかと画面の向こうにある真意に想いを傾ける。
エドワード・エルリックに残された時間は少ない。学院内を捜索し
高坂穂乃果を見付ける必要がある。
こんなことで時間を消費する暇など無いが、運営側から接触された時点で行動を監視されていると考えて間違いないだろう。
下手な動きをすれば己の生命、下手をすれば仲間の生命にまで危険が及ぶ可能性も考慮する必要がある。
現に学院内に放置されていた少女達の死体と繋げられた人形。その存在が彼を更に苦しめる。
【そう固く構える必要はない。話というのも君達にとってはメリットの塊だ】
こちらの様子が見抜かれていることから監視されていることは確定である。
「……聞こえてはいるんだよな?」
畏まる必要は無い。たとえ相手に生命を握られていようと、媚びることなどするものか。
此度の原因を持つ相手、一瞬たりとも頭を下げるなど死んでも有り得ないだろう。
【その認識で構わない】
「じゃあお前は広川ってことでいいのか?
それとも俺の知らない別の人間か……それとも、まさかお前はホムンクルスの――」
【その質問には全部違うと答えよう。重要なことはそこじゃない】
「正体の掴めない奴の言い分なんて簡単に信じれるわけあるかよ」
【こちらも時間が無い。手短に要件を済ます】
「て、てめぇ……っ!」
歩み寄ろうとしない液晶の向こう側に対し、怒号を響かせながらエドワード・エルリックは立ち上がる。
椅子が倒れ無機質な冷たい音が部屋中を満たす中、主催者の人間は何も変わらずに文字列を表示し続ける。
【信用するかどうかは君しだいだ。だが、藁にも縋る思いとは正にこのこと】
わざわざ反感を買うような単語の運び方にエドワード・エルリックの苛立ちは更に募る。
握られた拳は震えており、放つ対象もぶつけるべき存在もいないが故に、怒りは行き先を失う。
「じゃあ話してみろよ。時間が俺も……誰もが同じなんだ。つまらない話だったらぶっ飛ばす」
【話が早くて助かる。君達参加者の首輪を外す手助けをしてやろうという提案だ】
「…………………………は?」
【悪くない話だろう。君達の生命を握るその忌々しい枷を解放してやる術を教える】
次の言葉が脳内に構成されつつあるが、実際に喉元を通ることは無かった。
情報の処理は追い付いている。しかし、あまりにも必要であろう過程を無視した結果の受け入れに時間を要する。
画面の向こう側から示された術は誰もが求め、誰もが諦めた重要課題の一つだ。
「そんなことが出来るならとっくに外している、俺だって何度も試した」
【どれだけ試そうが無駄だ。最初にこの箱庭に施された仕掛けを解除しないことには始まらん】
「仕掛け……? 何を言っているか分からないけどよ、説明はしてくれんだろうな」
首輪の解除に対し行動を取った参加者は多く存在する。
手立てこそ錬金術や超能力、魔法と多岐に渉るが誰もが失敗の壁に到達し、その解除を諦めた。
会場に施された仕掛けが原因となっているようだが、言葉そのものを聞いた段階でまともな判断など不可能である。
内容を知らされずに標題だけが判明している資料への読み込みなど当事者で無ければ分からない。それと同じだ。
言葉一つで納得出来るような状況か。答えは否。エドワード・エルリック以外の存在であろうと返しは同一の旨を含むだろう。
信頼の無い相手、根拠の無い希望、説明すらされない真実。
鵜呑みに出来る許容範囲を超えている。超えるというのも優しいぐらいだ。そもそもとして枠を超越している。
【君も見たことがあるだろう。会場に刻まれた錬成陣に心当たりは】
「俺が読み取れなかった文字に仕掛けがあるのか……?」
【それも含めよう。しかし、根本的に問題があった。仮に錬成を発動したところで波動が流れない仕組みになっていたのだ】
時間軸を超えた先、調律者とゲームマスターが到達した境地へと鋼の錬金術師も手を掛ける。
箱庭の外を包む外壁の真意など、収納された駒同然である彼らに見抜くことは不可能である。
全知全能を誇る千里眼を以てしても、枷が嵌められ全ての色素が濁されたような偽りの空間の前では役に立たないだろう。
信じるに値する情報か。
真偽はどうであれ価値を見出せるのか、掌の上で踊っているだけに過ぎないのか。
「知ったような口で……全部知っているのは本当かもしれない。だけど、俺が素直にはいと頷くと思っているのか?」
【君の言うことは最もだが、そうだな。放送が終了してから二十分後にまた声を掛けさせてもらう】
開幕のベルが鳴り響いてからどれだけの時が経過しただろうか。
上条当麻の鮮血がまってからどれだけの死者が生まれたのか。
エドワード・エルリック。
彼はどれだけの生命を、救えなかったのか。
死神が薄気味の悪い笑顔を浮かべながら、知りたくも無い答案用紙をつまみ上げた。
この世から消失した欠片を追い求めた。
手を伸ばせば光の先にある希望を掴み取れると己へ暗示を掛けていた。
決して叶わぬ幻想だろうと、意思が折れぬ限りは無限の可能性を秘めていると。
嗤わせてくれる。
現実はどうだ。残り生存者八名。
白井黒子から託された高坂穂乃果の名前が告げられ、放送から抑揚の感じられないせせら笑いが会場を包み込む。
救うなど飛んだ笑い話だ。
現実を見ろ。志がどれだけ高かろうと、お前は何を残したのか。
友も、仲間も、何もかも。お前だけを残して全てが消えてゆく。世界は停滞せず、無慈悲にも彼を過去の人間へ落とし込む。
あの子は死んだ。彼も死んだ。そして彼女もまた、この世を去った。
死者の声など二度と聞けず、耳に届く音叉は所詮亡者の嘆き声。
生としての形を保っていた頃の面影など無く、死人は黙り土へと還り生者の足に絡み付く。
「――――――――z______ッ」
教室内に声にならない叫びが澄み渡り、やがて後を追うように机へ拳を叩き付ける音が響く。
鋼の錬金術師の背中がやけに小さく見え、決して後に戻ることの出来ない永遠の後悔が彼を深い海の底へ誘うようだった。
一度墜ちてしまえば、再び這い上がることは簡単な事にならず。
後悔と失念に飲み込まれ二度と光を終えぬ身と成り果てるだろう。そして意味も無く現世を徘徊し、やがて人生に欲を感じずその生涯を自ら終える。
高坂穂乃果は死んだ。
白井黒子に託された彼女は既にこの世を去った。
ウェイブ、
田村玲子も死者の呼び声に導かれ、彼が腕を伸ばした先に掴むは空白の刹那。
己すら満たすことの出来ない篝火。払いのけるにも現実は死者の存在を譲らず。
【辛いこともあるだろうがここで立ち止まる余裕は君にあるだろうか】
「……言われなくても分かってんだよ、誰が止まる、もんか……っ」
絞り出したかのように語尾にまで息が届いておらず、決意の表れとは到底呼べないような灯火の声。
震えが止まらない。彼の身体は懺悔に塗れ己の不甲斐なさに腹を立てているだろう。
自分で自分を罰したい程に、この身で許されるならば彼は自らを貶めるだろう。
けれど。
「俺にしか出来ないことがあるって言ったよな。大佐もキンブリーもいなくなっちまったならもう、俺しか錬金術師はいない」
【心変わりか】
「勘違いすんじゃねえ。お前が俺を利用するように俺もお前を利用してやるだけの話だ。
首輪を外せば俺達は一気に自由の身へ近付く。この機会を逃したら今まで死んでいった奴らに会わす顔が――ご託はいいから、話してもらおうか」
全てを利用しろ。たとえ相手が敵であっても。
死中の中で活を見出だせ、奇跡とは諦めぬ者に降り掛かることから奇跡と呼ばれる。
【よろしい、ならば我々はこの時から共犯者となる。よろしく頼むよ鋼の錬金術師】
「……いいから」
【そうか。早い話は先と変わらない。君の力で首輪を外す――それだけだ】
「錬金術によって首輪が外せれるとして、何が方法なんだ。
ただの金属に戻す――って訳にもいかないだろう……まさか、そうなのか?」
錬金術が必要ならばまずはその用途、価値を見出す必要がある。
挑戦など既に過去の遺産であり、画面の奥に居座る人物の語るロックとやらが解除された所でどうなるというのか。
【プライドとの戦いを思い出してくれ。要領はあの時と変わらない】
プライド――セリム・ブラッドレイとの戦い。
佐倉杏子と共に刹那とは云え共闘を果たしたホムンクルス。
後にイリヤ、DIO、後藤、キング・ブラッドレイ、御坂美琴を巻き込み、ウェイブや田村玲子も参戦したあの戦い。
真実を知る者からすれば要領はこの戦いと変わらない。
思い返せ、あの時に己が何をしたのか――けれど、真実は見えず。
最終的に意識を失ったあの戦局に通ずる事象が見出だせないのだ。何が隠されている。
【訂正しよう。今の君にとっては関係のないことだった。美樹さやかの時を思い出してくれ】
思考が纏まらない中、新たな情報だけが追加されてゆく。
真意は不明だがプライドとの戦いを振り返っても得るものは無かった。
ならば新たに示された美樹さやかの時――つまりは
エスデスや御坂美琴との戦闘直前の錬成を指すのだろう。
あれは彼女が魔女として戦場に降臨していた時のことだ。
タツミから事情を聞き出し、事前に佐倉杏子と接触していたため持ち合わせていた魔法少女への知識。
美樹さやか本人の身体と魔女の残骸であるグリーフシード。そして生きている彼女の精神。
全てを繋ぎ合わせた結果、かつて弟の魂を鎧へ憑依させた錬成を基礎に行った奇跡の錬成。
辿り着いた先は疑似・真理の空間と呼ばれる心象風景の世界。
相対するは美樹さやかの内なる影――シャドウ。己とは異なる存在であり、己でもある仮面。
最後は彼女自身が己の仮面を受け入れることにより、奇跡を引き起こし魔女から現世へと帰還。
「俺を――俺達ごと錬成するつもりか」
プライドとの戦いを思い出せ。
正確に伝えるとなると、エドワード・エルリック自身が自身を錬成したあの瞬間を指していた。
しかし、それは正しき時間軸を進んだ鋼の錬金術師が知りうることであり、現在の彼はその事実を知らない。
【薄々は気付いていると思うがこの空間は普通じゃない。
通行料は首輪そのものが役割を果たすから心配する必要は無い】
そうなると少しだけ、僅かにだが希望は見えてくる。
手段としては賭けに近い。けれど、その賭けに乗らなければならない程に追い詰められているのも事実である。
美樹さやかの時でさえ分の悪い賭けだった。故に今回の賭けに怖気づくなど今更な話でもある。
「お前の言っていることは分かった。逆に聞くがそのロックって奴は大丈夫なのか」
【広川が手を打っている。安心してくれ】
「俺はお前も広川も信用ならねえ。何か一つでもいい、信頼に値する情報を明かせないのか」
「強気だな。その気になれば私は君の首輪を爆破出来るぞ」
「じゃあそうしてくれ。わざわざそっちから干渉してんだ、追い詰められているのはそっちも同じだろ」
残る材料は信頼。
元より利用されるならば利用してやるという魂胆だが、一つの条件すら不明な相手との共同戦線など巫山戯ている。
嘗てグリードと組んだ時も、グラトニーの中から脱出する際にエンヴィーと組んだ時も。
敵でありながら同じ目的のために手を組んだ時がある。現在の状況はこれらと変わらない。故に
「お前の目的は何なんだよ。俺に、俺達に力を、知恵を貸す理由はなんだ」
たった一つの欠片さえ証明されれば駒となってやる。
そして共同戦線を張るからには俺が死ねばお前にも死んでもらう。
『……ははっ、ごめんね。ちょっと手が塞がってたから』
「――――――お、女?」
一室に響いた声にエドワード・エルリックの身体が固まった。
広川と異なるとは聞いていたが、声色は自分と同程度ぐらいの年齢としか思えない。
「お前……女だったのか」
『性別は関係ないよね。さっきまでヒースクリフ達と会話してたから貴方とは文字で会話していたの』
「ヒースクリフ……生きているのか!?」
『まずはそこからか……そう、彼は生きている。そして首輪が外されているの』
「首輪が外されている――だから放送で名前が呼ばれたのか?」
『さすがだね。話が早くて助かる……彼らには貴方の役割を伝えて、錬成陣の場所に誘導済みだから』
「……俺がお前の話を蹴ったらどうするつもりなんだよ」
『蹴らない。貴方はこの提案を蹴らない……信じていたから』
どうやら自分の知らない所で既に引き返せない段階にまで話が進んでいるらしい。
ならば彼も覚悟を決めぬ訳にもいかぬ。元より腹は決まっているのだ、ここまで来れば運命共同体である。
「じゃあ俺は錬成陣を目指せばいいんだな? だけどよ、錬成をするって簡単に言うけどな……」
『分かってる。これから貴方のデバイスに各世界のデータなり必要な情報を送り込む。
辿り着くまでに一通り読んでくれれば問題ない……筈。あとは貴方次第だから頼んだよ』
「……どっちにしろ簡単に言うじゃねえかよ。それでいいのか? お前だってこんなことすりゃ広川――なあ、一ついいか」
彼女は口を揃えて錬成と言葉を紡ぐも錬金術師の立場からすれば式も成り立たぬ術など成功するものか。
必要な情報を送ると言われ、はいそうですかと二つ返事で答えれるならば世の中の生物全てが錬金術師になれるだろう。
それでもやるしかないのなら、やってやる。しかし、気になることが多すぎるのだ。
彼女が干渉すればそれは広川にとって裏切りも同然だろう。
「広川やお前以外にも俺達の敵はいる……よな」
『そうだね――お父様。こう言えば貴方には伝わると思う』
「……そうかよ」
嫌な予感とは当たるものだ。
エドワード・エルリックの額には汗が浮かんでいた。
◆――
欠片は全てに行き渡る。
これで正真正銘の運命共同体。
次なる行動はただ一つ。
約束の地へ急げ。
――◆
大地を駆け抜けろ。
建物を飛び出してから一切の休憩を挟まずに彼は約束の地を目指す。
『ホムンクルスが関わっていたことは不思議じゃないようね。深くは聞かない……でも急いで。
お父様はまだこの状況に気付いていないから。それでもいずれは気付く。時間を稼いではいるけど、それにも限界があるから』
デバイスの液晶に流される単語の羅列に目を通しつつ、脳内で処理するは未知の方程式。
通行料は首輪、行く先はかの空間。材料も人間も揃っている。あとはやるだけ、やるだけである。
『それと私の目的だけど――救いたい人がいる。殺し合いに関わっていながら巫山戯た意見だとは自分でも思っている』
ヒースクリフが生存しているとなれば己を含めて参加者は残り九名。
エンブリヲ、足立透、御坂美琴。立ち塞がる壁は今も生きており、その先にはフラスコの中の小人が構えている。
後に矛を交える相手であるが、首輪――生命を握られたまま戦闘となれば有無を言わさずこの世を去ることになるだろう。
『今はそれだけを信じてほしい。貴方が首輪を外すことに成功すれば黙ってでもお父様と衝突することになると思う。
その中できっと私は貴方達に会うかもしれない。その時は頭を下げて謝罪する――だから、今だけは信じて。私と貴方達は運命共同体だから』
この腕は誰一人として救えずに。
己だけが生き残り、託された少女すら救えずに参加者は残り九名にまで減ってしまった。
『貴方なら分かっていると思うけど、お父様がこの状況に気付いている可能性もある。だから、急いで』
もう、誰も失うものか。
この腕で救えるのならば、どんなに泥を被ろうが、血を流そうが。
最後まで抗い続け、黒幕を表の舞台に引き摺り下ろすまで。
『幸運を祈る――こんなことなんて言える立場じゃないけど、私は貴方が成功させることを祈っているから。時間があれば私とヒースクリフの会話を録音したデータも聞いてほしい』
意思が折れぬ限り、彼は最後まで挫けない。
太陽が天高く昇り、箱庭の会場を照らす中。
鋼の錬金術師は約束の地を目指し、大地を駆け抜ける。
【F-6/二日目/朝】
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、精神的疲労(大)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、黒子に全て任せた事への罪悪感と後悔、強い決意
[装備]:無し
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、不明支給品0~2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×2(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ、千変万化クローステール@アカメが斬る!、学院で集めた大量のガラクタ@現地調達。
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす。
0:西へ向かい、首輪を解除するために錬金術を行う。
1:大佐……。
2:前川みくの知り合いを探したい。
3:エンブリヲ、御坂、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
4:一段落ついたらみくを埋葬する。
5:首輪交換制度は後回し。
6:魔術を解析したい。発見した血の練成陣に、魔術的な意味が含まれていると推測。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※
狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※エスデスに嫌悪感を抱いていますが、彼女の言葉は認めつつあります。
※仮説を立てました。
※お父様が裏に潜んでいることを知りました。
※デバイスに各作品世界の情報が送られています。
◆――
選択の時、来たれり。
――◆
願いは決まったかね。
そう告げられたタスクの心境を察せれる存在など広川しかいないだろう。
彼は優勝者の背後に立っており、補助をするように声を上げた。
「別室で話していましてね、どうも我々に願いをかなえられるのは不服だと申している」
「お前達に叶えられる願いなんて、こっちからお断りだ。そんなことは
アンジュも……誰も望んじゃいない」
彼らの言葉を借りれば『聖なる器を奇跡で満たしたが故に、願いが叶う』
大切な人を取り戻そうと、主催者達の息が掛かった願いなど、誰が望むのか。
人生を弄び、その最後まで茶番に巻き込もうとするならば、その所業、許してなるものか。
「人間とは愚かな生き物だ。目の前に叡智があるというのに何故、拒む?」
「愚かな生き物だからですよ。人間は醜い己を偽り、こんな時でも綺麗事で自分の意思とやらを優先する」
――お前はどっちの味方なんだ……。
広川の言葉はその場凌ぎの虚偽にしては重みが感じられ、まるで本心からの発言に聞こえる。
話術に長ける人間ならではの演技だろうか。彼からは表と裏の境界線が感じられずにいた。
場の支配権を彼に委ねたタスクであるが、相手であるお父様から微塵も生気を感じない。
しかし、何処か感情を漂わせており、彼の真意も計り知れずにいた。
「ならばお前はこのまま……何も願いを叶えずに元の世界へ還ることでいいのか」
「お前達が還してくれるなら……そうするね。俺は元の世界へ戻れるのか?」
話には裏が存在する。
大勢の人間を集め殺戮の宴を開催した彼らに常識が通用するとは最初から思っていない。
首輪の解除や偽装の優勝を含め、彼らを全て信用すれば、死ぬのは己である。
最悪の場合は戦闘も発生しよう。懐の刀に手を伸ばし――。
――アヌビス神は時計塔に置き去りのままか。
相棒とも呼べる刀身が手元にあらず。
他に武器を持ち合わせてはいるが、彼の中で勝率が大幅に減ってしまう。
されど、心境を悟られるな。足元は最初から見られている。ならばせめて底は見せるな。
「可能だ……お前達は知っていると思うがあの会場にはロックというつまらぬ枷が存在している」
「ロックを解除すれば色々と解放されるのだが……その一つに扉の先の選択肢が広がる仕組みになっている」
「……扉の先の、選択肢……それが皆の世界ってことか」
数刻前に意識を取り戻した時を気付かなかったが、お父様が居座る玉座の奥には巨大な扉が置かれていた。
彼らの言葉を処理し、必要な情報を連結するにこの扉を通れば元の世界へ帰還出来るのだろう。
不思議とは思わない。平行世界の移動を個人単位で成功させる調律者を知っている。
寧ろ、扉の存在が可能性を大いに引き上げているようにも感じていた。
「でも最後のロックを解除する前に俺は優勝した。だから――」
「それは私がサービスで解除しておいた……自分達の力で解除出来なかったが、仕方あるまい。
遅かれ早かれお前達は足立透と交戦していた。黒が駆け付ける可能性もあったが、後に御坂美琴も合流しただろう。
最悪の場合はエンブリヲすら敵に周りロックの解除どころの話では無くなるからな……お前達の位置関係は皮肉にも無理だった」
仮にタスク達が時計塔に寄っていなければ。
佐倉杏子は足立透に殺されていただろう。エンブリヲが
本田未央を見捨てていなければ、鉢合わせする可能性もあっただろう。
学院での戦闘後に御坂美琴が西へ来ていたら。彼らの生命は塵のように消えていただろう。
「感謝の言葉は必要ない。求めていないからな」
「ならそうさせてもらうよ……誰が言うものか」
共同戦線の運命共同体。
内通者と参加者の賭けであるが、礼を述べる間柄などであるものか。
主催者がいなければそもそも殺し合いは始まっていない。
「つまらんな……まぁ、いい。
還るならばそこの機体に乗り込んで還りたまえ。もうこちらからの興味は失せた」
「機体……っ!?」
お父様の指がトンと台座を突いた時。
タスクの左方に召喚されたのだ。何も存在せずに無だった空間。
物体すら感じられぬただの空間に構成されるは見慣れた機体だった。
その光景に驚きを感じながらも近付くタスクだが、目を疑った。
見慣れた機体は彼がよく知る存在と同一であり、紛い物と呼べない正真正銘の彼の機体。
粒子のように構成されその姿が完全に顕現された時、帰還の手段が整ったと言える。
「これは俺の――隠し持っていたのか?」
「何を言うんだ。支給品の段階で気付くべきだろう」
「広川……それもそうか」
小型の飛空艇。
タスクからすれば相棒であり、アンジュとも一緒に跨った愛機が主を迎えに馳せ参じた。
コックピットブロックをこじ開け、内部を確認。
各種メーター良好、エネルギーも問題なし、センサーも正常に作動していた。
――本当に、帰れるのか……。
座先に跨がり、各機関を作動させる。
静まり返った空間にエンジン音が何処までも響き渡る。
――反響具合からして……とてつもなく広いのか?
空間の奥行きを感じながら、レバーを握るが若干だが機体が上がる。
手入れもタスクの知っている機体と同じであり、今すぐでも飛び出せる段階だった。
――時間稼ぎはこれ以上無理……か? 実際に稼げたのは一時間程度だけど……皆は大丈夫だろうか。
このまま合流したいところだけど、これからどうするべきか。このまま俺だけが還るなんて有り得ない。
雪乃が、杏子が、皆が……まだ、戦っているんだ。俺だけ悠々と生き延びるなんて――――――――――――なっ。
「そのままこの空間から消えれば首輪が爆発しお前は死ぬ。
最後の人間がそんなことで死ぬとは興醒め以下……これは当然の結果だよ」
モニターに表示される文字列と解除された首輪。
広川の干渉だろう。己の選択に悩むタスクの意思と反し、彼の首輪が解除され機体から転がり落ち、床に落下した。
金属音が響く中、モニターには広川の新たなる言葉が表示されていた。
「扉の行く先はお前が念じた空間に繋がる仕組みになっている。
故に元の世界以外にも繋がっている――つまり、会場にも繋がっている」
――そうか。
「広川、聞こえているんだろう?」
「あぁ。安心しろ、エンジン音に消されお父様には届いていない」
レバーを握り、ペダルに足を掛け、たった一言を告げる。
「礼は言わない。全てを終わらせた後に、また会おう」
その言葉を最後に機体が上昇すると、奥の扉が解放された。
そしてペダルを踏み込み機体を徐々に加速させ――制空の騎士はその空間から姿を消した。
「これで裏切り者が判明したな――――――――――――――広川」
◆――
今宵の勝負、軍配は黒にあり。
――◆
重力とは別の圧力が機体とパイロットに襲い掛かる。
眼前に広がるは電子空間のように滲む世界の壁。世界の内側から外側を覗いているような感覚だった。
「待っていてくれ……雪乃、杏子、皆……!」
想いの力が彼を導く天の煌めきとなる。
自由を束縛されようが、正義を抑制されようが、運命に囚われようが。
この想いだけは誰にも止められてなるものか。
自分のやるべきことは決まっている。それを成し遂げるためにも――想いを絶やすな。
彼の周りからは多くの仲間が消え、最後に残るは最悪の結果であるエンブリヲのみとなってしまった。
このまま自分だけが帰還したとしても、調律者はどんな手段を使ってでも再び現れるだろう。
「もう誰も失わないために――俺はッ!」
魂の叫びに呼応し機体が加速し始め、やがて彼女達の鼓動を肌で感じることとなる。
遠くに僅かながらに見えるは雪ノ下雪乃と佐倉杏子――おまけの足立透の姿。
想いに導かれタスクは着実に会場へと近付いており、到着は最早、秒読みの段階だった。
エドワード・エルリックはまだ到着していない。
しかし優勝者がこうして元の世界へ戻ろうとしているのだ。
お父様のマークも外されることだろう。時間稼ぎの役目は果たした――後は錬金術師の仕事である。
仮に会場に主催の介入が発生した場合には首輪を外した自分が盾となる。
この身で救える生命があるならば、最後の最後まで仲間を護る騎士となろう。
もう誰も死なせるものか。己でも諄いと感じる程の決意を胸に――帰還するは会場。
「……………………………………機体の制御が、きかな、い……ッ!?」
急停止による重力が身体に襲い掛かり、衝撃によって吐血するも意識を失ってはいられない。
振り返ると見たことも無い光景が広がっており、それでも状況を把握するには充分すぎる情報だった。
無数の黒き腕が機体を奈落の底へ引き摺り下ろそうとしているのだ。
群がる黒き腕は亡者の如く、呼吸の時間すら於かぬまま機体の半分を占領。
満足すること無く腕は操縦者たるタスク目掛け進軍を始め、彼の元まで到達するに時間は必要ない。
最初は左腕。強引にレバーから引き剥がされるとガラ空きになった上体へ影のように群がる。
やがて上半身を覆い潰すと、ペダルから足が離れ機体のコントロールを失うも、機体自体が影に潰される。
最後の仕上げにタスクの首を締め上げるように巻き付き始め、彼の抵抗も虚しく、正体不明の黒き腕が機体を制圧してしまった。
「今の気分はどうかね」
「ほ、ほむん……くる、す……!」
空間に直接語り掛けるように響いたその声は聞き覚えがあった。
忘れる筈が無い。たった数分前に聞いた此度の黒幕――フラスコの中の小人。
彼の声が響いた時、黒き腕の正体も彼の息が掛かった存在、或いは能力なのだろう。
以外にもタスクの思考がハッキリしていた。
こんな状況であろうと、頭が回転しており状況を簡単に飲み込んでしまう。
結果が弾き出す答えなど認めなくても一つのみ。最早、最初から決められていたのだ。
「………………ぁ、だ……」
締め上げられた喉元に阻まれ声が届かず。
けれど、折れぬものか。この世は諦めた者から朽ち果てる。
最後の最後、その刹那まで彼は抗い続ける。
「いつから……気付いていた」
用意周到。タスクの進軍を阻む黒き腕の登場は出来過ぎている。
お父様は――欺きに気付いていた。答えは一つしか無い。
ならば、いつから見抜かれていたのか。己の生命は砕け散ったとしても、仲間はまだ生きている。
彼らにも災厄が襲い掛かる可能性があるのだ。
そうなれば意地でも会場に辿り着き、彼らを救うために。
この身、最後まで戦い続ける――のだが、お父様はどの瞬間から見抜いていたのか。
「何を言っている。最初からだ……お前と広川が接触を始めた時点で気付いている」
「そ、んな……じゃあ、俺た、ちは……最初から全部……お前の思惑ど、おりに……っ、く、そ……」
黒き腕が彼の視界すら覆い被さり、文字どおりの影でしか彼を認識することが出来ない。
包まれた素顔には後悔の念が浮かんでおり、唇を噛み締め、己の不甲斐なさを嘆いている。
元より最初から博打だった。この賭けを行わなければ今でも殺し合いを強要されていた。
淡い希望を無理に肥大化させ信じていた。それは甘んじて認めよう。
けれど、それでも絶望に塗り潰される現実が彼を苦しめる。
この計画が失敗すれば――全ての参加者が死ぬ。あのエンブリヲですら生命を落とす。
「薄々は気付いていただろうが泳がせたのだよ。裏切り者を炙り出すために」
「な……に?」
「私の計画にとって邪魔な存在が居ることは気付いていた。まさかこうも簡単に尻尾を出すとは……人間とは愚かな生き物だ」
嵌められたのは参加者。そして――広川。
全ては最初からホムンクルスの掌の上。予定調和とは彼のための言葉であった。
賭け事を行うにも全ては遊技盤の主が支配していた。勝利を導き出せど、それは罠である。
「広川も、俺た、ちも……お前に負けて、たまるかよ……ッ」
強がりの言葉を吐き捨てると同時に、最後の力を振り絞ったタスクは右足をペダルへ叩き付ける。
機体が急加速し黒き腕の拘束がある中で、その呪縛から逃れようと前へ進み始める。
このまま終わってなるものか。最後までお前の思惑通りに進めてなるものか。
――行き先はお前の居場所だ……機体ごとぶつければ……っ
徐々に機体の速度が呪縛を上回り始める。
タスクが想う先は先程の空間であり、最後の足掻きである。
ホムンクルスであろうと機体の質量を高速で衝突させれば、発生するエネルギーで圧し潰せる。
――想いだけでも、この想いだけでもお前に
生命を燃やす時とは正にこの瞬間を指すのだろう。
機体の行き先に表示されるはつまらぬ表情を浮かべ、玉座に居座るホムンクルス。
真理の扉が彼の居場所を制定し、全ては整った。タスクにとって、最後の賭けが此処で決まる。
「っ――うぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」
明日へと託す最後の咆哮と共に、機体の速度が黒き腕を振り払う。
呪縛を失った機体は誰にも止められること無く、ただ倒すべき対象に向かい、進むだけ。
タスクの身体は足立透との戦いで限界を迎えている。
事前のキング・ブラッドレイとの交戦にて一度は死の境地へ片足を踏み込んだ。
雪ノ下雪乃と佐倉杏子、そして
アカメに救われたその生命だが、最早此処まで。
ならば救われたこの生命。
最後は彼女達のために――未来へのために。
「一つ勘違いをしているな。
広川は私の味方……最初から騙されていたのはお前達だけだ」
そして真理の扉は閉ざされた。
彼の表情を知る者は誰一人として、いない。
お父様であれど、広川であれど、その最後を見届けた存在は非ず。
それでも機体は加速を続け――行く先は閉ざされた扉。
回避不可能な衝突が発生し、空間には機体の爆発が響き渡る。
その瞬間に。
絶望の宇宙に吹き荒れる嵐が全てを満たした時。
滅び行く世界の中で、明日を求めた一人の男の無念が、微かに響いていた。
【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 消失】
無能、強打、虚無、杜撰
どれ一つとっても戦場では命取りとなる
それらをまとめて無謀で括る
仕組まれた作戦、仕組まれた地獄
行きも怖いが帰りも怖い
言うなれば運命共同体
互いに頼り、互いに庇いあい、互いに助けあう
一蓮托生、既に血肉は分け合った
捻れて繋がる二重螺旋のように
精妙にして巧緻、大胆にして細心
この作戦が成功する時、共に歓喜の祝杯を轟かせよう
嘘を言うな
差異に歪んだ暗い瞳がせせら笑う
何を勘違いするか
全ては最初から掌の上で踊り狂っていただけ
お前も お前も お前も
所詮は予定調和内の叛逆だ
最終更新:2017年05月03日 21:19