遊技盤の主は盤上を支配するのか(中編)◆BEQBTq4Ltk
男は何も告げずに駆け出した。
本能、身体、憎しみ。全てを刀身に委ね今宵は全てを斬り裂く修羅と成り果てる。
雷光に身体を蝕まれ致命傷には至っていないものの、鮮血が身体を色鮮やかに際立てる。
距離にして二十メートル。
禍津を難なく掻い潜り敵を討ち取らんべく一閃が首筋へ放たれた。
「――ッ、あ、ぶねえ……!」
間一髪のタイミングで屈むことにより一撃を回避した
足立透はその場でみっともなく転がる。
立ち止まっては格好の的だ。スーツを穢しながらも生き残れるのならば安い浪費だ。
立ち上がりと同時に傍への顕現――マガツイザナギを発動。
相手を殺害すべく刃と刃が衝突しあい、両者互いに一歩も譲るつもりはない。
薙ぎ払えば逆に返され、鍔迫り合いが発生すれば押し返す。
そしてアヌビス神は一擲を終える事に加速を帯び始め、徐々に禍津を後退させる。
「死にぞこ無いのお前にどんな力が残ってんだよ……くそっ!」
夢でも見ているのだろうか。
先程までの己は立ち塞がる相手を始末し、勝利の余韻に浸る所だった。
邪魔をするように這い上がった死に損ないを一撃で葬るだけだった。そう、思っていた。
開戦の号砲が鳴り響いた時、男は刃片手に縦横無尽の大暴れ。
雷光のモーションを盗み取り回避に移行すれば、僅かな隙を見逃さずに距離を詰める。
怪我の具合からも足立透が圧倒的有利である。
彼は知るはずもないが
タスクは数刻前まで生死の世界を彷徨っている。
佐倉杏子の魔法によって一命を取り留めたが、酷使出来るほどの体力は残っていない。
彼が瓦礫から生還した時、その表情は正に悪鬼の如く。
その生命、派手に散ろうと道連れに相手を地獄の釜底へ叩き落とす決死の覚悟を発す。
「お前もくたばれよ……んで、くたばってねえんだよォ!!」
怒号に合わせたマガツイザナギの一閃がアヌビス神を遥か上空へ飛ばす。
刀身から解放されたタスクにこれまでの疲労が一斉に身体を支配し、その場で硬直。
その隙を見逃すほど、足立透は甘くない。
空間に突如降臨した灼熱がタスクを焼却せんと彼の跡を追う。
必死の形相で大地を駆け巡り、所々に火傷を負いながらも直撃は避けつつ――落下したアヌビス神を握り込む。
風が吹き抜けたようだった。
存在を肉眼で捉え切れない程の刹那。
灼熱の僅かな隙間を縫うように掻い潜り、距離を詰めた時、刃を振るう。
禍津の胴体を一閃。
蜃気楼のように消えた心の仮面は主の傍に顕現され、刃に雷光を収束。
狭い室内での広範囲に及び技は発動するだけで有利に立てる。
こと、近接戦闘に於いての力しか持ち合わせていないタスクからすれば天敵の相手だ。
だからどうしたと彼は己を奮い立たせる。
己の不甲斐なさにより死滅した二人の女性。
後悔した所で、懺悔をした所で、涙を流したとしても彼女達は戻らない。
その生命を再び蘇生させるなど、冒涜だ。
失った者は取り戻すことが出来ない。
ならば生者の務めは――最後の最後まで生にしがみ付くこと。
人間の等身大でありながら禍津との鍔迫り合いに退くことなどあるものか。
大地にお世辞にも美しいとは呼べないほどに股を開き、歯を食い縛り、全力で耐える。
彼の身体よりも先に大地が崩れそうだ。呻き声のような音が徐々に響き始め、崩壊の時はそう遠くないようだ。
『走れるのか、おい!』
「走るさ、どこまでもね……!」
刹那の瞬間に力を緩め、反撃の一撃に全てを傾ける。
鍔迫り合いに生まれた一瞬の綻びに乗じ、禍津の刀身に飛び乗り掟破りの大疾走。
跳躍し眼前に位置するとこれまでの想いを込めた一撃が振り下ろされた。
心の仮面を正面から叩き割り、またも蜃気楼のように消え行く。
タスクは着地と同時に大地を蹴り上げると、決着を着けるべく足立透の元へ走る。
身体も限界だが、アヌビス神とのリンクも限界に近い。
刀身の力無くては勝利など不可能であり、遅かれ早かれ雌雄の時となる。
それは足立透も同じこと。
学院での戦闘を終えた後に仮眠こそ取ったが、体力が回復する程の休息は与えられていない。
佐倉杏子との戦闘が発生し、時計塔内部に戦場を移し、現在に至る。
紅き魔法少女による最後の足掻きにより左太腿を負傷。
移動に大幅な枷が嵌められ、損な役回りを引き受けたと現実に対し毒を吐き出す。
やってられるか、と。
「終わらせる――これで」
「やってみろよ馬鹿がよ……どいつもこいつも勝てる勝てるって夢ばっか見てんじゃねえぞ」
集結の瞬間は最早秒読み。
これまでに蓄積した疲労と培った経験。
どれもが身体中を蝕み、戦闘続行の道を選ぶならば遅かれ早かれ生き死ぬ。
足立透の傍に己の内面を具現化した化身、ペルソナが降臨。
タスクは残り僅か分にも満たない感覚の中で、刃を傾ける。
切っ先が見据えるは、ただ一人。
「ここで葬る……それが彼女達への」
「手向けにでもなるのかよ、くだらないねえ……心底、くだらないと思う」
その言葉を皮切りに、最後の剣戟が幕を開ける。
一斉に動く刃の化身は交差の二歩前に剣を滑らせ、意地の鍔迫り合い。
生身であろうとペルソナに一歩も引かず、されどアヌビス神の駆動挙動範囲は残り僅か。
一秒、一瞬、刹那が惜しい中、タスクは強引に禍津の股下を滑り込むで鍔迫り合いから脱出。
しかし足立透はこの動きを読んでいたのか禍津は依然としてタスクの眼前に立ち塞がった。
一閃一撃の応酬が再び始まるも歯痒い想いを胸に、彼の視線は仮面の奥に佇む主へ注がれる。
ペルソナ相手に特段の力を持ち合わせていないタスクでは分が悪く、現に瓦礫の山へ落とされたこともあり剣戟の果てに撃ち負けるは己だ。
意地でもこの場を切り抜けるべく、奇襲を仕掛け、虚を付き、味方すら欺くも、距離は縮まない。
賭けに――既に博打打ちだ。
賭け金すら溝に捨てた無一文。失い続け、この手に失う者など残っていない。
この期に及んで何を望むのか、この期に及んで――
「し、正気かよ……」
刃の一撃を防ぐならば当然のように停止してしまう。
故に彼が選ぶは俗にいう肉を切らせて骨を断つ――刃の一撃を左腕に滑らせ、己の足は止まらない。
この期に及んで己の身体など棚に上げるような宝にはならない。
次は無い。
此処で朽ち果てれば夢を見るだけ。
困難を斬り抜けたとして、ここが最後の正念場。
契約はまだ果たされていない。悪魔から報酬を受け取るためにも、走り抜けろ。
禍津の剣閃により左腕に裂傷が生まれるもタスクは止まらない。
足立透の仮面を通り抜けると、残りは本体のみ。
轟音が鳴り響く。天高くから轟く雷光が彼を殺さんと裁きの一撃を加える体勢に移行していた。
「遅い……ッ!」
振り返る必要など無い。
マハジオダインが放たれた時、アヌビス神が現状の限界を超越しタスクの反射は極限にまで高まる。
跳んだのだ。足立透に飛び込むように、雷光から逃れるように。
決して諦めぬ瞳。
どんな佳境に、困難に、絶望に堕とされようと。
希望の光を失わないその瞳に足立透は思い出す。あぁ、碌でもない人間にまた追い詰められた、と。
空条承太郎がそうであったように。思い返せば
暁美ほむら、セリューでさえも宿していたかもしれないその光。
この手で殺めた鳴上悠と同じような瞳を、タスクは持ち合わせていた。
「これで――届けっ!」
タスクの伸ばした左腕が足立透の首を掴み、雷光による爆発の推進力もあって彼ごと押し倒す。
瓦礫が残る大地に身体を叩き付け、馬乗りの形となり、空く右腕に握るはアヌビス神――煌めく刃。
「ああ……そうかよ」
血液混じりの唾を吐き捨て、漏れるような声を上げる。
打つ手無し。博打を打とうにも賭け金を失えばその瞬間に挑戦権を失う。
数多くの修羅場を潜り抜けた先に待っていたのは、同じく対峙した者と同一の瞳を持つ者。
抗っても抜け出すことの無い因果と輪廻。最後の最後まで己を苦しめる。
藻掻いた所で、結末は過程に干渉されず一つの終焉を迎える。
「殺せよ……って言わなくても、そのつもりか……はは」
甘くは無い。
足立透の瞳に映るは己を刺さんとする刀身。
「あぁ――めんどくせえなあ、やっぱりよぉ」
最後の最後まで。
抱く感情は変わらない。
その刀が振り下ろされた時、走馬灯が発生する訳も無く。
大量の血を流し、最後に立っていたのはタスクだった。
◆――
ディーラーが示した餌は二つ。
邪魔な首輪を解除すること。
長時間苦しめられたロックを解除すること。
オーナーに逆らう愚行。
賭け金は存在しない。あるとすれば自分の生命。
既に支払いは終了済みだ。
場に残ったベッドを全身に浴びるのは――最後に勝利した人間のみである。
――◆
死者の名前が告げられた時。
彼女が抱く感情は不謹慎にも喜びと少量の悲しみ。
ノルマを達成したことによる優勝への布石と、それを喜んでしまう己への嗤い。
変わってしまったものは戻らない。
否、戻ることもあるが彼女は違う。
覚悟はこれまでに何度も決めた。
挫けそうになる度に、最後の一人を夢み、立ち上がった。
変わらない。
残りの生存者が八人になろうが彼女は変わらない。
寧ろあと少しだ。七人殺害すれば、全てが終わる。
アインクラッドに辿り着き、英気を養った。
英気とはよく言ったものである。
実際には最後の休息だ。後にも先にも身体を休める時間など無いだろう。
本能が告げている。
残り七人。少数であればあるこそ参加者の決意は変わらない。
どれだけの説得の雨が降ろうと、
御坂美琴の決意が揺らぐことは無い。
己の為すべきことを果たせ。
「これだけあれば少しは教えてくれてもいいでしょ」
最も欲しがる情報は位置だ。
残り七名を殺せば願いが叶う。七人、やっと七人だ。
ならば居場所を吐け――首輪を機械に持てる数だけ叩き込む。
賭け金は四つの首輪。
価値はどれほどあるかいざ知らず。けれども適当な値打ちで済むものか。
「あたし以外の参加者はどこにいるの」
システムを信頼している訳では無い。
広川が何時ぞやに追加したこの制度、はたして信頼に値するのか。
どれだけの利用者がいて、どれだけの対価を得ることが出来たのか。
だが、手持ちの情報が空に近い御坂美琴からすれば天からの恵みと同義。
少しでも。僅かでも殺害対象の居場所が判明すれば御の字である。
この手は既に血染められた。
叶う筈もない奇跡を夢みて抗った運命。
その収束が残りたった七人殺害すれば達成される。
『西です。貴方以外の参加者は現在地点より西に滞在しています』
苦笑を浮かべる。
この地点は地図の最果て――東の端に位置すると変わらない。
その地点より西など言われようが、分かりきっていること。
最後の最後まで運は自分に味方しないようだ。
それもそうだ。
死者の蘇生を信じ、縋り、大切な者すらこの手で殺めた。
こんな女に微笑む神など居るはずも無かろうに。
いたとしてそれは質の悪い死神や地獄でほくそ笑む閻魔大王。
『これより貴方以外の参加者は西へ集います。
貴方が最後の一人になることを当システムは心より応援しています』
「あっそ」
どうやら御坂美琴は機械に同情されるまでに落ちぶれたらしい。
乾いた声と共に宙を待った雷光が機械を無き物にしたのは、語る必要も無いだろう。
◆――
ルーレットが示す先。
結果は同じであれど、捉え方は異なるだろう。
さぁ、勝つのは赤か黒か。
――◆
日差しと風が彼女を包み込む。
太陽が昇り詰め、闇夜から開幕した殺戮の宴も直に終焉を迎えるだろう。
己以外の参加者が西へ集まる。機械から示された情報を彼女は信じることにした。
裏があるかもしれない。罠が待ち受けているかもしれない。
しかし、仕掛け人は参加者の枠を超えた存在――運営側の人間だろう。
思惑など知ったことか。
西に生存者がいれば殺害する。邪魔な存在は消す。
我が夢を拒む存在は何人たりとも生存させてなるものか。
ここで日和ればこれまでに土へと還った参加者の生命が無駄になる。
「終わらせるから、もうこれで本当にお終い」
その言葉は風によって消される。
彼女の言葉も、決意も、心の叫びも。
理解してくれる者は存在しない。
全てを終わらせ、全てを取り戻すために。
一人の少女が西へと、進む。
【H-4/二日目/朝】
【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)全身に刺し傷、右耳欠損、深い悲しみ 、人殺しと進み続ける決意 力への渇望、足立への同属嫌悪(大)
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×1、回復結晶@ソードアート・オンライン、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、大量の鉄塊
[思考]
基本:黒子も上条も、皆を取り戻す為に優勝する。
0:西へ向かう。
1:可能な限り、徹底的に殺す。
2:万が一優勝しても願いが叶えられない場合に備え、異世界の技術も調べたい。
3:全てを取り戻す為に、より強い力を手に入れる。
4:拘るわけではないが足立がいたらこの手で殺したい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました。
※西へ参加者が集まっていることを知りました。
高坂穂乃果の名前が告げられた。
今更改める必要も無いが、彼女はこの世を去った。
西より轟く雷光に消されたか。東に潜む悪魔に殺されたか。
見届けていない彼からすればその真実に辿り着くことは無いかもしれない。
彼に遥か水平線の彼方まで見通す千里眼があれば、或いは可能だったろう。
契約者とて多種多様。そのような力を持った存在がいてもおかしくはない。
――そうか。
屋外であろうと立ち込める異臭。
周囲に広がるは砕けた氷が溶けた水溜りと、嗅覚を刺激する焼き焦げた死臭。
地に伏せた青髪の少女を彼は知っている。この世に未練があるように残っているその服切れ、彼を知っている。
緑色の肉片も、赤毛と共に爆ぜた肉塊も、何処かで顔を見た可能性もある。
死人は喋らず。
残された残骸は黙って光を浴び続ける。
誰からも邪魔されずに、誰にも声を掛けれずに。
学院と教会の境目は戦場の勇神に気に入られたようだ。
誰もが覇者としての名を、名声を轟かせていないにせよ、多くの血と生命が流れ出た。
彼とて同じ。この地に苦い記憶を残しつつ、放送を終え改めての舵を取る。
高坂穂乃果の死亡は紛れもない事実。
天地が動転しようが覆すことの出来ない絶対的な決定である。
次に取る行動を模索する時、やはりヒースクリフとの合流が挙げられる。
しかし、彼もまた放送で名前を告げられた死者である。
本田未央の名前も呼ばれ、あの場から生き延びた人間は己と御坂美琴、足立透――そして、
エンブリヲ。
――碌でもない奴だけが生き残ったのか。
厄介な相手とも呼べよう。
前者二名は人間でありながら、己のためならば修羅にもなれる存在だ。
戦局が長引けば長引くほど、覚悟を決めた人間は奇跡を引き当てる。
残る存在のエンブリヲ。
認めるしかあるまい絶対的な力。
彼を補足した場合、殺害が最優先事項である。
他の生存者を考慮する時、残された人間は――四名。
戸塚の友である
雪ノ下雪乃を含め僅か四名。たったの四名である。
恐らく彼女達は広義で表現するところの味方になるだろう。
一瞬たりとて気が抜けない。
油断や慢心でもしてみろ。その刹那、首を取られるのは自分になる。
戦局は最悪の状況に突入した。
殺害するべき対象が一つの個体として厄介極まりない存在だ。
気を尖らせろ。
敵は潜んでいる。北より響く足音。
学院付近での遭遇者となれば自ずと警戒するしかあるまい。
幸いにも太陽の光が視界をクリアにし、敵の影が一段とよく見える。
その相手こそエンブリヲ――――――――――――――そして、ヒースクリフ。
「……なに?」
その背丈、風貌。見間違える筈もあるまい。
エンブリヲの隣に立つ男は紛れもなくヒースクリフの身体を形成している。
幻覚の一種だろうか。
調律者たるエンブリヲの姑息な罠と断定し、懐に備えた刃を握る。
「やるつもりか。状況も見定めることの出来ない貴様に私が殺せるものか」
下等生物を見下すような視線。
家畜に興味など抱くものかと云わんばかりの表情でエンブリヲはゆっくりと距離を詰める。
腕に握る斧が陽の光に反射する。血を求めるように。
「それにしても驚いた表情だな……まるで私を死者として見ているようだ」
「当然だろう。今の貴様は席を落とされた哀れな末路の体現じゃないか」
「……返す言葉も無いところが私自身、どうなったものか」
「本当に……ヒースクリフなのか?」
エンブリヲの隣に立つ男はヒースクリフである。
声色も耳にしたことのある彼と同一のものだ。聞き間違える筈もない。
調律者と皮肉混じりの軽口を叩きながら現れたのは、紛れもなくヒースクリフである。
だが、放送に呼ばれた事実はどうなったのか。
死者の宣告は覆すことの無い事実である。戸塚が、イリヤが、銀が、高坂穂乃果がそうであったように。
「あぁそうさ。私は私だよ……ヒースクリフ、そう呼んでもらって構わない」
有り得ない。
この期に及んで放送の失態など発生する筈も無いだろう。
考えられるのは二つ。
一つはエンブリヲが何かしらの力で創り上げたダミー。
そしてもう一つは主催者を欺いたことだ。
「――! お前、外せたのか」
「流石に気付くか。あぁ、どうやら私は彼女達のお気に入りらしい」
「彼女……達?」
「くだらん。こんなことで時間を潰してなるものか。行くぞ、歩きながらでも説明は出来るだろうに……ヒースクリフ」
全参加者に共通しているたった一つの繋がり。
広川に嵌められた枷――生命の牢獄である首輪がヒースクリフには装着されていない。
放送の仕掛けは恐らく首輪だろう。何か位置情報を担うシステムがあったのだろう。
「何処に行くつもりだお前達は……それに」
「私が一緒に居ることが不服か? 案ずるな、私も一緒だ」
どうやらエンブリヲは化けの皮を被り共に行動するようだ。
一切の心を許さず、彼から絶対に瞳を逸らさないまま、ヒースクリフの横に立つ。
「驚いただろう。私自身が一番驚いているんだがね」
「どんな方法で外したんだ。今更何か特別な力が働くこともないだろう」
黒の言葉の終わりに冷たい風が彼らを通り過ぎた。
エンブリヲは苦い表情を浮かべ、ヒースクリフは己を嘲笑うかのような苦笑を浮かべ、
「改めてよろしく頼む。私は茅場晶彦――このゲームの製作者であるのだが……。
無理に理解する必要は無い。これから参加者の首輪を解除するために西へ赴くが……そうだな。
私のデバイスには彼女との会話を録音したデータが保存されている。道中はそれを聞こう。アンバーからの言葉は耳に入れた方がいい」
その余りにも短い言葉に積み込まれた情報量は、黒の理解を遥かに超えていた。
【E-5/二日目/朝】
【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷、腹部打撲(共に処置済み)、腹部に刺し傷(処置済み)、戸塚とイリヤと銀に対して罪悪感(超極大)、
銀を喪ったショック(超極大)、飲酒欲求(克服)、生きる意志
[装備]:友切包丁(メイトチョッパー)@ソードアート・オンライン、黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×1、首輪×1(
美遊・エーデルフェルト)
傷の付いた仮面@ DARKER THAN BLACK 流星の双子、黒のナイフ×10@DTB(銀の支給品)
[道具]:基本支給品、ディパック×1、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation 、銀の首輪
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
0:………………?
1:ヒースクリフから事情を聞く。
2:銀……。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリト、黒子、穂乃果とは情報交換済みです。
※二年後の知識を得ました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。
※黒がジュネスへ訪れたのは、
エンヴィーが去ってから
魏志軍が戻ってくるまでの間です。
※足立の捏造も入っていますが、情報交換はしています。
【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(小)、参加者への失望 、穂乃果への失望、主催者とヒースクリフに対する怒り
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ
各世界の書籍×5、基本支給品×2 不明支給品0~2 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本方針:首輪を解析し力を取り戻した後で
アンジュを蘇らせる。
0:西へ向かい首輪を解除する。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:広川含む、アンジュ以外の全ての参加者を抹消する。だが力を取り戻すまでは慎重に動く。
3:主催者達とヒースクリフに対する憎悪。
4:首輪を解除した時、最後の戦いが始まる。
5:本田未央を見捨てたことは正解だった。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。
※DTB、ハガレン、とある、
アカメ世界の常識レベルの知識を得ました。
※会場が各々の異世界と繋がる練成陣なのではないかと考えています。
※錬金術を習得しましたが、実用レベルではありません。
※管理システムのパスワードが歌であることに気付きました。
※穂乃果達と軽く情報交換しました。
※ヒステリカが広川達主催者の手元にある可能性を考えています。
※首輪の警告を聞きました。
※モールス信号を首輪に盗聴させました。
※足立の語った情報はほとんど信用していません。
※主催者とヒースクリフに対する怒りは殺害の域に達しています。
※黒幕の正体を掴みました。
【
ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:HP25%、異能に対する高揚感と興味、真実に対する薄ら笑い
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン、神聖十字剣@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限切れ)×2@魔法少女まどか☆マギカ、指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
クマお手製眼鏡@PERSONA4 the Animation、キリトの首輪、クラスカード・アーチャー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、イリヤの首輪、
デバイス(アンバー及びエンブリヲの会話録音)
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:黒へ事情を説明する。
1:西へ向かう。
2:黒幕たるお父様への落とし前。
3:仮にゲームを掌握した時、何をすべきか。
4:タスク達への心配。
5:このゲームの真理ついて未だ詳しいことは把握していません。
[備考]
※参戦時期は1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。
※
DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。
※平行世界の存在を認識しました。
※アインクラッド周辺には深い霧が立ち込めています。
※チャットの詳細な内容は後続の書き手にお任せします。
※デバイスに追加された機能は現在凍結されています。
※足立から聞かされたコンサートホールでの顛末はほとんど信用していません。
※首輪が解除されました。死者扱いとなるため、次の放送で名前が呼ばれます。
※このゲームの製作者が茅場晶彦であることを知りました。
※殺し合い開催前の記憶はありません。
考えれば何もかもが不自然であった。
殺し合いに於ける探索要素、逆転要素は主催者にとって必要の無いことだ。
見世物であれば中だるみしないための刺激も必要だが、解は異なるだろう。
ロック。
あからさまに設置された宝箱。
ホムンクルスの思惑に通ずるとは到底思えなかった。
イザナミとイザナギについても同義だ。
情報の欠片を散りばめた所で、彼らにメリットなど何一つない。
きっかけはアンバーの言葉だった。
彼女が紡いだ――ゲーム。そう、これはゲームに近い存在だった。
遊びとは呼べない生命の賭け会い。
ジャイアントキリングを設定するような強者への制限とピンキリの支給品。
ホムンクルスの願いを一部知った身からすれば、何もかもが不必要な要素である。
彼らは自らゲームを始めたのではない。ゲームを利用しなければ為らなかったのだ。
アンバーが語る会場に奇跡を満たす事は分からなかった。しかしそれがホムンクルスを高みへと昇華させるために必要なのだろう。
全ての始まりは、ホムンクルスがヒースクリフを補足した瞬間だった。
アンバーの言葉を借りれば、ホムンクルスは真理なる空間に留められていたらしい。
鋼の錬金術師や炎の錬金術師達によって倒された彼は、人の依代を捨て去り、無残にも消えたという。
全くの偶然だったと彼女は言った。彼がヒースクリフを補足したのは偶然であり、興味を抱いたのもまた偶然である。
真理なる空間に閉じ込められた彼の日課は扉を凝視することだった。
彼の唯一の楽しみが外界を楽しむことだった。心境は不明だがアンバーが聴く限りでは知的好奇心を刺激されていたらしい。
多くの世界に触れ、知識を蓄えていくうちに彼は異なる真理に辿り着いたという。
世界の数だけ、神がある。
世界の数だけ、力がある。
世界の数だけ、真がある。
彼女は多くを聞かされていない。
実際にホムンクルスの動向など彼の言葉を信じる他に確かめる術は無い。
だが、ホムンクルスの言葉を借りた時。
『器は得た。箱庭も茅場晶彦から乗っ取った。残りは時が満ちた時、今宵は忘れられぬ約束の日となる』
真実/真実は未だ遠く。
ヒースクリフ含む参加者が全ての解を得る時、それは他ならぬホムンクルスとの最終決戦であろう。
◆――
調律者にとっては忌々しい。
人間以下の存在であるホムンクルスにしてやられた。
厳密に云えばホムンクルスでは無いようだが、知った事か。
全ての欠片を揃えた所で何も起きず、鍵は結局、内乱だ。
馬鹿げている。
力が抑制されていなければ、とうに殺害している。
アンバーの策に興じた所で己の力が戻ることは無い。
だが、最後の舞台が整うのだ。真の終わりが近付いている。
神の座を夢見た哀れな存在に終わりの導きを。
所詮は不完全なる生命体の醜い行い。
理由など、目的など、真意など。
全てを知った事かと吐き捨てる。
舞台に黒幕を引き釣りあげろ。それが終焉の時を告げる始まりだ。
――◆
◆――
保険だった。
アインクラッドとは別の計画として、個人的に動かしていた箱庭。
日の目を浴びることは無かったこの計画に、興味を示したのがお父様だとアンバーは告げた。
そして偶然とも告げた。お父様が真理の扉から見ていた世界に茅場晶彦の計画が、偶然。
偶然と片付ける。これは偶然だ。全てが偶然であったと。
神へと憧れたお父様は茅場晶彦の計画を己の隠れ蓑にするために用いたと言う。
隠れ蓑の真意は説明されず、彼からすればどうでもいいことだ。
奇跡を満たす。願いを叶える手段もまた、明かされていない。
言葉や状況から察するに死者の魂とやらが材料となるのだろうか。
不明だ。全てが不明に包まれている。首輪を外した段階で、更なる困難が待ち受けているだろう。
首輪の解除。タスク達と共同で行う一蓮托生、運命共同体の一世一代の大勝負。
此処で落とす生命ならば所詮は最初からその程度。
仮に生き残ったとするならば。
結果として始まりの笛を響かせた手前、黒幕には落とし前を着けてもらう必要があるだろう。
――◆
全ては振り出しの地に戻る。
「俺は……何がしたかったんだ」
見渡す限りの瓦礫。疎らに飛び散った鮮血。足元には倒れた男の身体。
時計塔内部で繰り広げられた刹那の攻防は結果として三人の参加者が倒れることとなる。
最後に勝ち残った青年――タスクの視界は赤く淀んでいた。
流れた血液は無視出来る量である筈が無い。
別段、死を迎える訳でも無いが、無理を引き起こした代償は大きい。
数分前と同じように世界を縦横無尽に駆け回るなど死に直結するだろう。
『おいお前……』
足立透の近くに突き立てられたアヌビス神の声が静寂を斬り裂くように響く。
されど反応する存在は皆無。タスクは黙って天を見上げていた。
「これで終わったのかよ……誰も、救えないで……っ」
血が滴る。
この血を流し何人の生命が失われた。
雪ノ下雪乃も、佐倉杏子も雷光に包まれその姿を消した。
仕立て人である足立透ですら、己の足元に転がっている。
伸ばした腕が掴むは空白。実態の持たない虚空だ。掴めるものなど無かった。
拳から滲む汗。後悔の念を込めた所で死者は蘇らない。
多くの者を失ったのは己以外にも大勢いる。己だけが被害者面を浮かべる訳でも無い。
残り八人。ヒースクリフを含めたとて九人だ。残された者の役目を何一つ果たせていない。
この刹那は死んだ誰かが生きたかった一瞬――などと飾ろうか。
大地に足を立てろ。己は生きている。
死者は死者である。死んでしまえば出来ることも出来ない。生命としての終わり。
やり切れぬ事象があろうと、達成など不可能である。しかし、だ。
生者ならば如何なる手段を用いてでも事象を引き起こす可能性を秘めているのだ。
その結果がこれだ。
自然と薄ら笑いが零れる。それも、救いようのない乾いた声だ。
彼女達に救われたこの生命。
なにか彼女達に出来たことはあったのか。
伸ばした腕は遅すぎたのだ。何も掴めず、己だけがのうのうと生き残る。
仇は取った。だがそれは自己満足に過ぎない。己に正当な役割を当て嵌めただけである。
ならば彼女達を蘇らせるために最後の一人になるまで全てを殺害するのか。
それこそ救いようのない話だ。そんな愚かな選択を、彼は選ばない。
『おい、おい! 聞こえてるのか!?』
「聞こえているよ。それに解ってるさ……これまでありがとう」
『お前の身体が消えて……!?』
終わりの時が近い。
アヌビス神が目にするは身体が粒子のように消え去るタスクの姿だった。
足元から徐々に色が薄くなり、描きかけのキャンパスが白紙へ戻る。
「そうか……終わるんだな」
己の身体に発生した現象に心当たりは無いが、答は絞れる。
意思に反して動くその有様はまるで始まりを思い出す。意識も無く、気づけば集められていたあの頃を。
同じなのだろう。本能で悟ってしまう。つまりは――迎えが来たのだ。
『約束を果たす時が来た』
「あぁ、お前の言うとおり――どうやら俺が最後の一人になったみたいだな」
そう、全ては振り出しの地へ戻る。
◆――
一度始まったゲームは止まらない。
展開が早かろうと、それは終わりに向かっているだけ。
やるべきことは決まっている。
ならば。
後は流されるがままに。
黙って結果を待つだけである。
――◆
気分はどうかね。
そう尋ねられた所で返答する言葉は決まっていた。
「最悪だよ。それもとびっきりのね」
気付けば消えていた身体は元に戻っていた。
消滅していた瞬間のことは覚えていない。始まりと同じように気付けばこうなっていた。
足立透へ刀を振り下ろし、広川の声が聞こえたあとだ。その瞬間に意識が途絶えた。
意識を取り戻した時には無機質な空間に位置していた。面白味の欠片もない、灰色のような空間だ。
空っぽの玉座があること以外に特筆することなど無い。強いて言うなら肌を撫でる緊迫感だ。
この空間には言葉にし難い何かが働いているように感じる。それはドラゴンの世界やエンブリヲから感じたような、決して味わったことのない未知の存在と同じだ。
「君は優勝――最後の一人となったんだ。その感情、掛け替えのないものだろう」
「全くだよ。言ったばかりじゃないか……最悪だってね」
そして気付けば広川が目の前に立っていた。そして自分も。
足立透への攻撃が引き金となり、此処まで辿り着いた――導かれた。
そして、どうやらまだ腹の探り合いを演じなければいけないらしい。
「私としてはくだらぬ人間同士の醜い争い……やはり、人間とはどうしもない種族だと思わないか」
広川の言葉に隠された真実はあるのだろうか。
これも打ち合わせどおりに進んでいるためのブラフなのか。
示された条件は首輪とロックの解除。
鍵になるのが
エドワード・エルリックであり、自分はそのための時間稼ぎとして此処に立っている。
「くだらない? どうしようもない? たしかにそうかもしれない」
最後の一人に与えられるは褒美。そのために彼はきっと現れる。
「だからこそ誰かを愛して、必要とするんだろ」
ここで真実を口走れば、計画が水の泡になるかもしれない。
――本当にみんなの首輪を外せるのか。などと言ってしまえば優勝を偽装する意味が無い。
広川の口車に乗った手前、最後までやり通さなければ全滅するのは参加者だろう。
彼の真意が見えて来ないのは懸念材料である。参加者側に干渉するメリットを感じられない。
「そうか……君がそう言うのならそうだろうな。なに、そこまで強張る必要は無い。ゲームマスターがお見えだ」
真意を探る前に黒幕の登場――都合が良すぎるタイミングだった。
言葉が遮られるように喉元で押し止めると、不思議な感覚だった。目の前に彼が居たのだ。
正確に云えば最初からその場に居たように、玉座へ腰を落とす老人がいた。
広川と言葉を交わしていたとは云え玉座に人が辿り着けば気付いていただろう。
瞬間移動の類なのだろうか。エンブリヲと似たような力を所有しているホムンクルス――お父様。
見にした感想は覇気の無い老人。
けれど威厳がありどこか荘厳すら感じる。下手に手を出せば殺される。
彼の口が動くのを待つべきか。それとも広川に進行を待たせるべきか。
「お前が優勝者の……タスクと言ったか」
そんな不安をかき消すようにホムンクルスが口を開く。
「あぁそうだよ。俺が正真正銘、最後の生き残りさ」
恰も己が優勝者であるような素振りを見せる。悟られては全てが無駄になる。
無論、ホムンクルスが全てを先に勘付いている可能性もあるが、敵地に乗り込んでしまったのだ。
やるならば最後まで貫き通すしか無いだろう。
「これは驚いた。お前が最後の人間になるなど誰も予想していなかった」
「誰も? 見世物にでもしていたのかい?」
「どうだろうな。少なくとも私も、そこの広川もお前が勝ち残ることを想定していなかった」
――本当に俺が優勝者だと思っているのか?
「足立透を殺した時……タイミングが良かった。エンブリヲがヒースクリフと黒を殺害し、エドワード・エルリックを殺害した御坂美琴と相打ちになった」
どうやら筋書きはそうなっているらしい。
特にブラフの考えも想定していなかったため、無駄な口を挟まずに広川の案に任せることとする。
余計な口出しによって齟齬が発生すれば、それこそ一巻の終わり。
「何が起きるかは最後まで分からない……人間とは時に予測不可能な事態を引き起こす」
「…………?」
短い発言の中で一瞬ではあるが憎悪のような感情が込められているような気がした。
これまで抑揚のない冷たい言葉を繰り返していたお父様だが、人間に恨みでもあるのだろうか。
「奇跡は起きるから奇跡と呼ばれる。たとえそれが安っぽいと言われようが奇跡は奇跡だ」
「俺がここに立っていること。それを奇跡だって言うのか」
「誰が勝ち残っても奇跡だよタスク。
調律者であろうと、時間の支配者であろうと、因果律を置き換える力を持っていようと」
「誰が勝ち残っても……そんなことを言う割には選出の基準が分からないぞ、広川」
気になっていたことがある。言い始めれば切りがないのだが、この機会を逃すと聞けそうにない。
多種多様数多の世界から選出された参加者達に共通点は見つけられなかった。
誰もが超能力を、錬金術を、機動兵器の操縦術を持ち合わせている訳でも無く、血と硝煙の香りとは無関係な学生すら参加させられている。
悪趣味だ――切り捨てるのは簡単だが、納得は出来ない。
「それは重要なことじゃ無いだろう。君達は決して残り物なんかじゃない……それで充分だろう」
「な、何を言っている」
「選ばれようが選ばれなかろうが、最後に残ったのは君だ。
多くの血が流れたこの数刻を勝ち抜いたのも君だ。最後の八人から選ばれたのも君だ。
誰が勝とうがそれは奇跡だ。残り物などと思ってしまえばそれまでだが……生憎、選ばれた時点で残り物であろう」
「俺達を残り物と言いたい……感じでは無いようだね」
「それなりの敬意は払うさ。それなりに、な。
よくぞ此処まで生き残った。君達を残り物と揶揄するような感情の無い人間はこの場にいない」
「それはお前や……そっちの大将も含めてか?」
広川の言葉に縋っていても仕方が無い。
お父様へ匙を投げるも、思い返せばここで時間を潰すのが皆のためになっただろうか。
「残り物……そうだな、人間がこれまでに培った物があれば残り物と云うよりも残った者だろう」
退屈そうな瞳で返答するお父様であるが、事前の想像よりも感情が篭っているようにも思えた。
造られた生命、そして創造主。持っていた情報から組み立てるにどうしてもエンブリヲの姿が脳裏を過るも、実際は異なった。
人間を見下している節が感じられるが、どこか認めているような感触を言葉の節々から見て取れる。
過去に何かがあったようだが、生憎広川から事前に聞いていたのはホムンクルスに関係していることだけ。
引き出そうにも手持ちの情報が圧倒的に不足していた。
「まぁいい……さて、最後の一人になったからには願いを――叶える約束だったな」
本題に入ろうかという切り出しだった。
「本当に叶えれるのか……?」
「お前達の功績と言っておこうか。箱庭の空間に齎された力は聖なる器を満たした。
結果や過程がどうであれ、これはお前達参加者の特典だ――口にすればその願い、叶うぞ」
――何を言っているかさっぱりだ。
「信じられるものか……上手い話には裏がある」
「私があのエンブリヲと同一の……それ以上の力を持っていると云えば信用するか?」
「……なんだって」
調律者を自称するあの下衆な男と近い能力を持っているとすれば、話は変わってくる。
数多の世界から己を引き摺り出す存在だ、事実上の不可能は無いと言えるかもしれない。
それこそ死者の蘇生など別の世界から同一の存在を持ち出せばそれで終わりだ。
「まぁ、彼も状況を飲み込めていない。少しは休ませるべきでは」
意外にも助け舟を出したのは広川だった。彼以外に言葉を紡ぐ者はいないが、それを差し引いても意外だった。
共犯とは言っていたが最悪の場合は口約束の卑劣な罠とも踏んでいた。
この空間に招かれた段階で嘘の可能性は大いに削減したのだが、それでも完全に信用するには危険な領域である。
利用するにも、その場その場で見極めなければ死ぬのは己である。
身体を張っているエドワード・エルリックを始めとする他の参加者のためにも、無駄死だけは避けるべき。
「……そうか」
「何も焦る必要は無いでしょう。ここで一手をしくじればこれまでの積み重ねが全て無駄になる。
勘付かれてしまっては貴方はまた、つまらない空間に閉じ込められるだけの哀れな存在に逆戻り――でしょうに」
意味ありげな言葉の選択はわざとだろう。口角を上げながらこちらを見つめる広川は何かを伝えるような視線だ。
しかし、抽象的な表現を用い真実を伝えない手腕は遊ばれている気がしてならない。
仮に己は最後の一人であり、お父様の計画とやらを知った所で問題は無いと思われるが、真相は不明である。
「……勝手にするがいい。三十分もあれば充分だろう。お前の部屋に通せ」
どうやら時間稼ぎの責務だけは果たせるようだ。
俺は広川の指示に従って彼が放送を行っている一室へ案内された。
◆――
何か一つ、勘違いをしている。
上辺だけの言葉を交わした所で、真実は見えず。
本当に、真実に値するような行動だったのか。
――◆
この世に生を授かり最後に見た光景が雷光だった。
美しい。その光は見る者全てを魅了するような煌めき。
視界が機能する僅か刹那にも満たない空白の中で、脳裏に過ることは意外にも何も無し。
この手の瞬間は走馬灯を感じるものだと創作上の物語では鉄板だが、現実はそうでも無いらしい。
彼、彼女達の言葉は蘇らずに、これまでの行いがフラッシュバックすることも無い。
黙って死を待つだけだった。雷に撃たれては助かる筈もないことは理解していた。
特別な力を持っていれば耐えれるかもしれない。
けれど、周りの人達とは異なるのだ。
寄生生物を宿している訳でも無く、特別な訓練を受けた訳でも無い。
ただの学生にとって殺戮に巻き込まれた時点で運命は決まったようなものだった。
よくぞ最後の八人――九人まで生き残ったものだと褒めるべきか。
いや、それは自分の力じゃない。誰かに助けてもらったからこその生命である。
始まりから――
比企谷八幡の犠牲から始まったこの物語も、終わりが近付いているかもしれない。
広川から齎された情報は殺し合いそのものを覆すような提案だった。
首輪を解除することと、ロックを解除すること。
結局のところ、ロックの存在は分からずじまいである。それでも彼は言っていた。
『ロックの解除こそが君達参加者にとって、生還の鍵となる。
この箱庭に君達を押し留めている鎖を破壊する――つまり、ロックがある限り、元の世界へ帰還することは不可能だ』
その言葉を信じるしか無かった。
今の状況で私達で出来ることには限界があって、放送の内容も重なり、決定的だった。
広川の言葉が正しければ私達は生命の危険を大きく減らすことに成功する。
心の何処かで不安だった。仮に願いを叶えてもらうためにも、首輪が嵌められたままだったら。
生命を握られている状況でやれることなんて最初から限られている。
【どうして俺達に協力するようなことを持ち掛けているんだ】
『信用出来ないか……当然か』
【ああそうさ、信じれるものか。お前の後ろには一体誰が潜んでいる】
『ふん……くだらぬ夢を見たホムンクルスの親玉だよ』
奥に潜む黒幕が私達の生命を握っている。首輪の重みは単純な重量よりものしかかる。
広川から明かされた正体については言葉だけでは何も想像できず、ホムンクルスと云えばブラッドレイを連想するしかなかった。
あの男の親玉――そう考えると、身体が震え始める。身体が恐怖を覚えている。
心配する彼が私の肩に手を置いてくれたこと、忘れることは無いだろう。
そして幾つかの言葉が交わされる間に鍵となる人物――エドワード・エルリックが浮かび上がる。
広川曰く、彼を会場の中心地帯へ呼び込み、錬金術を発動すれば首輪の解除が可能――らしい。
『エドワード・エルリックのためにお父様の気を彼から逸らす必要がある。そのためにタスク――君は此方に来るんだ。
君が殺し合いに優勝したと偽装して招き入れよう……種も仕掛けもない幼稚な欺き方だが、その場しのぎの偽りにしては充分だろう』
差し出されたピースを嵌め込めるとパズルは完成するだろう。
出口の無い迷路に変化が訪れる。外の世界の明かりだ。求めし答えが近くにまで転がっている。
「お前は何を言って……そんなことが出来るって言うのか!?」
しかし、その欠片は台座に示しがつかないのだ。既製品とは異なる掟破りの一手である。
広川の提案は狂っているとタスクはその要求に難儀を示す。可能な選択だと真剣に考える者が何処に居るのだと。
『冗談だと思うか? ならば心外だな。元より……他に手立ては無いだろう』
対して提案者たる彼の声に遊戯を感じる者もいない。文字通り他に手立ては無い。
語られた真偽を確かめる術はタスク達に存在しない。博打と云うには筋が違う。これは賭けにも満たぬ無謀な作戦である。
「仮に成功したとしても、僕達だけじゃ全てが繋がる訳でも無いだろう!
お前の言う通り、確かに他に手立ては無い。だからその提案に乗ってやる……だけど、穴が多過ぎる」
一人には限界が存在する。
百の軍に対し生身の人間が勝てる道理などたかが知れている。情けない反抗が関の山だろう。
もしも百の軍に対し十の精鋭で挑んだならば、結末は変わってくるだろう。
諦めぬ者に訪れる奇跡。彼らは成功を掴み取る事に関せば最高の逸材である。
「足りない……全てが予想を上回ったとしても、その先に辿り着ける筈がない……無理よ」
それは力無き者が聞いても同じである。雪ノ下雪乃から――所謂、普通の人間から見ても広川の提案には穴がある。
『当たり前だ。私が君達だけに話を通しているとでも思うのか?』
「まさか……」
「それなら話が成立するわね……それでも、無理には無理だと思うけれど」
手が回らないならば人員を補強する。当然の話であり、広川とて頭が回らぬ男でもあるまい。
仮にも殺戮の宴を開催するまでに働いた男だ。殺し合いに詳しい彼の言葉を信じるのが常となろう。
彼の口から語られる情報――なんとも巫山戯た話であるとタスク達は思っていた。
答えに辿りつくなど不可能だろう。
初めからヒントを求めたとしても、根本的に不可能である。
首輪を外せたとしよう。されども真実に触れることすら叶わない。
あるとすれば――例外はヒースクリフのみだろう。あの男ならば全ての因果が収束した結果により或いは可能なのかもしれない。
「……聞きたかったことがある」
『一つと言わずに幾らでも答えてやろう――最も全てを答えれるとは限らないかもしれないがな』
タスクの声が震える。喉元にまで迫っているその言葉が今は火傷をするように熱い。
早く体外へ放出したいが、それをしてしまえば引き下がれない気もしてしまう。しかし、元より引き返せぬ身だ。
「エドワード・エルリックとヒースクリフ……この二人が生きていることは分かった。
他は……あとどれだけ生き残っているんだ。みんなは、仲間は今、何処に居るんだ!?」
鍵となる存在と礎たる存在。
彼らの生存は話の筋から確定だろう。
深淵に手を伸ばせ、大切な仲間は今――生きているのか。
『君達も含めて残り九名――七十を超えていた参加者も残りたったの九名だ』
そして佐倉杏子と足立透が合流し、広川との会話が途中であったが途切れてしまった。
放送後に一度だけ接触することはあったが、依然として彼の真意は不明のまま。
それでも私達は彼の口車に乗るしかない。罠であろうと主催側と接触出来るのは大きいことである。
他にヒースクリフが接触しているらしく、彼は既に首輪からも解放されていると広川は告げた。
放送で名前が呼ばれたのは首輪による生体反応が消えた証拠であるらしく、そのためにタスクは隠れ蓑として選ばれた。
仮にエドワード・エルリックが参加者の首輪を解除した時、全員の生体反応が消えることと同義である。
そんなことは有り得ない。
雷光が全てを包み込もうが、参加者が一同に介し、一撃で葬られるなど有り得ないだろう。
可能性としては無とは呼べず、結果として引き起こされる可能性もあるが、万が一の段階だ。
「そんな思い詰めた顔しても仕方ないだろ? 今はタスクを信じて待とうよ」
一つだけ、言い忘れていたことがある。
私――雪ノ下雪乃も、佐倉杏子も。
「……どうにかなるもんかねえ」
「あんたには話し掛けてないから」
足立透も。
生きている。
◆――
舞台は整った。
ディーラーも観客も。全てはこの時のために。
鍵を握るは二人の参加者。
そして盤上を操るは――お父様。
――◆
雷光に包まれた瞬間。それまで黙っていた広川の声が首輪から響き始めた。
『時計塔周辺に死角があることは既に知っているだろう。走れ』
この周辺一体に訪れた時、目の当たりにした感想が今にも崩壊しそうな建物だった。
所々の侵食具合から建物としての意義を確立するのがやっとという程度にはボロボロである。
広川が指し示す先はきっと、死角と云うのも崩壊寸前の地帯を言っているのだろう。
雷光により全てを諦める寸前に意識がはっきりと確立した。
それから力の限り走り続け、雷光に包まれることは無かった。
そもそも雷撃に最初から狙われていなかった。どうしてかは分からない。
「大丈夫……私も信じているから」
そして現在に至る。
佐倉杏子が心配しながら顔を覗いてくるが、大丈夫と言い放ちその場で立ち上がる。
スカートを叩きつつ、改めて周囲を見渡すも錬成陣と呼ばれる模様の意味を理解出来なかった。
「意味不明だよなこれ……なんか読めそうな気がするけど」
「私は全く読める気がしないわ。少なくとも私の世界には存在しない言語」
時計塔から脱出した私達は広川が言っていた錬成陣の場所へと移動した。
距離は遠くなく、他の参加者と遭遇することも無く到着し、後は彼らを待つだけ。
佐倉杏子は広川との会話を知らずに足立透と交戦していた。
私が伝えるよりも早くに彼が瓦礫の中から立ち上がり攻撃を始めてしまったから。
そして足立透も広川の計画を把握しており、瓦礫の中でタスクに持ち掛けられたという。
「可愛げのないガキだぜ……誰かさんのせいでこっちは死にそうだったのによ」
「そのまま死ねばよかったのにな」
「…………ガキ、調子に乗ってると殺すぞ」
「やってみろよおっさん、あんたなんか生きてちゃいけないんだからさ」
「……今は争っても仕方ないことなんて、言わなくてもわかるでしょう」
彼らは殺し合いをしていたのだ。同じ目標を持ったところで相容れるとは限らない。
「話が違えんだよ、俺はあのタスク? の言ったとおりに動いただけなのに……このガキは」
足立透が語るに、マハジオダインが轟き瓦礫が発生した中でタスクに背後を盗られたという。
首筋に刀身を肉薄され最早これまでかと全てを悟り、諦めていた瞬間に計画を持ち掛けられたと語る。
「お前ら二人に雷を放て、それで絶対に当てるな、当てたらお前を殺す……あれは意味が分からなかった」
雪ノ下雪乃達に放たれた雷光は光の密度こそ濃いものの、実際に襲い掛かることは無かった。
完全に目眩ましとして使われた牽制の一種である。隠れ蓑としては申し分無い輝きであったのも事実。
「見返りが首輪を外すって言われてよぉ……信じる気は無かったけどこっちは生命を握られてた。
くだらない作戦に従うしかないから黙って乗ったのに……そこのガキはガチで殺しに来たからなあ!? 冗談じゃねえぞ!!」
しかし、佐倉杏子は事情を知らなかった。
雪ノ下雪乃が説明するよりも早くに足立透は行動を開始し、雷鳴が轟いたのだ。
彼は自分以外の参加者が事情を把握していると考えていたのだろう。タスクも説明はしていなかったようだ。
故に、禍津は全てが予定調和だと認識し暴れていた。
「……こっちだって知ったのはついさっきなんだよ」
「調子に乗るなよ。あの時の俺はお前に事情が察せるように言葉を選んだつもりだったのに……察しの悪いガキ」
「………………………………」
『やってられっか……ああ! くそ、こんなの誰が好き好んでやるかってんだよ!!』
くだらぬ道化など進んで演じるものか。
『冗談じゃねえ……なんで俺がこんな役回りになってんだよっ!』
筋書き通りに演じない紅き悪鬼が暴れ狂う。
『おお怖い怖い……でもこれで俺も晴れて――ッ!?』
共犯者となったのだ。さぁ、次はお前が死を演じる番だ。
『っ、クソがあ!! ざっけんじゃ、ねえよ!!』
死に抗い続け、生命を狙うは悪鬼。
『このガキ、本気で俺を殺そうと――はは、ははは……どいつもこいつも、調子に、乗ってんじゃ……ねええええええええええええ!!』
話が違う。仮面の道化師は腐った現実に毒を吐き捨てた。
「思い出したかよ……ちっとも察せねえガキの相手はもう、御免だね」
足立透からすればタスクの言葉通りに行動しただけであり、謂わば佐倉杏子の叛逆は想定外である。
彼の視点からでは嵌められた錯覚しても不思議では無く、瓦礫からタスクが立ち上がらなければ、信じていなかっただろう。
「…………それについては悪いと思ってるよ」
「謝れるのか、意外だわ」
「それ以外は何も思わないよ。なんなら今すぐにでもさっきの続きをおっ始めてもいいんだよ? おっさん」
――魔法少女ってのはどいつもこいつもクソしかいねえのかよ。
最早、いちいち反応するのも面倒だと云わんばかりに足立透は手を払う仕草を見せた。
その行いが佐倉杏子の怒りを刺激するのだが、知るかと彼は欠伸を浮かべ潤った瞳を擦る。
「それにしても、お前らはよく信じるよな。
広川の言葉なんてどれも嘘くせえだろ……まぁ、俺も乗っちまったから信じるしかないけど」
首輪を解除する。黒幕を欺く――本気で思っているのか。
「俺は裏があると思うんだわ。つーか普通に裏があるに決まってるだろ」
「そうでしょうね。だけど、そうでもしないと追い込まれている状況からは抜け出せない……違うかしら」
「声が震えてんぞ。状況も何も騙されていたら俺はお前ら全員ぶっ殺せば問題ないからね。勘違いするなよ」
反論する雪ノ下雪乃の声が震えていた。
きっと足立透と対峙した時の記憶が蘇ったのだろうか。
興味も示さずに彼は言葉を紡ぎ、計画の穴や骨組に毒を吐く。
「首輪を解除してからが本番じゃないのか?
俺は幾ら無能の黒幕だとしても、そのタイミングで気が付く筈だ。そうすれば激突は必至でしょ」
台本通りに演じない役者は監督にとって必要外の塵と同義である。
神の意に反すれば排除されるのが生命の理と云えよう。
「そもそも黒幕は本当に無能なのか? 実は気付いてるんじゃないかって心配もある。
こんなことで騙せるって云うなら殺し合いの運営は実質広川が主導で行ってるってことだろ?
興味が無いのか、見る気が無いのか、ただの道楽でやってるのかは知らん。それでもよぉ、騙せたとしても限度があるだろ。
タスクは俺の目の前で消えた。粒子みたく透き通るようにな。あれは十中八九、招待されたね。時間を稼ぐのはあいつ次第だと思うわ。
あいつが下手を撃てば計画はパーだ。仮に全てが俺達の希望通りに動いていた場合な。
最悪の場合は広川が俺達を嵌めた可能性があるってこと……なんのためにかは知らない。知りたくもない」
彼の言うことも最もだろう。広川の接触は彼にとってのメリットが感じられない。
罠を仕掛けるにもしても甘すぎるのだ。彼が参加者側へ干渉するまでに、黒幕に敵対するまでの何かがあるのだろうか。
その疑問は彼女達も抱いている。直接言葉を交わした雪ノ下雪乃でさえ、彼の真意を汲み取る事が出来ていない。
「まぁ、黒幕が機械みたいな奴だったら可能性があるかもな」
「……どんな意味だよ」
「たとえば自分で始めた殺し合いだろ? 気に食わない展開になればそれだけ奴も必死になるだろうよ。
俺がお前らを立て続けに殺した時、黒幕がくだらないドラマを求める連中なら怒りの形相で確認する姿が目に浮かぶ。
こんな死は何事だ。呆気ない。俺……足立透は調子に乗ってる。だとか、な。早とちりする馬鹿ならって話よ。俺達からすれば積み重ねもクソもないからな。
それで気になれば現場を確認するって話。どうも自分が参加者より上に立っているからって愉悦に浸って調子に乗る馬鹿ならってことな。
まぁ、そんな奴ならもっと干渉してるだろうしな。黒幕ってのは本当に殺し合い自体に興味は無く、適当に時間を潰してるからこうやって一見穴だらけの偽装も出来るんだろうよ」
黒幕に人間味の欠片が残っているならば少なからず、殺し合いを見通す中で感情を抱くと足立透は予想する。
仮に特定人物にでも感情移入してしまえば、掟破りの干渉すら行う可能性があったかもしれない。
そうなれば時計塔の戦局に広川が一枚噛んでいる時点で、黒幕も姿を表すだろう。しかし、その面影が影響することは無かった。
つまり、殺し合いに興味が無いのか、将又、本当に欺いているのか。
「……ようはタスク待ちってことでいいだろ」
「まあな。それはそうだ」
佐倉杏子の言葉に短く反応した足立透はその場で立ち上がり上体を伸ばした。
風が頬を撫でる。此処は時計塔より南東に位置する錬成陣が刻まれし地点。彼らは参加者の到着を待つ。
「こうも危険な奴らに睨まれちゃおちおち居眠りもできないわ」
「こっちの台詞だよ。あんたが不穏な素振りを見せたら速攻で潰す」
「あー怖い怖い……俺だってタスクの奴が戻って来なければお前らを殺すから」
彼らは同じ時を同じ場所で過ごすが、それは決して味方であるという事実ではない。
目的が偶然にも一致した奇跡である。生命を握る首輪からの解放――それが全てである。
「……なぁ、聞いてもいいか」
「嫌だよ」
「お前じゃねえ……そっち」
こちらの発言に必ずと言っていいほど噛み付く佐倉杏子を軽く往なすと足立透の視線は奥に立つ彼女へ。
雪ノ下雪乃に対し、未だに知らされていない本題について切り出した。
「この首輪ってそもそもどうやって外すんだよ。タスクが時間稼ぎするのは分かった。
じゃあ、あいつは別口で首輪を外すんだろ?あいつ以外だから……七人か。俺達はどうやって首輪を解除する」
「……それはあたしも聞いてなかった。あんたが嘘を吐いてるなんて思っちゃいないけど、教えてもらえるかい?」
佐倉杏子も同じである。流されるだけ流され、事実を把握していない。
彼女達が真実を確認するには状況も、時間さえ整っていなく、藻掻くだけだった。
不思議な話である。
つい先程まで互いの生命を削りあっていた彼女達だが、今はこうして比較的平穏な時間を過ごしている。
殺し合いに於いて休める時間など貴重であり、目の前に敵がありながらこうして皆の到着を待っているのだ。
図らずとも落ち着いた時間を確保しており、情報交換には打って付けの機会だろう。
しかし、説明するにも実際の行動はエドワード・エルリックが握っているため具体的な内容は雪ノ下雪乃も把握していない。
佐倉杏子達からすれば彼が絡むことも知らないため、その説明から始まることとなるだろう。
全てが予定通りに動いているならば、この地に多くの参加者――生存している者達が集まることとなる。
全員までとはいかないだろうが、それでも過半数以上は揃うだろう。
鋼の錬金術師が到着し、彼の力によって首輪を外した時。
彼らに待ち受けるは――――。
【C-4/二日目/朝】
【足立透@PERSONA4】
[状態]:
鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(大)、腹部に傷、左太腿に裂傷(小)
爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血 、顔面に殴られ跡、苛立ち、後悔、怒り 、
悠殺害からの現実逃避、卯月と未央に対する嫌悪感
[装備]:ただのポケットティッシュ@首輪交換品、
[道具]:初春のデイバック、テニスラケット、幻想御手@とある科学の超電磁砲、ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み)、
警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:皆殺し。
0:雪ノ下雪乃から事情を聞き、時を待つ。
1:生還して鳴上悠(足立の時間軸の)を今度こそ殺す。俺はまだ鳴上悠を殺してない。殺してないんだよォ!
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。
※黒と情報交換しました。
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、精神的疲労(大)、顔面打撲、強い決心と開き直り、左目負傷
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ、使用不可のグリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ
クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0~4(内多くても三つはセリューが確認済み) 、
南ことりの、浦上、ブラッドレイ、穂乃果、
ウェイブの首輪。
音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(2/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3、サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHOPASS‐サイコパス‐、
カゲミツG4@ソードアート・オンライン
新聞、ニュージェネレーションズ写真集、茅場明彦著『バーチャルリアリティシステム理論』、練習着、カマクラ@俺ガイル
タスクの首輪の考察が書かれた紙
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:雪ノ下雪乃から事情を聞きつつ、時を待つ。
1:後悔はもうしない。これから先は自分の好きにやる。
2:さやかも死んじまったか……。
3:御坂美琴はまだ――生きているのか
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
※
狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※DIOのスタンド能力を知りました。
※シャドウと遭遇中に田村にデイバックから引きずり出されたため、デイバック内での記憶はほとんど忘れています。
※アヌビス神と情報交換をしました。
※首輪の大まかな構造について聞きました。
※時計塔からアヌビス神を回収しています。
【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大) 、腹部に切り傷(中、処置済み)、胸に一筋の切り傷・出血(小)
[装備]:MPS AA‐12(破損、使用不可)(残弾1/8、予備弾倉 5/5)@寄生獣 セイの格率、アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:基本支給品×2、医療品(包帯、痛み止め)、ランダム品0~1 、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣
ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:佐倉杏子達にエドワード・エルリックのことを伝え、時を待つ。
2:もう、立ち止まらない。
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、
プロデューサー達と情報交換しました。
※槙島と情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。
※
第四回放送をほとんど聞けていませんでしたが、杏子から大雑把に聞きました。
※A-1にロック解除の手がかりがあると考えています。
※首輪の大まかな構造について理解しました。
最終更新:2017年03月06日 22:07