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誰がために愛は在る(後編)◆BEQBTq4Ltk


 意識を手放し無防備となった姫君の騎士を見逃すほど、調律者は性格が整えられていない。
 幾千もの時を経て遂に見つけた想い人――改め、感情の捌け口を横暴した輩に情けをかけるものか。
 この瞬間を待っていたのだ。何度も脳裏に描いた確実に息の根をこの手で止める光景が遂に叶う。

 故にヒステリカの放つ光の刀身は煌めく軌跡を奏でる。
 白き流星たるヴィルキスを一刀両断さえしてしまえば、操縦者たるタスクもまた当然のように絶命するだろう。
 過度な一撃は機体に想像以上の損傷を与え、エンブリヲの見立てでは脱出装置すらも機能停止に追い込む。

 嗚呼、振り返れば碌でもない事象の連続だったと勝利を確信した神は苦笑を零す。
 下等生物の代名詞である人造生命体に下僕の象徴として首輪を嵌められた。
 同じく別個体の人間にすら劣る科学の残滓に局部を斬り落とされた。

 積もりに積もった感情の汚染を己と云う容器に閉じ込め蓋をしていたが、解放の時は目前である。
 途方も無い時を生き続け、念願の理想郷へ至る開化の鐘を鳴らす。
 目の前の男は唯一にして例外。理想郷へ踏みいることは疎か、空気を吸うことすら許されない絶対の禁忌。

 ――貴様の敗因はたった一つ、星の数以上に存在する女の中でアンジュを愛してしまったことだ。

 勝った。世界の終わりの壁際でヒステリカへ万が一にも、敗北を刻めるはヴィルキスのみである。
 御坂美琴、エドワード・エルリック、黒――彼らは個体として見れば優秀かもしれないが、機神の前では赤子同然。
 ゲームマスターとしての権限を持ち合わせていないヒースクリフなど恐るるに足らず。雪ノ下雪乃も同様に歯牙へ掛ける必要も無い。
 残滓すら残さず塵となった道化師もだろう。唯一、未知の進化を続ける竜の魔法少女は警戒対象であったが、死人に馳せる想いなどあるものか。

 殺せ、殺せ、殺せ。

 貴様を殺し、次は地上の塵共を殲滅する。
 聖杯の起動さえ阻止すれば問題は無いが、念には念を。地獄門を潜る現世への帰還すらも打ち壊す。
 彼には絶対的な確信があった。己の勝利と輝かしい理想郷への到達を。

 故に。
 故に、彼は時が停止された感覚に陥ってしまう。

 動く筈の無いヴィルキスが刃を用いて、光の刀身を弾いたのだ。
 神の軌跡に刻まれた剣閃が、人間の底力を示し、神殺しの再開を告げた。




 それは意地である。
 吹き荒れる絶望の嵐を突き進む白き流星。
 片翼を失い、機体の輝きが歪む中、彼は小さな小さな約束を果たすために。
 意識を落とし、光の届かぬ暗闇の海を彷徨う中で、操縦桿を手放すことは無かった。

 彼の想いに機体が応えたのか、巡り合わせが偶然にも奇跡に到達したかは神のみぞ知る。
 しかし、神の境地に立つエンブリヲはその奇跡を否定する。辿り着いたヴィルキスを撃墜することによって、神殺しを破綻させるために。

 事切れた意識の果てに彼――タスクは優しくも暖かい光と温もりに触れる。
 どこか懐かしさを感じる暖かさによって意識を覚醒させた彼の視界には、光の刀身を弾いた刃の軌跡が飛び込んだ。
 事態を把握するに時間は掛からず、結論さえ分かってしまえばそれで充分であり、自分はまだ死んじゃいないということ。
 次に必要なのが理由――考えるまでも無い。己の手を上から優しく包む雪のように白い肌を持つ女性は一人しかいないのだ。

 エンブリヲから取り戻した、今は亡き想い人――アンジュ。
 コックピット内で寄り添っていた彼女の手が然りとこちらの手を優しく、優しく包む。
 故に彼女がヴィルキスを操作し、ヒステリカの一撃を弾き返した。目の前の現象に理由を付ける。

 彼女はこの世を去った。放送により名を呼ばれたのも幾分と前になるだろう。
 当初は耳を疑ったが、放送は絶対であった。例外は一芝居を打った偽装優勝のみ。
 アンジュは死亡した、もういない。彼女との思い出は消えないが、それでも生命としての終わりを迎えた。

 だからこそタスクは自らの頬を強く叩いた。 
 これは夢だ、弱い心が己を甘美な幻想へ溺れさせるのだ。
 彼女の死を受け入れろ、今更になって死者の面影に足を取られ現実から逃走など生温い。
 偶然に偶然が重なり必然という名の奇跡が浮かび上がったのだ。己が助かったのは因果の果てだと思い込め。
 意識を覚醒させタスクは改めてヒステリカへ鋭い視線を送る。意地が折れぬ限り、何度だろうと立ち向かう。


『もう、少しは反応してもいいんじゃないの。折角の再会なのに男から声を掛けない何て……情けないと想わないの?』


 そして、懐かしい声が彼の意識を更なる覚醒へと導き、淡い夢を帯びた現実へ。
 彼女の声だ。己の人生を全て捧げるに値する姫君の声を忘却の彼方へ追い遣るなど有り得るものか。
 されどこれは夢だろう。彼女はこの世を去った。それなのに、掌で叩いた頬が熱い。

『へぇ……この距離で無視する何てたいした度胸じゃない』

 やめてくれ。一度でも夢に溺れてしまえば二度と現実に戻れない。
 タスクは感情と理性が逆走し続ける脳内で何度も何度も、声の存在を否定する。
 弱い心が生み出した幻聴を確実に耳に入れながらも聞き流し、すると、未だ熱を帯びる頬に冷たくも優しい掌が添えられた。

『流石に傷付くから、ちゃんとあたしの目を見なさいよ――タスク』

 己の名前を呼ばれた一時が、彼を更なる覚醒へと追い込む。
 赤黒く染められた視界が彼女を捉え、認識を試みた時、全ての荒れた景色が吹き飛んだ。
 中央に位置する彼女の姿はたった一回の人生で最愛の存在。寝ても覚めても忘れられぬ永遠の想い人。
 彼女を認識すれば終わりだと想っていた。もう二度と、戦えなくなる、立ち上がれなくなる、現実に戻れなくなる。

「信じられない……ほ、本当に君なのか……?」

 だが

『君ぃ? 随分と他人行儀な言い方ね……ふーん、さては浮気でもした?」

 此度が現実であれば

「まさか、そんな訳ないだろ――アンジュ」

 永遠の愛を確かめるように、男は愛する女を抱きしめた。
 淡い夢に溺れる仮定は消え、彼女が現実であれば、受け入れるだけ。
 全ての生命を包み込むかのような柔らかさは間違いなくアンジュだ。タスクの抱き締める力が強まる。

『もう……こんなにボロボロになって』

 声が機体内部を満たす度に、タスクが頷く。
 最初から気付いていた、だが、認めれば終わると言い聞かせ、現実から逃げていた。
 真実を夢と形容し、出来過ぎた奇跡とも呼べぬ彼女の存在を幻想だと片付けた。
 その声、香り、感触、優しさ、熱さ、相性――全てが全て、自分の知っている彼女のものだ。

『馬鹿ね。帰ろうと思えば帰れるのに』

「アンジュだって逃げないだろ? 目の前の問題を放っておいて、自分だけが幸せを噛み締めるなんて最悪じゃないか」

『まぁ、でも? 参加者の殆どが他人だし、自分だけが帰れるなら問題は無いかも』

「アンジュ!?」

『ふふっ、冗談よ。もしも最初から生きていてこの場にいたら、あたしは最後まで戦う道を皆と一緒に選んだと思う。
 借りがある奴もいるし。この赤い布はあのチビ……エドワードが寄越した物でしょ? 全く、前のも返してないのに、また借りパクよ。それよりも――』

 暖かみのある彼女の視線が射殺すが如く鋭くなり

『穏やかな状況じゃないわね』

 黒き機神を貫く。
 意識を取り戻した矢先、絶命寸前のタスクと顕現したヒステリカを目撃し、於かれた状況を理解せざるを得ない。
 最悪の事態だろう。何よりも憎き調律者の生存に不快感を隠せず、アンジュの舌打ちが鳴る。

「ああ……って、どうして君が生きているんだい? だって君は――」

 ――死んだはず。そう言葉が紡がれようとした時。
 アンジュの人差し指が彼の唇に触れ、愛すべき者へウインクが送られる。
 無粋なことを口にしちゃ駄目。目と目が重なり合い彼女の本意を読み取ったタスクは口を閉ざした。
 そして彼女は彼の腕を掴むと、掌を己の胸に誘導し密着させる。
 突然に襲いかかる柔らかい感触に、顔の色素を急速に赤らめ、タスクが取り乱す。

「え、ええ……えっと……え、その……」

『ぷ、あはははは! タコみたいに赤くなってるけど、そんなつもりじゃないから。全く……本当にえっちね。
 それにあたしだって恥ずかしい……ほら、よく聞いて? あたしも同じで、心臓の鼓動が早くなっているのが分かるでしょ?』

 互いに心音を聞き合う状況にタスクの感情は更に高鳴りを見せる。
 だが、答えに繋がらない。彼女への問いは生命の所在だ。なぜ、死んだ君が生きているのか。
 視線を逸らさずに訴える彼の気持ちを察してか、アンジュは小悪魔のような微笑みを見せる。

『これが理由なの。あたしの心臓――名前の知らない心臓が、あたしの生きている理由。今はこれだけで信じて』

「えぇ……?」

 彼女の言葉を即座に噛み砕くが、情報が広がらない。
 名前の知らない心臓という表現から、彼女の心臓は他人の物になっていると捉えられる。
 だが、理由が見当たらない。本来の心臓はどうなったのか、如何なる理由で名も知らぬ心臓を持っているのか。
 そもそも、心臓の入れ替えとは容易なのか。生命体としての維持は可能なのか。
 時間も惜しいため、無尽蔵に湧き出る疑問に無理やり蓋を被せたタスクは今一度、アンジュと視線を交差させる。

「……うん。今はその言葉だけで、アンジュを信じるよ」

 元より彼女を疑うつもりはない。
 愛する女の言葉を信じてこその男。
 アンジュが紡ぐ言葉こそが真実であり、故にタスクは受け入れる。

「それじゃあ――」

『そうね――』

 男と女は因縁の相手を見入る。
 幾度無く世界に穢れを振り撒いた諸悪の根源。
 世界の創造主にして、生命体の頂点である神。
 理を調律する者にして、最期の壁。

 凡そ人間では敵わない実力を秘めた超越者は無慈悲にも光の刀身を振るう。
 この一撃を以てヴィルキスが斬り裂かれ、神殺しの偉業は神話に至らず幕を下ろす。

 男――タスクの意識こそ戻ったが、戦局の要であり勝利の鍵であるヴィルキスは依然として撃墜寸前。
 出力は低下し、装甲に剥がれが見え、エネルギーも枯渇寸前。
 そして何よりも神殺しの主役たるタスクが絶命寸前である。

 ――だからどうした。ヴィルキスの刃が迫る光の刀身を弾き返した。

 オープンチャンネルに切り替えると、彼は叫ぶ。
 力の限り、生きている限り。

「勝利を確信していたかもしれないが――残念だな! 俺は、俺達はまだ終わっちゃいない!」

「やはり息をしていたか……黙ってそのまま死んでいれば余計な苦痛を合わずに済んだというのに。
 悪趣味な男だ、そこまで苦痛を味わいたいのなら……貴様を無限獄に叩き落とし、痛覚の続く限り、痛みを与えてやるッ!」

『どれだけ自分を特別視すれば悪趣味なんて言葉が出るのよ……信じられない、無理、キモい、死ねば良いのに。
 タスク――あんな奴に負けたら絶対に許さないから。触れ合うどころか、同じ空気を吸うことだって許さないんだから』

「勿論さ、アンジュ。このまま負けてたまるか……まだ、皆が頑張っているのに、俺だけがリタイアだなんて絶対にするもんか」

「――――――――――なに?」

 再び刃と光の刀身が重なり合い、夕暮れ掛かる世界を紫電が照らす。
 ヴィルキスが器用に片腕で銃を取り出し、零距離からの連射を仇敵へ放つ。
 疎らに散らす選択をせず、一点に狙いを定め衝撃を重ね、装甲の突破を試みる。
 出力、火力共に相手が圧倒的に上回る。ならば策を用いぬ限り勝機は訪れない。
 アンジュにより生きる力を分け与えられたタスクの心が浮ついていないと云えば嘘になる。
 だが、頬の緩みは消えた。彼は正真正銘、神殺しの立役者だ。今はただ、全ての因縁に決着を果たすべく目の前の男を倒すのみ。しかし。

「話にならん。貴様は私に何度と同じことを繰り返させるつもりだ」

 ヒステリカの蹴襲によりヴィルキスが後退するも、依然として銃弾が放たれる。
 銃爪は戻らない。銃弾の雨が止む時、それは今のように外部から干渉されぬ限りあり得ない。
 疾風を生む斬撃が、捻り潰すが如く全ての銃弾を無に帰す。

「何をどう繰り返した所で、どれだけ貴様が稚拙な言葉を重ねようと私は負けん。
 自我を保てずに戯言を吐く貴様が、調律者である私に勝利するなど、あってはならん」

 己の敗北を欠片も匂わせない発言が彼を調律者として、生命体の頂点としての威厳を示す。
 対の機神に空けられた距離は大凡二十程度、互いの速度を考えるに詰めるには数秒が必要かどうか。
 タスクは額から流れる汗を拭わずに、生唾を飲み込む。
 気を抜けば死。開戦から変わることのない当たり前の前提が今は、尋常ではない鎖となり、精神を縛り上げる。
 操縦桿を握る腕が震えるのは武者震いか。恐怖なのか。握ることさえままならない程に衰弱しているのか。

 全てだ。全てが当て嵌まり、全てが当て嵌まらない。

 満身創痍の果てに意識を失い、愛する女の一声で目覚めた男に常識が通用するものか。
 元よりヴィルキスに乗り込む以前から常に死と隣り合わせだった。

 男が今も意識を保ち戦っているのは正者死者含めた全てのために、愛する女のために、調律者に殺された一族のために、何よりも己自身のために。
 それらを全てひっくるめ意地と表す。
 男が覚悟を決め、女が支える。タスクの背後から彼を包み込むように優しく両腕を回したアンジュが耳元で囁く。

『あんたは――タスクはあたしが愛した男なんだから。もっと自信を持ちなさい。
 エンブリヲ何かに負ける訳ないじゃない。ううん、平行世界中の男達をかき集めても、タスクが一番だから』

 重なる唇。
 互いを求める舌が絡み合い、存在と愛を確かめ合う。
 来いとも云えず、会いにも往けず。
 刹那の邂逅であったが、彼にはそれで充分だった。

 唇を離した刹那、淡い夢が終わる。

「ありがとう。俺はその言葉だけで戦える――続きは帰った後に。それに皆にも君のことを紹介させてもらうよ」

 瞳を閉じた姫君は彼へ身体を委ねる。
 永遠の眠りに就いたように、彼女の身体は軽い。
 数秒の間、愛する者を見つめ、微笑。
 美しい、自分には勿体ない佳い女だ。
 だから、もう少しだけ待っていてくれ――タスクは再び操縦桿を掴んだ。

「決着の時だ。お前のせいで不幸になった全ての人々へ悔いながら、地獄に墜ちろ」

「……くだらん。どのような思考回路を持てばその結果に辿り着く。
 ホムンクルス以下の知能だな。現実と幻想の区別もままならぬ貴様に何が出来ると言うのだ」

「――お前に勝てる」

 刹那、雷鳴が轟いた。
 片翼の翼から煌めく雷光が迸る。
 蒼白の粒子が空を舞い、その姿は天使と同義。

「俺はお前に勝たなくちゃいけない。アンジュが、ヴィルキスが、皆が! 俺に託したんだ、なら、応えるのが俺の役目!」

 黒の契約者達に託された雷光をありったけ出力へ回す。
 機体維持の雷を攻めに転じさせなければ、ヒステリカを破壊することは不可能である。
 何度も敵対を繰り返したタスクだからこそ、目の前の機神がデタラメな性能であることを知っているのだ。
 現に有効打と呼べる一撃があっただろうか。戦を対極で見るよりも、一手先を考えろ。

「俺は皆と共に在る! 独りのお前に負けるものか!」

 更に雷鳴が轟く。
 ヴィルキスの表面を趨るは雷光。
 幾千もの軌跡を辿り、白の機体に蒼が迸る。

「行くよヴィルキス――皆のために」

 雷光を媒介に初速の段階で最高速を叩き出す白い流星が複雑な軌道を描く。
 黒き機神に感知されることなく一閃。すれ違い様の斬撃が此度の戦に於いての初撃を飾った。

「なんだその速度は……ッ、貴様らのどこにそんな力が……ぐッ!」

 背後からの衝撃にエンブリヲは苛立ちを隠せない。
 咄嗟に操縦桿を切り返し、反撃を試みるもヒステリカの振るう光の刀身が空を斬る。

 四方八方、縦横無尽。
 雷光を宿したヴィルキスが自在に空を駆け巡る。
 凡そ人間の反射速度を、機体への伝達速度を上回る流星が黒き機神を追い詰める。
 調律者が神の威厳を示し喰らい付くも、遅い。彼が斬撃を認識に至るまでに更なる斬撃が機体の表面を趨る。

 何重にも傷を重ねられたヒステリカが揺らぐ。
 左半身のバランスが欠け、その隙を逃さずヴィルキスが正面から突破を図る。

「覚悟ォ!」

「――くくく、飛び込んだな、馬鹿めェ!!」

 懐に踏み入られる前にヒステリカがヴィルキスの両肩を掴む。
 輝き続ける雷光が弾ける中で装甲に亀裂が走る音が響き、完全に停止。
 遙か高き空の上で睨み合う対の機神。初めに動きを見せたのは絶望の化身だった。

「塵一つ残さず」

 黒き機神の背後に顕現するは四方の門。
 翼より開かれるは万物悉くを無に帰す嵐の前兆。

「この世界から……私の前から」

 圧縮された風の悲痛なる叫び声が鼓膜を斬り裂く。
 早く開放してくれと嘆く弱者の怨嗟が渦巻いた。

「絶命しろォ!」

 神の宣告を合図に世界を終焉へ導く嵐――ディスコード・フェイザーが吹き荒れる。
 息をする間もなくヴィルキスを包み、幾多もの鋭利なる風の刃が装甲を刻み上げ、下界の方角へ追い遣るようだ。
 嵐からの脱出を試みるも、操作系統は全て抵抗に諍えず、雷光の出力を以てしても不可能である。

 機体が落下すれば爆発四散、地上に残る仲間をも巻き込んで全ての生命体が消滅するだろう。
 自分の弱さに他者を巻き添えになどするものか。歯を噛み締めながらタスクはヒステリカを射貫くように。
 装甲の先――エンブリヲを射殺さんばかりに睨み付け、力の限り叫ぶ。

「 ̄ ̄ ̄ ̄Z_____ッ!」

 声にも満たない咆哮。
 獣の其れと変わらない認識外の言葉未満を叫び続け、己を奮い立たせる。
 叫びは自己暗示であり、鼓舞の類い。己の中に眠るスイッチを押し続けるための麻薬。
 ヴィルキスが嵐の中を突き進み、

 コックピット内部に襲い掛かる重力にタスクの顔が歪む。
 視界が揺らぎ、意識は定まらず、血反吐すら宙を舞う。
 遠のく意識を強引に現世へ押し戻し、両目を見開いた彼は再度叫ぶ。
 それらを嘲笑うは絶対なる神。

「無駄な足掻きほど見苦しいものは――――――なに?」

 勝利を確信した神の甘美な音色に疑問の色が浮かび上がる。
 些細な点が広がり、全てを呑み込むように神の緩み切った意識を一瞬にして覚醒させた。
 下民と見下した男が、嵐の中で輝き続けているその光景こそが奇跡だ。
 死に損ないめ、見苦しい。不満を吐くが、相手には届かない。

 四方の嵐は決して牽制代わりの武装に非ず。
 メインウェポンと呼ばれる代名詞にして象徴と表現しても差し支えない、いわば必殺技の類いだ。
 易々と突破される代物ではないのだが、白き流星は尚も止まらない。

 正面突破。
 雷光の爆発力を糧に、流星は強引にも嵐を斬り裂いた。
 振るわれた刃の軌跡を追い、質量の衝突による爆発が発生し、爆風が晴れる前だった。

 煙闇の中を不自然に蠢くヴィルキスをエンブリヲの瞳が捉える。
 あまりの速度に目眩ましが却って流星を際立たせ、闇の中にはっきりと一閃の軌跡が刻まれる。
 ヒステリカの背後に向かった其れに対応するべく、調律者は嵐を一度止め、振り返る。

 其処には取るに足らない雑魚がいるはずだった。
 其処には満身創痍の死に損ないがいるはずだった。
 其処には愛する女の幻聴が聞こえ始めた死人がいるはずだった。
 其処には――この私に殺される猿がいるはずだった。

「俺を塵一つ残さず絶命させるんじゃなかったのか。おかしいな、俺は何度お前に似たようなことを言われたか」

 ヒステリカに居座るエンブリヲの視界を支配したのは光。
 本能的に瞳を閉じてしまう程の輝き。その光源体は一つしか――奴以外に有り得ない。


 ――雷光の機神が天へ刃を翳し


「この轟く雷光がお前を葬るッ!」


 獅子雷哮。


 天高く翳した刃に集うは、彼の勝利を祝福せんとする稲妻の眩き。
 空が裂れ、炎が舞うが如き閃光の果てに生まれるは稲妻の刃、是即ち雷刃。

 機体を遙かに凌駕する雷刃の煌めきが、神を無意識に追い詰める。
 額から流れる汗に気付いた時、神は初めて己の死する未来が見えたという。
 そして、即座に否定を強調し、誰が誰に殺されるのか、馬鹿馬鹿しい、有り得ぬ。
 調律者の中に当たり前の前提として成立された己こそが万物の頂点だという、傲慢の枠に納まりきらない自尊心が爆発する。

「たかが雷如きでこの私を葬る? 先まで死体と会話していた貴様が? 呆れて怒りも湧いて来ぬ」

「仲間から託された雷が! アンジュが導いてくれた残り少ない生命の灯火が! 神としての体面すら保てないお前を葬ると言ったんだ!!」

「抜かせこの猿――め、が……っ」 

 エンブリヲの言葉を両断するは二度の雷哮。
 雷刃が更に空を裂き、天高く雷光が迸る。

「馬鹿な、幾らヴィルキスと云えどその雷の質量はオーバーロード……先に機体が消滅するぞ」

 元より片翼の天使の装甲に罅が見られ、亀裂も無数に表面を駆け抜けていた。
 雷光の輝きにより見た目は改善されるも、実質的な修復には微塵にも至っていない。
 加え機体以上の質量を、比べれば小さい刃に一点集中させれば機体が耐え切れずに滅ぶのも時間の問題である。
 否、時間は必要ないだろう。雷光の輝きが、煌めく粒子が、轟く雷鳴が瞳を眩ませているだけだ。

 撃墜寸前のヴィルキス。
 絶命手前のタスク。
 雨に触れれば破裂する機械。
 吹けば消え去る生命。

「英雄気取りの自己犠牲など時代遅れにも程があるッ! 先を見据えぬ半端物にこの私が敗北するなど、万が一にも有り得んッ!」

 敗北の理由が欠片となり散る。
 決死の覚悟で挑む愚かさは評価しよう。
 一時の激情に身を流され、己に心酔し、自らを破滅に導く猿に敗北するなど有り得ぬ。

 今、此処に神の名を掲げ、万物を悉く塵と化す四翼が最期の展開を見せた。

 雷刃? 嗤わせるな。
 英雄? 誰がだ。
 葬る? 馬鹿も大概にしろ。

 エンブリヲの瞳が捉えるは、果敢にも――無謀にも迫るヴィルキス。

 機体に宿し雷光の輝きはこの上ない目障り。永遠に纏わり付く男へ真なる終焉を与える時来たれり!
 されど白銀の流星を駆けし姫君の騎士は止まらない。
 障害たる四滅の嵐を一閃。蒼白軌跡を描いた雷刃が全てを零へ。

「先を見据えぬ半端物に負けるお前は、どれだちちっぽけな存在なんだろうな――エンブリヲ」

 嵐が消滅し、ヴィルキスの覇道を阻む障害は存在しない。
 対の機神を結ぶ道筋が晴れ、雷速で駆け抜けた白銀の流星が黒き絶望の化身の眼前へ。
 横に構えた雷刃が一際輝き、視界を奪われた神は苛立ちと焦りの混ざる、一種の叫び声を上げる。

「ぐっ……有り得ん……有り得んッ! このようなことは、あってはならないのだ!」

 ディスコード・フェイザーを放つにも圧倒的に時間が足りないために、ヒステリカが銃を構えた。
 絶望の嵐を吹き荒らそうが、銀の翼に希望の――確固たる意志を乗せたヴィルキスは止まらないだろう。
 故に直接コックピットを撃ち抜くよう画策するも、全てが遅い。

 タスクがヴィルキスへ多大なる雷光を宿らした瞬間、運命は定められた。

 エンブリヲが銃爪を引くよりも速くに、雷刃が空を舞う。

「馬鹿な……馬鹿な! 貴様は私にとっての塵に過ぎん、所詮はヒステリカの調整役なんだ。
 それがどうしてこのような……貴様の相手など消化試合にすら満たない……タスク、タスクゥゥウウウウ!!」

 世界を輝かす雷刃が黒き機神の首を撥ね堕とす。
 横一文字の軌跡を描き、漆黒の夜空に不釣り合いたる亀裂が走り――

「エンブリヲ、お前がこれまで不幸にした全ての人々に」

 両腕に握られた雷刃が遙か高き天へ。
 此度のゲームに於いて最も強大たる稲妻が天より――そして地上より。
 轟く稲妻を宿した刃が、世界をも斬り裂く、その手前。

「天の果て――地獄の底で永遠に詫び続けろ」

 刹那、タスクの脳裏を駆け抜けるはかけがえのない仲間の姿。
 生者の務めは死者の想いを受け取り、明日への希望を掴み取ること也。
 彼らに繋がれた意志が、執念が神の喉元へ喰らい付く。

「この一刀を以て、全てを終わりにしよう」

 世界を揺るがし、天を裂く。
 悪を断罪する雷刃が今此処に――。


「己が罪を――二度、刻めッ!」


 神をも斬り裂く乾坤一擲の剣閃。
 迸る雷光が物語るは機神の一刀両断。
 轟く雷鳴が演出するは神殺しの終焉。

 生存者を圧倒し、絶対なる力の根源たるヒステリカ。
 絶望の化身が一種の美しさすら感じられるほど二つに裂け、稲妻が響き、後を追うように爆ぜる。

 遂に、姫君の騎士は遣り遂げたのだ。
 役目を終えた雷刃が刀身ごと砕け散り、蒼白の粒子が天を舞い、
 儚く雪のように地上へ落ち、大本の機体であるヴィルキスもまた、終焉の時が訪れる。
 輝く煌めきは雷光に非ず、爆発の予兆である。限界の限界を突破し、更に限界を超越したようなものだ。
 この瞬間までヴィルキスが稼働していたこと自体が奇跡であるのだが、役目を果たした今、意志が宿っているかのように、彼も眠りにつく。


「俺の想いに応えてくれて、ありがとう」


 鮮血に染まる瞳に憂いの潤いが宿る。
 絶命寸前だった彼が神殺しを果たしたのも、全てはヴィルキスあってこその快挙である。

 装甲が無残に削ぎ墜ち、片翼は消失。
 限界を超える質量の憑依、機体の壁を超越する速度。
 いつ崩れても不思議ではない状況の中、ヴィルキスは最期まで己の役目を果たしたのだ。

 そして、導いたのはもう一人。
 タスクの隣に寄り添い、彼を支えた姫君。


「アンジュ、君も本当にありがとう」


 二度と開かぬ瞳、口、笑わぬ顔。
 この世を去った彼女の言葉が耳に届かなければ、今宵の勝利は掴めなかっただろう。
 彼女曰く名も無き心臓に感謝するしかあるまい。死んでしまったアンジュを再び動かした奇跡の根源である。

 最もタスクの耳に届いた声も、瞳に映った彼女も、彼の幻想に過ぎない。
 だが、彼は夢に溺れず、現実へ意識を覚醒し神殺しの偉業を成し遂げた。
 とても甘い夢だった――雷光の逆流により爆発寸前のヴィルキスの内部にて、タスクはアンジュを優しく抱き寄せた。


「みんなが頑張っているのに、俺だけかっこ悪い姿を見せるだなんて、恥ずかしかったから。背中を押してくれて、ありがとう」


 地上では今も仲間達が戦っている。
 道化師が、超能力者が未だに最期の独りになるべく、殺戮に手を染める。
 信頼のある仲間達が敗北するなど微塵も思ってはいないが、加勢は厳しい――タスクが瞳を閉じる。


「一足先に俺は向こう側へ行くけど、みんなは……遅れていいから。それも、ちょっとじゃなくていい。
 何十年、俺がお爺ちゃんになるまで遅れていい。だから、悔いのないように、笑ってこっちに来てくれることを……ずっと、待っているから」


 かの言葉を最期に、ヴィルキスが栄化が如き輝きに包まれ、一瞬にして爆ぜた。
 夜空に生まれた一つの火花が、世界を穢らわしくも照らし、今宵の戦戟に幕が降りる。
 男は己の意地を貫き通し、愛する者を胸に抱き、散った。その生き様に後悔など無い。あるとすれば――それは。






 エンブリヲは参加者の中に於いて、間違いなく強者であった。
 人間を超越した力と存在感は神として相応しく、現に七十二の魂も消え去る中、彼は生きている。
 常に優勢な立ち回りをしていたかと云えば嘘になるが、それを踏まえた上でも彼の能力は圧倒的であった。
 故に、死に損ないの宿敵たるタスクに切り札であり映し身でもあるヒステリカを両断されたことは、神にとって屈辱の極みだろう。

「許さぬ……貴様だけは未来永劫、永劫回帰、異世界の果てまでも追い掛けて、子孫すら残さず消してやる……っ」

 ヴィルキスの雷刃による一撃によって、ヒステリカの機能は完全に停止。 
 辛うじて原型を止めているコックピット内部にて、エンブリヲのタスクに対する感情が爆発する。
 爆発など生温いと、彼の口から憎悪が止まらず、落下を続ける中で脱出もせずに、恨み言だけが空を舞う。

「私が負けるなど、あってはならんのだ。調律者として、全世界を統べる私が、此処で散る……?
 ホムンクルスの身勝手な行動により、たかが日本の神にも翻弄され、ヒースクリフの用意した箱庭で……冗談も大概にしろ」

 機体の爆発の影響かエンブリヲの瞳に赤黒い血が流れ、しかし、彼は一切拭き取ろうとしなかった。
 染まった瞳は地獄を見ているかのように不快な赤、それも明確な殺意を秘めている。
 下等生物の代名詞であるホムンクルスに半ば誘拐のような形でゲームを強要された。
 ゲームを通す中で、イザナミとイザナギを称する存在に勘付くも、辿り付けずじまい。
 エンブリヲという存在は強大な能力に対し、伴う器の大きさを所有していない、ある意味で人間らしい男である。
 完全に見下している連中に好き勝手縛られることが、彼にとっての苦痛であり、ゲームそのものが生き地獄であった。
 それに加え、決定的な存在は元ゲームマスターであるヒースクリフ――茅場晶彦だ。

「手始めにタスクを殺し、次はヒースクリフ……貴様を殺してやる。貴様さえいなければ……貴様、さえ、いなけれ、ば……」

 ヒステリカの残骸が降下し、重力の負荷が発生するも、調律者は脱出を試みない。
 既に脱出装置は機能を停止しているだろうが、彼には此度のゲームに於いて代名詞と云っても差し支えのない力、瞬間能力がある。

「振り返れば、貴様が私にとっての運命分岐点だろう。それも最低で下品な、優雅の欠片も無いような地獄への、な」

 調律者は何処で道を誤ったのか。
 本田未央やタスク、鳴上悠を相手に遊んでいた時だろうか。
 キング・ブラッドレイに局部を切り落とされた時だろうか。
 違う、そのような序盤の失態など、今になっては所詮、昔話程度の存在だ。

 エドワード・エルリックを信じ、首輪を外すために協力したことか。
 ホムンクルスを相手にするため、タスクと肩を並べたことか。
 盤面を覆すため、ヒースクリフを再構成したことだろうか。
 違う、決定的な瞬間は他にあるはずだ――朦朧とする意識の中、神は記憶の糸を手探りで手繰り寄せる。

 失敗とは、何かしらの原因が存在する。
 過去の経験を活かさず、反省をしない者に、明日は訪れない。
 同じ屈辱を体験しないためにも、神は己の振る舞いによる粗を探す。
 最も、失敗を顧みない性格だからこそ、このような事態に陥っているが、生憎とエンブリヲに余裕は無い。

「――っ、内通者との接触。あの瞬間だ、彼処で迷いを抱かなければ、私は、い、ま、ゴロ……」

 薄い記憶の糸が一点に辿り着く。
 強引に手繰り寄せれば、その存在は運営側の内通者であるアンバーとの接触だった。

 エンブリヲは首輪に搭載されている、或いは魔術的な仕組みにより設定されている盗聴の類を利用し、主催者との接触を試みた。
 結果は無駄足である。しかし、時を飛ばし学院での一幕にて、事件が起こった。
 備え付けのパソコンに殺し合いの情報があからさまに隠されており、エンブリヲは電子の梅へと飛び込んだ。
 確信には至らずとも、ある程度の収穫があるも、情報収集を担当していた分身はヒースクリフによって消去される。
 時を同じく、学院では島村卯月がこの世を去ったが、神にとってはどうでもいいことである。
 目に掛けていた高坂穂乃果も所詮はその程度の存在であると冷めた頃であり、たかが人間一人の死に抱く感情などあるものか。

 醜い人間のエゴに囚われていた彼女であるが、狂気の弾丸とでも称すべきか。
 彼女の放った弾丸が、エンブリヲにとっての運命分岐点である。それは内通者との接触よりも前だった。

 彼はとある決断を迫られていた。
 他者に言われる訳でなく、自分自身の行く先を決める大きな選択肢だった。
 情報を求めるべく、ヒースクリフとの時間を設けるため、彼は見捨てたのだ。
 その選択こそが自分の運命を決定付けた要因である。

 何もエンブリヲは下手に立ち回る必要は無かった。
 結果論であるが、生存者に個体として神に通ずる存在は皆無である。
 当時の驚異と云えば、人間に秘められた無限の可能性を体現する男、鳴上悠。
 ゲームを通じ、苦難を乗り越え、それでも人間らしく前に進み続けるウェイブの二人だけだ。
 鋼の錬金術師、黒の契約者、道化師、竜の魔法少女、超能力者――他にも壁は存在するが、爆発的な奇跡を手繰り寄せる力は、前者二名に比べれば欠けている。
 故にエンブリヲは己の圧倒的な力を振り回し、人間共を蹂躙すればよかったのだ。
 首輪の解除など、そもそもゲームにとってはイレギュラーである。本懐とは、最期の一人まで殺し合うこと。首輪の有無など関係あるものか。

 ホムンクルスに反旗を翻すにしても、辿り着く先は世界の理にして、抗えぬ修正――抑止力が控えている。
 神としての権能さえ取り戻せば、エンブリヲはフラスコの中の小人など、赤子同然であったのだ。

「……そうか、たかが人間一人、それも小娘を見捨てたことが私の失敗か」

 名を本田未央。
 エンブリヲはヒースクリフとの接触を図るため、彼女を見殺しにした。
 高坂穂乃果の放った銃弾から、救うことも可能であったが、彼が選んだのはヒースクリフであった。
 最も彼と接触したところで、得られた情報は最悪の類であった。最初から最期まで彼等の掌の上で踊り狂う。

 本田未央を見捨てていなければ、たられば論であるが、違う道を歩んでいたのだろう。
 見込み違いの見当外れである高坂穂乃果や島村卯月に比べれば、一番の可能性を感じる少女であった。
 あの――あの、渋谷凛と仲間となれば。とあるホムンクルスによる評価である。

「ククク……何故、私が人間一人の生死に振り回される! ふざけるなああああああ!!」

 本田未央の見殺しが運命分岐点だとして、それがどうしたというのか。
 怒り任せにコックピット上部――と云ってもガラクタ同然の鉄板を蹴り飛ばす。
 開放された穴から風圧が一斉に押し寄せ、神の身体の至る箇所から傷口が開くも、気にする素振りを見せず――


「貴様ら如きの因果を束ねても! 私に影響することなどあるものか! 恥を知れ、私は調律者にして、全並行世界を統べる神也!」


 立ち上がり、拳を突き上げる。
 振り翳したその腕で、神は何を掴み取るのか。
 手始めにはやはり、タスクの魂だ。一片の欠片を残さず、全世界から消し去ってやろう。
 次にヒースクリフを念入りに殺す。再構成の際に、消滅の術式と、《彼自身も気付いていないとある術式》が残っているが、この手で殺してやる。
 未だに裏で嗅ぎ回るアンバーと広川も殺害対象だ。否、この箱庭世界に残る人間全てが殺害対象である。

 愚かな人間共。
 調律者の提案を蹴ったことを後悔させてやる。
 新世界を構築するための礎となり、貴様らの名は永遠に、敗北者として語り継いでやろう。

 己の存在を天元突破する程に棚に上げ、神は瞬間移動を行使する。
 行き先はヴィルキスのコックピット内部だ。

 彼処にはタスクが居る。

 交戦の途中からアンジュと会話していた彼であるが、彼女は死人である。
 調律者が蘇生のために、参加者の一人であるイリヤの心臓を埋め込んだが、それは理由にならない。
 長い時間を要するため、エンブリヲの見込みでは殺し合いが終了したとして、その時にはまだ彼女は死人のままであった。
 故にタスクが彼女と会話すること有り得ず、現にアンジュの声は幻聴であり、その笑顔や行為も幻覚である。
 エンブリヲに彼女の声は一切届いておらず、自我を保てずに戯言を吐く輩と吐き捨てた。

 幻覚に囚われる男に競り負けるなど、あってはならないのだ。

 刹那、復讐の炎に燃える神の視界が眩い光に覆われる。
 地上から放たれた稲妻の眩きが、ヒステリカの残滓諸共、エンブリヲを飲み込んだ。



































 そうだ、アンジュ。紹介したい仲間達がいるんだ。


 ……え? そりゃあ、女の子もいるけど浮気じゃないからね。


 かけがえのない、俺の大切な仲間達なんだ。アンジュも気に入ってくれると思う。


 一緒に喫茶店をやろうって、約束したんだ。


 まずは日本人の女の子なんだけど――だから、浮気でもなんでもないよ。


 じゃあ、何者なんだって? 何回も言ってるじゃないか。




 俺が出会った、最高の仲間達さ。



【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 死亡】