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夜空のホウキ雲 ◆BEQBTq4Ltk


 ◆日誌


 俺が活動を初めてから四つ目の世界となる。


 この世界は比較的に穏やかで、俺の居た世界から契約者を差っ引いたような世界だ。


 ……自分で言っていて、訳が分からないな。


 その世界はアイドルが他の世界よりも輝いている世界だった。


 もしも、彼女達が生きていれば。毎度のことながら、そう思わずにはいられない。


 彼女達がゲームに巻き込まれ、一時は世間を騒がしたが、何時の間にか風化してしまった。


 勿論、完全に。という訳ではない。だが、今はこうして、ライブをするまでに復活している。


 世界とは歯車だ。


 一つが欠ければ、再び動けるように、調整されてしまう。悲しいことだがな。


 ――この世界に異常は見られない。今日の日誌は之で終わりとする。






「全く、猫使いが荒いおてんばお嬢さんだこと」


 猫――マオと呼ばれる黒猫はタイピングを追え、上半身を天上へ伸ばす。
 ぐっと伸び、疲れが溜まっていたのか、ついでに欠伸も出てしまった。

 彼が滞在する空間はワンルーム。
 ベッドやパソコンが置かれ、白を基調した部屋である。
 殺し合い終了後、崩壊する世界に残っていた彼を救出する者が現れた。

 最初は警戒していたものの、敵意は無いと見なし、後を付け、今は彼女達の仲間となった。
 その際、雪ノ下雪乃の傍を離れなかった、人間ではない仲間達に別れを告げることになる。
 それが彼女達の選択ならば、猫から深く言う台詞もなく、彼は彼として新たに生きることを選んだ。


「ねえ、猫。もう終わったかしら」


 バスルームから現れた黒髪の女がタオルで頭を拭きながら猫に語り掛ける。
 赤い服を身に纏い、慣れた手付きで冷蔵庫からアイスを取り出すと、
 エアコンの下に移動し、口に頬張った。彼女が猫の新しい飼い主である。


「終わったぞ。全く新しいご主人様は猫使いが荒いな。機械音痴にも程がある」


「あんたね、死ぬしか無いあんたを救ったのは誰だと想っているのよ。
 ……まあ、最初に謝ったけど、到着が遅れたことは本当に申し訳ないと想っているのよ」


 そう、彼女達が早く到着していれば、救える生命が他にもあったのだ。
 全てが遅く、御坂美琴までもが死亡した後となれば、生存者は零である。
 しかし、彼女達を責められる者などあるだろうか。ホムンクルスは抑止力すら一瞬とは云え、欺いたのだ。


 聴く所によると、彼女達が箱庭世界に気付いたのは、抑止力と同じタイミングだったという。
 精巧な前準備は大したものだと言っており、ヒースクリフの手腕であろう。


「それは言いっこ無しだ。それにもう少し早くに到着していれば、聖杯の餌食になっていたさ」


「うーん。あんなに聖杯の泥が溢れていたなんて予想外だわ。おかげで優勝者の遺体に触れることも出来なかったの。
 それにしても、あれだけ泥まみれになって、原型を留めていたなんて、よっぽど壊れていたのか……はあ、彼女も運命を歪められた被害者なのに」


「経験者は語るって奴か。たしかに御坂は本当なら、もっと優しい少女だったかもしれないな」


「基本的に巻き込まれた参加者はね、被害者なの。勿論、そこで殺人を犯したことを肯定するつもりはないわ。
 なんでしょうね、あまり気の利いたことは言えないけど、誰もが無我夢中なのよ。生きるために精一杯で、だからすれ違いが於きて、悲劇が生まれるの」


 そう語る彼女の瞳はどこか懐かしい記憶に想いを馳せるようだった。
 後に猫は聞いたが、彼女もまたとあるゲームの参加者であったという。
 此度のゲームとは異なり、複数の生存者が主催者を打倒したらしく、その事実を聞けば、後悔せずにいられない。
 自分達も戦力は申し分無かった。ただ、腰を据える時間が圧倒的に足りなかったのだ。
 強者が蹂躙する中、弱者は逃げ惑うしかなく、牙を持つ者は戦うしか無かったのだ。


 そして聞けば、彼女の参加したゲームは茅場晶彦が参考にした数少ないサンプルの一つであるという。
 ホムンクルス――お父様によって、バトル・ロワイアルを目にし、此度の悲劇が始まってしまった。
 彼はよりゲームらしさを追求するべく、真似をしながらも独自性を創り上げ、最終的には最期の願いにも仕掛けを施したという。


「悲劇と云えば聖杯もね。ほんと悪趣味よ、あんな設定した奴。アンリマユ認定してもいいくらいだわ。
 ……それが最期の抵抗だったのかもしれないけど。その、茅場晶彦って男は最終的に参加者になったんでしょ?
 だから、願いを叶える優勝者に苦痛を与え、成就を妨害し、最期の最期まで自分の掌の上で踊らせていた……うん、やっぱり悪趣味な男よ」


「それは俺も否定しないな――っと、時間だ」


 時計の単身が七を指し示し、猫は机の上から跳ぶと、ベッドに着地する。
 彼の行動を見てから、彼女も動き出し、ジャケットに袖を通す。


 今日も今日とて見回りである。
 此度のゲームによって発生してしまった被害を確かめるために。


「今日はどこだっけ。嫌な予感がするけど」


「シビュラシステムって奴が国を支配する世界だな」


「うわー、ノーザンキューよ。猫、キャットフード奢るから一人で行ってみない?」


「却下だ。少しは自分から機械に触れるようにしないと、治らないぞ?」


「ぶーぶー」


「全く……?」


 何度目になるかも分からないやり取りを繰り返し、猫はベッドの上にCDケースを見つけた。
 表面を見てみると、何やら女子高生が映っており、彼女達のバンドなのだろうと推測する。
 しかし、今の飼い主にそのような趣味があるとは思えないため、軽く鼻で笑う。
 すると、聞かれていたのか、苛立ち混じりの言葉を投げられるも、無視を決め込む。



 ――それよりも、時間だ。


 そう、彼女を急かし、猫は扉の前に立った。


「その子達もね、一緒なのよ。運命を歪められて、それでも精一杯頑張った、彼女達の証なの」



 ――そうか。


 運命を歪められても、時計の針は止まらない。
 故に人々は何れ、行方不明になった彼等のことも忘れてしまう。


 だが、彼等の生きた証が消える事は有り得ない。
 世界中の何処かに、彼等を大切に想っていた人が消えない限り。


 だから。


 黒、銀、蘇芳。
 それにノーベンバー11も含めてやる。


 俺がお前らのことを忘れない限り、


 お前達の証は此処に有り続ける。




 そして、ふと。



 夜空に一つの星が、輝いた。


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