022
I see the fire ignite ◆8UeW/USp1g
(さてと、どうしたもんかな)
見上げるとどこまでも続く真っ黒な空が広がっている。
生命も、人としての尊厳も、全てを一色に塗り潰してしまう黒。
終りと始まりを内包した空の下、一人の青年が顔を顰めている。
(殺し合いたぁ、随分とクソッタレなもんに巻き込んでくれたじゃねぇか)
一見すると一般人が恐怖に怯えていると思われるが、内面は酷く冷静で全く揺らぎがない。
いきなり宣言されたバトルロワイアルというイカれた催し。
黒髪の青年、
ウェイブからすると訳がわからないとしか言いようがなかった。
それどころか自分の愛用の帝具であるグランシャリオも没収されて心許ない。
帝国の軍人であるウェイブにとって常に身に付けている武具を気づかぬ内に奪われるなど一生の恥であり、拭えぬ失態だ。
こんなことが
エスデスに知られでもしたらどうなるか、考えただけでも冷や汗が止まらない。
故に、気分が滅入ってテンションがいつもより落ちるのも仕方ないというものだ。
(逃亡防止の首輪までしてくれる大サービスだ。用意周到もここまで来ると呆れちまう)
だが、頭の思考はいつも通り平常を保っている。
このようなことで冷静さを失っていてはイェーガーズの名が泣いてしまうし、 帝都の軍人として失格である。
ウェイブの根幹にあるのは薄れることなく今も色濃く残っている恩人の言葉。
国の為に尽くしてくれといった期待の言葉。
(こんな悪趣味な催しを開いたヒロカワはしっかりとシメとかないと)
本来であるなら、このようなことに巻き込まれている場合ではないというのに。
帝都で暗躍する暗殺者集団――ナイトレイドが帝国の転覆を今も狙っているはずだ。
そんな最中、自分達イェーガーズが半分以上行方不明となればどうなるか。
考えるまでもないことだ。
間違いなく帝都は荒れ、民が戦乱に巻き込まれる。
それだけは防がなくてはならない。
(さっさと帰る為にも、バトル・ロワイアルで優勝する。それもまた選択肢の一つなんだろうけど)
民を護ると決めたのだ。どうしようもない帝国でも、平穏を望む民がいる。
そんな民を少しでも護りたかった、救いたかった。
喜んでくれるなら他には何もいらないと思ったのだ。
いわば、帝都の最前線で悪を狩る特殊警察。そこに入ったからには覚悟はしている。
その過程で人を殺すことも後悔をしないことも。
(そんな選択肢、こっちから願い下げだ。ここでヤル気を出した所でメリットがないことぐらい気づく。
何がいかなる望みを叶えよう、だ。 無理矢理に人を拉致しておいて信じられっかよ。
つーか、拉致った元凶の口約束をそのまま信じるアホがいるか。
後になって約束を反故にすることなんて幾らでもできるだろうが)
だからこそ、ウェイブは殺し合いを開いた広川の思い通りになんて動かない。
理由ははっきりしていた。こんな殺し合いに巻き込んだ主催者など信じられないの一言にすぎる。
目先の餌にホイホイと食いつく馬鹿だったり、心細さで追い詰められ、殺し合いを許容してしまう弱者だったり。
この催しに同じく巻き込まれた中には危険人物と化す参加者はそれなりの数は存在するだろう。
もっとも、ウェイブ自身はそんな馬鹿な真似をした参加者に容赦をするつもりはない。
最初は媚を売っておいて後ろから刃を突き立てる者もいるだろう。
いつ如何なる時も油断してはならない。
怯え惑うならまだしも、純然たる敵意を武器に襲い掛かってくるなら、始末はつける。
(本当によくできてやがる催しだ、バトル・ロワイアルッ。ろくでもねぇな、全く!)
現実的に生き残る手段を考えると、ギリギリまで踏みとどまるのが最善だと理解しているにも関わらず乗ってしまう狡猾さ。
このバトル・ロワイアルは人を誑かすのにはもってこいの催しだ。
(……それよりも、ヒロカワに反抗するって決めたからには、しっかりとプランを立てておかなくちゃな。
第一に脱出手段。歩いて脱出なんて当然不可能な訳だ。この時点で手段は狭まっている。
そうなると、解りやすい手段として挙げられるのは船とかか? とはいっても、使えなきゃ意味が無いんだけどな)
そもそもの話、主催者である広川が脱出の手段となるものを混ぜているとは思えないし、
ウェイブが主催者であるならばそんな脱出の手がかりなど置かない。
この殺し合いに何の目的があるかどうかは不確かなので、断言はできないけれど。
その可能性を含めても、ウェイブには脱出の手がかりとなる蜘蛛の糸を垂らす必要性は感じられなかった。
あったとしても、そこには罠が仕掛けられている。
繰り返すようだが、広川を信じることだけは絶対に避けなければならない。
全てを疑えとは言い過ぎではあるが、そのぐらいの心意気でなければ自分など即座に死んでしまう。
(仮に脱出に通じる手段があったとしよう。それを使って困るのはヒロカワだ。なら、当然そうはさせまいと妨害はするはず。
それとも、ここからは絶対に抜け出せないっていう慢心があるのか……?
確かに俺達がいる場所がこの世界の何処にあるか知らねぇ分、安易に脱出なんてできねぇよな。
まあ、地図に記されている場所を調べないことには始まらねぇか。
この島の全容を知ってから有益な脱出手段を見定めるが一番、か)
結局、脱出手段に関しては保留せざるを得なかった。
広川の繰る手がどれだけの規模かわからない分、動くのは慎重になってしまうのは否めない。
この島の全容を知らないウェイブが持っている情報など微々たるものなのだから。
殺し合いが始まってから数十分しか経っていないのだ、すぐに結論が出るはずもなかった。
(というか、脱出以前に俺達の首に付けられた首輪をどうにかしなくちゃな。
これを外さなきゃ、幾ら脱出ができても全員爆殺だ。一応触ってはみたけど、工学については門外漢だからなぁ。
俺はお手上げだし、これは素直に他に詳しい奴を探し当てるしかないか。
首輪のサンプルや工具も手に入れる機会があったら、持っておかなくちゃな)
そして、首輪について。ウェイブは自分の首に嵌められた首輪を自分の目で見ていない。
手で触るなりしただけで何の考察も出来ない状態だ。
それでも、あえて考察すると、この首輪に何が備わっていたら厄介か。
(この首輪はただの逃走防止の用途に使われるだけの枷ではないはずだ。遠隔爆破は言われていた通りだと仮定する。
ただそれだけじゃあ、心許ないはずだ。ならば、それに付随してどんな機能がついていたら動きが阻害されるか)
断言できる。付けられた首輪は脅しだけではなく、バトル・ロワイアルを円滑に進める為の補助も兼ねているはずだ。
ここまで用意をしておいて、今更この程度の手間を惜しむ奴ではあるまい。
(
現在位置は当然脱出の阻害ようそとして知られているはずだ。まあ、今は気にしててもしょうがねぇし無視でいいか。
それと…………盗聴か。まあ、心の中で思ってることまで読まれてちゃお手上げだけどな。
一応、首元を完全に隠すスカーフはあるけど……盗聴を防げるって訳にはいかないか。
それに、俺が防げても、他の奴等が防げなかったら意味はねぇよ。
ともかく、大事なことを話す時は……筆談、か?
まさか隠さなきゃいけねぇことを口頭で喋る馬鹿はいねぇだろうし、そこまで神経質にならなくてもいいか)
思考を重ねれば重ねる程、自分達が置かれている状況が雁字搦めだということが再認識されていく。
無論、脱出を諦めるつもりは毛頭ないし、広川に屈するのは死んでもゴメンだ。
彼に従うぐらいなら死んだ方がマシである。
そもそもの話、殺し合いなんてものに巻き込まれたのが全ての元凶なのだ。
何が目的なのか。最初の部屋にいた参加者の中には護るべき弱者もいたし、自分なんかでは敵わないようなエスデスも同じく拘束されていた。
強者だけを集める見世物ならわかるが、そこに弱者を入れてどうしたいのか。
少なくとも、エスデス辺りと出会ったりしたら――。
問答無用に殺してしまうといったことはないと信じたいけれど、我等が上司は大変にエキセントリックな人物だ。
おまけに、同じく巻き込まれている
クロメとセリューも暴走しがちで自分の道をひたすらに往く傾向がある。
(ったく。ここにランがいてくれたら、こんなこと考えなくても済むのに。俺以外の奴等は絶対気の赴くままに動いてるに違いねぇから、俺がこういう役割をしなきゃな。
あぁ憂鬱だ。クロメ達ならともかく、隊長に関しては絶対に会いたくねぇ。グランシャリオを没収されましたなんて恥晒しなことがバレたら――ひぃぃぃぃぃぃぃい!!!!)
正直、彼女達は放置していたらとんでもないことを仕出かすだろう。
我が強い彼女達のことだ、気に入らない奴がいたら殺しにかかってもおかしくはない。
そして、そんな彼女達を上手くフォローできるのが自分しかいないことが彼を慣れない考察係に追い詰めていた。
本来なら、頭脳担当は落ち着き柔和青年であるランの役割だ。
自分は前線で武器を振るっていればいいのに、今回に限ってはそれも通用しない。
加えて、ここにはナイトレイドの悪名高き
アカメがいる。
出会って即殺し合いが決定づけられた彼女とも、万全でなかったら避けたい所だ。
グランシャリオを取り戻してからならまだしも、今の彼は慣れない武器を使って戦うしかないのだから。
腰に携えた剣は業物ではあるが、やはり使い慣れた武具が一番だ。
(剣があるだけでも、剣があるだけでもありがたいんだ……。だけど、隊長にバレない内にグランシャリオを取り戻そう。
いざとなったら何故か入ってた
タツミの写真セットでごまかそう)
改めて振り返ると、唯一の癒やしはタツミだけだ。彼以外、まともな知り合いが全く存在しないのはどういう嫌がらせなのか。
正直、かなりメゲそうだ。安心安全な知り合いが一人だということはウェイブの胃痛を加速させる。
深い溜息をつきながら、彼女達の暴走ぶりを考えて更に深くため息をつく。
探すものリストには胃薬も必要なのかもしれない。これから先の展望を思うと、頭が痛くなってきた。
「んじゃ、まあ。最後に、景気付けとして」
けれど、進むべき道は定まっている。
彼が振るう剣の切っ先は広川に加え、このバトル・ロワイアルで悪を成す参加者達だ。
弱者を甚振り、暴虐の限りを尽くすクソッタレな奴等を斬るのは――イェーガーズの役目である。
「よぉ、ヒロカワ。俺達みてぇな殺られる覚悟がある奴等だけを集めるならまだしも、血生臭い事を知らねぇ奴等まで巻き込んで……!
こんな理不尽を強いる奴を、俺達イェーガーズが許す訳にはいかねぇよなぁ!」
溢れんばかりの正義の心はこの胸に込められている。
心は熱くとも、頭は冷静に。
ウェイブの剣は弱者を護る為に在るのだから。
「聞こえていようがいまいが構わねぇ。必ず、お前は……俺達がッ! イェーガーズが狩る!!」
彼が願うのは帝都の守護ではあるが、その目的を追求すると虐げられている弱者を護ることだ。
悪の手を、腐った世界を、少しでも自分が退ける手助けになれば。
そう思って、帝都の軍人になったのだ。
――――往こう。
自分が信じる正義を成す為に、ウェイブは歩を進める。
【C-7/1日目・深夜】
【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。
1:他参加者(工学に詳しい人物が望ましい)と接触。後ろから刺されぬよう、油断はしない。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:首輪のサンプル、工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:クロメ達はともかく、エスデスはグランシャリオを取り戻すまで会いたくない。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
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027:偽りの悪評 |
最終更新:2015年05月12日 23:37