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黒色の殺意 ◆w9XRhrM3HU



タバコを一本取り出し、唇に咥え火を着ける。
煙は喉を通り肺を一通り満たした後、再び喉を通り外へと吹き出された。
普段は吸わない銘柄のタバコ。味は濃い目だ。
タバコは唇から離れ人差し指と中指の間で、その先を小さく燃やしながらと灰へと変えていく。

「殺し合いか」

狡噛慎也は恐怖するでもなく、絶望するでもなく、ただ淡々と事実を再認識し整理する為に呟いた。
またタバコを唇へ運び、咥えたまま両手をポケットの中へと入れる。
そして、煙に吸い寄せられるように夜空を見上げた。
夜空には星が以前変わりなく光り輝いている。

「二つ、輝きが強くなったか?」

そう口にし、狡噛は空に向かった首を今度は下に向け、ポケットに入れた両手の内の右の手を出した。
その手に握られたリボルバー式の拳銃を見つめる。

「アンタの形見になっちまったな。とっつぁん」

奇妙な偶然だ。
狡噛の元同僚から譲り受けたそれが、また支給品として巡り巡って狡噛の手に渡った。
勿論、同じ種類の別物という可能性もあるが、このようなアナログな銃が今時そうそうあるとは狡噛には思えない。
それに自分が使用する前に行った手入れの跡も確認できる。
広川の手に渡ったというのが不服だが、この状況では非常に心強い。

「まだ、もう少し借りておく事になりそうだよ」

狡噛は銃を懐にしまう。そして今度はデバイスを開いた。

(随分と旧式な機器だな)

狡噛が扱う機器に比べ、あまりにも古く旧式なデバイスは子供の玩具のようにすぐ扱うことが出来た。
指をタブレットに滑らせ、参加者名簿、地図、ルール、デバイスそのものに搭載された機能を狡噛は確認していく。

(俺の知る参加者は槙島だけか。監視官が来ていないか不安だったが、不幸中の幸いという奴だな)

この殺し合いに呼ばれる直前、別れた監視官の常守朱の名前は何処にもない。
狡噛が誘拐された場所と朱の居た場所が近かった為、彼女が巻き込まれた事も危惧したが杞憂に終わったようだ。
煙と共に狡噛は安堵の息を吐いた。

(俺と槙島の同時失踪……恐らく公安は俺が槙島を殺害あるいは、その逆と見て捜査を進めるはず。
 監視官が俺達が攫われた場面を見たのならまだしも、その見解で確実に捜査は出遅れるだろう。
 支給された食事の量から考えても、殺し合いは多くても三日。
 公安が本格的な捜査に乗り出した時には既に死体の山か)

狡噛自身既に刑事ではないが、意味のない殺人遊戯を黙って見過ごす程冷酷ではない。
むしろ、この催しを開いた広川に怒りすら感じる。
だからこそ、狡噛は殺し合いを止める方法を模索していく。

(通信機器も没収されちまってる。公安の介入は望めない。なら自力で何とかするしかない)

解決しなければならない問題は多々あるが、先ずは首輪だ。
何をしようにも、こいつがあったら話にならない。
最初に首から上を飛ばされた、上条という少年の二の舞だ。
猟犬だのと言われていた事もあったが、実際犬のように首輪を着けられるのは気分が悪い。

(さて、その肝心の首輪は)

首輪をそっと撫でながら形を指で感じ、頭でその形をイメージする。

(目立った繋ぎ目は無し。盗聴機能はありそうだな。
 首輪にレンズのようなものはないから、盗撮は出来なさそうだが、
 首輪ではなく、会場内の何処かにカメラを仕込んでいる可能性はあるかもしれない)

どちらにしろ今の段階では首輪の解析は不可能。
易々と手に入るとは思えないが、首輪のサンプルと首輪を外す為の道具を入手しなければならない。

(だが、サンプルの首輪は死人から取らなければならない……)

それはこの殺し合いによる死人の許容でもあった。
目の前で殺し合いが起きれば狡噛は止めに入るし、人死には可能な限り避けたい。
それでも、何処かで誰かが死んでいれば……そう考えているのも事実だ。

「もう刑事(デカ)でもないってのにな。……監視官、あんたならどうしてた?」

この場には居ない。後輩であり上司に狡噛は問いを投げる。
当然答えはない。

「俺は刑事であることを止めた。だが俺は俺のやり方で、この殺し合いを止めてみせる」

目の前の人死には当然止める。だが全てをそうするわけじゃない。
殺し合いに乗る者。その中でも、どうしようもなく救いのない殺人者。法や秩序では裁けない者達。
彼らを殺しその首輪を手に入れる。
無論、人の命に優劣をつけるつもりはないし、狡噛自身殺人者になることに変わりはない。
自己満足といえばそれまでだ。

「少なくとも、俺がこの場で知っている殺人者は槙島聖護ただ一人……。
 つまり殺し合いを止める事と、俺の私情は一致している」

狡噛の黒いスーツには不似合いな白。
その白が彼の頭から離れない。
槙島聖護。狡噛が刑事を辞めるきっかけになった男であり、宿命の敵。
狡噛に法を捨ててまで殺すことを選ばせた男。
あの男も、この場に呼ばれている。
狡噛の追跡中に奴も呼ばれたのだと考えれば、おかしい話じゃない。

「だから、俺が今やるべき事はさっきまでと変わらない。
 槙島を見つけ殺す。それだけだ」

首輪があろうとなかろうと、狡噛のすべき事は変わらないのだろう。
その宿命と湧き上がる激情に従い、彼は槙島聖護を殺す。
舞台は変わったが、役者とストーリーは変わらない。

正義と黒くも熱い殺意を含ませながら、刑事であり執行官だった男は殺し合いの戦場へ歩みだした。

【D-5/深夜】

【狡噛慎也@PSYCHO PASS-サイコパス-】
[状態]:健康、槙島への殺意
[装備]:リボルバー式拳銃(5/5 予備弾50)@PSYCHO PASS-サイコパス-
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考・行動]
基本方針:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:槙島を見つけ出す。
2:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
※一期最終話で朱が意識を失った後、狡噛が槙島を殺す以前からの参戦です。

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GAME START 狡噛慎也 063:サイコパス見し、酔いもせず…
最終更新:2015年06月04日 20:27