025

宴のはじまり◆fuYuujilTw



さっきよりも少し落ち着いた。
名簿を見たところ、黒子たちの名前もあった。
彼女たちとも殺し合わなければいけないというのか。

「どうしたのかな?」

「……関係ないでしょ」

「その様子だと、おそらく親しい人間が目の前で死んだ、違うかな?」

声をかけてきたのは銀髪の青年。

「……あんたに……何が分かるっていうのよ……」

「君は上条当麻と親しかった。今は葛藤に揺れ動いている。……人を殺すかという葛藤にね」

「……馬鹿言わないでよ。そんなことして、あいつが喜ぶと思っているの?」

「上条当麻だったら、誰も死なない選択肢を選ぶのだろう。僕はその選択肢は非常に尊いものだと思う。そして、人を殺すという選択肢も同じほどに崇高なものだと思う」

「ふ、ふざけないで! 誰が……人殺しなんか……」

「殺人を否としているのは良心だと思うだろう? 違う。殺人を悪としているのはただの社会規範だ。良心のない人間は一定数存在する。彼らを縛るのは結局のところ罰だ。しかし、社会規範は当たり前だが変遷する。
そもそも何をもって犯罪と定義するんだ? 平時においては確かに人を殺すことは罰を伴った犯罪だった。しかし、この場において犯罪を定義することは滑稽じゃないか。
このゲームにあるのは私刑だけだ。民数記だったかな。『あなたたちは町を選ばなければならない。それがあなたたちのための逃れの町となる。
意図せずして魂を打ち、死に至らせた者はそこに逃げなければならない。町は復讐者からの避難所となる。これは、人を殺したものが裁きの集まりの前に立つまでに死ぬことのないためだ』」

「どういう意味よ……」

「別に分からなくてもいい。ともかく僕は君が自分の意志でどう動くかを見たいんだ。この社会規範などというものが存在しない場でね。
それがどのような選択であろうと、僕は歓迎するよ」

「それで……あいつを生き返らせるために殺せっていうの……?」

「勘違いしないでほしいな。それは君が決めることだ。自分のため、他人のため、社会のため、どんな理由をつけようと殺人というものは自らの意思に基づいて行われるものだ。
だからこそそこには、シビュラシステムの介在しない人の輝きが存在する」

銀髪の青年は続ける。

「このゲームに逃れの町はない。参加者は追われるキツネとなるか、追う猟犬となるかのどちらかだ。もっとも、キツネと言えどイヌ科の獣だ。あるいはオオカミの眷属かもしれない。君はどちらを選ぶつもりなのかな?」

「……私は、ただ死にたくないし、友人を傷つけたくないだけ……」

「それで友人が皆死んだら、君は猟犬となるのかい?」

「ば、馬鹿なことを言わないでよ!」

「君は心のどこかで、友人たちが誰かに殺されることを望んでいる。自分の手を汚したくないから」

「うるさい!!」

槙島聖護は動かなかった。雷光は槙島をかすめ、地面を焼いた。

「安部公房を読んだことは? 『罰がなければ、逃げる楽しみもない』僕は今、とても楽しいんだ。意思の輝きが発露するのを見るのがね。
猟犬があってこそ、キツネも輝く。このゲームを安全なところで観戦している悪趣味な人間がいたら、きっとそう思うだろう」

「……」

「必要に迫られた際に大胆で果敢であるということは、思慮に富むことと同じといってよい。よく考えるがいい」

「……」

「僕をがっかりさせないでほしいな」

槙島は美琴に背を向けた。



「そうだ、それが見たかった」

先ほど槙島がいた地点には黒い焦げ跡が残っていた。

「でも生憎、僕はまだ楽しみたいからね。今ここで殺されるつもりはないよ」

次々と飛ぶ電撃。そのどれもが、槙島を捉えているかに見える。
先ほどよりも強力で、殺すために撃たれる雷光。
槙島の表情は変わらない。水遊びでもをしているかのように。
美琴の表情には焦りが見える。これだけ撃っているにも関わらず、
あの男は苦もなく避けてみせる。先ほどの少女のように。

「君の輝きを最後まで見届けられないのは残念だが、この辺で失礼するよ」

巨大な雷光を避け、槙島は夜の闇に消えていった。

御坂美琴の目が虚ろなものに戻った。

「……これでいいのよね……間違ってないのよね……」




答えてくれる救世主は御坂美琴の隣にいない。

【G-2/一日目/深夜】



【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:深い悲しみ 、自己嫌悪
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
1:黒子たちと出会わないようにする。
[備考]
※参戦時期は不明。

【槙島聖護@PSYCHO PASS-サイコパス-】
[状態]:軽度の疲労
[装備]:
[道具]:基本支給品一式 不明支給品1~3
[思考]
基本:人の魂の輝きを観察する。
1:狡噛に興味。
[備考]
*参戦時期は狡噛を知った後。

時系列順で読む


投下順で読む


GAME START 槙島聖護 049:輝【くのう】
020:悲しみを斬る 御坂美琴
最終更新:2015年08月24日 02:44