征天魔王◆PAWA58Ribc



月が照り輝く空の下、火口の傍らに一人の男が腕を組み仁王立ちしていた。
鍛えられた肉体を覆う鈍い銀の鎧、鬼の角を連想させる額当て、悪魔の羽根のような背中から出る六本の飾り、血で染まったかのような真紅の外套。
鎧と額当てと羽根の銀は、光を輝き放つ鮮やかな銀ではなく光を闇へと吸い込むような無骨な銀。
その瞳は怒りで満ち溢れ、その眉間は気難しそうに縮められ、その口元は堅く引き締められている。
物騒極まりない服装と『機嫌が悪い』なんて言葉では表せないほどに激昂した表情が合わさることで、地獄の閻魔かと見違えるほどだ。

男の名は織田上総介信長、第六天魔王を称する何物をも恐れる戦国一の暴君。
天下布武の旗を掲げ、戦国の世を恐怖に陥らせた張本人だ。

その信長が怒りに燃えていた。
平和に和やかに暮らしていたただの民ならば、目を合わせた瞬間に足腰が立たなくなるほど、目に見えて怒りを溢れさせていた。
信長の怒りが伝わったのか火口はピクリとも反応を示さない。
そして、今まで何をするでもなくじっと前方だけを眺めていた信長がようやく言葉を口にする。

「下らぬ……!」

まるで口に入った砂を吐き捨てる様に、眉をしかめたまま信長は呟く。
何故、第六天魔王なる信長がこのような茶番に付き合わねばならぬのか。
疑問が尽きなければ、怒りも尽きない。

これもまた、臣下にありながら信長に弓を引いた愚物・明智光秀の策略なのだろうか。
本能寺を襲う風を装いながら、得体の知れないの者と手を結びこの織田信長を出し抜いたつもりでいるのか。
そう、あの服装からして明らかに異様なうつけと餓鬼の属する帝愛グループなる組織と手を組んで。
そして、自らの手でこの信長の最後を見るために自ら参加者に、と言ったところか
だが、今は光秀如き愚物は問題ではない。
今、問題なのはうつけと餓鬼のこと。
うつけは名と顔立ちから察するに日の本の国が民だろう、餓鬼は完全に異国の者。
顔つきからして違っていた、恐らく海を越えてもさらに遠く遠くに存在する異国の者であろう。
あのうつけはその異国に取り入った、と言ったところか。
そして、使用される全てはうつけが魔法と呼んだ見も聞きもしたことのない謎の法。
与えられた奇妙な袋とデバイスなる珍妙な道具、それに今はB-2と表示されている。
地図を合わせるに場所は分かった。

冷静に、怒りを抱いたままではあるが現状を把握し終えると信長は思った。

明智光秀であろうと甲斐の虎であろうと越後の軍神であろうと奥州の独眼竜であろうと戦国最強の武将であろうと敵対する者に容赦はしない。
魔法を扱うと言う外法者も帝愛グループなる愚民の集まりも、それは同じだ。
信長の道を阻むのならば、たとえ敵を同じくしようとも信長にとって必要とせぬ者、それが増えただけだ。

そこまで考え、信長はその胸に抱いた納まりきらない怒りを露わに再び呟いた。

「分を弁えぬ狼藉、死して報いよ……!」

その全てが信長には自身に対する狼藉に見えて仕方なく、中でもあの言葉が気に食わなかった。

金は絶対―――――そう、この言葉が何よりも気に食わない。

この世で絶対と断じれるものは金に非ず。
絶対の物とは金でも権力でも愛でも平和でも、ましてや力でもない。
絶対の物とは、たった一人の魔王を指す言葉。



そう、絶対とはこの第六天魔王・織田上総介信長の存在を置いて外ならない。
さらにあの愚民共は何を勘違いしたのか、この信長に命じたのだ。
殺し合え、と。まるで信長を下男か何かのように命じたのだ。
これの目的がより強い兵士を作るための蟲毒や、誰かの余興と言うのならば許しえない。
いや、何であろうと織田信長に『何か』を命じたという行為、それは断じて許せる物ではない。

教えてやらねばならない、この世で最も強く恐ろしく、全ての上位に位置する存在が誰であるかを。
たとえそれを教える相手が地を埋め尽くす悪鬼の大群であろうと、正面から叩き潰すのみ。
だからこそ一度はあの愚物共の掌で踊ってやったのだ、全てはこの児戯を潰すため。
最後に立つは織田信長ただ一人で良い、そこにはうつけも餓鬼も光秀も居はしない。

そして、あらゆる人間へと開戦を告げるために信長はその左手に持つアサルトライフルを天空へと掲げる。
引き金に指をかけガッと勢いよく振り絞り、驚くほどの反動の少なさと共に三発の銃弾が天へと向かい放たれる。

信長がその左手に持つはオモチャの兵隊、トイソルジャーと呼ばれるアサルトライフル。
中と外とでは20年から30年の科学技術の差があると言われる学園都市が生み出した銃器の一つ。
銃弾を打ち出した際に及ぶ反動は、【卵の殻すら割れない】とまで言われるほどあまりにも小さなもの。
さらに電子制御による弾道調整機能も着き、まさに玩具を扱う年頃の子供にも扱え得る銃器。
時間を超えた最先端技術の生み出した武器が第六天魔王の左手に握られている。

対して、信長が右手に持つのは約束された勝利の剣の名を持つ西洋剣、エクスカリバー。
ブリテンが誇る最大の英雄、名高き騎士王アーサーが宝剣であり、湖の精霊が鍛えた聖なる剣。
その穢されてはならぬ最高の剣が第六天魔王の右手に握られた。

その明らかにオーバースペック武器が、刀と銃の二丁を操る戦法をとる魔王に渡ってしまった
人が科学で生みだした銃器と、精霊が魔術で鍛えた聖剣。
並ぶことなど本来ありえぬ、しかし間違いなく最強の剣と最優の白兵銃。

その二つを持ち、真っ赤に染まった外套を翻しながら、急ぎもせねば怯えもせず、ゆっくりと一歩踏み出し、信長は低く呟く。

「余の前に人はなく、余の後にも人はなし……!」

【B-2/火口付近/一日/深夜】
【織田信長@戦国BASARA】
[状態]:健康
[服装]:鎧
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、オモチャの兵隊(27/30)@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、予備マガジン99本(合計100本×各30発)
[思考]
基本:皆殺し
1:目につく人間を殺す。
2:信長に弓を引いた光秀も殺す。
[備考]
※光秀が本能寺で謀反を起こしたor起こそうとしていることを知っている時期からの参戦。

【エクスカリバー@Fate/stay night】
第四次、第五次聖杯戦争においてセイバーのクラスとして召喚されたアーサー・ペントラゴンの宝具の一つ。
使用者の魔力を“光”に変換し究極の斬撃として放つ。
形状は青を基調とし金の装飾の施されたドレスソード。

【オモチャの兵隊(トイソルジャー)@とある魔術の禁書目録】
銃器としての正式名称はF2000R、アニメ本編では御坂妹が使用した。
名称と形状からFN F2000の改良型と思われる。
材質は積層プラスチック、形状にも戦闘機に見られるような機能美が備わっているため、まるでオモチャの鉄砲にも見える。
赤外線により標的を補足し、電子制御で『最も効率良く弾丸を当てるように』リアルタイムで弾道を調整する機能を持つ。
銃身を覆う衝撃吸収用の特殊ゴムと炭酸ガスにより、射撃の反動は極限まで軽減されている。
その軽反動は『卵の殻すら割らない』、弾丸は5.6ミリ。

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織田信長 066:魔王、駆け行く



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最終更新:2009年11月08日 17:16