阿良々木暦の憂鬱 ◆1aw4LHSuEI



 別に、人が死んだのを見たのは初めてってわけじゃない。
 今年の春休みに僕は一人の男の死体を見ている。
 それも、安らかに天寿を全うして孫に看取られながらひだまりの中眠るように死んでいったお爺ちゃんなんかではなく。
 僕にとっては決して味方とは云えなかったけれど、言葉を交えて拳を交えて―――
 そして“鬼”にどうしようもないほどに殺されて、食い散らされてしまった人間だった。
 僕自身だって死に掛けたのは一度や二度じゃない。血は、人間もどきである僕にとって見慣れたものだと言ったっていい。

 だけど。

 自分の家族を守ろうとした女の子が容赦なく首を吹き飛ばされて死んだのを見たのは、初めてだった。
 いや、例えそれをいくら見たからって慣れていいものでも許していいものでもない。決して。

「……畜生」

 女の子が死ぬのを目の当たりにして何も出来なかったことに悔やみ、憤っている男子高校生がそこにはいた。
 ていうか僕だった。


 冷たい風が足元の草を静かに鳴らす。見渡せば周りは静まり返った草原で、動くものは僕以外には存在しない。
 あのふざけた開会式の後に、気がつけばこんなところへと飛ばされていた。一体、どんな技術を使ったのだろう。それとも、怪異の一種か。
 専門家でもない僕に分かるわけもないので、とりあえずは考えないことにする。
 今は夜だ。だというのに妙に明るくて、理由を求めて空を見上げると満月に少し足りない欠けた月が、妖しく光ってた。
 夜空を見上げていると初めてのデートのことを思い出す。だけど今日は月の光が明るすぎて星の光は余り見えない。
 それが少し残念だと心のどこかで感じてしまう。そんな悠長なことを考えている場合じゃないんだけれど。
 僕は顔をおろしてひとまず落ち着くために適当な場所に座ることにした。 
 さて。しかしいつまでもこんなところでうだうだしているわけにもいかない。
 今いるこの場所は殺し合いの場なのだ。あの女の子の死に方が嫌でもそれを認識させる。
 誰もが誰も殺し合いに乗っているなんて事を考えたくはないけれど、警戒するに越したことはないだろう。
 その上で現状の認識と装備の確認は必要だ。心は焦るが、まず落ち着かないと。
 とりあえず封筒を破って開く。出来れば知り合いの名前なんて見たくないけれど、名簿なんてものがわざわざ配られている意味を考えれば……

「戦場ヶ原、八九寺、神原。……くそっ、やっぱりか」

 そう、知り合いが参加させられているのだろうなんてことぐらいは予想がつく。
 希望を残したつもりなのかそれとも絶望を与えるつもりなのかは知らないが、悪趣味なことだった。
 名前の書かれていない参加者もいるらしいから他にも知り合いがいるのかもしれないけれど……。
 そう考えて思いつくのは、忍野、羽川、千石、忍。……後は家族ぐらいか。少ないな。
 人間強度を低くしておいて良かった、なんてもう思えない。みんな、僕の大切な存在なんだ。
 確かに忍野や忍がいてくれればずいぶんと助かる気もするけど、いて欲しくない。殺し合いなんかに巻き込ませてたまるか。
 もちろん戦場ヶ原や八九寺、神原だってそうだ。誰にも殺させやしないし、誰も殺させない。
 特に戦場ヶ原……僕の彼女は時折ものすごい攻撃性を発揮するのでいろんな意味で危ない。出来れば速めに保護したいと思う。
 ……まあ、それに、僕はあいつのことが好きなんだ。ちゃんと守ってやらないと。


 次に黒い鞄――デイパックの中身を探る。
 まず出てきたのは説明にもあったとおりの腕時計や懐中電灯、デバイスに食料に水、応急処置セット。
 地図とデバイスを使って確認してみると、どうやらここはC-6らしい。
 近くには死者の眠る場所があるらしいけど……。とりあえずパスだな。知り合いがいる気がしない。ていうかなんだろうその名前は。
 墓か何かだろうか? まあ、とりあえずは団地とか公園とか駅あたりの人が行きそうな施設を目指すべきだろう。
 ついでにランダム支給品を確認する。誰も殺す気がないとはいえ、身を守るためにも使える道具が欲しいところだけど―――

 ――そして出てきたのはギターだった。

「…………え?」

 僕は正直なところ余り楽器に詳しいわけじゃないんだけど……どこをどう見てもギター以外の何者でもなかった。
 ちょっと待ってくれ。これでどう殺し合いをしろというんだ……?
 一昔前のロッカーのようにこれで殴れとでも言うのか。それとも仕込み武器とか? ギターにどうやって?
 あ、説明書が着いてる。何々……。

 【ギブソン・レスポール・スタンダード(ギー太)】
 2008年に仕様が大きく変更された。例としてゴトーのクルーソン・コピーだったチューナーがグローバー製に変更され、裏のパネルがシースルー化され、内部構造が見える
ようになった。ボディに空洞が設けられ、テールピースはロッキング・トーンに変更された。
 これにより従来のモデルよりも軽くなり、またテールピースが弦交換の際に落ちるのを防げるようになった。ストラップ・ピンにはダンロップ製のロックピンに変更され、
ジャックにはノイトリックを採用。これによりシールド抜けを防止。さらにディープ・ジョイントを採用し、サステイン向上を図っている。
(以上、Wikipediaより)
 平沢唯の所有物。普段から服を着せたり添い寝したりと可愛がられている。


 ……Wikipedia転載とか突っ込みたいところは色々あるのだけれど。それよりなにより言いたいことは

「こいつギターの分際で女の子と添い寝とかしてるのかよ!」

 何てギターだ! 僕なんてつい最近まで全然女の子に縁がなかったってのに!
 こんなギターは武器にでもして使ってしまいたいところだけど……名簿には確か平沢唯の名があった。
 色々と思うところがないでもないんだけど……まあ、可愛がられているみたいだしちゃんと返してあげよう。
 僕は少しだけ優しい気持ちになる。ギターに嫉妬しても仕方ないしね、うん。

 さて、次の支給品は……っと。



 ―――ペンギンのぬいぐるみ。


 わあ、愛くるしい。

 殺 伐 と し た ロ ワ に 清 涼 剤 が !


 ―――なんて、戯言だけど。


 ……いやいやいや。主催者は、本当に殺し合いをさせる気があるんだろうか?
 オープニングのあれとか実はドッキリなんじゃなかろうか。一瞬そんなことが頭をよぎるが即座に否定する。
 いや、ここまで手間をかけてドッキリする理由なんてどこにもないし、それにあのお嬢様口調の女の子は真剣に家族の身を案じていた。
 こんな僕にだって家族は大切だ。だから分かる。あれが、嘘だったなんてことはない。
 なんとかシリアスに空気を戻しながら僕はペンギンの説明書を読む。

 【エトペン】
 「エトピリカになりたかったペンギン」という絵本の主人公。
 原村和の所有物。原村和はこれを抱いていないと眠れない。
 なお、エトピリカ(花魁鳥)Fratercula cirrhata は、チドリ目・ウミスズメ科に分類される海鳥の一種。鮮やかな飾り羽とくちばしが特徴の海鳥である(Wikipediaより)
 潜水もし、色合いも似ているためペンギンと混同されることがあったために、それを題材にして描かれた絵本だと思われる。



 ……お前はなんでも知ってるなぁ

Wikipedia「なんでもは知らないわよ。知ってることだけ」

「羽川の声でしゃべるな!」

 脳内のイメージにおもいっきり突っ込みを入れる。ていうかこいつも女の子と寝てやがる!返せ!僕のシリアスを返せ!

 ……はあ、はあ、いや落ち着こう。ほら支給品は確か最大3つまであるとか言ってたじゃないか。
 もしかしたら、もう一つ入ってて、それが凄く使えるものかもしれないじゃないか!
 ひゃっほう希望が沸いてきた! さあ、今運命のドローだ!
 ……いやなフラグが立ってる? 何、気のせいだって!
 お、何かあるぞ。……さあ、おいでませ最後の支給品―――!




 【ゲコ太のストラップ】
 御坂美琴がお気に入りのマスコットがついたストラップ







「…………不幸だ――――っ!!」







 突然呼ばれた殺し合いの中、何の躊躇もなく他人の台詞をぱくって大声で叫ぶ男子高校生がそこにはいた。
 ていうかそれも僕だった。


【C-6/草原/1日目/深夜】
阿良々木暦@化物語】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、ギー太@けいおん!、エトペン@咲-Saki-、ゲコ太のストラップ@とある魔術の禁書目録
[思考] 誰も殺させないし殺さないでゲームから脱出
基本:知り合いと合流、保護する
1:不幸だ……。
2:とにかく人がいそうなところに行こう。
3:戦場ヶ原、八九寺、神原と合流したい。他にも知り合いがいるならそれも探す。
4:……死んだあの子の言っていた「家族」も出来れば助けてあげたい
5:支給品をそれぞれ持ち主(もしくはその関係者)に会えれば渡す
[備考]
※アニメ最終回(12話)終了後よりの参戦です


時系列順で読む


投下順で読む


阿良々木暦 063:Noble phantasm


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年11月06日 01:57