つむぎマウス ◆mhyOuwRLkg



 琴吹紬――という人物について語るにあたるとしても、そんなに話すことは多くないように思える。
 その率直な言い訳というのが、まず自分のことを自分で語ることはそんなに簡単なことではないということ。
 確かに他の人と、若干(と言うと律ちゃんはツッコミを入れると思う)違う生い立ち他諸々があるにせよ、波乱万丈とはかすりもしてない人生が通り道だったからだ。
 だから、自分語りについて余り詳しくは語らない。琴吹家の娘であり、桜々丘高校軽音楽部のキーボード担当。ティーセット持ち込み犯。言えることといえばそのくらい。
 このように並べるとつまらない人間に聞こえるけど、しかしあんまり誤解しないで欲しいと思う矛盾に限りなく似た何かも生じたりするのは御愛嬌。
 というか更に詳しく語ろうとすると、夏休みの日記のようになってしまう気がする。

 なにはともあれ。
 私は平穏で和やかな日常を平和な世界の下で、特に不自由も無く謳歌して来ていた。
 過去形。つまり現在はそうではないということ。

 私の、ふつうの日常はある圧倒的な存在によって激変した。




「まるで、映画のセットね」

 そんなことを呟きながら、一人の女子高生が夜の学校を探索していた。
 というか、それが私だった。

 人の首が飛ぶという、進んででも目の当たりにしたくない光景が目に呪われるように呆然とするのに数十分。
 冷えて来た頭で混乱した頭を整え、状況を整理して――また絶望しそうになったことにより、カムバックしてきた呆然のおかげで更に十数分。

 殺し合い。帝愛グループ。ペリカ。
 どれも聞き慣れないというか、それを通り越して現実味が無かった。
 ただただ理由も分からず取り返しのつかない命の争奪戦に放り込まれてしまったという事実だけは、私でなくとも否応が無しに理解せざるを得ない。
 いや、それしか理解出来ない。理解出来ないことが遥かに多すぎる。

 ……何で殺し合いなどという、アンダーグラウンドを突き抜けマントルの彼方へ突き進んでしまうような――ひたすらに、悪夢という言葉が的確すぎる非現実を齎されたか、とか。

 考えても、少なくとも現時点では答えは出ない。だから私の脳はそれを思考の棚から放り捨てた。
 代わりに思索の内に入れてることは、いつ何時とこの身体がひねり潰されるか分からないという恐怖。
 荷物の中にあった名簿に会った、四人の友人たち。……これも分からないことだけど、更に名の知れぬ13人がこの島にはいるという。
 もう一人の部員である梓ちゃん……彼女がその内に入っている可能性は十二分すぎるくらいに考慮出来た。

 そのくらい、そのくらいしか考えられない。だから私はどうしていいか分からない。
 何をする? 隠れる? 仲間を探す? どうやって?

 ……考えが纏まらない。思考の混線が余りに酷いので、こう言うのも何だけど私は気晴らしに探索をしていたのだ。

 こんな風に表すといかにも私は冷静です、という感じだけど……現実は厳しかったの。うん、全然冷静じゃない。
 むしろ無駄っぽい思考で恐怖を紛らわしているというか……でも、仕方ないでしょう。そうでしょう。

 そんな脳内言い訳をして、びくびくしながら徘徊している自分。客観的に見たらネズミみたいかな、と思った。

 廊下を照らすのは空に煌めく月と星のみ。その夜空は窓から見えるけれど、目を向ける余裕が無いのは言わずもがな。
 こうしてうろうろと城内をうろついているのはその余裕を取り戻すまで……と思っていても戻ってくる気配はちっとも無い。
 不安げに、肩を縮みこませてきょろきょろしながら学校の廊下で革靴の音を鳴らしているのが私だった。夜の学校の不気味さ、なんてものは尋常じゃないからこれも仕方ないの。

 途中に教室があれば、気休めに声をかけて中を適当にみつくろう。知らない学校だから勝手が分からず、結構迷い気味。
 色んな教室を見て来たけれど、結局怖くなって適当に見まわしただけで終わる。探索の意味、殆ど皆無。
 さあ次はこの部屋ね。職員室らしいけど、最早そんなことは結構関係無い。

「お邪魔、します」

 震える声と扉の開く音が職員室を木霊した。それだけ、だと思っていた。だから不意を打たれた。

「……!!」

 恐らくは椅子が倒れたと思わしき、派手な音。それから書類だろうか、紙がバサバサと落ちる音もそれに続いた。
 声の無い悲鳴はこういうものなのかしら、なんて最早現実逃避のようなことを考えながら私は腰を抜かしてしまった。
 気が早い走馬灯が脳内を強引に駆け巡って目を回していた。

 人がいる。
 先客がそこにいた。

 私はただ、それだけの事実を認識するだけで腰砕けであうあう口を震わすだけの――


「お、お姉ちゃん」


 か細い女の子の声に不意打ちVer.2を決め込まれた。
 え? なんていう間の抜けた言葉を漏らしながら、現実に引き戻されたように冴えていく視線は教員用の机の影から覗くものを捉える。
 女の子……みたい。制服が違うから私たちの学校の生徒というわけではないのは確かで、つまり分かる情報はそれだけだった。


「……学校の怪談って、アニメもあったの……知ってた……?」



 第二波はそれだった。
 ……何故、この時に、私たちぐらいの世代では知名度が高めとも言える怪談映画のメディアミックスの話題なのだろう。
 とか、ごく当たり前の疑問に思索を巡らす、のはやめた。たぶん答えが出そうにないから。
 代わりに不意打ちによってどういうわけか、開き直ったのかもしれないが冷静になっていく頭で急いで現状確認をしようとする。

 私が声をかけ、扉を開いたこと。それは、個人差はあれど――あの子のかけてきた声のように、あの子にとってもまた不意打ちになるのではないだろうか?
 常識的な面で考えれば。あの子は私と同様におびえ、ここに隠れて。そして突然の闖入者に驚いて……

「あのね、撫子は天の邪鬼が戦闘力53万だったってことしか覚えてないんだけど」


 ……で、何でこうなるのか……は…………

 ……分からないのは仕方ない、ですよね?
 流されるのも仕方ない、ですよね……?




「……律ちゃ……私の友達から聞いたことがあるわ。確か口裂け女のお話に、抗議が入ったとか……」
「あ……思いだした。主人公の弟がハム太郎だったことも思いだした」



 殺し合いという異常状況で、夜の学校という不気味空間で、見ず知らずの少女と懐かしアニメ談義に華を咲かせている女子高生がいた。

 ……というか、それも私だった。









【E-2/学校・職員室/一日目/深夜】
【琴吹紬@けいおん!】
[状態]:健康 、混乱と恐怖(落ち着き気味)
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品(未確認)
[思考]
1:……あれ、私どうしてこんな会話を……
2:友人達が心配。非常識な状況下で不安。

千石撫子@化物語】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品(未確認)
[思考]
1:人が来たのにはびっくりしたけど、一先ず他愛の無い会話で気持ちを落ち着かせる
2:暦お兄ちゃん……


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琴吹紬 059:凶壊ロゴス(1)
千石撫子 059:凶壊ロゴス(1)


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最終更新:2009年11月08日 16:45