ジェットコースターガール ◆wKs3a28q6Q
私にとって、モモとは一体どんな存在だったのだろうか。
可愛い後輩?
そうかもしれない。可愛がっていなかったと言えば嘘になる。
だが――本当にそれだけだったのだろうか?
何か特別な感情がなかったと言い切ることができるだろうか?
否。モモに対して、私は何かしらの特別なものを抱いていたと。
だが、それが何かは分からない。
その感情の名前は何か。
モモに対して抱いたそれは、何と呼べばよいのだろうか。
真っ先に浮かぶ、『友情』というありふれた単語。
私とモモは、友人と呼べる仲だったのだろうか。
分からない。それさえも分からない。
モモは私を慕ってくれていたようだが、ずっと不安を抱いていた。
団体戦が終われば、麻雀のために呼ばれた自分は価値がなくなるのではないかと。
私とモモとの関係はそこで終わってしまうのではないかと。
そんな危うい関係で、「本当に私達は友達だった」と言えるのだろうか。
もしかすると、モモが言う通りなのかもしれない。
私は本当にモモを麻雀部のために利用していただけなのかもしれない。
芽生えた感情は、罪悪感だったのかもしれない。
そんなことはないと思いつつも、否定し切るには至れないのだ。
或いは、その逆。
友情という二文字よりももっと深い、何か別の感情で繋がっていたのかもしれない。
それは、麻雀部の仲間に対する特別な何かなのか。
それとも、愛情だったのか。
――愛情と言っても、部を一つの家族と見立てた時の家族愛のようなものだ。
もしくは、少し危なっかしい子供を見るような母性と言う名の愛情。
さすがに、モモを恋愛対象と見ていたということはありえない。
……ああ、ありえないとも。おそらく。きっと。間違いなく。多分。
『私と先輩が一緒にいる意味って、なくなっちゃうんすか?』
私にとってモモは一体何なのか。
そんなことを考えてしまった理由が分からないほど、私は混乱していない。
それどころか、いやに頭は冷静である。
内心焦りを感じながらもモニター越しの説明に集中し、その意味を咀嚼しながら慎重に行動した。
物申すような危険な真似はしなかったし、指示にも大人しく従った。
私の頭は、私が驚くほどすんなりと、それでいてしっかりと殺し合いと言う現実を受け入れていた。
龍門渕の副将の死を演技か何かと疑うことさえも無く、すんなりとそれが現実であると受け入れている。
目立ちたがり屋だったようなので、ドッキリ企画の目立つ役に立候補していたという可能性も、無いわけではなかったのに。
なのに、あれは本物の死体だったと根拠もなく言い切れてしまう。
『清澄の大将は嶺上牌で必ず和了る』『
天江衣は海底牌で必ず和了る』――これらをすんなり受け入れてしまった時と同じだ。
荒唐無稽なはずなのに、言葉に出来ない“そうなのだろうという気配”のようなものがある。
兎にも角にも、私はこの殺し合いを受け入れた。
だが、了承したというわけではない。
かと言って、反抗すると決意を固めたわけでもない。
(それは、卑怯なのか、臆病なのか――)
要するに、どっち付かずだ。
殺し合いという現実を受け入れたのにも関わらず、未だにどう動くのか決めかねている。
その理由も、私はとっくに分かっていた。
東横桃子の4文字が――モモの名前が、殺し合いの名簿とやらに載っていたから。
だから、私はどうしたらいいのか決めかねている。
断固として抗うべきか、緊急避難だから仕方がないと自分に言い聞かせ素直に殺し合いに乗るか。
モモの名前さえなければ、簡単に答えは出せていただろう。
自分の「殺し合いなんてしたくない」という意志を尊重すれば死の危険が大きくなり、
逆に唯一生還が保障された優勝という道を目指せば敵が増えるし精神的にも負担がかかる。
どちらにしても、ある意味自分一人の問題だったのだから。
少なくとも、今よりは容易く道を選べたと思う。
だが、モモが居るとなるとそういう問題ではなくなる。
『死のリスク』はモモも等しく背負うのだから。
無策のまま手を取り合っても、結局何も出来ずに共に死を迎えかねない。
かといって、参加者を片っ端から殺して回り、モモをも殺して生還する、なんていうのは論外である。
それも手だと選択肢に放り込んでも、どうしてもこればかりは選ぼうという気になれない。
自分の命と天秤に賭けてまで守りたい存在なのかと自問自答してみても、結局私一人が生き残るという選択肢は選べなかった。
モモがどういう存在なのか――それを形容する言葉は未だに見つからないが、少なくとも命を賭けてでも救いたいと思える程度の仲らしい。
要するに、モモの存在がある時点で、私一人の生還という選択肢は消滅したのだ。
殺し合いに乗るとしたら、最後は自身の命を絶ってモモ一人を生還させるという道くらいか。
もしくはモモが死んだときに、死者の蘇生などという信じていいのか疑わしい藁を掴もうと殺し尽くすか。
……その事態を想定するのなら、最初から殺し合いには乗っておくべきだろう。
一時でも手を取り合った仲間を殺すというのは気が引ける。躊躇いから殺し損ねるということも大いにありえる。
殺し合いに乗る意志も鈍るであろうことを考えると、モモの蘇生も辞さないつもりならやはり最初から殺し合いに乗るべきだ。
もっとも、そんな姿をモモに見せたいとは思わないし、知られたくもないから、まともな別れの言葉も言えずこのままさよならということになってしまうが。
さすがにそれは少し寂しい。
そうなるくらいなら、いっそ僅かな可能性にかけて参加者と手を取り合うべきなのであろうか?
(やはり卑怯者かもしれないな)
己の生命のみならず、他者の生命を奪うか否かを左右する決断に、モモを利用してしまっている。
モモを言い訳に、人を殺すか無謀な賭けに出るかを決めようとしてしまっている。
自分だけの意志で決断できないとは、情けない。
情けないと分かっていても、駄目だった。
「死にたくない」「殺したくない」という自分の気持ちだけを理由にし、決断する――そんな度強を持ち合わせてはいなかった。
そしてそれを、心のどこかで仕方がないと思っている。
麻雀と違い、賭けるモノは点ではないのだから。
勝っても負けても、命を奪い合わなくてはならないのだ。
気軽に決められるわけがない。
そんなことを思い、先延ばしにしてしまっている。
(…………これで全部、か)
そんなことを考えながらも、しっかり手は動かしておいた。
ぼんやりと堂々巡りをしていられるほど暇ではない。
部屋を出てから今までの間に、デイパックの中身をきっちり確認しておいた。
強い意志を持ってどう動くのかは決められない。ならば手牌を確認し、方針を練るしかないだろうと考えてのことだ。
配られた武器とやらの状況によっては、選択肢すらなくなる場合だってある。
例えば武器が爪楊枝+ねりけし+黒板消しなんて状態だったら、問答無用で仲間を探すスタンスになる。
逆にマシンガン+防弾チョッキ+手榴弾となった場合、殺害可能性が高く防御面でも安全性が高いため、殺し合いに乗った方がモモの生還と言う目標は達成しやすいだろう。
更に言うと、いい武器の場合、下手に仲間を作って裏切られた場合のリスクが高い。
そんなわけで、行動指針を立てるうえでの参考にしようと支給品を引っ張り出してみたのだが――
分かっていたことではあるが、そう極端な武器は入っていなかった。
これでは何の参考にもならない。
まず出てきたのは小型の拳銃。デリンジャーと言うらしい。
弾が小さいため威力が低く、上手く当てないと即死は難しいとのことだ。
しかし、体のどこかに当てれば動きを止めるには十分だと思われる。
倒れるまではいかずとも、撃たれて尚も健康時と同じ速度で走り続けられる者はいないだろう。
それに、小型故に隠し持てるのが大きい。
警戒される心配が無いというのは、非力な自分が戦ううえで大きなアドバンテージになる。
仲間探しをするにしても、上手くやれば袖にも隠せるこのサイズは有り難い。
殺し合いに載っているのか分からない人間に『武器を持っているのに、相手からは丸腰に見える』状態で接触できる。
それだけで生存率はかなり上がるだろう。
最も、弾が同時に2発までという短所があるため、戦闘でのメインウエポンにするのは少し不安だが。
そして次に、くない。……忍者の武器としておなじみの、くないだ。
正直悪ふざけかと思ったが、名簿の端で試し切りをしたところ、面白いほどスパッと切れた。
京都の土産物屋に置いてあるようなものでなく、どうやら本物の武器らしい。
……先端を指で触れてみないでよかった。
とにかく、弾切れの心配がない武器と言う点で刃物の存在はありがたい。
サバイバルの時でも、刃物の有無は重要だと聞いたこともある……気がする。
最後は、拡声器、とでも言うのだろうか。小学校などで度々見かける小型のアレだ。
殺し合いに使う道具には到底思えないのだが、鈍器のつもりで寄こしてきたのか。
それとも、本来の用途通りこれで叫べということだろうか。
大きな声で、大切な人を呼べと。
モモを求め、場所も考えず大きな声で彼女を呼べと。
『私は、君が欲しい!!』
……恥ずかしい過去を思い出して項垂れそうになるが、そんな場合ではないな。
何にせよ、支給されたものは一言で言うなら「微妙」なのだ。
殺しを諦めなくてはならないような貧弱な装備でもなければ、優勝が見えるような強力装備というわけでもない。
どうすべきなのか、結局は自分が決断せねばならないということか。
微妙と言えば、何よりも拡声器の存在だ。正直これは微妙すぎる。
こんなものを使う奴は阿呆の極み。
こんな場で自分の居場所をアピールするなど、もはや斬新な自殺方法の一種だ。
群がった人間が大乱闘を起こすであろうことを考えると、「何かを残してから逝きたい」という自殺希望者の夢なら叶えてくれそうな道具ではあるが。
ともかく、こんな序盤で自ら命を絶つ気などない。
ないのだが――
(私に危険は及ぶが……だが、モモなら……)
拡声器を使用しても、モモに被害は及び辛い。
群がる者の大半は、拡声器の使用者に意識の大半を傾けるだろう。
そんな状況の中でステルスすることは、モモにとってそう難しいことではない。
要するに、拡声器を使えば、自分の命を賭けさえすれば、モモと出会える可能性は飛躍的に上昇するのだ。
そういう点では、拡声器は使える部類なのかもしれない。
(……モモなら、来るだろうな……来るなと言ってもやってきそうだ)
問題は、モモが来るより早く私が殺された時だ。
危ないから来るなといっても、間違いなくモモは来る。
最悪、叫び声をあげながら出てきてしまうかもしれない。
そうなれば、ステルスモードが解除され、一緒に逝くことになるだろう。
……そういえば、一緒に居たいと言ってくれたが、まさか一緒に逝きたいと言い出したりしないだろうな。
絶望のあまり混乱していないか、少しばかり心配になってきた。
下手に放置しておくことを思えば、やはり拡声器でさっさと合流すべきなのかもしれない。
だが、無事に再会できたとしても、私はその後一体どうしようというのか。
声を聞いて集まってきた者の包囲網は、どうやって抜ければいいのだろうか。
ステルス出来ない私が見つかれば、後はもう沈むだけだ。
私への銃撃の流れ弾でモモが死ぬか、私が殺されて悲鳴を上げモモの存在がバレてしまい殺されるか。
良くて私一人が眼前で殺され、モモにトラウマを植え付けるということか。
結局、拡声器もまたハイリスクハイリターンで方針選択の決定打にはならないということだ。
(情けない先輩だな、私は)
団体戦でも殺し合いでも、私は役に立てないのか。
モモ、お前は私なんかと違って、この場でも麻雀でも頼りになる存在なのにな。
……ああ、そうだ、モモ。
副将戦で、お前は大活躍をした。
あの龍門渕と風越を抑え、更に中学大会優勝者の
原村和よりも点稼いだ。
誰よりも活躍したのは、お前だよ、モモ。
私も、鶴賀の皆も、お前のことを必要としている。
お前のことを大切な存在だと認めている。
『まだ、終わりじゃないっすよね?』
けどな、モモ。
皆がモモも必要としているのは、モモのことを好いているのは、お前が強いからじゃない。
モモの麻雀の腕にじゃなく、麻雀の腕も全部ひっくるめた“モモ”という人間を、皆好きになったんだ。
麻雀の腕でなく、お前のことを皆必要としていたんだ。
麻雀をしないモモに価値がないだなんてこと、誰一人思っていないさ。
『だから先輩、もうしばらくは、私と――』
だから、モモ。私達に終わりなんてないさ。
個人戦が終わっても、私にはお前が必要だ。
確かに切っ掛けはモモの麻雀の腕だったけど、今はもうそれだけじゃない。
お前が、モモという存在が、今の私には必要だ。
だから、しばらくなんて言わないで、ずっと私と一緒に居てくれ。
――もう認めるしかないだろう。私は、モモが好きだ。
それがどういうニュアンスのものかは分からないが、とにかく私はモモが好きだ。
死んでなんかほしくないし、私は、モモのためなら何だって出来る。
あの帰り道では結局答えを返すことが出来なかったが、
団体戦の後も、結局答えを言うことが出来なかったが、
今度こそ、この戦いが終わったらきちんと告げよう。
(モモ……やっぱりお前は、私にとって特別な存在みたいだよ)
どう頑張っても、モモを意識しない方針を立てることが出来なかった。
モモは特別などではないと考えてみようと思っても、どうしても駄目だった。
自分が人殺しに堕ちる姿はイメージ出来るのに、モモを自らの手にかける姿はどうしても想像できなかった。
思っていた以上に、私はモモに入れ込んでいたらしい。
結局、方針を決める際にはモモを言い訳にしてしまいそうだ。
(やはり……卑怯者だな、私は)
苦笑を受かべ、一度だけ空を仰ぐ。
あの日のそれより少しばかり欠けた月が、静かに私を見降ろしている。
いっそコインでも支給されたら、あの空めがけて弾き飛ばしていたのにな。
そうすれば、モモを言い訳にすることなく、どうしようか決められたのに。
(とりあえず、動くか……方向性が見えないからといって、ツモらない切らないでは何一つ進まない)
これは麻雀と違って殺し合い。
止まっていると好転しないだけでなく、悪化する可能性が大いにある。
モモを生き残らせるにしても、モモと一緒に生き残るにしても、呑気してる間にモモが死んでしまっては意味がない。
殺し合いに乗るならモモが死んでも蘇生させればいいとも言えるが、やはりモモを極力辛い目には合わせたくない。
それに、自分が絶対優勝できるという保証もないのだから。
どう考えても、モモが死んでしまう前に全てを終わらせるべきだろう。
そう、モモが死んでしまう前に、1秒でも早く行動せねばならないのだ。
(考えて考えて、結局どのリスクも選べずに先延ばし、か――私はいつからこんなに情けなくなったんだろうな)
重たい扉を押し、ようやく屋上を後にする。
そんなに時間は経っていないが、少しでも早く動かねばならないということを思えば十二分に遅いと言えた。
「…………!」
自信の開けた扉の音に、思わず呼吸を止められてしまう。
扉を引き摺る音は、思った以上に響くらしい。
誰かに聞こえる、というほどの音ではなかったかに思えたが、それでもすぐには動けなかった。
ようやく我に帰り、慎重に扉を閉める。
その音でさえ、世界中に響き渡ったのではないかと思えるほどの音量に感じた。
(何だかんだで怯えて、過剰に警戒してしまているのか?)
余りの不甲斐なさに笑いさえこみあげてくる。
もう結婚もできる年齢だと言うのに、どうやら自分が思っていた以上に私は子供のままらしい。
冷静に物事を考えられる年齢になり、今襲われたら勝ち目が低いということを理解しているからこその怯えなのかもしれないが。
(いっそ、襲われた方が気が楽かもしれないな)
そうすれば、正当防衛の名の元に胸を痛めず攻撃することが出来る。
そこで勝ったら、手に入った武器を見て改めてどうすべきか考える。
勝つことが出来れば、の話だが。
……やはり殺し合いに乗る場合は、不意打ちを中心にした方がいいだろうな。
客観的に自分の運動能力を考えると、先手を打たれて勝つ確率は恐ろしく低いように思える。
(確率、か……私も流れや気を読む力に長けていればよかったんだがな)
麻雀と違い、これは期待値を計算してどうこうなるものではない。
懸かっているのは数値で測れるものではないのだ。
勝てる可能性も分からないし、既に一人が死んでいる(それも、顔見知りがだ)以上、最善などもう存在しない。
あるのは『マシな結末』だけだ。どれを選んでもまず間違いなく何かを失う。
それに、選択ミスは即終焉へと繋がっているのだ。
もし確率が分かっていても、100%でない限り、選択するのは難しい。
もっとも、目先の物事だけならともかく、殺し合い終盤などという先の先に起こる事象の確率などそもそもに調べようがないのだが。
「お……っと」
階段を降り切ったので次の階段を降りよう、足音が響きやすく逃げ場の少ないここに居ても仕方がない。
そう考えて次の階段に足を踏み出そうとする。
そして、何でもない床に躓いた。
堂々巡りの答えが出ない二択問題(出す気がないの間違いではないか、と言われたら答えに窮する)を頭の中で捏ねくり回している内に、一階へと着いていたようだ。
段差だと思ったら何もなくてスッ転ぶ――アイツが見ていたら一ヶ月は冷やかしのネタにされていただろうな。
部室でワハハと笑いながら冷やかしてくるあの顔が、いとも容易く頭に浮かぶ。
(……帰りたい、な……出来ることなら、私も……)
二人で帰るのは、優勝者特典で蘇生でもさせない限り難しい。
それを頭で理解していても、願わずにはいられなかった。
私も、モモと一緒にあの部室に帰ることを。
「…………!?」
結局また堂々巡りのネタが増えてしまったな――そんなことを思いながら歩を進めようとして、派手な音を耳にした。
何かを倒した音だろうか。
ここまで聞こえるということから考えて、恐らく椅子かそれより大きな何かだろう。
しかし、暗いとは言え、何故今さらになって何かを倒す?
現状を把握できていない時に倒すなら理解できるが、何故今更。
月明かりもあるし、机や椅子に気付かないような環境ではないはずだ。
そもそも、気付かず躓けてそれなりの物音を立てるようなものが学校にあるか?
もしや、誰かと誰かが戦闘になったか。この音は、その戦闘の音なのか?
いや、音は連続して聞こえない。争っているのなら、何度も聞こえていいはずだ。
ならば、仮初の仲間同士が何か揉めた際に椅子か何かを倒したのか?
それとも、一撃で決着がついてしまったから音がもう聞こえないだけか?
後者だとしたら早々にここを離れるべきだ。
(いや、違う、よく考えろ。思考を止めれば、焦って決断を早まれば、待っているのは自滅という結果だ……
そこは麻雀も殺し合いも、それこそ日常生活だって変わらない……!
冷静になって考えるんだ……落ち着いて、冷静に……)
確かに支給品確認などに使った時間があるため、今は開始直後というわけではない。
しかしそれでも、同盟を結んで揉めるほど話し合う時間なんてなかったはずだ。
最も、対話というなの脅迫が行われている場合、脅しで物音を立てたという可能性もあるが。
少なくとも、一時期でも友好的な関係を築いた者同士が争っているという可能性は低い。
それに、冷静に考えれば、すでに誰かがこの学校で殺されたという可能性も低いと分かる。
発砲音が聞こえなかったこともあり、殺人が行われているとしたら凶器は刃物のような近接武器。
そのような武器での戦いが、椅子か何かを一回倒す程度で決着するものだろうか。
相手も武器を持っているだろうし、もっと派手な音がしてもいいはずだ。
弓のような音がしない遠距離武器が支給品だとしたら、使い方をしっかりと見るはずだ。
ましてや私の銃と違って音を出さずに試し撃ちが出来る以上、調べもせずに素早くに行動に移っているとは考えづらい。
支給品確認の時間を節約し、素手であっさり殺したというのならこの短時間でも可能だろうが――
武器が支給されている以上、それを確認もせず素手で獲物を探し回ったという可能性もないだろう。
つまり、あれは戦闘による物音である可能性は低い。
勿論両方可能性が0%だとは言わない。
だが、それよりもっと現実味のある可能性が存在する。
例えば、誰かと誰かが遭遇したという可能性。
ある程度時間が経過していることを考えると、そろそろ参加者同士が出会ってもおかしくはない頃だ。
背後から声をかけられて驚いた際に物音を立てた、という線が濃厚か。
物音が続かないことから見るに、その後すんなり話し合いに移行出来たのだろう。
そして、もう一つの濃厚な線。
声をかけて驚いたのでなく、純粋にぶつかっただけという可能性。
先述の通り、“倒したモノ”にぶつかることはまずないだろう。
だが、見えていないものにならば?
“見えていないのに、そこに在るという不思議なもの”にぶつかったのだとしたら?
(モモ……っ!)
気付けば走り出していた。
靴音が深夜の学校に響き渡る。
慎重に動かねばと思いながらも、体は言うことを聞かなかった。
モモだった場合、ぶつかったことが原因でステルスモードが解けてしまっている可能性がある。
私の足音で気が逸れて、モモが再び隠れられるなら、少しくらい危険になっても構わない。
相手が殺し合いに乗っていたとしても、もしかしたらモモが援護してくれて二人一緒に逃げだせるかもしれない。
デリンジャーを握る手に力が籠る。
(モモ……モモ……死なせるものか……モモ!)
――もしもそこにモモがいなかったら、一体どうするのだろうか。
頭の中がモモでいっぱいになってしまい、そのことはほとんど考えられなかった。
いや、ややこしいことを考えなくて済むという点では、これはむしろ僥倖だろう。
考えても答えは出なかったのだ、いっそのこと成り行きに任せるのもありかもしれない。
いずれにせよ、参加者と接触してしまっては、決断せねばならないのだ。
裏切りや失敗を考慮しながら手を取り合って戦うのか、それともモモを優勝させるべく手にした銃で殺すのか。
それとも、また保留にして第3の選択肢を作ろうというのか。
何にせよ、状況は大きく変わるだろう。
(お前は、私が……っ!)
賽は投げられた。
ゆっくりと思考できる時間はもうおしまい。
堂々巡りで答えを先延ばしにするのも、この先はきっと難しくなる。
下り始めたジェットコースターは、しばらく停車できないのだから。
後はもう、目まぐるしく変わる状況を何とかして乗り切るのみ。
大切な人を、生きて帰らせるために。
【E-2/学校・職員室前/一日目/深夜】
【
加治木ゆみ@咲-Saki-】
[状態]:健康、若干の焦り
[服装]:鶴賀学園女子制服
[装備]:デリンジャー@現実、かすがのくない@戦国BASARA×8本、拡声器@現実
[道具]:予備弾薬
[思考]
基本:モモ(東横桃子)を生き残らせる。
1:モモが最優先だが、出来ることなら自分も生きて帰りたい。
2:そのためにどう動くかを、決断する。
3:物音のした部屋(職員室)に急行。
[備考]
※思考しながら支給品を見ていたため、外で
浅上藤乃がやったことには気が付きませんでした。
※団体戦終了後からの参戦です。
【デリンジャー】
原作バトルロワイアルで月岡彰に支給されたりもした、有名な小型拳銃。
装弾数2発しかないが、小型で持ち運びやすく、また故障も少ない。
小型故の威力の低さと装弾数の少なさに配慮してか、予備弾薬とセットだった。
予備弾薬の数は不明。
【かすがのくない】
上杉軍のくのいち・かすがが使用するくない。
投擲武器として支給されたため、8本セット。
しかし、元来は工具として作られたため重心が安定しておらず、慣れていないと投げて使うのは難しいらしい。
【拡声器】
広範囲にメッセージを伝えられる日用品。
鈍器としてしようできないこともない。
効果範囲は不明。
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最終更新:2009年11月08日 16:54